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俺の転生体は異世界の最凶魔剣だった!?  作者: まさみゃ〜(柾雅)
三章 神を冒涜する腐敗都市
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70 獣

待たせたな!!(CV:大塚明夫)

 いやぁ、実に長い回想だった。お陰様で退学するまでの準備が整ったよ。

 因みにあの黒いアルカナは取り出せないことが判明しました。はい。


「……さてと」


 学長室の扉を開ける。

 ノック? そんなもん要らん要らん。


「とうとうノックもしなくなったね……君……」

「そりゃぁ魔王ですから」


 柔かに俺は答える。


「ねぇ、知ってる? 魔王って単語は免罪符じゃ無いんだよ?」

「へー、そうなんですね。知りませんでした」

「しかも魔王のレベルが2になってから更に態度が悪化してるし……」

「もうヤケですよこれは。その場のノリで生きているだけです」

「た、質が悪い……」


 ぐぬぬと唸りを上げる学長。退学させないから苦しむのだよ。


「退学させた方が精神衛生上よろしいかと思うのですが?」

「私的な理由で退学させたら世間体が痛いんだもん」

「俺がスキル|《魔王》を所持している事を理由にすれば良いのでは?」

「そしたら君、追われる身じゃん。君が望んでいるようなことが出来なくなるよ?」

「じゃあ自主退学しかありませんよね?」

「………………」


 何故黙るんだ。


「何故黙るんです」

「……負けた感じがしてなんか嫌」

「子供か」

「ほら、僕って見た目は子供だから」


 だからって……


「…………はぁ。まぁ、もう頃合いかな。今の時期なら今後、大して問題は起き無いだろうし」


 おっと? これは?


「君の退学を認めよう」

「やった。これで勇者くんとはおさらばだぜ」

「悔しい……」


 それに、学ぶ事が思ったよりも無かった。どれも日本で習う事ばかりだったし、魔法・魔術に関してはキリカの実家で習った事以上の発展は無かった。ただ詠唱や悪魔学が古かったのはビックリしたけど。

 それなのにあと二年拘束されるのは正直時間の無駄だと思った。


 退学の理由としては「学費を払うお金が無い」という事にした。一応キリカの母から援助の話は貰っていたが、あらかじめ断っておいて正解だった。こんな所で無駄な出費はさせない方がいい。編入費はどうしたかって?腐ってた転生特典から出したよ。貰った忘れてかけてたし。

 ただ、編入を手伝ってくれた事に関しては本当に有難いと思ったし、自分の都合で退学した事は申し訳ないと思っている。キリカ達とは暫く離れる事にはなるだろうけれどこれは再開した時覚悟しておこう。



 寮の部屋を整理し、まとめた荷物を収納する。その次に要らないと判断した物を置いて部屋を荒らして……あ、魔物の血もぶちまけておくか。


「……別の場所で登録し直すか」


 学生証は退学届の提出と同時に返した。だから冒険者の資格はもう無い。ランクは良いのかと訊かれたが、地道に上げ直せばいいと答えた。


「……方角的にアッカード……かな」


 アトラが最近よく視線を向ける先の土地。そこにアトラが向かいたいらしい。






 目的地はアッカード帝国。事前に調べておいた情報なのだが、過去に一度滅びかけた事があるらしい。その原因が疫病の蔓延、民衆の暴動、太上皇の暗殺、皇帝の急死。そんな厄災が重なり、帝国内は混沌としていたという。


「ただ、そこに一人の金の瞳を持った魔術師がやって来て無事、帝国は今も生きている……と」


 馬車に揺られながら俺は、読んだ本の記録を思い出す。

 金の瞳を持った魔術師。この人物は何処の国の歴史に登場しているらしく、


 ・ある国では勇気ある可憐な少女の姿

 ・ある国では山羊の角を生やした悍しくも魅惑的な女性の姿

 ・ある国では黒い子共を連れた女性の姿

 ・ある国では狩人の魔神を従えている少女の姿

 ・ある国では名も無い黒き二十二の怪物達を召喚する少女の姿

 ・ある国では黒い山羊に跨った麗人の姿

 ・ある国では白い翼を生やした淫魔の姿

 ・ある国では四つの獣の力を持つ亜人の姿

 ・ある国では三対羽の女悪魔の姿

 ・ある国では七つの呪いを身に宿す女の姿


 と容姿の説明がバラバラである。ただどの国も共通して、金色の瞳と長い黒色の髪を持つ女魔術師であるということ。そして魔法は扱わないらしい。帝国の事を調べている間、その人物の事が何故か今も頭から離れなった。


「おや、金色の瞳を持つ魔術師をご存知なのですか?」


 突然、誰かが話しかけてくる。思考の海から意識を戻して俺が声のした方向を向くと、そこには金色の瞳と黒色の長い髪を持った美少女がいた。その隣には眼鏡をかけた学者と思われる金色の瞳で緑髪の美青年。背格好からして美男美女の歳の差カップル……?


「えっと……」


 確か今乗っている馬車が出発する前に駆け込んで来た二人だったよな……?


