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迷宮白書  作者: 深海 蒼
39/41

39話


 ダンジョン内フィーリアス坑道跡の探索を続ける拳児達は、フランと恵のモンスターネズミ恐怖症により若干の時間を取られていたが、何とか二人の精神を立て直して進行を続けていた。


「ネズミなんて、ゴブリンに比べたら可愛いものなのにねぇ」

「こう、価値観の違いよね、価値観の」


 ニアが呆れた声で言うと取り繕うように恵が絞り出すような声を出す。二人とも何とかネズミを見ただけで悲鳴を上げる事はしなくなったが、それでもビクッと肩を震わせるのを我慢する事は出来ていなかった。 その点ニアは狩人なので狩りの途中でネズミなんていくらでも出てきたし、場合によってはネズミ退治を依頼されたりする側だった為、ネズミはいくらでも見慣れている訳だ。勿論レテスやマリエルもネズミは村や街で見る事もある為、それが巨大化したからといって怯える事は無かった。

 拳児とマリエルが先導として先を進み少し先をライトの魔法を先行させて行き先に出現するモンスターを警戒した動きをしていると、視界の左右から今度は微かな水色の双眸が視界に入った。二人はライトの魔法を更に奥に進めると、双眸の主が光に対し攻撃を仕掛けて破壊しようという動きを見せ、同時にガタンガタンとかなり重量感のある音を鳴らしながら拳児達の場所へ突き進んできた。その水色の双眸は、5体の全身岩で構成された西洋甲冑の騎士であった。


「これがゴーレムか」

「本当に岩が動いてるわね、どうなってるのかしら」


 全身が重いためかなり大音量の足音を鳴らしながらそれぞれ剣に槍、メイスと片手盾を持った5体のゴーレムが一斉に突っ込んできていて、手始めにマリエルが手を伸ばして魔法陣から炎の球体を飛ばしてぶち当てたが、球体が爆発を起こしてもゴーレム達は平然と走り続けていた。


「本当に炎はダメね、相手が岩ならしょうがないか」

「んじゃ、いきますよ恵さん!」

「ネズミじゃないなら大丈夫!!」


 マリエルの炎が通用しなかったのを確認して拳児と恵がそれぞれ前に出てゴーレム兵士を衝突する。拳児は棍を装備して恵は両手槍なので、どちらも硬い相手にも通じやすい武器である。比べてフランのレイピアは刺突と斬撃に特化している為、今回のようなゴーレム向きの武器では無かった。なので残ったフランとレテスは魔法を発動させる。


「これなら行けるはず、ロックハンマー!」

「ストーンフォール!!」


 フランは魔法陣から巨大な岩石を射出してゴーレムの一体を吹き飛ばし、レテスは上空から石を大量に落としてゴーレムの一体を地面に沈める。それからニアが風を纏った光の矢を射出すると、ゴーレムの額に当たる部分にガリガリと音を鳴らして矢が沈み込んだ。


「んっと、このトルク?だっけ、まだ足りないか」

「風を回転させるのね、うまく行きそう?」

「うん、もうちょっと魔力を上げて回転数を上げれば貫けると思う」


 ニアが風をドリルのように回転させて矢に纏わせて射出する事で矢で貫けるか試しており、その状況を確認したマリエルも再び魔法陣を展開し、先端の尖った岩を回転させながら射出した。マリエルの魔法はゴーレムの肩に当たり、その部分をゴリッと削り取った。


「回転、回転ね。これならいけるわ」

「だね」


 マリエルの言葉にニアが頷きながら再び矢を射出して今度こそゴーレムの頭を貫くと、ゴーレムは仰向けに倒れ動かなくなった。それを確認してから次のターゲットへ視線を向けると、拳児が剣と盾のゴーレム、恵がメイスと盾のゴーレムを相手に大立ち回りをしていた。棍の振り払いは盾で防がれるが振り下ろされた剣を拳児も棍で受け、恵も槍の突きを主体に攻撃しているが半分程の攻撃は盾で防がれて決定的なダメージには至らなかった。


