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迷宮白書  作者: 深海 蒼
21/39

21話

 パーティーとは、冒険者が一つのチームを組み、効率良く安全に迷宮を攻略する為に必要なものである。

 現在世界にはいくつもの迷宮が点在しており、現在も迷宮の攻略を行なっている冒険者の多くはパーティーを組み、仲間と共に迷宮を探索している事が常である。

 そう説明したマリエルの言葉に、拳児は「なるほどなるほど」とひじょーに薄っぺらく見える同意を繰り返している。

 拳児としては純粋に感心しているだけなのだが、如何せん何と説明されても実感無く「そうなのかー」としか答えにくい部分がまだまだある。

 要するに、状況に対し事前知識がない為に、単純な返答しか言えなくなってしまうのである。


「全く、困ったもんだよな……」


「何を言ってるのかわからないけど、全然困って無さそうよその言い方。

 兎も角、パーティーっていうのはそういうものなんだけど、何で冒険者になろうって人が知らないのよ?」


 そう言われても別の世界の人間ですから、と言ってしまえたら非常にラクなのだろう。

 だがそれを言った後、「コイツ頭大丈夫か?」と思われるのが怖いので、余程の事がない限り、拳児はその事をなるべく言わないようにしようとなんとなく決めた。

 恐らく、自分だったらそう思ってしまうから、怖いので聞かない言わないという逃げの姿勢である。


「まぁ、なんというか、已むに已まれず冒険者になる事になりまして。

 なもんで、そういった知識って全くないんだよね俺。ついでにここらへんの出身じゃないからさ」


「ま、そういうのも珍しくはないわよね。

 で、あなたの出身てどういう所なの? 家名がどんな身分の家にもついてるなんて珍しい所よね」


「はは、俺からすると逆に家名がないのが一般的っていうほうが珍しいんだけどね」


 そんなやり取りをしながら、二人は本を片手に読書スペースへと歩いていた。




迷宮白書




「魔法の勉強、ですか」


「うん。やっぱり知らずにこのまま冒険者やるのは大変そうだからね」


 読書スペースへ二人が戻ると、談笑しているニアとレテスの二人がいた。

 どういう話の経緯が会ったのかは定かではないが、二人は打ち解けてくれたようであった。拳児がスペースへ戻ったのに気付くなり、ニアは先程の「最低発言」を撤回してきたのである。

 曰く「夜を共にして何もしない拳児さんは紳士です」と。

 どうも若干の脚色があったようだが、ほぼ事実をレテスは話したようである。

 当のレテスは、何だか微妙な表情でニアを眺めているのだが。


「そうですね。私も冒険者になった事もあって勉強しようと思っているんです」


「で、今日その為の本を、講習会の前に探しに来たって訳」


 ペラペラと目次から斜め読みをしながら二人の言葉に相槌を打っていた拳児は、ピクリと反応した。

 ニアが勉強の為に、自分と似たような目的で図書館へ来たのは理解できたが、その後にマリエルが言った言葉が問題だ。

 「講習会」って、なんだ?


