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迷宮白書  作者: 深海 蒼
22/37

22話

身内バレしそうなのでネームを「深海 蒼」へと変更させていただきました

どなたかとかぶっていたらまた変更します

 ご近所、というか自分が今居る街並みを眺めて感じる世界への印象は、「ヨーロッパ」である。

 修学旅行で行ったドイツのような中世ヨーロッパを思わせる街並みでありながら、同時にパルテノン神殿が聖堂と並んでいても違和感がないくらい、神話チックな世界であった。

 さて、そんな世界でのポピュラーな情報伝達手段と言えば、紙で書かれた書類である。

 通常の書類作業や、一般的な手紙のやり取りではリネンのザラついた紙やモンスターの皮から作った皮紙を、重要な書類には「羊皮紙」が使われるなどの差別化は行なわれていたが、基本的には「紙」である。

 だが、拳児達の前に置かれたそれは、明らかに、石版だった。


「師曰く

 『侮るなかれ、危ぶむなかれ。矜持を持ちて敵を屠れば、道は切り開かれる』

 つまり油断するな、怯えるな、戦え。という訳だ」


 その格言は単純すぎるだろうと思うが、そんな格言を石版に掘っちゃう師匠の格言だししょうがないんだろうと妙に納得してしまった。

 周囲を見ると他の受講者、レテスにしても目を丸くして石版を見つめている。

 いちいち石版を指差し講釈を行なうグレスには申し訳ないが、その姿は滑稽だった。

 なんで石版なんだ、なんだその単純な格言は、ていうかそれが師匠なのかグレス。と三つぐらい突っ込みを叩き込みたい衝動に駆られる。

 しかし彼もその滑稽さに自覚があるのだろう、若干紛らわすかのように声をかけた。


「いいか! 何事も油断、慢心が命取りとなる! 肝に銘じておけ!」


「はいっ!」


 一斉に答える声は、条件反射的にこの場にいる見た目若い層だけからあがった。

 恐らく迷宮以外でも実戦経験があるのだろう、拳児より年上と思われる男数人がそれぞれ講堂内で距離を保ち、黙って座っている。

 見た目若い層とは、拳児達以外存在していなかった。


「さて、それでは具体的な講義を開始する。

 内容はギルド利用の原則と迷宮内での規則、ギルドへの依頼受託に関してだ。

 ギルドを利用する冒険者にとっては必須の講義となるので、よく理解するように」


 グレスは石版の横に立ち、そのまま講義を開始する。

 結局講義が終了するまで、その石版は何も用いられる事はなかった。




 なるほどこの講習は確かに冒険者として生活する上で必要なものだった。

 特にギルドへの依頼を冒険者が受託し、金銭を得るシステムに関しては生活に直結する事であり、講習にて説明を行なう必要があるものだろう。


 舞い込む依頼内容は迷子探しから行商人の護衛、街の外での盗賊・モンスター退治まで幅広く揃っている。

 ギルドへの依頼に関しては受託者への報酬は基よりギルドへの仲介料も当然かかる為、依頼者は金持ちや商人、モンスターに困った農村全体だったりと様々だ。

 また相手がモンスターである事が必然的に多くなる為、依頼の受託は10階層到達から可能となる。10階層到達が、冒険者に対する一定の評価基準となっているのである。また依頼をこなす事でギルド内部での個人に対する評価に変動があり、ギルドへの貢献者に対しては優遇処置などが採られる事もある。

 ギルドではこの依頼を『クエスト(探求)』と呼び、冒険者へ発注していた。


 次に冒険者の規則に含まれている、冒険者の『ギルド税』が大切だ。

 冒険者とは総じてギルドへ登録し、所属している者を言い、冒険者はギルドへ所属している事で面倒な手続きなどを行なわずに、国への居住許可を得ている者達である。

 他にもギルドは一般市民の居住登録など様々な行政手続きの代行も行なっているが、一般に関してはギルドから国の行政院へ情報が送られ登録となるが、冒険者はギルドが一括管理となっており、行政院を通さず、国民として即日登録が可能なのである。

 この一括管理を行なう為の費用を含め、冒険者に対するギルド登録の恩恵を与えるための費用を、ギルドは様々な形で冒険者から徴収している。その中の一つが『ギルド税』であり、中には住民税や所得税、クエスト受託保障費などの名目で20種類の税がかけられている。


 この税は攻略した階層により差別化され、10階層到達後から税金の徴収が開始されるようになっている。10階層到達者であり、20階層未到達である拳児に関しては、30日で銀貨15枚。あとは段階的に増えていく仕組みである。

 この税率に関しては一般国民より割高となっているが、その分様々な恩恵に与かれるので問題視はされておらず、また冒険者は階層の深度を上げれば上げるほど金を稼げる事になるので、問題になるような額ではないのである。