「やべ、割と近接戦強い」

「いや普通に強いわよこのゴーレム!」


 思った以上の敵の技量に少し驚く拳児と思い切り焦り始める恵。拳児はともかく恵は警察学校時代の近接訓練位しかした事が無かった為、近接戦闘に関してはプロという域には達していない為、少し焦りが出てしまっていた。

 そんな様子を拳児が少し微笑ましく見てから視線を眼の前のゴーレムに向けると、棍の真ん中を持ち両端を細かくゴーレムへと連続で当てていくと、敵は剣と盾で慌てて防ぎ始めるが、そこに軽く腰を落として右足の裏でゴーレムの右足を内側から外側へ蹴ると、ゴーレムは開脚姿勢となり地面に座り込み、拳児が頭に狙いをつけ根を振り切るとゴンッという鈍い音と共にゴーレムが床に倒れ込んだ。

 1体のゴーレムを処理した後すぐに拳児は恵とやり合っていたゴーレムの背後に近づき棍でゴーレムの足を強打、膝を折った所で再びゴーレムの頭に棍を振り切り、ズトンとゴーレム2体を地面に沈めた。その様子を見て少し呆気にとられた恵だが、取り繕うように槍を戻すとコホンと咳払いをする。


「た、助かったわ、ありがとう拳児君」

「いえいえ」


 恵の感謝の言葉に応えながら拳児は倒れたゴーレムが起き上がらないか棍で突付いて確認しながらゴーレムの頭や胴体をチェックしていく。資料にはゴーレムの頭、眼球、口と胴体、腕や足の関節部にそれぞれモンスターとして出現した場合のみ生産される鉱石があるという話だったので、各パーツを確認し、荷物袋に仕舞う作業が待っていた。

 いそいそとその作業をしながら拳児が鼻歌を歌い仕分けしている横で、恵がススス、とフランに近づき小声で問いかける。


「え、拳児君、なんか強くない?」

「10年以上空手少年やってて、18歳で剛正流空手の二段になってるから、普通の人よりは強いでしょうね」

「四大流派の?だからなんか、接近戦慣れてる感じがしたのか」


 フランの話を聞いて恵はその説得力に大いに頷いてからはた、とフランを見るが、フランは肩を竦めながら手を広げていた。


「あたしはフェンシング部に入ってただけの経験しか無いわ」

「あー、だからレイピアか」

「そういう事」


 フランの武器のチョイスに恵が納得していると、岩で潰れたゴーレムや拳児達が倒したゴーレムの仕分けがほぼ終わった。


「なんかこの目とか、内部に宝石入ってるか?」

「どうでしょう、光を放つ鉱石かもしれないですね。ガティさんへのお土産には十分かと」


 ゴーレムから取り外した眼球を眺めて拳児とレテスが喋りながら袋に突っ込んでいき、マリエルとニアもそれぞれ手分けしてゴーレムの必要なパーツだけ袋に詰める。残ったパーツはすべて端に寄せてから、拳児達は再びライトの光を先行させて進行を開始した。

 初めてゴーレムと会敵してから2時間、ゴーレムとの戦闘は5回行われており、そのほとんどが魔法によって蹴散らされた。拳児と恵が毎回接近戦を挑み、横からマリエルとフラン、ニアとレテスで魔法をぶち当てて勝利するという形で完勝と言って良い形で順調に戦闘は終了した。その連携を維持しながら道を進んでいると、急にニアが大声を張り上げる。


「止まって!!」


 突然の声に先を歩いていた拳児と恵がびっくりしながら足を止めてニアへ振り向くと、ニアが自身の感覚を頼りにライトを点けながら壁際を調べている。その様子にマリエルが問いかけた。


「どう?」

「う~ん……あっ、ここ隙間だ!」


 マリエルの言葉に答えながらニアが壁に自身のナイフを突き立てると、カランと軽い石の音がしてからズズズ、と壁が横に移動を開始した。その様子にフランがほう、と感心しながら確認する。


