41話
2話から使っている種族名「ホビット」を「ウィードランナー」に変更します
「グラスランナー」も版権あるのを今回初めて知りました
拳児達異世界人の知識を基に作成された『熱エネルギー』に関する論文の報酬により、拳児達は定宿としていた『小鳥の羽音亭』から購入した屋敷に引っ越す事となった。看板娘のレイチェルとその両親は『宿無しになったらまた来い』と笑顔で送り出してくれた。ちなみにダンジョン帰りの夜は普通に『小鳥の羽音亭』で食事する事になる為、ほぼ毎日顔を合わせるのは今までと変わらなかった。
屋敷を購入し備品を購入し生活費を残しても尚余る程の大金を所持している拳児達だが、拳児達の最大の目的は異世界から自分達の世界へ戻る方法を探す事である為、今後予想される旅の困難を考慮すればモンスターに負けない力を得る必要がある為、金があろうと拳児達は一日置きにダンジョンに潜って力を付けていた。
3回目の坑道跡ダンジョンに到達した拳児達は、いつも通り周辺を警戒しながら魔法のライトを少し前に飛ばして周辺を照らすように配置し、警戒をしながらも緊張しすぎない程度で道を進んでいく。坑道に到着して既に1時間は歩いているが道はまだまだ先に続いており、モンスターも同様に襲いかかってきていた。岩石で出来た胴体と武器を持つゴーレム3体に対し、拳児が棍を横に一回転させてから1体の胴体を正面から突く。
「せいっ!」
ゴンという鈍い音と共に衝撃が胴体を抜けるが、ゴーレムは怯まずに手にしている岩石の槍を拳児に振るが、それを屈んで避けた所に、後ろから恵が胴体に向け両手槍を突き出した。
「はぁ!」
裂帛の声と共に突き出された槍はゴーレムの半ばまで突き刺さり、それを受けゴーレムは仰向けにユラリと倒れる。それを見てから拳児と恵は次のゴーレムの対処を思っていたが、残り2体のゴーレムは既に魔法とニアの弓により身体を抉られた状態で地面に倒れていた。
「だいぶ順調に処理できるようになったな」
「そうね、順調に行けているわ」
拳児の言葉に恵も頷きながら手に持つ両手槍をクルリと回して石突で床をカツンと鳴らす。
「槍も大分慣れてきたしゴーレムにも突き刺せる程度には腕も上がったわ」
「そうですね、飲み込みが早いと思います」
「拳児君とグレスさんには感謝だなぁ」
地道にグレスと拳児から教えを受けていた恵が少し感慨を覚えながら喋っていると、マリエル達が拳児に近づいてくる。
「回収終わったわよ」
「んじゃ先行きますか」
マリエルの報告にそのまま全員で移動し、少しすると二股の通路に到達する。その通路は両方とも先が薄暗く見えないので、マリエルが全員に視線を向けてから問いかける。
「さて、どっちかしら?」
「左かな、なんかカツンカツン音が聴こえるから気になるんだよね」
マリエルの問いにニアがノータイムで答え、その理由も併せて言った事でマリエル達は顔を合わせて相談する。
「って言ってるけど、人かしら?」
「その場合戦闘の邪魔とかにならないか?」
「でもカツンカツン、っていうのは戦闘音とは違いますよね」
マリエルの言葉に拳児が意見を述べると、レテスが疑問を呈する。その事にう~ん、と全員で悩んでからフランが提示した。
「はい左に行きたい人!」
フランの言葉にサッと手を挙げたのがニアとレテス、恵とフランだった。拳児とマリエルはその様子に苦笑してから頷いた。
「じゃ、左ね」
「行くかぁ」
民主的な方法で選ばれた道を進み少しすると、確かに拳児達の耳にもカツンカツン、という音が小さく聞こえてきた。それも一つでは無く、複数だ。
「1人じゃないわね」
「2、いや3人かな」
フランの言葉に音を聴き分けていたニアが答えるのを聴いてから、マリエルが自身のライトを先行させて先を見通しやすくすると、光の範囲に人が入ったようで驚いていた。
「なっ、なんだこれは!」
「あっ、人だ。すみませーん、物音が聴こえたので先を確認してましたー!」
道の先で驚いている男性の声が聴こえた事で拳児は大声で返事を返し、そのままライトの方まで近寄っていく。ライトに照らされた先には、ランタンを複数持った冒険者と思われる装備を纏った集団と、3人の人間がつるはしを壁や床に叩きつけている集団が居た。そこに全員で近づくと拳児が先に口を開く。
「すみません、作業の邪魔をするつもりはなかったんですけど。仲間がこっちから音がすると気になっていたので確認に来ました」
「あ、あぁそうか、悪いな。こっちはランタンぐらいしか明かりが無いから遠くまで確認出来なかったんだ」
「いえ、こちらこそすみません」
出だしに拳児が口を開くと相手の、軽鎧と両手持ちであろう大きさの大剣を持った男性冒険者がお互い苦笑しながら頭を下げ合う。その様子を他の冒険者達も眺めていたら、後ろから来た冒険者の1人が大声を出した。
「あっ、あの時の兄ちゃんか!?それとマリエルとニアじゃねぇか!!」
「えっ、誰だっけ?」
大声で指を指しながら拳児とマリエル、ニアに叫んだウィードランナーの男だが、速攻でマリエルが疑問符を浮かべて問いかけるとその男はずっこけるように前に出ると再び大声で叫んだ。
「カルだよカル!ジンタ村のカルだ!」
