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第三十五話 拉致

 

 ――――――――――






 黎教の聖地、清泉に立つ学び舎、正堂院。


 そこは裕福な門下生達が賑わい、彼らは昼間の長休みの時間を利用して書を読んだり、算盤を弄くったり、庭で遊びに行ったりして時間を潰していた。


 そんな子供達が正堂院の庭で遊ぶ中、木の下で腰掛けていた飛若は教書を手に持ちながら、ただ一人で読んでいた。


 正直言って彼は勉強を楽しんでいた。ここ最近、千代がずっと側で教えてくれたおかげで、やっと読み書きが出来るようになり、彼女から渡された書物も大分、その内容が理解できるようになってきた。


 だが、この日の飛若は何故か勉強を楽しむ事が出来ず、千代から貸して貰った教書を閉じてしまった。



「なんだよこれ……」



 飛若は虚ろな表情で先日見た木葉尼の泣き顔が頭から離れられなかった。



「たかが胸の事を強く言っただけで、なんで俺はこんな思いしなきゃならねえんだ?」


 いくら腕の立つ僧兵とはいえ、一人の女性を泣かせてしまった罪悪感が自らの胸を苦しめていた。



「俺、そんなに気に障る事を言ったか……?」


 ただの体の一部でしかなく、減るものでもない胸を罵倒した事で彼女を泣かせてしまった事を彼は根に持ってしまう。



「いけねえいけねえ! あいつの事なんか気にするな!」


 頭を掻きむしりながら彼は勉強に勤しむが、これがまた中々集中できない。


「あ~~もう~~~~! 大体、あいつが悪いんだぞ! いつもあんなデカい胸を押し付けて来るんだからよ!」



 ――私の胸に宿るこの呪われた怨念の塊を見て、そなたも私を穢らわしい化け物として見るのか……?


 あの時、死人のように虚ろな目で言った彼女のあの言葉が飛若の耳に過ぎり、その言葉の意味がまるで彼の自らの刺青を表してるかのように感じた。



 怨念の塊である呪いの刺青。


 いつか化け物になってしまうのかもしれぬ呪い。



 彼は自らの呪いを思い描くかのように言った木葉尼の言葉が頭から離れられなかった。


 彼女の胸にも何かあるのだろう。



「今度、ちゃんと謝ろう……」



 木の下で枝の葉を眺める飛若はそう呟いていると、



「どうされた飛若殿? 浮かない顔をして?」


 そこへ、いつの間にか横からヒョコッと現れた千代が首を傾げながら彼を見つめた。


「なんでもねえよ」


「そう申されると気になるの~」


 飛若は相手にしないように振る舞うが、千代はわさわさと興味津々な表情で顔を近づける。


(こいつ、作兵衛みたいな事を言いやがって……)


