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迷宮白書  作者: 深海 蒼
42/65

42話


 冒険者として活動する際の登竜門、10階層攻略の時に同行したウィードランナーのカルと久々に再会した拳児達は、現在カル達が依頼を受けている坑夫達を護衛するという依頼に同行する事となった。元々鍛錬が目的のダンジョンアタックであった為快く引き受けると、坑夫達はさっさと採掘作業に戻り、カル達ジンタ村出身の冒険者達と共に坑夫達の護衛を開始した。

 天井付近と左右に伸びる通路に魔法のライトを配置し、坑夫達がカンカン音を鳴らせながら採掘しているその後ろで、拳児達は岩石ゴーレムの処理を淡々と行っていた。拳児と恵がコンビで近づくゴーレムに突っ掛けて足を止めさせ、後衛から飛んでくる魔法と矢により岩石ゴーレムを倒すという繰り返しであった。


「大分この作業も慣れてきたな」

「気を抜かないようにしないとね」


 拳児の言葉に自身も同様に感じていた事だが、気を付けるよう恵が苦笑しながら告げる。ルーチンワーク化して思考停止で動くと失敗するだろうから気を引き締めるタイミングが必要だったのだ。拳児もそれは自覚していたのでその言葉に深く頷いていると、背後の方から悲鳴が飛んできた。


「ひぎゃあ助けてくれぇ!」

「うるっさいわね」


 岩石ゴーレムが大振りで振り回す剣をひょこひょこ避けながら叫ぶカルに向けてマリエルが呟いてから高速回転させた岩の槍を射出してその胴体を吹き飛ばす。ゴーレムが動かなくなったのを確認してから、カルはふぅ、と額の汗を拭きながらマリエルに笑顔を向けた。


「中々やるじゃねぇか!」

「あんた本当にお調子者すぎて逆に感心するわ」


 なんだかドヤっと感を出しているカルに向けてマリエルが逆に笑顔で感心してみせる。カルはそのまま自分のパーティーの仲間と共にゴーレムの残骸から部位を取り分けて自分達の荷物袋に仕舞ってからいらない部分は通路の端に寄せる作業を完了させた。そうして道の端には、かなりの数の岩石が並ぶ事となった為坑夫達が採掘している所以外は若干通路が狭くなったのを感じていた。


「しかし、良く来るわねゴーレム」

「採掘していると分かるようなんですよ、ゴーレムは。きっと警備員的な役割なのだと思います」

「なるほど~」


 フランの素朴な呟きにレテスが自身の知り得る知識の中から情報を提示し、ニアがそれに納得しながら頷く。確かに採掘作業を感知しているといった感じでホイホイやってくるゴーレム達を見ると、ダンジョンでの採掘がバレている、と認識した方が良さそうだと拳児も思った。


「こういう時って、このまま何事も無く……って事はあると思う?」

「多分無いっすね」


 恵の言葉に拳児が自信を持って返事を返す。このまま何事も無く坑夫達の採掘が完了し平穏無事に仕事が終わる、という事はフランチェスカが存在している時点で拳児の中ではあり得ないという結論しか出なかった。そんな事を拳児が考えていると1人の坑夫ドワーフの採掘作業の音が急に変化した。カンカンといった音を出していたのが急にギャイン、と大きく響くような音を出したのだ。それが合図となったのか、他の2人のドワーフの所からも同じようにギャイン、と盛大に音が響き始めた。


「親方ー!出ましたー!」

「こっちもっすー!!」

「やはりそうじゃったか!拳程度の塊1個でえぇからそれぞれ取り出すんじゃぞ!」

『わかったっすー!!』


 親方と呼ばれたドワーフの言葉に返事を返しながら今までより慎重に作業を再開した坑夫ドワーフ達に続いて、親方が拳児達に向けて叫ぶ。


「こっから先が重要じゃ!モンスターを近づけるんじゃないぞ!!」

「分かってますよ」


 親方ドワーフの叫び声に拳児が返事を返すのを確認してから、親方も作業に戻っていく。それを見送ると同時に、少し地面が揺れたのを拳児は感じた。それは拳児以外も同様のようで、全員で顔を見合わせて呟く。


