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第二十一話 狂宴

 


 かつて、この何処中つ国に、歴史上最も残虐の限りを尽くした鬼武者がいた。


 数多辰彦(あまたのたつひこ)である。


 その者はある日に呪われ、あまりにも過酷な定めを強いられる道を歩む事になる。


 しかし、辰彦はそれでも自らの定めを受け入れ、ただ戦い続けてきた。


 自らの呪いに抗う為に、数多の命を殺めて。



 人として。




 これより先の話は、その数多辰彦という名の者が史実として記された物語である。







 ――――――――――――――――





 永乱十二年 七月 



 雲原 吉ノ国城下町 清泉




 この雲原地方を治める吉ノ国は、何処中つ国の中でも黎門の教えを重んじて崇拝し、非常に文化の高い国である。


 中でもこの清泉は吉ノ国の郡司が治める城下町であるのと同時に、昔から黎教の聖地としても名高い土地であった。


 しかし、今この地は真浄宗と中禅宗という二つの宗派に別れ、お互いが対立し合っていた。


 中でも中禅宗は過激派の思想を持ち、国と黎教の改宗の為に幾度となく僧兵を率いた一揆が後を絶たず、町では要人が刺客に斬られて晒し首にされたり、要人の屋敷が闇討ちを受けるなどの事件が度々起こる。



 いわば、宗教の抗争である。



 そのような物騒な町にたどり着いた鞍馬衆一同は十日以上もの長旅でやっとの思いでこの町にやってきた。



「ふぅ……やっと着いた!」


 彼らは関所を通ると、栄えている清泉の町並みを見て、歓喜の声を上げる。



「今宵は久々にまともな場で寝られるの~!」


「まだ手もつけてない米もたっぷりあるし、これで早いとこ銭貨と交換してすぐに宿に行きましょうぜお頭!」


「それなら両替所を探さなきゃな」


「それもそうだが、まず腹が減った! 何処かで腹ごしらえしましょうぜ~!」


「おいらも腹減ったよ~!」


「どこか美味い店ないかな~?」



 などと疲労困憊の彼らは町中を歩きながら店を眺めると、途中で団子屋を見つけて、彼らはそこで吉ノ国名物、清泉団子を買って食べ始めた。見た目は至って普通の団子だが、舌の上で広がる甘味が体の疲れを癒し、解していく。



「美味えなこの団子は!」


「親父! 何本か貰うぞ!」


 そう言って、彼らはその店である程度の量を買って、食べ歩きをしながら両替所に向かう。


 そして、両替所に着くと一同はそこで持っている米半分を銀銭と交換した。


「うほっ! 思ったより大量だな!」


 欲深い泥吉はその交換した銀銭の量に喜ぶ。


「さて、お前ら分け前だ」


 飛若がそう言うと、作兵衛達に交換したばかりの銀銭を平等に分け与える。


「よし、次は宿に向かおう!」


 作兵衛がそう言うと、彼らは両替所を出ると、そのまま宿屋へと向かった。


「たのもー!」


 作兵衛が宿に入り、大きな声で叫ぶと奥から女将がやって来た。



「いらっしゃっいませ」


「部屋を借りたい。これでしばらくここに滞在する」


「まあまあ、こんなに! では、皆様方、こちらへご案内します」


 作兵衛は女将に金を払うと、女将はそれを受け取り、彼らを二階の部屋へと案内した。


「つっかれた~! 今日は久々にまともに眠れるな~!」


 虎丸がすぐさま床の上で寝っ転がると、次々とその場にいた者達が腰を落として部屋でくつろぐと作兵衛は途端に立ち上がって、彼らに話しかける。



「まあ、待て皆の衆、金はこれだけあるのだ。今宵はこの町に着いた祝いとして、宴を始めるぞ!」


「お? それ賛成ですぜお頭~!」


 彼らは途端に起き上がって喜ぶと、作兵衛は飛若と鍛丸の二人にも声をかけた。



「飛僧! 鍛丸! お主らも来るが良い。まず今宵は食って飲んで英気を養うのじゃ!」


「飛若だ! 何度言ったら分かるんだ!?」


「まあいいじゃないか。あんちゃん! 久しぶりに今日は腹いっぱい食おうぜ!」



 不機嫌そうな表情で上古刀を抱えて壁にもたれながら座っている飛若に対し、鍛丸は作兵衛達の宴に誘う。



「なんか嫌な予感しかしねえ」


「まあそう言うでない。この地の(こい)料理は味が良いと評判じゃぞ?」


 作兵衛の言う通り、この清泉含む雲原の地は鯉の産地としても名高く、吉ノ国を治める京氏一門の象徴である家紋も錦鯉(にしきごい)である程に有名であった。


「鯉か」


 飛若はふと考えた。彼は鯉を焼いて食べた事はあるが、鯉料理という贅沢なものは食べた事がなかった。以前、彼は飢えて、川の鯉を見つけて獲って食べた時、その時の鯉の味はひどいもので、あまりにも泥臭くて食えたものではなかった。


