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第四十六話 抱擁

 


 ――――――――――――





 吉ノ国の山中にある忘れ去れた秘密の牢獄、真夏の蒸し暑い湿気が、鍾乳洞の雫を滴らせる現在に、飛若は戻ってきた。



「ひっぐ……えぐっ……!」


 か弱い少女のように泣きながら、嗚咽を漏らす木葉尼の声が、牢獄中に聞こえ、飛若の耳にも過ぎる。



 先ほど百千比丘尼から受けた苦痛がまだ体に残る飛若は、虚ろな表情を浮かべながら、周囲を見渡し、すぐ目の前で鎖に繋がれてる木葉尼を見て、彼女の過去の世界から戻った事を確信する。



「……木葉尼……お前……」


「見ないで……そんな目で私を見ないで……!」


 決して人に見られたくない過去を飛若に見られた木葉尼は、まるで裸を見られたか女のように目を逸らす。



い。なんとも愛いぞ! 木葉尼よ!」


 比丘尼は喜んでいた。


「はぁ~、あのまだ幼く、墜ちた福族の姫がここまで育ち、弱みを晒された事により、か弱いところを見せるのはなんとも可愛らしい事か……!」


 妖艶の風貌を持つ比丘尼は、恍惚とした表情で頬を赤く染める。




「飛若殿よ。そなたの見る通り、私はケダモノだ」



 木葉尼は声を震わしながら呟いた。



「これまで、人とは思えぬ大罪を犯してきて、平気で人の肉を喰らい、こんなにも醜く育った胸を抱えた私は、もはや人間ではない」


 人道から大いに外れた過ちを持つ木葉尼は、劣等感の余りに自分を罵る。



「それであの時……泣いていたのか……」


 飛若は過去を振り返る。





 ――お前のその胸は何なんだよ!? 俺に色仕掛けでもしようとしてんのかよ!?


 ――俺にその胸を見せつけるんじゃねえ! 近づけるんじゃねえ! 俺に寄せつけるんじゃねえ!




 あの時、自分の羞恥心のあまりに、彼女にぶつけた言葉が、木葉尼という女性を一体どれだけ傷つけ、泣かせた事か、彼は納得した。



 あの過去の出来事から、百五十年は経った彼女は今でも思ってる。自分の胸には喰われた者の怨念が宿っていると。



「私は人ならざる野獣だ……」



 木葉尼は力のない声でそう呟いた。



「童よ。その方に感謝いたす。こんなにも愛い木葉尼を見せてくれたのだからのう」


 比丘尼は頬を染めながら飛若に礼を言う。


「最後に人の為に役立ってくれるなら、その方も人として本望であろう? 妾の為に役立たせていただき、真にかたじけない」


「この……変態……め……!」


 苦痛で弱っている飛若は、吐き捨てるように比丘尼に呟いた。


「ウフッ、あとはもう用無しじゃ。安心して、封印されるがよい。この世の終わりまで」


 比丘尼は改めて印を結び始めた。



「最後に言い残すことを申せ。せめて、それくらいは聞いておこう」



 今まさに永遠の封印をされようとしてる飛若に、比丘尼はせめてもの慈悲として、最後の機会を与える。


「木葉尼、お前に言いたい事がある……」


 彼は虚ろな表情で口を開いた。



「すまなかった」


 その時、飛若が最後の言葉として伝えたのは、謝罪の言葉であった。


「あれ以来、ずっと謝るべきだと思っていたが、お前にそんな過去の境遇に百五十年も囚われていたなんて知りもせず、あんな暴言を言ってしまって、本当にすまない……」


 彼は木葉尼を傷つけ、泣かせてしまった事による過ちを反省していた。


「だが、あえて、それとは別に言わせてくれ……何をそんなに落ち込む必要がある……?」


「え?」


 その時、木葉尼は泣き面を上げながら飛若に目を向けた。


「お前が人ならざる野獣だって……? ケダモノだって……? どの口が言えるんだよ……? 自分の姿をよく見てみろ……」


 彼は目の前にいる福族の姫を見ながら、自分の伝えたい事を伝える。


「変な獣の耳や尻尾は付いてるが、二足で立ってるだろ……? 手は使えるだろ……? 言葉を話せるだろ……? 俺の目にはそれしか映らねえ……なのに、何でそんなに自分を人じゃないみたいに言うんだ……?」