「へぇ、やっぱり儲かるんだぁ冒険者って」


「そうでしょうね。じゃないと一攫千金を求めて田舎から出てきたりとかしないでしょ」


 講習会が終わった後、開かれたままとなっている講堂に居座ったまま喋る拳児に、マリエルが相槌を打つ。

 なるほどその通りだと思いながら周囲を見ると、自分達のグループ以外の講習会参加者は既に講堂から移動した後のようである。

 恐らく講義を受けたそのまま、クエストを受けたり迷宮を進行したりするのだろう、完全装備の人間が講堂のほとんどを占めていた。マトモな装備をしていなかったのは拳児達ぐらいのものである。


 と、講堂の出入り口を確認すると、あのでかい石版を台車で運び終わったグレスが入ってくる。ばかでかい石版を片腕で持ち上げ台車へ載せたのには驚いた。そしてニアがグレスの昔の話を吟遊詩人やグレスを知っているという大人から聞いて憧れていた事に重ねて驚いた。


「ん、待たせたか」


「いえ、僕に関してはこの後迷宮に入る予定もないので大丈夫です。

 あ、こちらニアとマリエル、昨日一緒に10階層を突破した仲間で、今日からパーティを組もうと思ってます」


 拳児の紹介にグレスは「ほう」と声を吐き二人を見る。

 マリエルはその視線を優雅に受け止め、ニアは……プルプルしていた。


「エライ村のマリエル・ベル・エライと申します。

 騎士として、冒険者としてご高名な『豪腕のグレス』様にお会いできて光栄です」


 マリエルの言葉に拳児はギョッとする。なんだ、何を言っているんだこの目の前の小さな金髪カールは。騎士? ご高名? 一体なんの話なんだ、と若干挙動不審。拳児はレテスから言われていた「グレスは巷じゃ有名人」という言葉をすっかり忘れているのである。

 だがそれも致し方ないこと、この世界に来て三日程度の人間に全ての情報を把握し最適な行動を取れと言う方が無茶なのである。


 グレスはマリエルの言葉におや、と感じるものがあったようで、マリエルへ返礼してから問いかける。


「エライ、という事は、村長の?」


「はい、三女でございます。

 母より魔法の素養を見出され、この度冒険者として一人立ちをしようとこの街へ。

 村には兄姉がおります故、こうして自由に冒険者として旅立てた次第でございます」


 ここでまたもやマリエルからびっくりな発言。彼女はエライ村の三女という事だった。あれ、そういえばガティも村長の息子だったし、マルタさんはその母親で村長の奥さんだったよな、と思い返す。

 ガティは村の将来を背負ってこの街に、マリエルは魔法使いとして歩む為に、両者ともはっきり言えば、『一旗上げる』為にこの街へ来たという事が理解できた。


「こちらは、私の友人であり、共に冒険者として村から旅立ちましたニアと申します。ほら、ニア」


「えっ、えええっ、エラ、エラライ村かりゃやってま、ままりましゅたニアでしゅっ!!」


 どもりすぎだ、噛み過ぎだ、村の名前がえらい事になってるぞ、あ、俺今上手い事言った。

 そんな感想を抱いた拳児だが、横からマリエルとレテスに睨まれた。どうも「どや顔」をしていたようである。

 ニアは顔を真っ赤にしながら何度もぶんぶんと頭を下げては上げを繰り返し、もう自分でも何がしたいのかわかっていない状態なんだと思う。イッパイイッパイだ。


 と思ったら、唐突に途轍もない覇気をその身体に漲らせた。


「あ、あああ、握手してくだしゃいっ!!」


「あ、あぁ」


 そこは覇気を漲らせる所じゃねぇよっ!?

 と突っ込もうかと思ったが、苦笑いを浮かべながら差し出されたグレスの手を握るニアの幸せそうな顔に、何も言えなくなる。

 ニアには何も言えないので、グレスに言おう。


「妻子がいるんでしょ」


「そういう事ではないだろうが」


 そう言いながらも、ニアとの握手を終わらせ腕を引っ込める。まぁ放した後もニアは幸せそうな顔をしているので問題はなさそうだ。

 拳児がニアへそんな微妙な視線を向けていると、グレスが話しかけてきた。


「そういえば、今朝の体調はどうだった?