 出来れば、もう二度と口にしたくないとは思っていたが、後

 で旅先で会った人間から聞くところによると、鯉は綺麗な水の入った生簀で何日かかけて泥を吐かせてから食べるものだと聞く。


 飛若が以前食べたのは、濁った川で獲った鯉を一切、泥抜きせず、そのまま焼いて食べただけのものであった。


 つまり、本来、鯉というのはちゃんと調理しなきゃいけなく、時間のかかる魚であるのだ。


 料理に関しては、米炊きや汁物以外、やっつけで火にかけて作る事しかあまり知らない飛若は、あの鯉がどれだけ美味くなるのか、内心興味深くなった。


 先ほど団子を食べたばかりなのに、まだ小腹が空いてる。もう少し何か食べても良いのかもしれない。


 彼は腹をさすりながらそう思うと、壁にもたれたまま小さく呟いた。


「酒は飲めねえが、夕飯なら付き合うぞ」


「お? 決まりじゃのう!」


 作兵衛はその答えを聞くと、今宵の宴会に飛若も参加する方針で幹事を務める事にした。


 その後、作兵衛達はしばらくの間、部屋でくつろいでいると、外はすっかりと夜が更け、腹を空かした一同は外に出て、賑やかな清泉の町中を歩き始めた。


 祭りのように照らす灯りと賑やかな人混みを眺める鍛丸は童心を湧き上がらせながら目を輝かし、飛若もまた内心その町の光景に好奇心を抱えた。


 やがて、一同は如何にも値段が高そうな大きな料亭にたどり着くと、彼らは店の主人に個室を借りた。



「おい、こんな高そうな店で良いのか?」


「良いのじゃ! 金はまだたんまりあるからのう!」


 座敷に座っている飛若は心配そうな物言いで作兵衛に聞くと、彼は全く気にもしない態度で答えた。


「失礼いたします」


 すると、その声が聞こえた途端に襖が開けられ、給仕の一人が礼儀正しく正座で頭を下げる。


「食事をお持ちいたしました」


 すると、その給仕は横に置いていたお膳を持つと、それに続いて給仕たちが彼らの前に料理の乗ったお膳を丁寧に置いた。出されたものは鯉のあらい、鯉こく、鯉の塩焼き、鯉の天ぷらなどの鯉づくし料理と少量の香の物、そして、大量の酒壺である。


「では、ごゆるりと」


 給仕一同は最後に正座で頭を下げてそう言うと、そのまま部屋を出ていく」


「さて、皆の衆、乾杯!」


 作兵衛が盃を掲げて乾杯の音頭を告げると、手下たちもそれに続いて盃を交わした。


「あ~美味え酒だ!」


 続いて彼らはお膳に乗った鯉料理に箸をつけて口に入れると、その目が見開いた。



「この鯉美味えな!」


「ああ、こりゃあ絶品だ!」


 彼らのその表情を見て、飛若も鯉のあらいを口に入れた。


「あ、確かに美味え!」


 それは以前食べた鯉とは全くの別の味だった。


 新鮮な鯉を捌いて作られたその身の旨味と僅かな甘みが、噛めば噛むほど口いっぱいに広がり、泥の味しか知らなかった飛若は内心その鯉の味に感動し、次々と鯉料理を口に入れた。


「飲め飲め!」


 作兵衛達はどんどん酒を注いでは飲み続け、その勢いはやがて、どんどん増していく。



『ぎゃははははははははははははははははは!!!』



 個室は彼らの笑い声で賑やかを通り越して、騒ぎに満ち溢れる。


(うるせえなこいつら……!)