 その言葉を聞いた彼女は、否定するように答えた。


「私は化け物だ! 人として、やってはいけぬ所業をした物の怪だ! 人間ではない!」


「化け物だの人としてだの、そんな簡単に人を人間じゃないと決めつけんじゃねえよ!」


 その時、飛若は強い口調で言い放った。


「化け物だって? 物の怪だって? 所詮、お前なんか、どっからどう見たって、ただの化け物になりきれてない人間じゃねえか?」


「いや、私は同じ人間ではない! この胸には、その喰い殺した者の怨念が宿っておる! この醜い胸がその証なのだ!」


「その程度かよ!」


 飛若は先ほど受けた苦痛を忘れたかのように、怒鳴るように言った。


「喰い殺した奴の怨念が宿ってるだと? 俺から言わせたらそんな馬鹿デカイ胸、ただお前の親から女として授かった、人間の体の一部でしかねえよ!」


「え……?」


 その時、木葉尼は突如、母の顔が目に浮かんだ。




 ――ミカヤ。たくさん子を産んでおくれ……。




 あれから百五十年、彼女は大嫌いだった亡き母の顔を忘れかけていた。だが、なぜか今になって、その笑顔が頭に過ぎる。



「良く聞けミカヤ(、、、)! どんなに人とは思えぬ所業を犯した人殺しだろうが、どんなに狂った人喰いだろうが、結局お前は所詮、ただの人間でしかないんだよ! お前はどうあったって化け物には、絶対なれやしない! なぜなら、福族とはいえ、もう既に人間として生まれたんだからな!」


 その時、飛若は彼女のかつての本名を呼びながら伝えた。


「私は……所詮ただの人間……? どうあっても化け物には絶対なれぬ人間……?」


「ああ、そうだ! だから、そんな人としてと思い悩むよりも、人らしく胸を張れよ! ミカヤ!!」


 木葉尼はそんな彼の言葉に、これまで胸に抱えていた劣等感が、塵のように消えていく気持ちを覚えた。



「それが最後に言い残す言葉か?」



 そこへ、比丘尼が口を出すと、彼は顔を縦に振って頷く。



「さらばだ」


 比丘尼はそう言うと呪文を唱え始め、やがて、飛若の背にある五芒星の陣が光り出す。


「比丘尼様」


 その封印の術を行おうとした比丘尼に、木葉尼が声をかけた。


「なんぞ?」


 印を結んでいた比丘尼はその状態で後ろを見ると、彼女は答える。


「その者は、どうしても始末せねばならぬ者なのですか?」


「如何にも」


 比丘尼は感情の籠らない声で即答する


「この者は、この世の災いそのもの。そしてそれは近いうちに、この吉ノ国に降りかかるきっかけとなる。だからこそ、災いは始末せねばならぬ」


「左様ですか。では、無理に見逃せとは、申しませぬ」


 両手を吊された木葉尼は、諦めたかのように呟くが、それとは別に先ほど手に取ることができた石を忍ばせていた。


「なぜなら、この状況下でその者を救えるのは、これ以外にありませぬから!」


 その時、彼女は手の中の隠し持っていた火打ち石を、頭上に構えた。


「ほほう、それは伝説の秘石、夫婦石か。これまた珍しい物を」


 比丘尼は物珍しそうに見る中、木葉尼はその手に持ってる火打ち石をカチッ!カチッ!と音を鳴らし始めた。


「伝説の秘石だと……?」


 飛若は、初めて聞くその石に目を向ける。



「それは選ばれし者にしか、火は点かぬ代物であろう。果たしてその方に扱えるものか?」


「かつて、戦士よりも弱かった母様が唯一その力を目覚めさせました! ならば、私にだって、きっと使えまする!」


 その時、打ち鳴らし続ける火打ち石から、小さな火花が出始めた。


「な、何!? 火花が出た!? 夫婦石がこの者を選び始めたというのか……!」


 すると、それまで堂々としていた比丘尼はまるで別人のように驚愕する。


「よ、よせ! それを使えば、どうなるか分かっておるであろう? その方の美しい身が……!」


「かまいませぬ!」


 木葉尼は頭上で打ち続ける手を止めずに、火打ち石に声をかけた。


「夫婦石よ! 今一度でよい! どうか私に太古の炎を目覚めさせい!」


 カチッ! ブォオオオオオオオオオオオオ!!



