転生カエルの災難 番外編~クリスマスの奇跡~
転生カエルの番外編。クリスマスのお話。
ネタバレ含みますので、転生カエルの災難を読んでいないとネタバレ喰らうかもー
目を覚まして、あれ? と思った。
確か、僕達は記憶を消したはず。僕とビーさんはそれぞれ、ヘビとカエルとしての生を。
鈴ちゃんは人間としての生を全うしているはず。
更に言えば、僕とビーさんは人間に転生し直しているはず。
「クリスマスだから、特別だよ!」
唐突に、頭の中で声が聞こえた。
聞き覚えがあるその声は、勘違いで無ければ、僕達の記憶を消してくれた神様の声。
『クリスマス……?』
久しぶりに見る、鈴ちゃんの部屋。カレンダーを確認する。日付は、十二月二十五日。
「ホント、気紛れな神様」
久しぶりに聞く声の方に顔を向ける。そこには鈴ちゃんが呆れたような、少し嬉しいような、そんな複雑な表情で微笑んでいた。
「エル君、久しぶり」
そして、僕の水槽に近付いて、手を差し伸べる。
『鈴ちゃん……? オオカミの記憶の方の鈴ちゃん?』
現状を把握出来なくて、思わず問い掛けると、鈴ちゃんはクスクスと笑った。
「どっちだろうね」
少し意地悪な微笑み。
それは僕の知る鈴ちゃんで間違いなかった。
『クリスマスなんて滅びてしまえー』
隣の水槽から、ビーさんのやる気のない声が響き渡る。
ずいぶん久しぶりだと言うのに、全く相変わらずと言うか、なんと言うか……。
「神様だか妖怪だか未だにわからないけど、面白いことしてくれたね」
『唐突にカエルに戻されてもなぁ……僕、あの後の記憶全然無いし』
そう、僕の記憶は消されてしまっている。神様は確か記憶はリセットされて人間として転生している。みたいな事言っていたけれど……
『同じくー』
ビーさんものそのそと水槽から顔を出して僕の言葉に同意する。
「何故か私は人間としての鈴の記憶も持っているんだよね」
鈴ちゃんは相変わらず可笑しそうに笑っている。
一体何がそんなにおかしいのか……。単純に機嫌が良いだけなのだろうか。
『なんだかオオカミ娘ちゃん雰囲気変わったねー』
ビーさんが口に出した。
確かにそう思う。元々、記憶の話題になると無邪気な子供らしい一面はあったが、
ここまで子供らしい笑顔を見せることは、当時はあまり無かったような気がする。
ずいぶん昔の事に感じて、記憶は曖昧だけど。
「あはは、エル君とビーちゃんの人間として転生した姿の人達と出会っちゃったからかな」
鈴ちゃんの言葉に、少し驚く。
『僕達の人間としての姿……?』
「うん、二人とも相変わらずだよ。あ、でもエル君はちょっと意地悪かな?」
『うーん、想像つかないと言うか、記憶がないと言うか……』
鈴ちゃんの言葉に返すと、鈴ちゃんは続けた。
「最後に二人の名前聞いたでしょ? 同級生に同じ名前の子がいてね、今の私の大親友だよ」
そう言って、鈴ちゃんは一枚の写真を僕達に見せてきた。
少し意地悪そうに鈴ちゃんの頭に手をのせて笑ういかにもやんちゃそうな少年と
眠たそうな瞳の長い髪の女の子。
ーーこれが、僕達?
「そうだよー! 前世、君たちの場合は、ちょっと複雑な前世の関係になっちゃったけど神様サービスしてあげたんだよっ!」
一体お前は何処から喋ってるんだ。
頭に直接響く、神様の声に軽く突っ込みを入れつつ、
多分この人がサービスした訳でもなんでもなく、何事も無ければ僕達はこういう形で出会っていたのだろうな……とか
意味もなく感じているので、お礼は言わないでおく。
『おー、あたし、結構な美少女だー』
ビーさんにも神様の声は聞こえているのだろうが、無視するように写真をまじまじと眺めている。
「名前が同じだから、記憶戻ってビックリしちゃったよ」
鈴ちゃんは相変わらずニコニコと微笑んでいる。
『じゃあ、いじめとかも無くなったんだ』
僕の言葉に、鈴ちゃんが頷く。
「それもこれも蓮君と莉奈ちゃんのお陰だよ。蓮君なんか私を虐める子から私守ってくれたんだよ?」
『それは僕じゃない僕だから、僕にお礼言われてもちょっと困るかな……』
なんだか僕じゃない僕だとしても、それは妙に照れ臭い事だった。
現世の人間としての僕は鈴ちゃんに気があるのだろうか……。
『あー、ずーるいー! 来世でエルちゃん口説くのはあたしだって言ったのにー』
ビーさん、それも恥ずかしいから言わないで欲しい。
「でも、現世のエル君……蓮君って言った方が良いのかな。素直じゃないよー」
悪のりしたように、ビーさんの言葉に、鈴ちゃんが返す。
どうやら、現世の僕も中々に女性関係には苦労しているみたいだ。
それにしても……
『よくビーさん、僕の事食べなかったね』
ふとした疑問を問い掛ける。
『エルちゃん美味しくなさそうだからー』
ビーさんだってあの後の記憶ないくせに、よく言うよ。心の中でビーさんに悪態をついておく。
「それも不思議なんだよね、ヘビとカエルの姿の二人とも、凄く仲良いんだよ?」
鈴ちゃんは、そう言って、記憶のない時の僕達の姿を撮った動画を見せてくる。
ビーさんの水槽で自由に動き回る僕。
ビーさんはやる気無さそうに、僕の存在を静かに眺めている。と言う動画だった。
それを見て、心から安心した僕がいた。
本当の本当に、最後までハッピーエンドで終わっていたみたいだ。
『カエルの僕は怖いものなしだね……』
思わず、その動画を見て僕も笑っていた。
『ヘビのあたしもグルメなんだよー』
ビーさんはえっへんとふんぞり返っていた。
なんだかよく分からないけど、僕達の友情は、人間としても、カエルと蛇、そして一人の女の子としても続いていることが嬉しくて
僕は少し泣きそうだった。いや、まぁ涙腺はないけどね。
クリスマスの奇跡なんかより、僕はこの奇跡をありがたく感じていた。
もちろん、記憶を消してから再びこういう形で鈴ちゃんやビーさんと話せる事も嬉しいけれど。
『むー欲を言えば、あたしは人間の姿でエルちゃん達と話したかったよー!』
『絶対僕の事誘惑する気満々でしょ、ビーさん』
プンプンと怒ったようにうねうねするビーさんに、呆れて言葉を返す。
……まぁ少年の僕からしたら、きっとそれは嬉しい事なのだろうけど
そう言うドロドロな友情にはしたくない。
「あたしもエル君、じゃなくて蓮君誘惑してみようかな?」
『やーめーろー! あたしも中々の美少女だけどオオカミ娘ちゃん人間バージョン、プラスその性格に勝てる気がしなーい!』
本当に、ずいぶんと冗談の言える女の子になったものだと、感心する。
冗談じゃなかったらちょっと現世の僕羨ましい。
いや、羨ましいのか? なんか複雑だけど……。
他愛の無い話。当たり前の日常。
当たり前になっていた大切さに改めて気付かされた僕だった。
ーークリスマスの小さな奇跡。