 っと、まぁその顔を見ればある程度の予想はつくな」


「もう、ほんと、筋肉痛であんな悲鳴あげたの初めてでした」


「一日で10階層走破などするからだ馬鹿者。

 無茶をすれば代償も大きくなる、良い教訓だと思い頭に叩き込んでおけ」


 苦虫を百匹単位で噛み潰したような顔の拳児に、グレスは笑顔で訓示を述べる。

 くそ、この教官め。と心の中で拳児がそのまんまの事実をまるで悪態のように呟くと、横からマリエルが口を挟む。


「一日で10階層走破って、あなた一日で1階層から10階層まで攻略したの?」


「ん? あぁ、なんか成り行きでね。約束とかやりたい事とかまぁ色々あって」


 レテスの顔は見ない。恥ずかしい話でもあるし、仮にレテスが呆れた顔とか、自分が蔑んだ顔とかしていたら立ち直れなさそうなので、絶対に見なかった。

 しかし今朝は本当に酷かったなと思いながら、あ、と思い出す。そういえば宿屋を借りに行かなければいけないのだった。 




「という訳で、どこかいい宿屋知りませんか?」


 いつまでも講堂で話すのもなんだと思い、拳児達は聖堂の中央広場脇、唯一外と直接繋がっているカフェテラスへとやって着ていた。

 カフェテラス、と言っても拳児の世界にあるようなコーヒーや紅茶、ケーキのおいしいお店ではなく、どちらかと言うとビアホールの印象が強い。

 みんな基本的にエールを呑んでいた。


「んー、宿屋か。私達が借りてる所だったらまだ部屋の余裕あったし大丈夫だと思うわよ」


「ほんと? 助かる。じゃあ帰るとき一緒に着いて行っていいかな」


「ん。『小鳥の羽音亭』っていうお店よ。料理がおいしくて近所じゃ有名らしいわ」


「あ、知ってますそこ。グニエルの煮込みとかエンズールとダイシャの炒め物とか、魚介類が有名ですよね」


 マリエルの挙げた宿の名前にレテスが食いつく。どうやら何度か訪れた事のあるお店だったようだ。そこへニアも何がおいしいなどの会話で参加し、場は一気にガールズトークが発展していった。

 こうなると気まずいのは男性である。なんとも微妙な顔で、拳児とグレスはエールをゴクゴク呑んでいた。

 と、拳児はそのジョッキを持つ自身の腕を見て、対面のグレスの腕を見て、考える。見た目にそれほど違いのある訳でもないのに、片手で石版を持ち上げるという自分では無理そうな行動を行なえたグレスに、その件について聞いてみようと思った。


「グレスさん、あの講義が終わった後に片手で石版を持ち上げたのってどうやったんですか?」


「ん? あぁ、あれは特に特別な事をした訳ではなく、生体エネルギーの活性化による身体能力強化だ。それと魔力も同時に活性化させてある。

 生体エネルギーと魔力は誰でも保有している物で、冒険者になれば自然に扱いを覚えるものでもある。

 まぁ教授されるほうが覚えは良いし、より発展的な利用が可能となり、冒険者として有利にはなるがな」


 生体エネルギー、というのは冒険者に登録した際、レテスから聞いたものであり、魔力に関してはマリエルが魔法を使って自分を身体能力を向上させてくれた事を思い出す。

 その二つを使えるようになれば、これからの探索もきっと楽になるんだろうなぁと思い、軽く聞いてみた。


「グレスさん、その扱い方って教えてもらうのは無理ですか?」


「かまわんぞ、金は取るがな」


 意外とあっさり返事が返ってきた。

 だがグレスは「ただし」と付け加える。


「俺が教えられるのは生体エネルギーの利用法だけだ。

 魔力の扱いに関しては人並み程度で人に教えられる程の素養はない。

 なので魔力に関しては人を紹介してやろう。実際に魔法の教授を行なっている人間だ」


 ふふん、とどこか自慢げにエールを呑みながら紹介者を告げてくるグレスに、なんだか先が読めたような気がするがとりあえず聞かなければ先へ進まないので聞いてみた。

 結構嫌々、聞いてみた。


「あの、なんだかその口ぶりでもうどういう話になるのか見えてきているんですが一応聞かないといけないと思うので聞きますけど、どんな人ですか?」


「シャルミス・ア・フィレイル・ネリウス、俺の愛する妻だ。

 そうだな、講義一回で銅貨50枚か迷宮での獲得アイテムといった所でどうだ」


 若干自慢が気になるが、その金額なら大歓迎だった。

 後日、聖堂で紹介して貰う手筈となり、拳児の冒険者レベルアップ計画はここからスタートした。

更新が遅れまして申し訳ありません。

実は現在もですが、腕の神経が炎症を起こしている状態であり、タイピングがままならない状態でありました。

現在は程ほどに改善してきた為、保存していたものに加筆を行ない投稿とさせていただきました。

楽しみにしていただいております皆様には申し訳ありませんが、完全に改善するまで更新ペースには期待せぬようお願いいたします。


また沢山のご感想、誤字脱字の指摘をいただきまして誠にありがとうございます。

全て確認を行なわせていただいておりますが、返信がままならず申し訳ありません。

誤字脱字に関しましては時間が出来たら修正を行なわせていただこうと思います。

今後もご意見やご指摘、ご感想を宜しくお願いいたします。

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