 その瞬間、火花が飛び散る火打ち石から、緑色の炎が燃え盛り、やがて、それは彼女の背中へと燃え移り、炎と一体となる。



「ギャオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」


 木葉尼は獣のような咆哮を発すると、その燃える背中から豪炎が勢いよく噴き出し、後ろにある木製の檻と頭上の梁を燃やし崩した。


 やがて、それは拘束から解き放たれ、両手に繋がったままの鎖に緑色の炎を纏わせて武器にさせ、燃える盛る炎を背にした彼女のその姿は、まるで妖怪のような禍々しさ帯びていた。



「これが伝説に聞く、福族の女神が、我が身に籠もる産子を敵から守り通したとされる狸火の奥義、『咲耶狸(サクヤダヌキ)』の背負い炎か……!」



 比丘尼は禍々しい形態をした彼女の姿をそう呼びながら動揺する。



「えぇい!!」


 次の瞬間、木葉尼は炎を纏わせた鎖を鞭のように横振りすると、


「ぎゃあっ!」


 比丘尼のその美しい顔に直撃して焼きつけた。


「主様!」


 そこへ、側近の福族の女戦士がやってきて比丘尼の体を支えると、その顔半分が焼けただれ、眼球が飛び出し、醜い顔へと変貌する。


「おのれ! よくも主様を!!」


「よせ! 心配あらぬ」


「されど、その体は……」


「このような火傷、妾の術ならまだ治せる……!」


 美貌を失った比丘尼は痛々しそうに醜い顔半分を押さえる。



「飛若殿!」


 すると、木葉尼はその隙に比丘尼と女戦士の横を通り抜けると、鎖に繋がれてる飛若の下に駆け寄り、その手枷に繋がれている梁を狸火の炎で燃やし崩して拘束を解く。


「木葉尼、お前……!」


 目の前にいる禍々しい姿をした木葉尼に、飛若は狼狽える。


「グルルルル……! ギャオオオオオオオオオ!」 


 またも獣の声を上げたミカヤは、背中から緑色の豪炎を噴き出し、比丘尼と女戦士もろとも炎に巻き込もうとする。



「カガリよ。一度、退こうぞ」


「よいのですか? あの者はいずれ……!」


「よい。一か八か、少しでも定めを変えられるものか賭けに出てみただけじゃ。だが、どうあっても定めは変えられるのであれば、それもまたいたしかたぬ。再起を図るまでじゃ」


