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第二十六話 刺客

 

 ーーーーーーーーーーーー





 月の姿も現さない新月、暗い夜闇の静けさを唯一紛らわしてくれるのはコオロギであり、その静かに鳴らす音で我々の地上を賑わしていた。



 この日の夜、精禅寺は僧徒の大半が明日の任務と修行に備えて寝静まり、少数の僧兵達が松明を灯しながら、辺りを見張っていた。




 あれから飛若と木葉尼の二人はそれぞれ別の部屋に分かれ、飛若が来た場所は何名かの僧達が屯してる寝室で横になっていた。


 二丁の刀を横に置き、彼は無防備な状態でぐっすりと深い眠りについていた。



 そんな時、精禅寺に静かな異変が起こる。




 ガサガサ




 全身黒ずくめの装束を着て顔を隠した怪しげな者達が、闇に紛れながら身軽な動きで精禅寺へと近づいてくる。


 彼らは塀の下、木々や岩などに身を隠すと、それぞれ声を出さずに独特な合図で会話を始めた。



(お主らは裏から周り、書簡を探り調べた後、本殿に火をつけよ)


(我らはここから忍び込み、輪西を討った後に西常の首を獲る)



 彼らは敵であった。少なくとも五十名以上はおり、真っ暗な新月の夜を狙って、奇襲をかけるつもりであった。


(それと坊主どもが寝静まってる隙に、出来るだけの数を減らせ!)



 そう合図を終えると、彼らはそれぞれ二手に分かれて、精禅寺に忍び込む。



 一部は裏門にいた門番を静かに殺して侵入し、一部は鉤縄を使って塀を登り侵入する。



 精禅寺の庭に入った彼らは身を隠しながら、何名かの見張り役を確認すると静かに後ろに回って口を押さえ、小刀で喉を掻っ切る。


「ぐぶっ…!」


 パックリと空いた傷口から器官が現れ、ドス黒い血が噴き出し、見張りは体を痙攣しながら力尽きる。


 そうやって、彼らは次々と見張りの僧兵を殺し続けて突き進む。



「ぶっ……!」


「ぐぼっ……!」


「ぐっ……!」



 敵はやがて寺の内部にも忍び込み、時には寝ている者、時には囲炉裏の火で温まってる者などを次々と静かに殺して、徐々にその黒い手は飛若が寝ている寝室へと近づいてくる。


 彼らはゆっくりと障子を開けると、そこには飛若と何名かの僧徒がぐっすりと横で寝ていた。



「スースー」


 まるで乙女のようにスヤスヤと優しい寝息を立てて熟睡する飛若の姿がそこにあり、黒ずくめの敵は血の付いた忍刀を煌めかせながら、ゆっくりと忍び足で彼に近づく。



「ぐぶっ……!」


「ぐぼっ……」



 やがて、敵はその辺の僧徒の持っていた刀を奪った隙に静かに殺し終えると、残るは飛若ただ一人だけになってしまった。


 敵はこっそりと飛若の二丁の刀を奪い、彼は完全に無防備になる。


 そして、敵の一人が飛若に刀の切先を向けたその瞬間、思いがけもしない出来事が起こる。




 それはこの敵の他にも精禅寺に忍び込んだ侵入者がいたのだ。



 鼠である。



 いつどこから入って来たのかも分からない小さな動物、鼠が飛若の足元に這いずり、その鋭い歯で彼の足に強く噛み付いたのだ。



「痛っ!」


 敵に襲われるよりも先に自らの足を襲った鼠の咬合力による痛みで飛若は飛び跳ねるかの勢いで一瞬で目を覚ます。



「なっ……!?」


 その瞬間、敵はあまりにも予想だにしなかった出来事に驚愕し、一体何が起きたのか理解が追いつかずに、一瞬の静止をする。


 目覚めた飛若は霞んだ目で辺りを見ると、そこは血塗れの部屋で黒ずくめ怪しげな者達と無惨に喉を掻っ切られて殺された僧徒の死体が目に映り、その光景を見た飛若の目の霞は一瞬で消えてハッキリと見えてしまい、その状況をすぐに察してしまう。



「ッハァアーーー!」



(させるか!)


