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俺の転生体は異世界の最凶魔剣だった!?  作者: まさみゃ〜(柾雅)
三章 神を冒涜する腐敗都市
75/81

65 (●´ω`●)

 焦っていても仕方がない事は分かっている。けれど、キリカは自身の力をいつもより思うように使えていなかった。

 咄嗟に使ってしまったスキルの効果は永続的なものではない。時間が経てば元の髪の毛に戻ってしまう。だから、苦痛の声を上げる彼の為に、手早く仕留めなければならない。


「成る程、いつでも出る事は可能だったのか」


 話す必要はない。ただ、彼の為に剣を振るえば良い。自身にそう言い聞かせながらキリカは大剣を片手で斬りつける。空けた片手には血で赤く滲んだ包帯がある。その赤色は、包帯のまだ白い部分を少しずつ侵していた。

 そのキリカの包帯部分を、複製した目で捉えたモルディギアンはそこを目掛けて触手を伸ばす。しかし、その触手はシャヌアによって防がれてしまった。更にシャヌアは、矢の雨をキリカに当たらないように降らし続ける。


「チィッ! 邪魔をするな、イゴールナクの信者が!!!!」


 怒りに任せて触手が力強く振るわれる。その触手は確かに空を飛ぶシャヌアを捉えたが、今度はキリカによって防がれてしまった。

 着々と攻撃手段である触手を斬り落とされては回復することの繰り返しに、体力は減る一方。正に、巨大化したボスが本当は強いのに弱体化してしまったように思えてしまうあのh……いや、何でもない。

 手も足も出ない状況を作り出せたのは好都合。しかし、早く決めに行かなければならないと焦ってしまう。

 と、そこでモルディギアンの攻撃が緩む。何かに意識が向いているかのように、攻撃の一つ一つに力が弱くなっている気がするのだ。


「これは……? ――っ!? シャヌアちゃん! そこから直ぐに離れて!」


「え? わ、分かった!」


 シャヌアがキリカの指示通りに離脱すると、先程シャヌアがいた位置に向かって一直線に何か濁ったものが勢いよく噴射された。腐乱臭を放つ濁流が、ゆっくりとキリカの方へ照準を合わせていく。濁流が触れた所には、泥や腐った肉片、嘔吐物の様な液体がこびり付いている。


「き、汚い……」


 シャヌアは顔を顰めて言う。でも、実際に汚いのだから仕方がない。キリカも同じ様に不快に思うが、我慢して再び触手に斬りかかる。


「ケイトさん……!!」


 まだうつ伏せに倒れたままの彼に為に早く終わらせなければと攻撃の手数を増やす。いつか来るとは思っていた彼の魂の定着が、あまりにも早過ぎた。普通ならばあと二、三年は必要な所を、今日で一気に終わらせたのだ。その為、身体や魂にも負荷が掛かってしまう。もし、失敗してしまったら軽くて記憶の欠落、最悪の場合は消滅。

 けれど、焦り過ぎたキリカは背後からくる触手には気が付かなかった。


「きゃあっ!」

「キリちゃん!! っ!?」


 触手に捕まったキリカに反応して、攻撃を止めてしまったシャヌアも続いて捕らえられる。足首から捕まり、腿、胴、腕、首の順番に、後から伸びる触手が巻き付いた。

 触手は泥から生えている。モルディギアンが外した濁流が、いつのまにか移動していたのだ。

 キリカは足で、シャヌアは飛んで抵抗するが、触手は泥に彼女達を少しずつ引き摺り込んでいる。


 ――いやあぁ…………けいと……さん………


 首を同時に絞められているため、二人の意識は徐々に遠退く。キリカの大剣は唯の髪の毛一本に戻り、握られた手からするりと抜け落ちた。それでもケイトの方へキリカは手を伸ばす。

 けれど、ついにキリカの意識は落ちた。











 ――何かを失いそうな気がする……


 痛みに魘されていると、俺は一つの喪失感が目立ってきている様に感じた。その喪失感は事後で得たものではなくて「予感」。


「だめだ……」


 皮膚の下で、何かが蠢き廻る感覚に吐き気を覚える。筋肉が千切れては無理矢理繋ぎ合わされる様な痛みもある。


 ――神経が焼けそうだ……


 左目から生暖かい液体が滴れる。そして頬を上から下へなぞり、地面に滴り落ちた。


「彼女は……」


 俺は、何の為に彼女を失うのを恐れる?

 彼女は俺に好意を抱いているのは分かっているが、俺は彼女の事をどう思っていた?

