表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
迷宮白書  作者: 深海 蒼
28/37

28話

ずっと昔のものですが、見ていただいてありがとうございます。


 11階層の探索を始めて1時間程。モンスターとの接敵は4回程度となり、それらは全てマリエルが討伐していた。


「ファイアーッ!!」


 笑顔と共に盛大に発射される火の玉がゴブリン達に着弾すると同時に爆発を起こす。そんな派手な戦闘を繰り返していたが、4回目となる火の玉を発射した後、すぐにマリエルは膝に手を置いてぜーぜーと前のめりに息を荒げていた。


「な、なにこれ……だるい、身体がすっごいダルいわ……」

「一度の魔法で魔力を使いすぎなんですよ。何度もゴブリンを複数体吹き飛ばす威力の魔法を使っていればそうもなります。確かにマリエルさんの魔力量は多いんですけれど、あれだけ連発すれば無理が出ます」


 痛みというより息苦しい苦しみを表情に出したマリエルに向け、レテスが笑顔で答える。拳児としてもレテスの説明にそういうものなんだろうな、と納得した。自分が一人でゴブリン複数体を剣で片付けるとすると、かなり疲れると思うので、ゴブリンを複数体何度も吹き飛ばしたマリエルも同じようなもの、と理解できた。


「マリーちゃん、ちょっと休憩しようか」

「そ、そうね……無理は良くないわ、無理は……」

「はい、お水あげるから、飲んで」


 壁を背にしてニアとマリエルが地面に座り、ニアは自分の荷物袋から水袋を取り出しマリエルに差し出す。それをコクコクと飲んでから、マリエルは礼を言った。


「ありがとうニア、助かったわ」

「私も初めて狩りで獲物が取れた時はだいぶはしゃいじゃったから、気持ちは分かるよ~」

「そうよね、なんていうか爽快感があるのよね」

「そうそう」


 そんな事を笑い合いながら話しているマリエルに、レテスが声をかける。


「次は私が魔法で攻撃しますから、攻撃魔法の威力の加減を見て下さいね」

「分かったわ、攻撃魔法に関してはレテスの方が先輩だから、勉強するわ」

「はい、勉強して下さい」


 素直なマリエルの言葉にレテスは笑顔で応じる。それから少し休憩を挟み、マリエルの体調が良好になった所で再びダンジョン内の探索を開始した。休憩していた場所から10分程度、洞窟の十字路に差し掛かった手前で拳児達は動きを止める。

 十字路の真ん中に、およそ5体のゴブリンが待機していた。その様子を見て、レテスが小声で声をかける。


「私が攻撃するのと同時にニアさんもボウガンでお願いします。攻撃が着弾したらケンジさんが斬り込んで貰えますか」

「分かりました」

「了解です」


 レテスの言葉に拳児とニアが快い返事をしたのを見てから、レテスは手にしたスティックの先端をゴブリンへと向け、魔法陣を展開した。マリエルの使っていた魔法陣とはほんの少しだけ違うその魔法陣が光を放つと、レテスが呟く。


「ストーンショット!」

「撃ちます!」


 レテスの魔法陣から複数の小石が勢い良く飛び出すのと同時、ニアがボウガンで狙いを定め射撃を開始する。ニアのボウガンで左端の1匹が頭を貫かれ、2匹のゴブリンの頭が魔法で撃ち出された小石により勢い良く破裂した。その様子を見届けてから拳児が踏み込む。残った2匹のゴブリンが突然の事態に攻撃が発生した方向に視線を向けたのと同時に、拳児が袈裟斬りを1体のゴブリンにお見舞いした。


「おりゃぁあ!」


 斜めに身体の直中まで断たれたゴブリンを勢いのまま振り捨て、もう1匹のゴブリンに向け横殴りの剣を放ち、刃先が首の中ほどまで食い込むと同時にゴキリと音が鳴り、そのまま剣を振り切り斬り捨てる。そうして無事に戦闘が終わった所でレテスが口を開いた。


「このような形で、仲間と連携をして魔法を使う事を意識すれば自然と魔力の消費量も減ります。全部自分だけで片付ける必要もありませんし、過剰な魔力消費は良くありません。1体や2体だけでも倒せればそれでグンと前衛の方もラクになりますから」