 何故か鍛丸も彼らのその騒ぎに参加してる光景を横で見た飛若は煩わしく感じた。



「ほれほれ~! 飛僧も飲め~!」


「だから、俺はまだ元服してねえって、言ってんだろ!」


「元服なぞ、今この場ですぐに出来る!」


「出来るか!」



 二人のその軽い漫才に笑った手下たちは、それを肴に酒を煽る。



「男ばかりじゃムサイな~。お頭! ちょっと女引っ張って来ます!」


「うむ、トシは気が利くのう!」



 そう言って、敏郎は襖を開けて個室から出て行く。



「連れて来やした!」


「はやっ!」



 部屋を出て即行で遊女二人を連れて帰ってきた敏郎に、飛若は思いっきり突っ込みを入れる。


 二人の遊女は個室に入ると、一人はその場で踊り、もう一人はウフフと笑いながら飛若の隣に座った。


「な、なんだいきなり!?」


「いい美男子だったので興味を惹いちゃったわ」


 遊女はそう迫りながら、彼の腕を優しく掴む。


「やめろ! 俺はそういうの望んでねえから!」


 赤面する飛若を見た作兵衛達は彼のその反応を見て、大笑いする。


「ははは! 初心じゃのうお主!」


「てめえらも笑ってねえでこの女何とかしてくれよ!」


 飛若は訴えるかのように彼らに助けを乞うが、


「いや、これはこれで酒の肴になる!」


「もうちょいお前さんのその反応見させてくれよ!」


 作兵衛達はそんな飛若をまるで見せ物を見るかのように面白おかしく眺めて爆笑する。



「ぎゃははははははははははははははははは!!!」



 グイグイ酒を飲み続けて酔っ払う彼らは顔を真っ赤にし、個室はその笑い声で埋め尽くされたその時、


「ええい! うるさい!」


 突如、隣の部屋の襖が開けられ、男達が宴で騒いでる作兵衛達の前に現れた。



「なんだお前ら?」


「無礼者め! お主らの騒ぎ声が隣にまで聞こえて、儂らの話を遮り、箸すらも進ませぬのだ!」


「んなの俺達の知ったこっちゃねえよ!」



 虎丸がそう言った途端、男達の頭に血が上る。



「おのれ! この薄汚い悪党め!」


「んだとオラァ!!」


 その途端、気が荒い虎丸は男達に殴りかかり、喧嘩が始まった。


「やめろ! 人が飯食ってる最中に!」


 酒や料理が散乱するその個室で、飛若は虎丸を止めようと立ち上がる。だが、その声は全く届かない。


「お? 喧嘩か! やるなら相手になろう!」


 続いて作兵衛が手の指をボキボキと鳴らしながら、男達に殴りかかり、それに続いて手下達も参戦する。


「やめろって言ってんだろ!」


 彼らは飛若の言葉を無視し、その場は大乱闘と化す中、彼は尚も喧嘩をする作兵衛達に近づく。



「だから止めろって……」


「やかましい!」


「がっ!」


 その瞬間、作兵衛は飛若の後頭部に手刀を叩き込むと、彼はその場に倒れて気絶してしまう。


 また、大乱闘の中で何故か鍛丸も参戦して、楽しそうにどこからか凶器に使える物を作兵衛達に提供して、喧嘩の役に立たせていた。


 その後、作兵衛達は隣の部屋の男達を叩きのめした後、追い討ちをかけるかのように目を回してる彼らの口に無理矢理、酒壺の口を押し込んで酒を流した。



「オラオラ! 酒が好きだろう!?」


「ひゃっはっはっはっは!」



 無理矢理飲まされてる男達は窒息してしまうのではないかと暴れる中、突如外からピーピー!という呼子笛の音が聞こえて来た。その音に反応した鍛丸が外を眺めると、大勢の刀を携え、棒を持った男達がやってくるのが見えた。


 おそらく、店の誰かが彼らの喧嘩を見て、助けを呼んだのであろう。



「おっちゃん達? お防人様が来たぜ!」


 ニヤける鍛丸のその言葉に作兵衛達はようやく正気に戻る。



「おっと……それはまずいな!」


「逃げろ〜い!」


 作兵衛達は笑いながら気絶してる飛若を抱えながらその場から逃げ、料亭の裏口へと出ていった。



「お頭! どこまで逃げやす!?」


「知るか! とにかくこの場を切り抜けるのじゃ〜!」


 泥吉の言葉に作兵衛は笑いながら彼らを率いて走り続ける中、突如土清が作兵衛の横に来て話しかける。


「お頭! 俺に良い考えがある!」


 すると、彼は走りながら作兵衛の耳元でヒソヒソと何かを呟いていくと、作兵衛はその途端にニヤリと笑う。


「それは名案じゃのう!」


 すると、気絶してる飛若を抱えていた作兵衛は誰も予想だにしなかった事を始めた。



「そ〜れ!」



 その瞬間、作兵衛は飛若をその辺に投げ捨て、彼はその場で横たわる。



「わ、儂等は知らぬ! その酔い潰れてるガキが全てやったのじゃ〜!!」


 すると、作兵衛がそう叫んだ瞬間、手下達もその空気を読んで声を上げる。


「お〜そうだそうだ〜!」


「俺達は全く知らねえ〜!」


「全てそいつが招いた元凶だ〜!」


「そうだそうだ! 全部そのあんちゃんが悪いんだ〜!」


 作兵衛達はおろか、鍛丸までその空気に乗って、飛若に濡れ衣を着せる為に彼を囮にした。


 やがて、彼らが闇の中へ消える中、大勢の防人がその倒れている飛若に群がった。



「あの者達、全てこの者がやったと申してたな?」


「真にそうは見えぬが」



 防人らは、怪訝な表情で飛若を見下ろす。



「まあ良い。この者を捕らえよ」


「はっ!」


 そう言うと、防人らは気絶している飛若を抱えると、そのまま牢屋へと連れて行ってしまった。




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