 その瞬間、敵の一人が飛若に襲いかかり、声を上げようとした彼の口に手を押し当てる



「む〜〜〜! ん〜〜〜!」



 飛若は必死に抵抗しながら声を上げようとするが、口に押し当ててくる相手の手が邪魔で声が中々出せなかった。



 すぐさま刀を取ろうとするが、その横に置いていた筈の刀がない。よく見ると、敵の一人の中に彼の上古刀と小刀を持った者がいた。それを見た途端、飛若は自分の身を守る為でもある刀をこうも簡単に奪われてしまった事に絶望する。



「どうされた? 何やら騒がしい物音がしたが?」


 その時、どこからか一人の僧がこの寝室へと近づいて来るのが聞こえてきた。



(でかした!)


 飛若はその好機を逃さないと言わんばかりに必死で暴れ、少しでも騒がしい物音を出してこちらの危機的状況を知らせようとする。



(おのれ! 暴れるな!)


 敵も必死で飛若を押さえつけ、その口を黙らせようと片手で持った忍刀で何としてでも息の根を止めようとするが、彼はそれを必死に両手で遮った。



「この部屋か? 何をしておる?」


 そして、やってきた僧は寝室の障子を開けるとその派手に血に塗れた部屋の光景を目の当たりにして、飛若と同じ反応をする。



「く、曲……ぐぶっ……!」



 僧が大声を上げようとしたその瞬間、もう一人の敵がその声を出す前に黙らせようと素早く手裏剣を投げ飛ばし、見事に僧の喉笛に手裏剣が刺さった。



(なっ……!)


 飛若は絶句した。折角こちらの存在に気づいて侵入者を知らせようとしてくれた者が一瞬で殺された。



(この野郎っ!)



「ぐあっ!」


 その時、飛若は敵に押さえつけられた手に噛みつき、その指を噛みちぎった。


 指を欠損した敵はその一瞬に怯むと、飛若はその隙を逃さないと言わんばかりに障子を壊す勢いで飛びかかり、外へと転げ落ちた。


 だが、敵も彼を逃さないと言わんばかりに外に出た飛若に一斉に飛びかかって押さえつけようとする。


 しかし、遂にその大きな物音は周辺の見張りの耳にも流石に聞こえ、彼らはその物音のしたところへ駆けつける。



「く、曲者だー!!」


「奇襲だ! であえであえ!」


 黒ずくめの装束を来た者達を見た彼らはすぐに声を上げると、その知らせはやがて寺中に響き渡る。



「京氏より放たれた忍人(しのびと)じゃ!!」


 忍人、それは暗殺や間諜などの仕事を引き受け、生業としている者の事である。



「者ども! 迎え討てい!」


 僧兵達は武具を手に持ち、忍人との乱戦が始まる。



「テメェ! 俺の刀返せ!」



 一方、飛若は奪われた刀を取り戻そうと、彼の上古刀と小刀を持っていた忍人に襲いかかる。


 その瞬間、忍人は彼の刀をその辺に投げ捨てると、懐からいくつかの手裏剣を飛若に向けて連続で投げ飛ばした。



(チッ! 避けきれねえ……!)