「あの、マリエル。講習会って」


「あっ」


 拳児が疑問を呈した時、気付いたようにレテスが声を挙げる。


「10階層を攻略した冒険者には、次回迷宮探索の前に講習会への参加義務があるのよ。

 普通は探索する時に受付で言われるんだけど、事前に参加する事も可能なの。

 二時間程度のものだって言うし、じゃあ早めに受けちゃおうかなってね」


「も、申し訳ありません。昨夜の内にお伝えするのを忘れていました」


 マリエルの説明に続けるように、レテスが頭を下げる。彼女は講習会というものが必要な事を理解していたようである。元々ギルド職員である為当然ではあるが。

 それにしても、事前に判ってラッキーだと拳児は考える。

 そんな講習会というものが事前に受けられるのであれば受けておくに越した事は無い。ここは一つ講義を受けて置こうと決めた。


「まぁ、レテスさんは謝らなくていいよ。でさ、その講習会って受付行けば受けられるのか? 俺も事前に受けておこうと思うんだけど」


「あ、そう? じゃあ一緒に行きましょうか。そろそろ受けに行くつもりなんだけど」


「あ、本当? じゃあ行くよ」


 『ちょっと遊んでく?』『いいねー』な調子で話は進み、拳児達はそのままの調子で、図書館から抜け出していった。

 魔法の本格的な勉強は、後回しのようである。




 冒険者、ここで言う「初心冒険者」には、二種類が存在する。

 『冒険者甲』は、出身村の自警団に所属し、過去に狩猟から付近のモンスターの討伐、洞窟などの探索や、盗賊団や犯罪者との戦闘、討伐経験があり、此の程自警団を辞め一旗挙げるため「初心冒険者」となった者である。

 この『冒険者甲』のような「初心冒険者」は、「初心冒険者」とギルド内では位置づけられる。

 『冒険者乙』は、出身村では農業に精を出していた人間であり、討伐などの経験は皆無である。だが一旗挙げる為に「初心冒険者」となった者である。

 この『冒険者乙』のような「初心冒険者」は、「初心者冒険者」とギルド内では位置づけられる。


 この内「初心者冒険者」に当たる新規冒険者が年間に登録される割合は、実は相当少ない。安穏と一生涯生活可能な村から出てくる者が少なく、また村から出てきたとしても、冒険者では無く他の職業を選択する割合がかなり高いのである。

 村から出てきた時点で、大概の者は手に職を持っている場合が高く、そうなればその技術を生かした職に就く。わざわざ危険を冒す事は無いのである。冒険者の一攫千金より、安全にお金を稼げたほうが良いのは当たり前。なので村から出て冒険者になろうと言った者は自然と冒険者向きの職に就いていた者、自警団や傭兵などの経験者という事になる。そういった職に以前就いていた者は「初心冒険者」となり、「初心者」扱いはされない。


 さて、ここで拳児達である。

 拳児は言わずもがな、マリエルは回復魔法の使い手であるが、自警団などの所属経験無し、モンスターの討伐経験も迷宮へ入るまで無し。

 そしてニア。彼女も純粋な狩人であり、女の子である事から村人との共同狩猟以外では狩りをさせてもらえず、その上共同狩猟では兎や鳥など小動物専門に宛がわれていたという。

 レテスに関しては、『サポーター』という立場上言及する必要は無い。

 つまり、みんながみんな「初心者冒険者」だったのである。


 この「初心者冒険者」4人のグループが受付で「講習会受けたいんですけど」と言いに来た時、受付のお姉さんは焦った。何しろ3人が完全に「初心者」であり、もう一人は「奴隷」である。

 ギルド的に「初心者冒険者」はなるべく初期は手厚く扱うようにしている。「初心者冒険者」の生存率はやはり経験者より低いのであるが、その低い生存率をクリアした者の多くは大概ギルドに恩義を感じ、好意的である。つまり「良い金蔓」になるのである。

 そんな高待遇候補者が三名一度にやってきた。これは気合を入れて講義をして貰わなければ困る。じゃあ誰がいいんだ?


 受付のお姉さん達は上司を巻き込み話し合い、暫して結論に至る。




「どうも貴様とは、強い縁がありそうだな」




 ご近所の英雄、グレス・ネリウスの講義第一声はそれであった。

あけましておめでとうございます。

12月は師走でございましたので色々と忙しかったので更新遅れまして申し訳ございません。

また今もまだちょこちょこ忙しい時期ではございますが、短いながらもなんとか生存証明の如く更新していこうと思う所存でございます。

本年も皆様にご愛顧頂けるよう精進して参りますので、何卒宜しくお願いいたします。


PS:三日目参加者の方々、お疲れ様でした&ありがとうございました。

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