「今、揺れたよな?」

「揺れたわね」

「来よるから気張るんじゃぞ!!」


 拳児の言葉にフランが同意を示すと、親方が作業をしながら声を張り上げる。来よるとは一体何が来るんだ、と思っていたらドスンドスンという盛大な音と共に、その正体が現れた。かなり高い天井の通路なのに、その天井スレスレの位置に頭がある、上半身は裸で腰布を巻いている巨大な石剣を持った巨人が2人、足元に5体程度の金属鎧を装備したゴーレムと共にやってきた。その巨大な姿を見て一瞬護衛の全員が怯むような表情をしたが、拳児が一歩前に出てモンスター達を制する行動に出る。


「巨人が一番ヤバいから、俺は近距離で巨人を制しに行く」

「生身っぽいからあたしも行けると思うわ」

「じゃ、三人で行きましょうか」


 拳児の言葉にフランがレイピアと短剣を取り出し恵が両手槍をポンポンと抱えて笑顔で言う。その様子を見てカルの仲間として一緒にこの場に居る、恐らく一番兄貴分のゲーツが怯えた表情で言う。


「無茶だ!武器を装備したトロールとこんな狭い場所で戦うなんて無理だ!それに金属鎧のゴーレムも居るんだぞ!」

「無茶とか無理とか言っても、親方達は一緒に逃げてくれるの?」

「ワシらは大事な作業中じゃ!死んでも逃げんぞ!!」

「親方達が死んだら依頼を受けた分だけ損じゃない」


 ゲーツの叫びにマリエルが冷静な声で言うとすぐに親方が逃げない事を叫び、その様子にマリエルが苦笑を浮かべながら首を振り、肩を竦めてから苦笑しながら右手を振り魔法陣を3つ展開する。同じくレテスもステッキを振り魔法陣を3つ空中に浮かべてから笑顔でゲーツ達に告げた。


「ジンタ村の皆さんはゴーレムの足止めだけ意識して下さい、足を止めるだけでいいですから。そうすれば私達が足を止めたゴーレムを倒します」

「はいまずはスパイラルシュート!!」


 レテスの言葉に同意するようにニアが激しい風を纏った光の矢を放ち、金属鎧ゴーレムの構えた盾を強烈な風と衝撃で弾けさせる。それを見たレテスとマリエルが魔力を盛大に込めた魔法陣から衝撃波を打ち出した。


『ハイプレッシャーウェイブ!!』


 それぞれ3つの魔法陣から同時に発射された衝撃波により金属鎧のゴーレム達の鎧と身体が音を立ててひしゃげさせる。以前同系統のゴーレム相手に拳児が放った時は対魔法効果と魔力を注いだ量の関係で効果が芳しくなかったが、今回はレテスとマリエルが大量に魔力を注ぎ込んだ為、対魔法効果を貫通した衝撃波により鎧とゴーレム本体の胴体が激しい衝撃によって部分的に破損が発生したのだった。ゴーレム達が足を止めたのを確認した所で拳児が叫ぶ。


「それじゃ行くぞ!」

「えぇ!!」

「くそっ、足止めに専念するぞ!!」


 拳児が叫ぶと同時にフランと恵も一緒に飛び出し、その後にゲーツ達が続く。拳児達3人は全速力でゴーレムの間をすり抜け、ゲーツ達はゴーレムの前で足を止めゴーレム達の足止めを開始した。拳児とフラン、恵の3人が巨人、トロールの射程距離に入るとトロール二匹は一斉に咆哮を上げた。


『グオオオー!!』

「ぐあっ」


 盛大な咆哮は衝撃波となって拳児達を襲ったが、3人は足を止める事無く顔を腕で隠しながら衝撃波を突き抜けて足元へと辿り着く。二匹の内の左に居たトロールに向かい、拳児が手にした棍でトロールの脛に思い切り横薙ぎをぶち当てる。