 正直、ウザったくなった。


 だが、彼はこのまま黙っているのも面倒くさくなり、とりあえず秘密なところだけは省略して事実を話した。



「ちょっとある奴と喧嘩してな」


「ほうほう」


「それでつい感情的になったら、相手を落ち込ませてしまって、ちょっと言い過ぎたかな? と思ってな」


「ふむふむ、なるほど」


 子供ながらに頷く千代。



「妾は女子だから、男子同士の喧嘩はよく知らぬが仲直りしたほうがよいぞ?」


 千代はニコッと笑顔で言うと、飛若は答える。



「相手は女だが?」


「えっ?」


 その時、千代はあまりの衝撃だったのか一瞬、その場で石みたいに固まってしまう。



「にゃ、にゃにゃ、にゃに!? お、おにゃ子だと!?」


 千代は途端に動揺し、物凄い勢いで彼の顔面に迫る。



「どうしたいきなり……!」


 びっくりした飛若は千代のその形相に圧倒される。



「も、もしかして、その者は飛若殿と常に一緒におる者か?」


「ま、まあな……!」


 その途端、千代はその場にガクリと崩れる。



「そ、その者は、美しいか……!」


「まあ、美人なのは確かだが?」


「ヒグッ……!」


 その時、千代の顔は引きつり、目が潤るんで涙を浮かばせる。


 今にも泣きそうであった。



「お、おい……!」


 震える少女に慌てる飛若。



「えぐっ……うぇ……ん……そ、その者と……そなたとの関係は……こ、恋人……同士か……!」


 やがて、もう我慢できないと言わんばかりに泣きじゃくる千代に飛若は答えた。


「いや、全然」


 その途端、千代はまたも静止すると、目をゴシゴシと拭いた。



「はぁ~~~~~! 良かったぁ!」


 千代は若干、目に涙を浮かばせながら笑顔を向ける。



「飛若殿、もう少し乙女心を学んだほうがよいぞ?」


 そう言うと、少女はふんふふ~ん♪と鼻歌を歌いながら、そのまま何処かへ行ってしまう。



「なんなんだあいつは?」


 飛若はウキウキとしながら踊るように去る千代の背を眺めて首を傾げた。



「女と聞いたら途端に慌てやがって……」


 先程の千代の形相には飛若も圧倒されたが、少し気になる疑問が浮かんだ。



「乙女心だって……?」


 千代が最後に言ったあの言葉が頭に過ぎる。


「あの様子……もしかして、あいつ……俺に……?」






 ――気が……あるの……かな……?



 すると、飛若の表情は途端にみるみると顔を紅潮し、慌て始める。



「ないない! そんな訳があるか!」


 彼は顔を赤らめながら、目を覚まそうと何度も顔を横に振った。

















 ーーーーーーーーーーーーーーー






 清泉の町に月夜が現れる中、飛若は路地を歩いていた。


「ようやく人を斬れるな」


 遊郭での事件からあれ以来、飛若はここ何日か誰一人も殺していない。そろそろ呪いが進行してもおかしくはなかった。


 早く人を殺さねば。


 その思いを胸に秘めていた。


 彼はやがて、中禅宗の隠れ家に訪れると、相変わらずいつものように多くの僧兵達が集まっていた。


「まずはあいつに会って謝るか」


 飛若は最初に相棒の木葉尼に会う事を優先にした。今夜、大事な任を無事に終えるために協力できるよう仲を取り戻すために。


 だが、この日はいつもとは違った。


「であえであえ! 曲者じゃ!」


 その時、なにやら騒がしい声が聞こえてきた。


「なんだ?」


 飛若はその声のする部屋まで急いで向かうと、そこには大勢の僧兵達が薙刀を持ち構えていた。



「怪しげな女め!」


「一体何者だ!?」


「何処から忍び込んできた!? 名を名乗れい!!」


 薙刀を向けた僧兵達に囲まれていた者は二人いた。



 一人は白い尼頭巾を被り、数珠を首にかけた比丘尼であり、その容姿はどこか妖艶で美しく、見る者を幻惑へと誘うかのような雰囲気を表す女性であった。



 もう一人は顔に蛮族の刺青を掘り、得体の知れない野獣の毛皮を身に纏い、腰に平形剣を携え、狸の耳と尻尾を生やす女戦士であった。木葉尼と同じ福族の人間であった。




「我が名は百千比丘尼(ももちびくに



 比丘尼が答えると僧兵達が驚愕する。


「百千比丘尼だと!?」


 やがて、僧兵達のその表情は徐々に怒りへと変っていく。



「戯けた事を抜かすなぁ!」


「何処の馬の骨とも分からぬ者が伝説の高僧の名を騙るでない!」


 彼らは威圧感を表しながら薙刀を近づけると、比丘尼は女戦士に命じた。



「カガリよ。少し相手してやれ」


 すると、カガリと呼ばれた福族の女戦士が比丘尼の前に出たその刹那!


