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地下へと続く階段

 雅夫はバイクを止めフルフェイスを外して白い息を吐く。それはモヤになって街へと消えていく……

 それをじっと眺めてよしっと跨っていたバイクから降りると、身体(からだ)に潜んでいた疲労感がどっと襲い掛かる。ここ最近ずっと仕事漬けだったせいか疲れが溜まっていたのだ。

 身体の疲労感は気力を減退させ脳の働きを制限した。その感覚を押し切るように足を振出し丸笠見駅から自然公園のある方面へと進む。

 深夜の丸笠見駅周辺は恐ろしく静かだった。

 ここら一帯がゴーストタウンにでもなったかのように静まり返り、人影はどこにも見当たらない。まるで街から人だけを消し去ってしまったみたいだと雅夫は思った。その中雅夫の足音だけが反響し、鼓膜を揺らした。


 自然公園。

 栢沙智はあそこに行ったっきり何か月も帰ってこない。

 箱達の分析では彼女はまだそこにいるという。彼女の失踪と共に残された不気味な文章を解析した結果その結論が下されたのだ。

 これが何を意味するかはわからない。

 だが雅夫の足は自然とこの公園へと向いた。

 ここに来れば何かがわかるかもしれないという閃きにも似た感覚が雅夫をここへ導いたのだ。

 その様はまるで蜜に(いざな)われる虫のようでもあった。

 

 自然公園の中は木々がざわざわとさざめいて、それはどこか嗤っているように感じさせる。

 雅夫は箱達の分析結果の一部を印刷して持ってきていた。その中の位置情報を示した紙を取り出し、それを片手に自然公園を散策する。そしてすぐに箱達が指し示した場所にたどり着いた。

 持っていた紙をクシャりとポケットの中に押し込むと、持ってきていたライトであたりを照らす。

 そこは顆粒(かりゅう)を固めたような素材で覆われたジョギングコースと木々の生い茂る散策コースの間。落ち葉が天然の絨毯を作り踏みつけるたびにクシャリと音を立てた。

 しばらくあたりを歩き回ってみるもやはり何もない。

 場所を間違えたのかと思い紙を取り出して確認してみるも、やはり指し示された場所はここだった。


 やはり勘違いだったか。

 雅夫は落胆とも安堵とも言えない感情を消化しながら「ふぅ」と溜息を吐いた。

 あるのは落ち葉だけだ。

 そう思い落ち葉を蹴飛ばすと下に排水溝の(ふた)のようなものが見えた。

 なんとなく覆っている落ち葉をまた蹴飛ばして、その下に潜んでいた網状の鉄の蓋を目に収めようとする。その蓋は思った以上に大きいもので落ち葉を蹴っても蹴ってもその全容を目に収めることができない。

 そうしているうちにその蓋の網目の隙間から下にコンクリートの段のようなものが覗けているのが確認できた。今度はそれを見るべくさらに落ち葉を蹴飛ばしライトで照らす。


 ――そこにあったのは階段だった。

 下水道の工事用の入り口だろうか……しかし、と雅夫は考える。

 人が行き来する公園の敷地内にわざわざこんなものを設置する必要はないように思われる。工事をするにしても機材を搬入したり、フタを開けて作業するためには公園を封鎖する羽目になるだろうし、ここまで車両を乗り入れる様子もイメージできなかった。

 何より、果たしてこんなものが以前あっただろうか。

 前に実地調査のために自然公園(ここ)を訪れたときもこの場所は通ったはずだ。もちろん念入りに調べたわけではないから気が付かなかっただけかもしれない。しかし落ち葉に埋もれてたとはいえ相当存在感のあるものなはずだ。軽自動車一台分……というと大げさかもしれないが、面積で言えばそれに筆頭する穴がここに空いている。

 こんなものがあったなら気が付くはずだ。

 何よりこの『階段』の存在はこれまでの調査を覆すものに他ならない。

 監視カメラの死角に階段(こんなもの)があったなら消えた原因としてまずこれを疑う。むしろこれしか考えられない状況になるはずだ。

 雅夫は記憶を巡らせてこの階段の存在について考える。

 警察発表にもなかった。柊一郎が調べたものにもこの情報はなかったし、雅夫が仕入れた見取り図にもこんなものはなかったように思う。箱達の分析でも指摘がなかったようにこの階段はやはり存在しなかった。


 雅夫はこう考えた。

 これはずっとここにあったものではなく、今こうしてここに現れたものだ。

 何よりの証拠としてこの階段は自然公園(ここ)に同化していない。

 あまりに現実感のない考えであったが今の雅夫は確信するようなものがあった。

 

 とりあえずこれを調べてみよう。そう思って残りの落ち葉を蹴散らし鉄の蓋に手をかける。するとそれは思った以上に軽いもので持ち上げて引きずることであっさり開けることができた。ライトで奥の方を照らしてみるとかなり遠くまで続いていてその果てを確認することができない。

 呼ばれている……

 雅夫は何故だかそんな気がした。

 この構造もどこか不自然だ。

 この勾配で階段が進めば公園の中央部まで及んでいるということになる。どこに続いているかはわからないが、相当深く広大なものでないと辻褄が合わない。

 しかし現実感がなくこの場に馴染んでいないこの階段は確かにここに存在しているのだ。


 栢沙智もこの中に……

 消えたその少女の行方。ずっとこの失踪に関わった人間を悩ませていたものの答えはこの階段にあるのかもしれない。

 消えたという事実、そして平良の不思議な経験。世界中で起こっている失踪事件。道忠が言っていたオカルト解釈。

 そして箱達が文章を解析して自然公園(ここ)だと示したこと。

 これらはすべてこの階段に続いている。

 雅夫は導かれるように、そして誘われるようにその階段を降りていった。


 

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