 流石の飛若でも丸腰の状態で十本以上もの飛来する手裏剣を防げまいと察し、為す術を失くす。


 しかし、その突如、



「飛若殿!」


 その横から平形の剣を持った木葉尼が現れ、彼に襲いかかる手裏剣を全て叩き落とした。


「木葉尼!」


 彼女は片手で平形の剣を構えながら、忍人の前に立ちはだかると、その周りから次々と忍人が現れて彼女を囲い始める。


 木葉尼はいつの間にか回収した飛若の上古刀と小刀を彼に渡す。



「ここは私が! 飛若殿、本殿に向かい、私の柴薙を持ってきて頂きたい!」


「あの薙刀だな! 分かった!」


 飛若は彼女の言う通りにすぐさまその場を離れ、本殿へと急いだ。



「おのれ〜! 先手を打たれた!」


 一方、太刀で次々と忍人を斬り捨てていた輪西は悔しそうな表情を浮かべていた。


「辻頼め! やってくれたな!」


 輪西はこの奇襲の首謀者が京辻頼のだと確信し、多くの仲間が無惨に殺された事に怒りを抱く。



 そんな中、飛若は本殿に着くと、室内は僧兵と忍人の乱戦が目に見えた。


 彼はその乱戦の中、次々と忍人を斬り捨てながら先へ進み、木葉尼の薙刀を必死に探し回った。



 すると、偶然倒れていた忍人の体の下に彼女の薙刀らしき物が落ちていた。



「多分あれだ!」


 飛若はその場所に駆けつけると、すぐさま上古刀を刀に納めて、両手で上に乗っかっていた忍人の死体をどかそうとしたその直後!



「ゔぉおおおおおお!!」


「うわぁ!」


 死体は突然動き出し、苦無で飛若に襲いかかった。



「またこれかよ!」


 彼はその苦無を持った忍人の手を掴み、必死で抵抗をする。



「このぉ!」


 その途端、飛若は相手の顔面に思いっきり頭突きをかまして鼻を潰すと、相手は怯み、その隙を狙って彼は横に回り、頭を掴んでその首をゴキャ!とへし折った。



 即死である



「薙刀……!」


 彼は急いで床に落ちてた薙刀を拾うと、


「って、意外に重いな!」


 想像以上に重みのあるその薙刀に少しだけ驚いた。木葉尼は女性でありながら、この薙刀を軽々と扱っていたのだ。



「火の手が上がったぞーーーーー!」


「者ども本殿から去るのじゃーーーーー!」


 その声が聞こえた途端、どこから煙が湧き出し、炎が現れ始めた。



「ちっ! マジかよ……!」


 彼は急いで本殿の外へ向かう。室内は大勢の僧徒と忍人の死体が転がり、やがてそれは炎によって全て焼かれる。


 飛若はやっとの事で本殿の入り口にたどり着くと、そこは炎によって塞がってしまった。彼は閉じ込められてしまった状況を察する。



「うおおおおおおぉぉぉぉぉぉーーーーーー!!!」


 だが、彼はそれでも炎の壁に勢いよく飛び込み、危機一髪で本殿から外に出られる事に成功する。



「アチッ! アチチッ! 危うく火だるまになるところだった……!」


 彼は服についた小さな火を手で払い消すと、すぐさま木葉尼のところへと向かった。





 一方、複数の忍人と戦っていた木葉尼は剣一本でなんとかその場を持ち堪えていた。



(くっ……! 流石の私でもこれほどの人数を剣一本で迎え討つのはいくら何でも厳しい! 柴薙さえあれば……!)



 その瞬間、忍人の一人が突如、印を結び始めた。



「そ、それは……!?」


 木葉尼はその印の型を見て驚愕する。


「煙遁!」


 印を結んだ忍人は突如、大量の煙を放ち、彼女の視界を遮った。



「忍人秘伝の術、遁術(とんじゅつ)か!?」



 遁術とは、陰陽師が使う道術を起源とした忍人が使う秘術で、道術ほど強い威力はなく、主に人を欺き、騙し討ちに利用する術ではあるが、才能によって習得出来る道術とは違って、遁術は通常の人間が長年の修行を積んで習得出来る術である。


 その修行法は秘伝で、口の固い手練れの忍人にしか伝えられないと言われている。



(今だ……!)


