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本当の依頼

 促されるまま中へ入って履物を脱いでいると、奥からドタドタと響が出迎えた。

 家事でもしていたのかエプロン姿で、髪は後ろでまとめられていた。そのくせ下に着ている服は、どこか街へでも出かけるのかというように垢抜けたものに見える。

 雅夫はその装いにそそられるものを感じてしまい、見ないようにした。

 「今日は時間通りね」

 響はそんな雅夫は御構いなしに、持ってきた荷物をひったくると親父さんの待つ応接間へと誘導する。

 和塗りの床に迷路のような間取り。

まるで入ってきた人間を迷わせるために作られた古城のようだと、雅夫は思った。

 やけに家の中が暗い。

 おそらくここにくる途中遠くに見えた雲が、太陽を遮り始めたせいだろう。響が気を利かせて廊下の電気をつけるもそれは暗いままだった。


 「ここよ」


 応接間にたどり着いたときにはもう、自分が建物のどの位置にいるのかもわからなくなっていた。


 響は、あとはお二人でごゆっくり、とでもいうように荷物を雅夫に返すと、手を後ろに組んでニヨニヨと笑みを浮かべていた。


 「帰る前に私の部屋に寄ってね。今日はごちそうするから」


 ノックをしようとしたところ、響がそう言ってきたので「期待しておくよ」と空返事をした。


 応接間の中は、廊下より更に暗かった。庭に出るための窓は鬱蒼と茂る木々のせいか、ろくに光を取り込めていない。橙色の眩い光がシャンデリアから発せられていたが、応接間を明るくするには足りなかったようだ。

 部屋の中央に置かれたローテーブルと向かい合うように置かれたソファ。その奥側のソファに沈み込むように響の親父さんは座っていた。


 「いやいや直接来ていただいてすまないね」


 雅夫は「はぁ」とため息とも相槌ともつかない返事をし、ソファに腰を下ろした。


 「いや実に素晴らしい手腕だ」


 開口響の親父さんはそう褒めた。というのも、今回の調査は事前に結果がわかっていたもので、雅夫の腕を試すために出した依頼だったというのだ。

 それも響が主導で……


 「なんとなく、そういうことだろうと思いました」


雅夫がそういうと、響の親父さんはハハハと笑った。


 「ところでなんだが……」


 響の親父さんがそうあらたまったとき、薄暗い部屋が更に暗くなるのを感じた。庭の木の隙間から差し込んでいた光すら、その上を覆う雲に遮られたのだ。


 親父さんは名刺を差し出し、改めて名を名乗った。


 「これは倉間柊一郎(くらましゅういちろう)直々のお願いなんだがね……」


 人を試すようなことをしたことを再度詫びたい、その上で試してまでも頼れる人間なのかを確かめたかった。何より信頼に足る人間かを確かめたかった、と。


 そしてここからは響は関係ない。

 響にもこの話は内緒にしてほしい。

 何より、真剣に聞いてほしい、と。


 そう前置きして、親父さんは本当の依頼を話し始めた。

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