01.新生
「全く、この世は腐ってるー」奈良産業大学の2年生抜宮太郎はアズールレーンを起動しながら憂鬱な気持ちで講義を聴いていた。周りの連中の態度はf欄らしく最悪だった。教室の中心で大声で話す陽キャ集団、スプラをする者、ポケカを一人回しする者。
「抜宮くんどうしました?今の文章の和訳をお願いします」
(毎日毎日同じことの繰り返し。全く下らない。この世は腐ってるー)
講義が終わりいつものようにそそくさとぼっちよろしく帰ろうと講義棟を飛び出すと目の前の芝生の上に黒いノートらしきものが落ちていた。導かれるようにそれを手に取り表紙を確認する。
NUKENOTEー直訳で底辺gm生主ノート。表紙をめくると次のページに書かれていたのは
〈使い方:このノートに名前を書かれた人間はつまらなくなる。〉
(くだらない。全く病んでるな作った奴暇人すぎだろ)
そう思いながらも俺はノートをバッグに突っ込み自宅へ急ぐ。
(何が名前を書かれた人間はつまらなくなる、だ。全く、どうかしてるな俺も)
部屋に帰るや否やノートの表紙の裏に韓国語で書かれた説明をじっくりと確認する。
〈各人物の生IDが頭に入っていないと効果はない 故に同姓同名の人物に一遍に効果は得られない 名前の後に人間界単位で40秒以内に滑ったネタを書くとその通りになる 滑ったネタを書くとさらに6分40秒、詳しい状況を記載する時間が与えられる。〉
「いたずらもここまで手が込んでくるとまぁまぁかな」
「名前を書くとつまらなくなる、か 本当にくだらない・・・待てよ万が一本当につまらなくなった生主が消えたら俺は犯罪者か?まさかなそんなことあるはずない」
【はい皆さんこんにちはー今日はあかりぺんぎん改造人間説について紹介していきたいと思います。この説によると、あかりぺんぎんは宇宙人に改造されてキツキツおまんこに・・・】
日課になっているニコ生をつけると今日もあの男が来場トップに躍り出ていた。ランド弱、俺と同学年ながら地道な売名活動と感電芸で今のニコ生ポケモンカテゴリ1位まで登り上がった男だ。なぜこんなに人が来ているのかまるで理解できない。
「40秒でつまらなくなるんだったな」気づくと俺はノートにランド弱とその生IDを書き込んでいた。そしてちょうど40秒後ー、つまんな、4ね、ふたどと枠取るな、ぬけたろうならなぁ、なまりNGしろ
画面を埋め尽くす草コメは消えて、罵倒と誹謗中傷コメで溢れていた。
間違いない NUKENOTE、本物だ!
ノートを拾ってから数週間が過ぎようとしていた。既にノートに書かれた生主は100人を超えていた。書かれた名前を見て部屋で一人ニヤニヤ薄ら笑いを浮かべる。
「太郎ーもう18時半になるわよご飯よ」1階から母親が呼ぶ声がする。
返事をしようと後ろを向いた瞬間。そこにはこの世のものとは思えない、少なくとも人間には見えない化け物が立っていた。
「うわあああぁ!」ジタバタもがきながら椅子から転げ落ちる
『気に入ってるようだな』暗い部屋の中で外の雷に照らされてその異様さが改めて曝け出される。
『なぜそんなに驚く?そのノートの落とし主、死神のリューキだ。その様子だと、もうそれがただのノートじゃないって分かってるんだろ?』
「太郎ーどうしたの大きい音出してー?」「うっかり物落としただけ。大丈夫だよー」
まるで何でもないという素振りを見せて深呼吸、息を整える。
「いや驚いてねーよリューキ。むしろ待ってた」
『え、ぬけみやすご』
「俺は死神のノートを使って人間をネットの海から消した。魂を取られるのか?」恐る恐る聞くと
『なんだそりゃ?人間が作った勝手なイメージか?俺はお前に何もしない。ニコ生界からこっちに落ちた時点でノートはお前のものだ』
思ってもみない答えが返ってきた
「じゃあもう一つ質問がある、なぜ俺を選んだ?」
『選んじゃいない。俺はただノートを落としただけだ。f欄の自分が選ばれたと思ってるのか?たまたまこの地に落ち、たまたまお前が拾った』
「じゃあなぜ落とした、丁寧に使い方まで書いて」
『退屈だったから。実際今のニコ生界は暇でね。モンストしてるかシージしてるしかない。こっちに来る方が面白いと俺は踏んだ。だからノートを落とした』
『それにしても随分名前書いたな。しかし、なぜ大手生主しか書いてないんだ?」
「他枠に売名してる生主や知名度だけのつまらない生主をコミュレベルが高い順から消していく。そうすれば馬鹿でも、生主が誰かに消されてるって気づくだろ。世の中に知らしめるんだ俺の存在を。正義の裁きを下すものがいるってことを」
『そんなこと知らしめてどうするつもりだ?何になる?』
「俺も 退屈だったから。初めは信じてなかった。でもそのノートには人間なら誰でも一度は試してみたくなる魔力がある」
時はランドを消した日の夜に遡る。
ランドはコメントに効いたのかその後すぐに枠を切り、コミュとTwitter、ブログの「平等院鳳凰堂」を消していた。紛れもなくこの世から一人の生主が消えたのだ。
「け、消してしまった…生主を。軽いはずがない。俺に勝手に人を裁く権利があるのか…」
罪悪感に苛まれ癲癇のように体がプルプル震える。動悸が激しくなる。
いや違う、いつも思ってたことじゃないか。ニコ生腐ってる。誰かがやらなきゃいけないんだ、このままじゃいけないんだ。もし誰かがこのノートを拾ったとして、つまらないくせに大手の配信者を消すことができる奴がいるか?でも俺なら、俺にならできる、いや俺にしかできないんだ。やろう、ヌケノートで世の中を変えてやる!
「決意してからはもう迷わなかった。このままいけば確実に世界は良い方向に進んでいく。そして俺が認めた真面目で面白い生主だけの世界を作りあげる…!」
『しかしそんなことしたらつまらない生主お前だけになるぞ?』
「何を言ってんだリューキ、俺はおもしれーよ。そして俺は ニコ生の神になる」
『ぬけみやすご』
名前を書いた人間はつまらなくなるという死神のノート「ヌケノート」を使って他生主を抹殺し、理想の世界を作り上げようとする抜宮太郎と、世界一のks垢・Kたちによる頭脳戦が今始まる…