「あ、あー、ダンジョンで一時一緒だった」
「一緒に苦難を乗り越えたってのに薄情だなぁ!」
カルの言葉にようやくニアが思い出した、といった表情で答えるとカルは不服そうにしながら拳児達を確認した。
「ていうかお前らはお兄さんと組んでたのか。ま、二人だけじゃどうにもならなかっただろうししゃーねーだろうな」
「うるさいわねこの男」
したり顔で言うカルの言葉にマリエルが煩わしそうに呟くが、そこに他の冒険者がカルに声をかけた。
「おいカル、知り合いなのか?」
「そうっす、一緒に10層で鉢合わせて攻略したんすよ!俺と同期の冒険者って事っす!」
「そうなのか」
カルに近づいたのは大盾とメイスを装備した男性と、弓を持ち背中に矢筒を背負ったローブの男であった。カルも合わせて4人の冒険者が集まると、リーダー格と思われる大剣の男が頭を下げた。
「どうやらカルが世話になったようだ、カルと同じジンタ村のゲーツと言う」
「おいらはドンガだ」
「……リード」
大剣の男はゲーツと名乗り、ドンガは大盾を持つレプトリアン、リードは犬の獣人のようで尖った耳が上から被ったローブから突き出ていた。その挨拶に拳児達も各々に挨拶を返していると、つるはしで壁とカツカツ叩いていた人達が一斉に掘っていた穴から出てきた。
「なんじゃ、他の冒険者か。それなら丁度良い、ちょっと手伝ってくれ。勿論報酬は渡すぞ」
「えっと……穴を掘るのを?」
「ただ掘ってる訳じゃない、採掘じゃ採掘」
「あ、あー、なるほど採掘」
よっこいしょと言いながら肩にかなり大きなつるはしを掲げた三人の男、背がカルより少し大きい程度でヒゲが蓄えられたその三人は、街中の鍛治屋街で良く見るドワーフと同じだった。三人は白いヘルメットを被り額にライトの刻印が施されたハチマキを装備しており、その光を頼りに採掘をしているようだった。その様子に拳児達が返事をする前に、ドワーフのリーダー格が口を開く。
「わしらがこうして採掘しとるのは珍しい鉱脈がほんの少し坑道に露出しているのが確認出来たからじゃ。護衛として冒険者を雇っておるが、だんだん音を聴きつけてやってくるモンスターが増えてきたもんでな。一緒に穴を掘れという話じゃなく護衛として追加で雇いたい。勿論報酬も金と物品で払うぞい」
「そうね、別にいいわよ。こちらとしてはモンスターを倒しに来ただけだし、別途報酬も貰えるなら構わないわ」
「おうそうか、助かるぞい!じゃ、よろしくのぅ!!」
ドワーフからの提案にマリエルがノータイムで返事をすると、ドワーフ達は嬉しそうに笑ってから再び掘っていた横穴に戻っていった。その様子を見てから拳児がマリエルに確認する。
「出口がどこにあるか確認してくるか?」
「この人数なら坑夫さん達の作業が終わってから探索すれば大丈夫でしょう、危険を犯して単独行動をする必要は無いわ」
「なるほど、分かった」
マリエルの言葉に拳児も納得してから全員を確認して、それぞれがライトの魔法を行使して周辺を照らして警戒を始める。坑道の天井はかなり高い為、頭上程度にライトを置く事で周囲が見えやすいようにするだけで視界は良好だった。その複数のライトを見てカル達のグループがランタンを消す。
「どうやらランタンは必要無いようだな」
「あぁ、助かった」
ゲーツとドンガがランタンを消して荷物袋に仕舞うのを見ていると、カルがニアに話しかける。
「ていうか何だニア、随分仕立ての良い弓を持ってるじゃねぇか」
「拳児さんの友達の鍛冶屋さんに作ってもらったんだよ」
「あぁ紋章術の使えるっていう、なるほどなぁ」
カルはそう言いながらニアの持つ弓を見ながら、首を傾げて問いかける。
「お前、矢筒は?」
「マジックアイテムで魔力使って矢作れるから、ほら」
「お、おぉ……なんだそれ欲しい」
「あげないよ!」
カルに指摘されたので弓に軽く魔力を注いで矢を形成すると、カルが羨ましそうに眺めてきたのでニアが抱きかかえるようにして弓を庇う姿勢を取ると、カルは苦笑しながら次はマリエルに声をかけた。
「んで、お前はどうなったんだ?」
「ま、少なくともあの頃よりはとっても強くなってるわよ?」
「ハーン、ホントかねぇ」
カルがマリエルに軽口を叩くと、すぐにマリエルはふわっと手を払い、一瞬で魔法陣を5つ表示させた。
「さ、どの魔法を撃ち込まれたいか選びなさい」
「じょ、冗談冗談!仲良くいこうぜ!!」
「あの時の厭味ったらしい態度は忘れないんだからね」
「悪かったって!な!ねぇお兄さんも何とか言って下さいよ!」
フンと鼻を鳴らしながら魔法陣を消してそっぽを向くマリエルから飛び退き拳児に近づいたカルに向かい、拳児は苦笑しながら頷いた。
「マリエルは俺達のパーティーリーダーだからな、もうあの頃みたいに怒らせない方がいいぞ」
「分かりました分かりました、だから俺をあいつから守って下さい!」
「分かればいいのよ」
拳児の苦笑混じりの本音にカルが拳児の腰にすがりつくと、マリエルがやはりフンと鼻を鳴らしてから笑みを拳児に向ける。思えば短期間でマリエル達とはとても仲良くなったんだなぁ、と少し他人事のように拳児は感じてしまうのだった。