 腰の平形剣を抜き放ち、目にも止まらぬ速さで次々と僧兵達を剣の柄で打ち倒していく。



「か、構わぬ! 斬れい!」


「でりゃああああああああ!」


 僧兵達は慌てながら一斉に女戦士に斬りかかるが、誰も敵わずにただ倒されていく。



「あの女、出来る……!」


 奥の襖で隠れながら覗き見する飛若は女戦士の剣の腕に驚愕した。


 通常、時代遅れの短い平形剣と長い薙刀では圧倒的に間合いのある薙刀の方が有利なのは見るまでもない。


 だが、この女戦士はその間合いを無視し、速さに身を任せて相手の懐に飛び込み、複数の敵を倒していく。それも刃で斬るのではなく、柄で殴り倒して。


 それはもはや、素人から見ても剣の達人であるのは間違いなかった。


「おのれ……この得体の知れぬ女め!」


 その時、打ち倒された一人の僧兵が打たれた頭を押さえながら立ち上がると、武器も持っていない比丘尼に目が止まり、薙刀で斬りかかった。


 だが、その刹那!



「ぐわぁ!」


 比丘尼を襲った僧兵は急に現れた見えない球体の壁にぶつかり、その瞬間、衝撃波が放たれて吹き飛ばされてしまう。



「な、結界じゃと!?」


 僧兵達は一瞬だけ驚愕すると、すぐさま鋭い目つきに変わり、比丘尼を睨みつけた。


「その方、道術使いだな!?」


「怪しげな術を使いおって!」


 僧兵達はますます比丘尼と女戦士を怪しく思い、一斉に向かえ討とうとする。



 その刹那!


 ガキィィィィン!