 すると、今度はもう一人の忍人が遁術による煙幕で視界を遮った木葉尼に向けて、回していた鎖鎌の分銅を放つと、分銅は見事に彼女の体を捕らえ、全身を鎖で縛り付けて拘束した。



「くっ! おのれ!」


 木葉尼は身動きの取れない状態になると、その周りにいた忍人はその隙を狙って、一斉に木葉尼に飛びかかった。


 その時、木葉尼は咄嗟に懐から葉っぱを取り出した。


「卑怯で使いたくはなかったが、一か八かだ……!」


 彼女は額に葉っぱを当てる。


()()()()()()、『変化』!」


 木葉尼がそう唱えた途端、彼女の周りからボフッ!と煙が現れた。



「なんだこれは!? 遁術か!?」


「いや、遁術とはまた違う煙の術だ!」


 木葉尼に襲いかかろうとした忍人達は木葉尼が突然、使い始めた怪しげな術に警戒して、その場を離れる。


 やがて、煙が言えると一同は驚愕する。


「なっ!?」


 そこに現れたのは地蔵であった。木葉尼が消えた代わりに地蔵が立っていたのだ。



「ば、馬鹿な! このような術が使える者がいるなど聞いておらぬ!」


「変わり身の術と申したな! 変わり身を使える者などこの世で忍人しかおらぬ!」


「うむ、それも相当の修行を積んだ者でしか決して扱えぬ高度な術の筈だ!」


「どこ行ったあの女子は!?」



 彼らは混乱し、地蔵に巻きつけた鎖を解いて、辺りを警戒した途端に異変が起こる。



 ボフッ!



 その途端、地蔵から煙が立ち上がると、そこには鎖の解かれた木葉尼が現れた。



「でえい! どりゃあ!」


 彼女はその隙だらけの二人を剣で斬り捨てる。



「すまぬ。変わり身の術というのは嘘で、私はただ単に()()()()()()()()()()()である」


「お、おのれ……この卑怯者め……!」


「む、無念……!」


 斬られた二人は悔しそうな表情でその場に倒れる。



「貴様! よくも我が同胞を!」


「この卑怯者め!!」


 残った忍人達は木葉尼のその余りのド汚ない術で仲間を殺された事に怒りを抱く。



「この夜討ち(夜襲)を狙ったそなたらに言える事か? ましてや騙し討ちを謀る側が、騙されてどういたす? 未熟者の忍人共よ」


「お、おのれ〜この女狐め!」


「狐ではあらぬ」


『うおおおおおおおーーーーーーー!!』


 忍人達は木葉尼のその煽りに乗り、怒り任せで木葉尼に襲いかかったその瞬間、



「木葉尼!」


 その時、突然飛若の声が聞こえ始めた。


「持ってきたぞ! 受け取れ!」


 飛若は手に持った薙刀を木葉尼に向けて投げると、彼女はそれを手に取った。



「遅いぞ! 飛若殿!」


 彼女はその薙刀を持った途端、薄い笑みを浮かばせる。



「我が柴薙の錆となれ!」



 その瞬間、木葉尼は一斉に襲いかかってきた忍人を一瞬で薙ぎ払った。赤い鮮血が雨の如く飛び散り、斬られた忍人達は声も上げずにその場に崩れ落ちる。


 そして、彼女は薙刀を振り回して、刃についた血を飛ばして上に掲げると、鋭く細い刃がまるで怪しく光らす二日月を思わせる格好を作った。



(決まった……!)