「うちの妻が突然声を掛けてすまない。ただ、君の呟きが気になったらしくてね……」


 妻……歳の差が気になるけど……


「もしかして学者の方でしょうか?」

「僕の方がね。妻は興味を持ったもの以外は興味を持たないけれど――」

「あなた?」

「……すまない。脱線しかけた」

「い、いえ。あ、自分は――」


 自己紹介をしようと思ったが、思い留まる。特に確証は無いが、俺は本能的に彼らに本名を名乗らないほうがいいと思った。


「ライって言います。あなた達は?」

「僕はヨグ、しがない学者だ。彼女は妻の――」

「ピュルテと言います♪ それで貴方は金色の瞳と長い黒色の髪を持った魔術師をどう思います?」


 やたらとグイグイ来る人だな……それに魔術師の特徴と同じ金色の瞳と長い黒色の髪を持ってる。いや、これはたまたまだろう。


「そうですね……今まで読んだ資料で憶えている限りでは違和感がある人物かと」

「へぇ……そうなの。あ、そうそう、口調は砕けたものにしてちょうだい? 私、かしこまった感じの空気が苦手なのよね」


 一瞬、彼女の雰囲気が変わった気がした。


「……お言葉に甘えて。あんたもこれで大丈夫か?」

「嗚呼、問題ないよ。妻がワガママ言ってすまないね」

「いえ。と言うか……」

「若いだろう? 僕には勿体無いくらいだよ」

「私が若いのが不満?」

「いいや、そう言う事じゃないくてね……」


 敷かれてるなこれは。頑張れヨグさん……


「あ、それで具体的にどんな違和感を覚えたのかしら?」

「具体的にか……表現し難いんだが、なんかこう、彼女のした行動やその時の環境? の記録が上から書き換えられている感じ……かな」

「なるほど……ね。貴方、優秀なのね」

「優秀? まさか。ほかの頭が良い人、例えば歴史に精通した学者とかならすぐに気付くと思うけど?」

「そうかも知れないわね。それで貴方は彼女の事、気になる?」


 まるで全てを知っている様な口振りだ。ヨグさんは……頭を抱えて溜息を吐いている。結構う苦労しているんだな……


「気にはなるが深く知りたいとは思わないな」

「そう……残念だわ」


 残念って……と思っていると、彼女は続けて言う。


「ただ一つ、これだけは覚えておきなさい?」

「……何を?」

「真実は黒山羊の(ハラ)の中にあるの」

「黒山羊の……胎……?」

「君、ライくんだっけ? 戦えるんだろう? ちょっと戦う準備をした方がいいよ」


 先程の言葉の意味についてピュルテさん訊こうとした時、ヨグさんが突然そう言い出した。そして、それと同時に御者が叫ぶ。


「と、盗賊だ!!」


 俺は急いで魔剣に手をかけた。


「金目の物と女を寄越せ!!」


 外から野太い声が聞こえてくる。俺は急いで馬車の荷台から飛び降りて魔剣を鞘から抜く。


「アトラ、逃げ場を無くすように糸を頼む。余裕があれば罠を仕掛けて良いよ」


 背中に引っ付いていたアトラがすぐに指示通りの行動を開始する。


「面倒な事をさせないで欲しかったな、畜生!!」


 減速していた馬車を追い越し、一応盗賊に警告をする。


「今投降すれば命は奪わない!! それでも良いのならかかってこい!!」


 ただ、俺はガキだと舐められるだろうね。実際俺の魔物との戦い方なんて我流みたいな物だし、盗賊みたいな人間相手に通用するかねぇ……


「エンハンス:スピード、ストレングス。これなら使っても良いでしょ? あなた?」

「……そうだな、その魔術なら問題ない。ただ、あれだけは本当に使うなよ?」

「わかっていますって」


 急に身体が薄い光の膜に覆われたと思ったら後方からそんな声が聞こえてくる。


「へへ、あんな上玉がいるならなおさらだ。おめぇら!! 邪魔な奴はこのガキだけだ!! さっさと始末するぞ!!!!」


 しかし何も起こらない。不審に思ったリーダーと思われる男は振り返ると、そこには微動だにしない仲間の姿があった。


「お前ら!! 何やってんだ!!」

「ち、ちがいます!! 動いたら死んじまうんです!!」


 よく見ると、元は人間と思われる肉塊が一つある。そしてその上には未だに血が滴っている細い糸があった。

 流石アトラ、要望以上の事をしてくれる。


「さてどうする?」

「こうなったら……コイツを使うしかねぇなぁああ!!!!」


 男が懐から、黒い宝玉の様なものを取り出した。そしてその宝玉が黒く発光すると共に、男は宝玉と同化し始める。

 その男の行動に俺は驚いてしまい、咄嗟に動くことができなかった。男の肉体は、骨が折れたり肉が引き千切れたりしている様な音を立てながら変形していく。

 変形している時の表情は、苦悶と恐怖に染まっていた。おそらく、自身の予想とは違う現象だったのだろう。

 そして音が収まった頃にはもう、先ほどの男の面影は無くなっており、醜く涎をぼたぼたと垂らす巨躯の獣が二つ足で立っていた。

次話更新はまた期間が空くと思われる()

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