 その時、目にも止まらぬ速さで何かが現れると、女戦士は咄嗟に剣でその剣撃を受けると、そこにいたのは中禅宗最強にして最凶の剣客、刺客四人衆の一人が現れた。


「血ノ雨見セヨウ」


 ゾッとするような不気味な声を放つその剣客に女戦士は立ち向かい、火花と破片が飛び散る程の激しい剣撃が繰り広げられる。


「デキル……」


「お主もな……!」


 女戦士は冷や汗を流した。おそらく、互角の腕であるのを認めたのであろう。


 だが、その剣客の後ろに同じように天蓋を被って顔を隠した虚無僧三人が現れた。


 四人の凄腕の剣客と羽織に『四』と書かれた赤い文字が女戦士の目に止まり、流石の彼女も焦りを感じた。




 その時、



「よせい!!」


 突如、輪西の声がその場に鳴り響く。


「皆の者、武具を下げよ」


 更にその横で中禅宗で一番偉い西常が穏やかに僧兵達に命じると、輪西は威圧するが如くに怒鳴る。


「ええい! 西常様のご命が聞こえぬのか!? 武具を下げい!!」


 すると、僧兵達は言われた通りに薙刀の矛先を下げると、西常が前に立った。




「百千比丘尼様」


 西常は礼儀正しく頭を下げ始めた。


「西常か。久しいな」


 比丘尼は西常を懐かしそうな目で見た。



「西常様、この者をお見知りで?」


 僧兵達の質問に西常は頷く。


「うむ、このお方こそ、百千比丘尼様じゃ」


 その途端、その場にいた僧兵達は驚愕する。


「あ、あの千年も生きるという伝説の……!」


「ほ、本物だと!?」


 徐々に青ざめていく僧兵達。


「皆の者、百千比丘尼様の御前だ! 頭が高いのがまだ分からぬのか!?」


 輪西のその言葉に僧兵達は次々と慌てながらひざまつく、更にあの血に飢えた凶悪な刺客四人衆までも渋々と刀を納めてひざまづく。


「西常よ。老けたのう」


「歳には敵いませぬ」


 比丘尼は膝をついて頭を地面につけてる僧兵達を眺めながら、誰かを探していた。



「木葉尼よ」


 すると、比丘尼はようやく見つけたと言わんばかりに彼女の顎に手をやって、くいっと顔を上げさせる。


「そちは随分と美しくなったのう」


 比丘尼は木葉尼の容姿にうっとりとする。


「特に」


 その途端、比丘尼は木葉尼の豊満な胸をムニュっと鷲掴みし、揉み初めた。



「ウフフ、百年も見ない内に大きく育ったものよのう」


 比丘尼は彼女の柔らかい胸の感触を嬉しそうに堪能する。


「や、やめてくだされ!」


 すると、木葉尼は悲痛な表情で嫌がりながら比丘尼の手を払い、すぐさま両手で胸を隠した。


「なんぞ、まだ根に持っておるのか? その胸の事を」


 首を傾げながら見下ろす百千比丘尼。


「ウフフ、そなたのその胸は本来なら男を慰め、子を育む為のものであろう? 何をそんなに恐れておる?」


 木葉尼はどこか怯えたような表情でそっぽ向く。



「昔の事をまだ気にしておるのか?」


 木葉尼のその様子を遠目で見た飛若は悟った。


 やはり、彼女の胸には何かあるのだろうと。


「百千比丘尼様。此度は我ら中禅宗に参られた用件をお聞き願いたいのですが」


「おお、そうであったのう」


 比丘尼は思い出したかのように頷くと、中禅宗の僧兵達に用件を伝えた。


「実はこの地へ参ったのは、先月より我が占術にてある者に会えという導きを受けたのでのう」


「占術による導きですと?」


 西常は疑問な表情で首を傾げた。


「うむ、その者は童ながらにしてさほど美しく、体に猛毒の大蛇の刺青を彫った美男子であるとの事である」


 すると、中禅宗一同はハッと見覚えのある表情を浮かばせた。


「その者なら……」


「何ぞ? 見覚えがあるのか?」


「勿論です。飛若殿」


 西常は彼の名を呼ぶと、奥で隠れながら覗いていた本人が現れた。



「おお、そなたこそまさしく、我が占術のお導きである」


 比丘尼はやっと会えたと言わんばかりに飛若を見た。



「初対面の筈だが、俺に何のようだ?」


「それは……」


 比丘尼は無表情に告げた。











「そなたには死んでもらう」


「は?」













 一瞬、何を言ってるのか分からず、思考の回路が上手く理解が出来ずに沈黙するが、その刹那!


 女戦士は無言で飛若の喉元を狙い、突きを放つと彼は咄嗟に腰の刀を引き抜き、それを受け止めた。


「な、何の真似だ!」


 突然の不意打ちに焦る飛若。しかし、女戦士は問答無用で連撃を放つ。


「百千比丘尼様! これは一体!?」


 西常もまた慌てながら比丘尼に問いかけると、彼女は淡々と答えた。


「その者はこの世に災いをもたらし、悪逆非道の殺戮を繰り返す鬼神なり。 この者を今殺さねば、いずれこの国……いや、この世は破滅の世を迎えるであろう」


 何か悪い病にでも冒されて気が狂ってしまったのかと、その場の全員が思った。


「なんだかよく分からねえが、敵ってわけか! チッ、仕方ねえ!」


 飛若は舌打ちをすると思考を切り替え、女戦士と剣を交える。



「静まり下され百千比丘尼様! たかが、童一人に何が出来ましょうか!? しかも、この者は物の怪に呪われた哀れ者、このような年端もいかない者を殺すのは余りにも……!」


 西常は慌てながら比丘尼を説得しようとする。


「ならぬ。この者の脅威と災いは今まさにこの吉ノ国に降りかかり始めておる。今ここで止めなくてはならぬ」


 だが、無表情の比丘尼は聞き入れを持たず、襲いかかる女戦士の攻撃の手を止めさせようとしない。


「ただでは殺さぬ。そなたの呪いの事は承知である。邪魔那岐尊(やまなぎのみこと)に呪われし者よ」


 その時、飛若は比丘尼のその言葉に反応した。


「邪魔那岐尊だって!?」


 黎門の守護神にして獣の王である竜族の名を聞いた彼は比丘尼に問い出す。


「俺の呪い、俺を呪った化け物、それが分かるのか?」


 比丘尼は無言になる。


「教えろ! この呪いは一体なんだ!?」


「お主に語る事などない! 死ね!」


 飛若が話しかけた直後、狸の女戦士はその隙を逃さずに、鋭い突き技を放つ。


「くっ……!」


 しまった! ほんの少しの会話に一瞬目を向けてしまった結果、女戦士の剣の先端が脳天ごと突き刺そうと彼の眼球に迫り、もう避けきれないと察して戦慄が走った直後、


 ガキィィィィィン!


