63 聖剣契約(仮)
牢屋がある方角から、物凄い聖気を感じる。それも、俺の本体である《魔剣:メラン=サナトス》と似た物だ。モルディギアンも気付いているようだが、無視したようだ。
「さて、そろそろ始めるとしようか」
そこには、表現するには明らかに人の言語では足りない姿だある。黒い芋虫と言えばそう見える。しかし、四肢と目が無く、肌には苦悩の表情をした人の顔に見える模様が見える。文献によれば、目を開けることは出来なくなるほどの眩ゆい光を放つ様だが、それは無いらしい。
彼の周りには目の機関を代用する為の様に思える眼球が踊り、四肢の無い身体を支える様に虫類の触手が多数生えている。
「この姿を見て臆する者は多い。魔剣よ、貴様は立ち止まって背を向けながら逃げる賢者か、立ち向かう愚者か。何方だ?」
楽しそうにモルディギアンは問いかけてくる。
しかし、その問いは選択肢が一つ足りない。俺は〈実体化〉を使い、モルディギアンの問いかけに答えた。
「俺は賢者でも愚者でもない、何方にもなれないただの平凡な存在だ。たまたまこの魔剣で生を受けただけだ」
そう、俺は賢い人間ではない。生まれが特殊なだけであって、性質は生前と変わらない。
「逆にお前は俺をどう見るんだ?」
「俺にはお前が愚者に思えるぞ、魔剣よ。アトラク=ナクアやイゴールナクを殺した愚か者だ」
何故それを知っている。お前達は……本当に何なんだ?
「本来、旧支配者や外なる神と呼ばれる俺たちは不滅だ。しかしこの星は特別でな、精神生命体である俺たちは勝手に受肉させられるのだよ。だから、本物の死というのがこの先にある。ま、それでも殺した人間を殺せば再び蘇る」
「そもそもヒトは、未だにお前達を殺せていないだろ?」
「ま、そうだなっ!」
モルディギアンは突然、多数の虫類の触手を伸ばしてくる。俺はそれを咄嗟の判断で、正面から来る触手を剣で受けた。腰を落とせなかったので軽石の様に吹っ飛ばされるが、胴体に穴が開くよりかはマシだろう。しかし、もっとも警戒すべきなのは、モルディギアンの呑み込み攻撃。奴の呑み込み攻撃は『死』と言うダメージ。例えるならゲームで言うHPが多くても死ぬ即死攻撃。俺の場合は魂のストックがあるが、それでも死ぬだろう。
だが、回避する方法が見当たらない。
「クッソ、呑み込み以外負傷しないで捌ければ……」
「ほう……俺の特性を知っているか」
感心した様子でモルディギアンは俺を見る。まあこの知識は委員長が教えてくれたからだが……
最近までクトゥルフ神話を知った原因が分からなかったが、彼女から教わったんだった。異世界転生や転移ものを読む前の予備知識として……ね。まさかここまで役に立つとは思わなかったし、実在するとは思わなかった。
「とある本を読むにあたっての予備知識程度だがな……」
瓦礫の上で本体を突き刺す。そしてスキルの〈死神の眷属〉を使用する。
「その姿は……面白い」
俺の衣装はイゴールナクとの戦いの時と同じ黒い燕尾服に黒いチェストプレートへと変わる。魔剣は戦旗と化し、禍々しい黒紫色のオーラを発している。
「貴女の力を貸してくれ……《深淵蛛》」
黒かった衣装が変化する。燕尾服からフード付きのコートへ。ズボンはサルエルパンツと似たようなゆったりとしたもので、ワイシャツはゆったりとした黒い無地のシャツ。戦旗から複数の暗器へと変わった。いわゆるイメージ的な暗殺者スタイルと呼べる。
この機能は本体に一時的に戻った時に使えるようになっていたことを知った。あ、これ、キリカに使わせたら衣装はどうなるんだろう?
「彼女の力の一部を具現化させたのか……」
「ああ、一部と言っちゃ一部だな……だが、こうする事もできる」
俺は背中から腕を四本生やす。それぞれの手には暗器のナイフが握られている。そしてその腕をモルディギアンに目掛けて暗器で刺すように伸ばした。
「何っ!?」
腕は確かに人間の腕だが、それは肘の後ろから昆虫のものになっていた。ただ、それが彼の驚きの原因ではない。彼が驚いたのはその腕が迫る速度。正直に言うと、俺もここまで速く奴まで届くとは思わなかった。
毒が塗られた暗器の刃が、モルディギアンの一つ触手に四つとも刺さる。咄嗟の判断で庇ったらしい。
手放された黒い暗器は、しばらくして黒紫色の粒子となって消えた。だが、まだ暗器は沢山あるので問題ない。
「チィッ、油断した!」
暗器のナイフに塗られていた毒によってモルディギアンの口元は苦しそうに歪む。真っ直ぐ立っていられないほど意識が朦朧しているらしく、少しフラつきながらも触手で身体を支えていた。
「まだまだ触手はあるみたいだな」
崩れ落ちていく彼の触手一本を見送りながら奴の出かた伺う。
「何……の、毒…を仕込ん……だ、こ……僧……!!!!」
彼の今の状態は、吐き気や目眩、激しい動悸だろう。因みに、ヒ素とテトロドトキシンとシアン化カリウムの三つを適当に混ぜたものだよ。それらの代表格の症状が出るかは賭けである。え?酸性と塩基性だから中和しかいのかって?多分大丈夫でしょ。此処って一応『ふぁんたじー』な世界だし。
「適当な毒を三つ混ぜただけだよ。それにしても、強制受肉させられていたから毒が効いて良かった……普通なら効かないでしょ?」
「ぐっ…………仕方あるまい……」
モルディギアンは食屍鬼を十体召喚する。そして彼らを、俺に目掛けて神風特攻をさせてくる。
ゾンビより筋力がある彼らの移動スピードは恐ろしい程に速い。しかも、身体の至る所に爆破の呪符が縫い込まれていた。
俺は、神風特攻して来た奴らの頭部に目掛けて暗器のナイフを投擲する。複数体なので、流石に変な方向へ飛んでいくナイフが出てくるが、あらかじめ蜘蛛糸を結いつけていたから心配は無い。
「いやー、思い付きで行動するって結構面白い事ができるなぁ」
はい、深淵蛛の力の一部を借りると言う戦法は単なる思い付きだったのだ。チートと思ったのならそう思えばいい。だが、これ結構操作が難しいです、はい。
「思い付き……? クハハハハッ、思い付きでこの俺と殺りあっていたのか! 面白い! 実に良い愚行だ! その愚行、俺に向けるとは万死に値する!!」
あー……怒らせちゃったぜ☆
(°▽°)きよひー可愛い