「そうね、分かったわ。確かに今までは魔力を使いすぎてたみたい。次は1体だけ倒す感じで使ってみるわ」

「はい」


 レテスの言葉にマリエルは静かに頷いて同意する。狙いを絞る事と威力を調整する事を意識するように心がけたマリエルに、レテスは笑顔で返した。そんな二人を見てからゴブリンの死体に一番近い拳児が死体を捌き始めた。


「えっと、魔石と……耳だっけ」

「はい、それで大丈夫です」


 拳児の横にニアも並んですぐに胴体を開いて心臓の横に存在している小さな魔石を取り出す。同時に頭から耳を削いで、それも荷物袋に放り込んだ。ゴブリンの始末を終えた所で、拳児が立ち上がりながら問いかける。


「さて、んでどっちに行きましょうか」

「そうですね、魔力の流れ的には右の道から弱いながらも魔力が流れてきています」

「じゃあ右ね。転送装置がそっちにあると思うわ」


 魔力の流れに敏感なレテスの言葉にマリエルも同意して、四人で一緒に十字路の右の道へと進んでいく。すると程なくして、3体のゴブリンに遭遇した。向かい側からの遭遇だった為ゴブリンは奇声を上げながら駆け寄ってきたが、マリエルとレテスが魔法陣を形成し、ニアが既にボウガンを構えている。


「ファイアッ!」

「ストーンショット!」

「撃ちます!」


 三人同時に魔法とボウガンを発射し、マリエルの炎は先程よりも小さい爆発を発生させてゴブリンの頭を吹き飛ばし、レテスとニアの攻撃も見事にゴブリンの頭を貫いていた。その様子を見て、ぽつりと拳児が呟く。


「3体以上じゃないと接近戦をする機会は無さそうだなぁ」

「射撃ができる人間が3人いると仕方ないですねぇ」


 拳児の呟きにレテスが苦笑を浮かべながら答え、またゴブリンの死体から魔石と耳を取り出して先へと進む。そうして道の先に見事に転送装置があった所で、拳児が問いかけた。


「えっと、どうする?先に進むか今日は戻っておくか。多分外出たら昼過ぎくらいだと思うし、マリエルの体力というか魔力は大丈夫か?」

「さっきは連発で魔力を使いすぎただけだし、まだ魔力枯渇にはなっていないから行けるわよ」

「じゃあ次の12階層まで行ってみて、そこの出口で決めましょうか」

「分かった」


 拳児の問いかけにマリエルが苦笑を浮かべて答えてから、ニアが堅実な提案をしたので拳児達は揃って12階層へと転移した。12階層も同じく洞窟型のダンジョンとなっているので、再び周囲を警戒しながら前進を始める。道としては若干斜めに曲がった道が多い階層になっていて、そこから右に曲がり左に曲がりと、結構複雑な階層となっていた。


「なんだかクネクネした道ね」

「そうだな」


 マリエルの純粋な言葉に拳児も同意を示すと、レテスが言う。


「こういう道の場合、急に開けた場所に出る場合もあるので注意をして下さいね」

「あ、その開けた場所がすぐあります」


 レテスの言葉と同時、ニアが呟いて前に出ると確かに開けた、というか小部屋のような形の空間に出た。若干壁が湾曲した、図形で言えば長方形に内接する楕円の空間に到達し、その小部屋ではゴブリンが8体、床に座っていた。そしてその中央には周囲のゴブリンとは少し違う、肌が通常のゴブリンより赤くなっているゴブリンがいる。その姿を見てレテスが呟いた。


「ゴブリンリーダーです、通常のゴブリンより少し大きく力も強い種ですね。気を付けて下さい」

「了解、俺がとりあえずそのリーダーを狙います」

「周囲の雑魚は魔法で散らすわ!」

「撃ちます!」


 レテスの忠告に拳児は耳を傾けてからダッシュを開始、それと同時にマリエルとニアが魔法とボウガンを放ち、レテスも続いて石を射出する。その3つの射撃で3体のゴブリンが屠られた所に、拳児がゴブリンリーダーの所へ到達した。ガティの用意してくれた頑丈な片手剣を両手で持ち、ゴブリンリーダーへと袈裟斬りを放つ。ゴブリンリーダーは流石にリーダーなのか、他のゴブリンより早い反応を見せ手にした棍棒を斜めに構え、拳児の剣を防ごうとした。