 その横から三日月のように細い刃が女戦士の平形剣を払い落とした。


「こ、木葉尼!?」


 飛若の横には長身の尼僧兵、木葉尼が現れた。


「百千比丘尼様。我が相棒に手を上げますなら、例え偉大なる高僧であるあなた様でも許しませぬ」


 木葉尼は大薙刀を比丘尼と女戦士に向けながら宣言した。


「くっ……!」


 女戦士は突然の奇襲で平形剣を床に落としてしまい、悔しそうな表情をする。


「愚かな木葉尼よ。そなたも所詮は人の道に外れしケダモノか」


 比丘尼は哀れみの目で木葉尼を見つめる。


「はぁああああああ!」


 木葉尼は声を上げながら薙刀を女戦士に目掛けて振り下ろそうとすると、比丘尼が前に出て自分の腹心に命じた。


「カガリよ。そなたは下がれ。後は妾がやる」


 鋭い大薙刀の刃が比丘尼の脳天に直撃しようとしたその刹那!


 比丘尼は片手で薙刀の刃を払いのけ、その勢いと力の流れを利用して木葉尼を投げ崩した。


「あの木葉尼を素手で倒しただと!?」


 一見ただの女性が鋭い薙刀を相手に見たこともない技で長身の木葉尼を圧倒したことに驚愕する。


 柔を極め、剛を制し、無手で相手の力を利用して倒す護身の武術である。


「くっ……これしき!」


 木葉尼はすぐさま立ち上がり、薙刀の先端で突きを放ったその刹那!


「なっ……!」


 飛若は驚愕した比丘尼は木葉尼の突技の刃を素手で受け流した。これほどの戦慄が走る闘いをしているのに、比丘尼の手には傷一つ付かなかった。


 更に比丘尼は木葉尼の懐に迫るとその腹に手を当て、無言で水行の術を放った。


「ぐぁっ!」


 木葉尼は腹部に水玉を食らってくの字になり、その場から吹き飛ばされた。


「木葉尼!」


 無手の武術だけでなく突然の水行の術に飛若はすぐに察した。


「その術、道術か!?」


「如何にも」


 比丘尼は飛若の問いに無言で答えた。


「素手で倒すだけでなく、道術までも使うとは……! それも九字も唱えずに……!」


 道術で九字の呪文を唱えないのは、上級陰陽師の証であり、この比丘尼もその一人だという事で辺りは騒然となる。


「観念せよ」


 木葉尼を倒した比丘尼はゆっくりと飛若に迫る。


「そう簡単に観念できるかよ!」


 その瞬間、飛若は上古刀を引き抜き、刀の先端を向けて比丘尼に突っ込んだ。


「愚かな」


 その刹那! 比丘尼は飛若の刀を脇で受け止めた。


「このっ……!」


 すぐさま刀を引き離そうとするが、全くびくともしない。


「少し眠って頂く」


「がっ……!」


 その瞬間、比丘尼は懐に入って動けなくなった飛若の後頭部に手刀を叩き込み、彼は気絶して比丘尼はそれを自らの胸で抱き留める。


「飛若殿!」


 木葉尼はぐったりとする飛若に声を掛けるが全く反応しない。


「カガリよ。こちらに」


「御意」


 すると、後ろにいた女戦士はいつの間にか床に落ちてた平形剣を拾って鞘に納めると、比丘尼の側に着いた。


 その時、比丘尼が手で印を結ぶと、三人の床から虹色の光が現れ、彼らを包み込む。


「騒がして済まぬ。この者は頂いた」


 比丘尼は一同に謝罪すると、彼ら三人の体はやがて光に消えていく。


「させるものか!」


 その時、木葉尼が彼らに向かって光の中へ飛び込むと、その一瞬でその場の四人が消えてしまった。


「き、消えた!?」


「これも道術の類いか!?」


 中禅宗一同はその場で慌てふためく。



 こうして飛若と木葉尼の二人は謎の女二人に連れて行かれてしまった。




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