 比丘尼は観念するように呟くと、印を結び始めた途端、地面から虹色の光が現れた。


「此度はその方を見逃そう。だが、その方は近いうちに、重大な過ちを犯し、いずれ後悔することになろうぞ」


 虹色の光に包み込まれた彼らは、徐々にその姿が光に消えていく。


「待て! 去る前に聞かせろ! お前はこの呪いについて何を知ってる!?」


「その方が求める答えの一つはいずれ、この国で知ることになる」


 比丘尼はそれだけを言い残すと、彼ら二人は消え去ってしまった。


「クソ! 逃げられた!」


 唯一、何か手がかりを掴める人物を逃してしまい、彼は悔しい表情を浮かべる。


 ところが、今はそんな場合ではなかった。


「ぐっ……! と、飛若殿……すまぬ……!」


 狸火の奥義を使った木葉尼は遂に力尽き、背中を燃やしたまま、うつ伏せに倒れてしまう。


「おい! しっかりしろ!」


 火傷の痛みにより、気を失った木葉尼に声をかける飛若は、背中の火を払って消そうとするが、中々消えない。


 更に狸火の豪炎により、燃え移った牢獄が火事と化し、炎の勢いが増していく。


「まずい!」


 彼はこのままだと二人とも焼け死ぬと確信し、すぐさま木葉尼を背負って走り始める。


「どこだ!? どこが出口だ!?」


 燃え盛る牢獄の中で、必死に出口を探す飛若はふと、勢いよく水が流れ落ちる滝壺の出口を見つけた。


「あそこか!」


 彼はその滝壺の突っ込み、水の壁を通り抜けると、その先は足場が無く、二人は川へ落ちてしまう。


 水の中で泳ぐ川魚が、彼らの体に驚いて逃げ惑う。


「プハァ!」


 やがて、水面から顔を出した飛若は、改めて周囲を見ると、背中の炎が水に消えて、川に流れていく木葉尼を確認し、彼女の下へ泳ぐ。


「大丈夫か!?」


 飛若は彼女に声をかけるが、返事はなかった。


「もうちょい頑張れ!」


 その後、彼はぐったりとする木葉尼を抱えながら岸まで泳ぎ、草むらへと引き上げたのであった。








 ――――――――――





 月夜が現れる空、綺麗な川の音が流れる森の中、蛍が群れて天の川のように飛び舞う鮮やかな光景の中、木葉尼は川の側で横になっていた。


「ん……ん……」


 彼女はゆっくりと起き上がると、上半身が丁寧に包帯で巻かれ、その横には愛用の大薙刀と剣が置かれてあるのに気がついた。


「目、覚めたか」


 その横には、いつの間にか上古刀と小刀を拵えていた飛若が座っていた。


「あんま動くなよ。火傷に響くぞ」


 彼はあの燃え盛る牢獄から、彼女をこの川の側にある草むらに連れて来ただけでなく、火傷の手当てまでし、取り上げられた武具まで回収してくれたのであった。



「あの後、火がようやく消えたあそこから、別の地下へと続く道を見つけてな。そこに俺たちの武具と古い服を見つけたんだ」


「では、この包帯はその服で作った物……?」


「そういうこと」


「私をここまで運んだだけでなく、我が愛刀と剣を回収し、手当てまでして頂くとは、真にかたじけない」


 木葉尼は一人で働いてくれた飛若に礼を言う。


「お前、この石……」


 すると、彼は手当てをするときに外しておいた夫婦石の首飾りを、彼女に差し出して問いかける。


「先ほど、見た通りである。これを使えば、この通り代償を受ける諸刃の剣であるからのう」


 木葉尼はそう言うと、その差し出された石を受け取り、自身の首にかける。


「確か、夫婦石とか言ってたな? まるで、俺の呪いと同じような力だな。身を削るという部分では」


 自身に苦痛を伴う貪欲。自身の背中を焼きつける夫婦石の奥義、咲耶狸。いずれも、大きな代償を伴う能力を持つ彼らは、その場で思い悩んでしまう。


「しばらく、安静にしてろ」


 飛若はそう言うと、彼女に背を向け、流れる川の方へと見始めるが、その時、木葉尼はある疑念を抱く。


「ところで、先ほどから気になっておったのだが、この包帯……」


 その時、飛若はギクッと、一瞬だけ体を震わした。


「そ、そんなことより、腹減ってないか……? なんか取りに行ってやるぞ……!」


「話を逸らさないで頂きたい。これは当然そなたが巻いたのであろう?」


 その場から、逃げるように去ろうとした飛若を逃がすまいと、その肩に手を掴んで止めた木葉尼は、迫るように問い詰める。


 長寿の種族とはいえ、まだ年頃の彼女は上半身、裸の状態で包帯を巻かれているという処置に、どうしても行き着く疑念を抱えてしまい、追い込まれた飛若は顔中にダラダラと汗を掻きながら青ざめ、なんとか誤魔化そうとする。