「なんで分かったの?」

「風、だね。やっぱり坑道だからヘンな風を感じたんだ」

「ヘンな風……ねぇ」


 ニアの言葉にフランが少し考えてからマリエルに視線を向ける。


「で、進むの?引くの?」

「進みましょう」

「じゃあ気を付けて行きましょうか、念の為エアロバブルを使うわ」


 マリエルの進む選択を支持してからフランが魔法を発動し、全員の周囲に水の膜を張り、一つの泡として包みこんだ。念の為の毒ガス対策として全員が泡に包まれて前進をすると、横道に入ってから10分程で、何とも言えない温い空気が流れているのを全員が感じていた。


「ヘンな風ってこれかぁ」

「絶対吸っちゃダメな奴だねこれは」


 ニアの言葉に実感を持って拳児と恵が先頭を歩きながら纏わりつくような嫌な空気を小さな風の魔法で払いつつ先へと進む。道の先では右側に大きめの地下水脈と言えるだろう水が流れており、その先は小さな池として坑道の中に存在していた。その池が緑や赤でグラデーションを起こしている濁り方をしているのを恵が嫌な表情を浮かべて睨みつける。


「鉱毒の池かぁ」

「じゃあヘンな風は二酸化硫黄とか硫化水素とかか」


 恵の言葉に拳児が相槌を打ってから池を覗き込み、その毒々しさにウヘェと顔を顰めていたら、横からフランがレイピアの先端を池の中に軽く入れると同時に、魔力をレイピアの先端に流し始めた。一体何をしているんだと拳児が思っていたら、フランが口を開く。


「レアメタルの名前、いくつ言えるかな~?」

「あー、鉱毒だから含有されてるかー!」


 どこかのテーマソングのような歌を歌いながらフランは魔力を流し続け、恵がそれに感心していたらすぐにフランはスッとレイピアの先端を取り出した。その先端には、正四角形をしたキラキラと輝く金属の箱が出来上がっていた。


「じゃじゃーん、プラチナ~!!」

「レアメタルでニッケルやチタンじゃなくてプラチナが出てくるの生々しすぎるわお前」

「プラチナ嫌いな女なんて居ないから!!」


 鉱毒からプラチナを取り出したフランに拳児が突っ込みを入れるが、逆に勢いの良い返答をされてしまった為微妙な表情を浮かべるしか無かった。フランが先端から魔法でプラチナを取り外している間に恵も槍の先端を池に突っ込んでから少しして取り出すと、そこには金色の金属が。


「鉱毒だから金もあるわよねぇ!」

「生々しい、生々しいぞこの二人」


 金を見つめて嬉しそうな表情をしてから先端の金属を取り外し、フランと恵が次々と鉱毒から金属を生成していく。全て金属元素を指定してレイピアと槍の先端に吸着させるという手段で金属を取り出しており、魔法で元素記号そのものの物質は生成出来ないが、元素記号を指定しての固着化は可能という事が実践で理解できた。坑道結構当たりだな、と拳児が思っていると微かに遠くの方からカシャン、という音が聞こえてきた為、拳児は表情を引き締めて棍を前に構えライトの球体を視線の先へと向かわせた。するとそこには、先程までのゴーレムよりも重厚であり、両肩や兜に角を模した飾りを施した全身鎧を身に纏い剣や槍も大型なゴーレム騎士が3体向かってきた。


「割とこれ、ヤバそうかも」

「危ないと思ったら撤退するわよ」

「了解です」


 ゴーレム達の出す威圧感に少し気圧された拳児だが、マリエルとレテスのいざとなったら撤退という判断を聞いて、確実に勝つ必要は無い、と思い切り生体エネルギーの活性化を瞬間的に発動し、先頭を進んできた剣と盾のゴーレムに棍を上段から叩きつけた。ガイン、という金属同士が思い切り衝突した音を鳴らしながら棍が盾にぶち当たり、胴体に活性化で強化した前蹴りを叩き込むとゴンッという鈍い音と共にゴーレムが一瞬怯む。その隙間に両手槍を持ったゴーレムが拳児に突きを放ってきたが、そこへレテスとマリエルがロックハンマーの魔法で勢い良く巨石を射出してゴーレムを下がらせた。