 ガチン、と一瞬硬い音がしたが、拳児は構わず生体エネルギーの『活性化』を行い、剣を袈裟斬りに振り抜く。


「おおっ!」


 拳児の剣に力負けしたゴブリンリーダーの腕がひしゃげながら剣が胴体まで食い込み、ドスンと倒れた。勢いのままに拳児はその場で回転し、2匹のゴブリンに後ろ回し蹴りから軸足で跳んで飛び蹴りを行いゴブリンの頭を打ち砕いた。それで拳児の周囲のゴブリンは全て片付き、拳児が倒していないゴブリンは全て魔法とボウガンで仕留められていた。周囲に散らばったゴブリンの死体を見て拳児は『活性化』を解いて呼吸法、息吹で息を整える。


「フーッ!」


 口を窄め息を吸い、勢い良くもゆっくり吐き切る感覚で呼気を吐き出す。それで『活性化』による倦怠感が幾らか解消された。そんな拳児の元にレテスとマリエル、ニアが駆け寄る。


「お疲れ様です、お怪我は?」

「怪我は無いですよ、ありがとうございます」

「ゴブリンリーダーを力任せに斬ったわね、腕大丈夫なの?」

「全然大丈夫、グレスさんに教えてもらった生体エネルギーの運用法を使ったから」

「なるほど~」


 拳児の言葉にニアが納得してから周囲のゴブリンの死体を見渡してから口を開く。


「じゃあ死体の処理しましょうか」

「だね、早速やるか」


 そこから手分けしての作業が始まり、胴体から魔石を取り出してから耳を削いでゴブリンを片付ける。それらが全て終わった所で、レテスが再び周囲を見渡した。


「では、狭いですがこの空間を少し確認しましょうか。こういう所には何かがある場合があるそうですので」

「何かって?」

「お宝とか、罠とか?」

「なるほどなぁ」


 拳児の問いかけにニアが応じ、そのまま周囲の捜索を開始する。とはいえそこまで広くもない空間なので、周囲の壁と床を少し確認すると、それはすぐに見つかった。


「ん、ここ少し風が吹いてるな」

「あ、本当だ」


 壁をペタリと触った拳児と同じように、石壁をペタリと触ったニアの手のひらにも小さい隙間から風が吹き付けているのが感じられた。そうして周囲を改めて確認すると、同じ壁の横に、小さな正方形の石が埋まっていた。


「これね!」


 見つけたマリエルが喜んで押すと壁がゴゴゴ……と横に開き、その奥に小さな空間が存在していた。その中央には木製の平たい木箱が置いてある。その様子に、ニアは目をキラキラさせていた。


「うわぁ、本当にダンジョンってお宝があるんだぁ」

「まぁ、浅い層ならこういう事もありますね。奥に進んでいくと探索の難易度も上がるので気をつけないといけませんが」

「開けましょう開けましょう!」


 子供のようにはしゃぐニアにレテスが苦笑しながら言うと、マリエルも待ち切れないとばかり木箱の前に到達し、勢い良くその上蓋を外した。そうして箱の中を確認すると、そこには緑の丸い球と黄色の丸い球が入っていた。その2つをマリエルは取り出し、両手に持って眺める。


「これ、何かしら」

「魔道具での鑑定が必要ですね、ダンジョンから出たらギルドが開いている鑑定室へ行きましょう」

「鑑定が必要なお宝!幸先が良いねマリーちゃん!!」


 レテスの言葉にニアが満面の笑みでマリエルに言う。通常、普通の冒険者が見ただけで分かるような物品は安価で取引される事が多いが、こういったギルドの鑑定家などに鑑定して貰わなければいけない道具は往々にして特殊な効果を持ち、高値で取引ができる事が多い。その期待度の高さにニアが大いに喜んでいるのだった。


「じゃあ、さっさとダンジョンから出て鑑定して貰うか」

「行きましょう行きましょう!鑑定室も夜になったらしまっちゃうから急ぎましょう!」


 ニアの態度に苦笑を浮かべながら拳児が言うとニアも同意して慌ててさっさか前に出て早足で進み出す。その様子にニアと付き合いの長いマリエルも、苦笑を浮かべるしかないのであった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