「いや、だからそんなドヤ顔で決めててもな……!」


 飛若はまたしてもカッコよく決めて満足感に満ちた笑みを浮かべる木葉尼に対し、微妙な気持ちを抱く。



「退却!」



 その時、西条の声が寺中に響き渡る。


「退却じゃ! 精禅寺を捨て、ここから逃げよ!」


 すると、その声を聞いた中禅宗の僧徒達はすぐさま寺の外に向かって、退却を開始した。


 途中、何名かの僧兵が殿を務め、忍人達に戦いを挑む者もいたが、それ以外の者は何名かと組んで散り散りに分かれて山の森の中へと消えていった。



「俺たちも行くぞ!」


「承知!」


 飛若と木葉尼の二人もまたその場を離れて、寺の外へ逃げると、後ろには燃えてゆく精禅寺の光景が目に映った。



「終わったな……。もう駄目だ……」


「何を申す。寺を失った程度では、我らは屈しぬ」


 弱音を吐く飛若に対し木葉尼は前向きな心構えで先へと進み、やがて、二人は森の中をしばらく駆け回った。



「ゼェ、ゼェ……!」


「ハァ、ハァ……!」



 二人はまるで天敵から逃れる動物のように、ただひたすら走り続けた。


 しかしその時、彼らの前方からある声が聞こえた。



「おのれ! 忍人共が!」


 それは二人もよく知る声であった。



「輪西だ!」


 彼らはすぐさまその声がする場所まで向かうと、そこには森の中でただ一人、太刀を構えた輪西の姿があった。



「輪西! 無事か!?」


 飛若は輪西に声をかけると、彼は反応する。



「飛若殿と木葉尼か!? 見ての通りだ!」


 輪西のその周りには三十名ほどの忍人が囲っていた。



「増援か、まあ良い」


 忍人達は彼らが二人が現れた事に少しも驚かず、彼らに刃を向けて近づき始める。



「これほどの数、柴薙を持つ私でも流石に厳しいのう」


「じゃあ、三人合わせて逃げるが勝ちっていう手を使うか?」


「最も、この場から逃げられればの話しであるがのう」


 目の前には三十名程の忍人が刃を煌めかせて近づいてくる。果たして本当に逃げきれられるのかも分からない状況であった。



「死ね!」


 三十名の忍人が彼らに襲い掛かろうとしたその瞬間、



 シュピン!


 一瞬、五名ほどの忍人の首が鞠のように飛ばされる光景が目に見えた。



「な、何が起きた!?」


 彼らはその突然の出来事に驚愕すると、そこには天蓋を被り、刀を持った不気味な雰囲気を放つ怪しげな虚無僧四人が現れた。



「なんだこの者らは……ぐはっ!」


「て、敵襲……ぐあっ!」


「ひ、ひいいい……ぎゃっ!」



 四人の虚無僧は無言のまま、物凄い速さで次々と忍人を斬り捨てていく。



「す、凄え……!」


 その光景を見た飛若は、彼らのその凄まじい剣技に驚愕する。


 そして、忍人三十余名を一瞬で斬り殺した四人は無言で刀を納める。



「刺客四人衆!」


 輪西はそう呼びながら、彼らの下へと駆けつけた。



「誰だ?」


 飛若は初対面のその怪しげな四人に少し警戒すると、木葉尼が淡々と答える。



「我ら中禅宗の中でも最も手練れの強者である。気を付けよ。四人とも血に飢えておる故に下手な真似をしたら、仲間だろうと意味なく斬りかかる程の曲者である」


 木葉尼がそう言うと、彼は四人の着物の袖に書かれた「四」という赤い文字を見て、異様な殺気を感じてゴクリと生唾を飲み込む。只者ではない雰囲気を放った者達である。



「いつ戻った?」


「今シガタ……」


 輪西の問いに答えた虚無僧は人間とは思えぬ不気味な声を持っていた。



「お主らさえ居れば、百人力だった筈だ!! 何故今戻った!?」


 輪西は訴えるかのように四人に問い詰めた。



「お主らが、もう少し早く着いておれば、寺も焼かれずに済んだ筈だ……!」


 輪西は悔しそうな表情を浮かべながら落胆する。



「儂ラモ事情ガアルノダ」


 彼ら刺客四人衆は落胆する輪西を見下ろした。



「とにかく、無事に生きて何よりだ」


 その時、飛若はその木葉尼の言葉を聞いた途端にグサッと胸が刺さった。



(無事に生きて……?)



 彼は精禅寺で忍人に襲われた時の事を今思い返す。



(俺はあの時、本当は無事でなかった筈だったんだ……!)



 彼はあの時、唯一護身の為でもある刀をそのまま横に置いて、無防備に横になって寝たのである。


 運が良かったとはいえ、あの時もし鼠が侵入して来なかったら? もし、彼の足に噛み付いてくれなかったら、今頃どうなっていた事か?


 彼はいつ死んでもおかしくない日頃の行いを祟り、強い反省の心を抱えた。





 この頃から、彼は横で寝ることはしなくなってしまった。


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