 俺は……彼女の事を何も感じていない。居て当然、居なくても変わらない……馬鹿か。

 俺は……にいつのまにか彼女に依存していたようだ。

 拠り所を失うわけにはいかない。


 ――だから……


「邪魔するモノは排除する」


 一気に痛みが幻覚だったかのように消えた。身体が軽い気がする。


 ――ただ、今はそれよりも……


 四つん這いの状態のまま、辺りを見回す。闘技場には嘔吐物の様なものが散乱している。目立って壊れているものは無いが、所々瓦礫の小さな山があった。そして、今にも意識が落ちかけている、手を伸ばす水銀色(みずがねいろ)の髪の少女。


「……キリカ!!!!」


 脚部に力を入れて地面を蹴る。それと同時に、両手で地面を押して走りながら体勢を整える。

 彼女との距離は遠いが、幸いな事に今の状態なら間に合う。そう確信出来る。現に、彼女の手は意識が落ちたと同時に垂れ下がるが、俺はそれと同時に彼女の腕を今、掴んだ。


「邪魔だ」


 触手に力強く引かれる彼女の身体に腕を回す。それと同時に、絡みついていた触手を切り落とした。所々、泥や触手とかで彼女の肌が汚れてしまったが無事でよかった。

 俺はキリカを抱え、序でにシャヌアの安否を確認する。


「さて、聖女は……」


 幸せそうな顔で涎を垂れしてる!?

 一応顔が蒼ざめているから窒息しかけているのだろうけどえ、ちょ、え?

 いや、一旦落ち着こう。そうだ落ち着くんだ俺。小説とかでは結構良いシーンだけど、マゾなあの聖女が雰囲気をぶち壊してくれている事は考えるな……


「い、一応キリカの友達だし助けるか……」


 シャヌアに絡みついている触手の根元を切る。触手は、切れた途端に液状化し、それと同時にシャヌアは地面に自由落下してぶつかった。

 自由落下とは言え結構な高さから落ちたから、痛いでは済まされないのに流石は聖女。地面にぶつかった瞬間、よほど気持ちよかったのか達しやがった。


「本当、何でキリカはこんなヤツと友達になったんだ……」


 絶頂してピクリと動かないシャヌアを肩に担ぐ。触手の泥で多少汚れているが、何故か手を出してこないモルディギアンが再び暴れるか分からないので気にしないでおこう。


「うっわ、唾液が……さて、次は委員長……」


 腹部に穴を開けた阿木(アギ)律子(リツコ)のもとに歩み寄る。


「…………」


 言葉が湧かない。当たり前の事の様に悲しさは感じず、俺はただ横たわる彼女を眺める。けれど何処か懐かしい。


「急に止まってどうした?」


 モルディギアンが声をかけてくる。俺はシャヌアを適当に下ろして、キリカを丁寧に地面に寝かせてから声のした方を向いた。


「何でもない。ただ、何処か懐かしい光景だなって思ってね。ところでさ、お前は優しいなって思ったんだが」


「優しいだと? 何処がだ?」


「この国の住民の暮らしを見て思ったんだ。お前、神として信仰されていると同時に喰い物にされてるな、ってね」


「…………」


 何も帰ってこない。やっぱり、彼は薄々はそう思っていた様だ。


「疲れたなら辞めればいいじゃん。民のためとか言って必至に我慢して何になる? 裏切り者として扱われるのが嫌なのか? そんなのアイツらの勝手だろうが! 勝手に信仰して、自分達の為だけに環境を整えて貰うだけで、アイツらはお前に何をしていた! お前は確かに神性を持った存在だが、ただそれだけだ! この国は信仰と恩恵のバランスが明らかに偏っている! それでもお前は奴らに尽くした様だけどこの状況はどうだ? 観衆は全員、お前がボロボロになった途端に死ぬのを恐れて逃げた!」

「黙れ黙れ黙れ黙れ!!!!」


「確かに俺はもう疲れた。信仰してくれる彼らの為に尽くしたが何も返ってくる事はない。あのお方の様な精神的な強さは俺には無いんだ」


 人の姿に変化しながらモルディギアンは話し続ける。


「それでも、俺には王の責務と言うものもある。だからこそ、裏切る事も、負ける事も許されぬのだ!!」


 怒鳴り声と同時に肥大化したモルディギアンの右腕が、口を大きく開けて呑み込もうと迫ってきた。

_:(´ཀ`」 ∠):じゅけんべんきょうのいきぬきじゃい……

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