「あ~~俺、ちょっと腹が減ったから、魚でも獲りに……」


「トボけず、逃げないで頂きたい。まさか、そなた……私の体を……」


「俺が好き好んで、胸をまさぐると思うか!?」



 その時、飛若は赤面しながら、取り乱し始めた。



「まさぐるとは……やはり、そなた私の胸を……!」


「包帯巻くのにえらい苦労したんだぞ! 何度も何度も胸が邪魔して思うように巻けなかったんだ! 少しは感謝しろ!」



 泣きながら答える飛若に、彼女は自らの胸を隠すように手を組んで顔を赤くし、ジト目で睨む。



「という事は、さんざん私の胸を触ったのだな……」


「いちいち、胸を持ったり寄せたりせずに、どうやって包帯が巻けるんだよ!」


「変態……」


「うるせえ! 第一、そんな馬鹿デカイ胸してるお前が悪いだろ!!」


 飛若のその何気ない言葉に彼女は小さく呟いた。



「また私の胸を冒涜した……」


「うっ……」


 すると、彼はそれ以上、言えなくなってしまう。


「すまない」


「謝って済むと思っておるのか?」


 ジト目で睨む木葉尼を前に、飛若は押し黙ってしまう。



「乙女の柔肌を無断で見る、私が一番気にしておる胸をまさぐる、それを冒涜する。それで許せると思うか?」


「いや、勿論そうは思ってない」


 そう言うと、彼は木葉尼に近づくと、その顔を差し出した。


「だから、ほら。殴るなり、叩くなり好きにして良いぞ」


 目を瞑りながら、覚悟を決めたような表情を前にした彼女は、改めて飛若に問う。


「良いのか? 好きにして?」


「いいから、さっさとやれ!」


 早くしろと言わんばかりに答える飛若に、彼女は手を構えながら微笑む。


「分かった。では、いくぞ!」


「ああ!」


 彼は瞼を更にギュッと瞑って覚悟を決め、彼女の拳か平手を受け入れようとした。



「んむ!?」


 ところが、彼の顔に当たったのは、拳でも平手でも、ましてや蹴りでもなく、ムニュとした柔らかい感触を持つ大きな胸であった。


「な、何をする!?」


「好きにしろと言ったから、こうしたまでだ」


 木葉尼は微笑みながら飛若を抱きしめ、その胸を押しつけたのであった。女の谷間から香る甘い匂いと、温もりのある柔らかみが顔全体と頭を包み込み、トクントクンと微かな脈打ちが聞こえ、彼は顔を真っ赤にする。


「や、やめろ! 離せ! その胸を押しつけるな!」


「嫌じゃ。離さぬぞ」


 彼女は決して逃がすまいと、飛若の首の後ろに回して腕をしっかりと固める。


「口は悪いが、こうやって見ると、本当はそなたはとても可愛いのだな」


 羞恥心のあまりに、抵抗しようとする初心な少年を抱擁する彼女は、段々と愛着心が芽生えていく。


「た、頼む! 何でも言うこと聞くから離してくれ!」


「何でもと?」


「ああ、何でもだ!」


 すると、彼女はクスッと笑うと、片手でその頭を優しく撫でながら、自らの望むことを条件を言った。


「では、今後、私のことを、ミカヤと呼んではくれぬか?」


「わ、分かったミカヤ! 今度からそう呼ぶ! だから、早くその胸をどけろ!」


 ところが、彼女はそれだけでは気が済まず、更に欲を出した。


「それともう一つ、私の気が済むまで、しばらくこうさせておくれ」


「そんなのあるか! いいから離せ!」


 何とか、この場から逃がれようとする飛若だが、彼女はそんな顔を真っ赤にして暴れる飛若を見下ろしながら微笑み、呼び捨てで問いかける。



「飛若よ。私の胸は嫌いか?」


「ああ、嫌いだ! お前の胸なんか、だーーーっい嫌いだ!! だから離せ!!」


「そうかそうか! 素直ではないのだな!」


 彼女はそんな飛若を見ると、逃がさないように、更にぎゅっと強く抱きしめた。


 凜々しい美貌に反して生意気な者だが、どこか愛らしく、どこか弄りたく、そしてとても居心地が良く、まるで弟が出来たかのような感じに、可愛がるのを止められない。


(も、もう駄目っ……!)


 その途端、飛若はついに限界が来て、抱きしめられたまま、大量の鼻血を噴き出してしまった。


 谷間に血が染みついて更に色気が増した巨乳をすぐ間近で見た飛若は、まるで追い打ちをかけられたかのように鼻血の勢いが増し、その様子を見た彼女はつい手を離してしまい、心配そうに彼に伺う。



「だ、大丈夫か……?」


「誰のせいで、こうなったと思ってる!!」


 ボタボタと血が落ちる鼻を押さえてる飛若は、しばらくの間、血は止まらず、彼女の火傷よりも彼の鼻血の方を看病されたのであった。



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