「でりゃあ!」


 拳児の棍が脛に炸裂したと同時にガインと強烈な音がその場に響いた。


「グアアアッ!!」


 強烈な一撃に思わずトロールが前膝を抱えるように身体を丸めようとした所に、もう一匹のトロールが石剣を横薙ぎに振る。


「オオオオ!」

「そんなテレフォンパンチ当たる訳ないでしょ!!」


 薙ぎ払われた石剣を屈んで避けたフランがそのままトロールの股を潜って通り抜け、後ろからふくらはぎをレイピアで貫くと盛大な出血と共にトロールが叫んだ。


「ギャオオオ!」

「いちいち五月蝿いのよっ!!」


 身体も声も大きいトロールに心底煩わしそうに言いながら、恵もトロールの後ろに回り込んでフランとは逆の足に両手槍を思いっきり突き刺してから、巨大な魔法陣を槍に展開し魔力を大量に込めて発動させる。


「サンダーレイジ!!」

「グガアアアアアア!!」


 恵自身と槍を通して身体の内側から流された強烈な電撃にトロールが叫び声を上げながら身体を震わせて絶叫を上げる。その様子を横目に確認してから拳児は脛を庇うように前かがみになっているトロールの顔面の正面から魔法陣を通して棍に電撃を注ぎ込みトロールの眼球目掛け突きを放つ。


「ヴォルテクス・ランサー!!」

「ギオオオオ!!」


 眼球を貫かれた瞬間トロールは絶叫を上げて今度は目を庇うように顔を上げて両手を拳児が突き刺した眼球を押さえたが、顔を上げた事で晒された額に、レイピアを構えたフランが直下に降る。


「死になさい!!」


 閃光のように放たれたレイピアの一撃がトロールの額を貫き深々と刺さり、トロールはそのまま勢い良く仰向けに倒れる。盛大な音を立てながら倒れたトロールと同時に、恵に内部から電撃を流されたトロールも悲鳴も上げずに前のめりに倒れる。その様子を見て拳児とフラン、恵の3人で一旦合流してトロールの状態を確認する。


「うん、死んでるな」

「ていうかデカいわね本当に」

「魔石もデカいのよね、あとは髪とか色々使えるとか」


 ぶっ倒れたトロール二匹を棍で突付いたりして確認してから自分達が来た道を確認すると、金属鎧のゴーレム達が既に残骸となっており、その前ではゲーツ達が座り込んで呼吸を荒げていた。


「し、死ぬかと思った……」

「俺達だけだったら、ヤバかったか……」


 ゲーツの言葉に同意するように大盾を持つドンガが息も絶え絶えに言うと、マリエル達が後ろから声をかける。


「足止めご苦労さま、収集品はそっちが7割持っていっていいわよ」

「まぁ……マシか」


 マリエルの言葉に弓手である獣人のリードが小声で同意する。自分達だけであったら死んでいたかもしれないが、今こうして生きている上にゴーレムの素材を7割貰えるという事であれば上々の結果といった所である。そんな様子を確認しながら拳児達も一旦ゴーレムの素材集めを開始しようとした所で、坑夫達から声が上がる。


「出ましたー!間違いないっすー!」

「こっちもっすー!」


 先ほどからガインガイン響いていた音も止んでこぶし大の塊を持って穴から出てきたドワーフ2人に続き、親方ドワーフも穴から出てきて3人で手にした塊を確認する。


「やはり、確定じゃな」

「そうっすね」

「8年ぶりっすね!」


 親方の感慨深そうな言葉に同意する坑夫と興奮を示すもう1人の坑夫。その姿に何があったのかと首を傾げてマリエルが問いかける。


「それがどうかしたの?8年ぶりって?」

「こいつは月鉱石、ルナヘルム鋼とも呼ばれる希少鉱石の一つで、このフィーリアス大迷宮の坑道内でしか採掘が出来ない鉱石じゃ。こいつの鉱脈がダンジョンで確認されたら坑夫と鍛冶屋の大祭りが始まる事になっておる。8年ぶりの大祭りが始まる合図じゃ」

「8年ぶり……こりゃまた大変だなぁ」


 喜びを噛み締めながら語る親方の様子を眺めつつ、拳児とフランはお互いを横目で見ながらまた大変な事になったな、と視線で牽制をし合う。今回の珍しい出来事は、はたしてどちらの所為なのかお互いに擦り付けたいのは本当にお互い様であった。

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