 剣と盾を持つゴーレムとメイスと盾を持つゴーレム、そして両手槍のゴーレムという状態で、拳児は瞬時に判断して指示を出した。


「両手槍から潰す!他のゴーレムは牽制しておいて!」

「了解!!」


 拳児が叫ぶと同時にニアが光の矢を連続で盾を持つ2体のゴーレムに牽制として放ち、それに追随するようにマリエル達が石を次々魔法で射出する。拳児は棍で両手槍のゴーレムに躍りかかり、棍の中心を持って左右の先端で連打を浴びせるとゴーレムは槍でそれを防いできたので、右手を前に突き出して魔法を放った。


「ファイア!」


 一瞬だけカッと光と共に熱を吹き出した魔法にゴーレムが頭部を少し後ろに下げるのを確認して、拳児はゴーレムが音と光、そして熱でも動作を判断していると察知して連続して攻撃を加える。盾に思い切り棍を叩きつけてから胴体部に一瞬だけ活性化した蹴りを見舞い、少し離れた状態で魔法陣を三角形に展開して魔法を発動させる。高等魔法技術指南書というシャルミスの蔵書で確認出来た、衝撃波を攻撃をとして発動する魔法である。


「ハイプレッシャーウェイブ!!」


 発動させると同時に3つの魔法陣から指向性を伴った圧力波がドン、と強烈に発動して重力衝撃波にも近い衝撃をゴーレムに与える。強烈な衝撃にゴーレムの全身がギシリと軋むが、次にはまるで弾けるように青い光が金属鎧から発生し、ゴーレムは両手を振り払った。


「対魔法か!?」


 ゴーレムの起こった現象の中で対魔法防御の効果と推測される光に拳児がバックステップをすると、追跡するようにゴーレムが両手槍を突き出したのでそれも慌てて回避して遠ざかり、何度もバックステップをして魔法でゴーレム達を牽制していたマリエル達の元へと戻り報告する。


「割と大技じゃないと無理そう!」

「牽制するからやっちゃって!」

「あいよ!」


 拳児の言葉にすぐさまマリエルとレテス、恵とフランで大量の岩石を射出しニアが風を纏った光の矢を次々射出すると、拳児が自身の全身を魔法陣で覆ってから魔力を注ぎ強烈な風と雷を発生させながら宣言する。


「テンペスト・ドライブ!」


 巨大な嵐となって超高速で移動した拳児はやはり最初に両手槍のゴーレムへと向かい超高速の棍による突きを胴体に叩き込む。ズドンという重厚な音を出して超高速の衝撃と体内を通電した雷によりゴーレムは一撃で沈んだ。すぐさま拳児は振り返り変わらず岩石の射出で牽制されている残り2体のゴーレムにも超高速で接近、落雷の音と全く同じ音を鳴らしながらゴーレムの胴体に棍を叩き込み、全てのゴーレムを地面に倒れさせた。少しだけ残心してから構えを解き、魔法を解除してから拳児はふへぇ、という鳴き声を上げてから仰向けに寝転がった。


「全身がいてぇ!!魔法の過負荷がひでぇ!!」

「お疲れ様、よくやったわ」


 棍を傍らに置いて寝転がった拳児の傍に笑顔のフランが近寄り、額に生成した氷をピトリと置いてから褒めるので、拳児は軽く目を瞑ってから考える。


「……これ、他にも来たらかなりマズくないか?」

「同種が他にも来たら、そうね、逃げましょうか」

「それに賛成しましょう」


 拳児の言葉にフランが同意して逃げる一択を選択するが、その後は特に他のモンスターが出現する事は無く、突き当りに隠された木箱が複数と転移装置があった為、これ以上の戦闘は無しで全員が帰還する事が出来るのだった。

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