61 半人半蛇の姫
投稿するの忘れかける……ε-(´∀`; )
太刀を構えて待つ。修復された、対戦相手が登場する門からは骨がぶつかり合う音が聞こえる。
「次はスケルトン系か……」
日本刀なら骨までも斬れるようになっているはずだが、生憎ここは異世界だ。日本刀のような刀があるか分からない。
相手側の門がゆっくりと開かれる。抑えられていた骨のぶつかり合う音の大きさが更に増した。もう日は暮れ始めている。祝福された太陽の光は、この国の王がどうにかしているらしく、日の下でも平気で不死者達はが出歩けていたらしい。しかし、奴らは夜になればなるほど強くなる。つまり、昼間に戦った門番や死寄生が不死者だったと仮定すると……
「バランスブレイカーめ……」
昼までも十分強かった奴らと似た様な相手の強さは分からない。けれど、不死者でしかも王からの加護を授かっているから強いに決まっている。
それでも……
「それでも勝たなければいけない」
勝とうとする理由なんて後から言える。けれど、今は必然的に勝たなければならない気がするのだ。
「来た……って………骨の…ラミア?」
沈みかけている太陽の明かりが相手を照らす。ただの骨だけで身体が支えられている。蛇の骨格に普通に人の骨が合わさった魔物が、二つ手に肉がまだ引っ付いている人骨の短剣を握っていた。
主な攻撃方法は短剣による近接攻撃。それと石化の呪法を使用するらしい。
実況担当の食屍鬼がご丁寧に説明してくれる。彼女の名前は……って、ちゃんとスケルトンにも性別あるのか。ま、まあそれは置いておいて、名前は蛇姫らしい。名前からして蛇系統の魔物の姫の位置……なのか?
一応鑑定をすると、本名はラーヤで種族はラミアプリンセス=ハイスケルトンとでできた。戦闘能力は夜に近い為、攻撃力と守備力などそれぞれにプラス補正が少しかかっている状態だった。
「……さて、硬い骨をどう倒すか。か……」
正直、今になって焦っている。この身体は本体が離れているが一応、維持の為に大気中にある魔素を取り込んで身体を構築している。そこにたまにだが魔法を使っているから魔素の消耗が激しい。だからいつ、この場の魔素が薄まるかも分からない。
カラカラと骨がぶつかり合う音が大きくなってくる。
色々考えていたら、いつのまにか蛇姫が目の前まで迫っていたらしい。
俺は咄嗟に太刀を下から上へ振り上げ、蛇姫の右手で振り下ろされる短剣から身を守る。そしてそれを見越されて振られる左手の短剣を躱す。その為に、太刀で受けた短剣は下に流すように受け流し、その勢いを利用して前に出た。
勿論目の前は骨だ。そこで、前進と同時に片脚を軸に回り、その遠心力を利用して殴る。
「かっった!?」
鉄の壁に裏拳をぶつけた感触だった。グローブはしていたが、それ越しでもかなり痛い。
ただ、痛みに悶絶する余裕はない。
俺はすぐに蛇姫の脇下を潜り抜けるように足を運び、後から何かが刺さる音を聞いた。振り返れば、地面に蛇姫の持っていた短剣が深く刺さっていたのだ。
「骨なのに怪力かよ……」
太刀を構え直し、息を整える。手の痛みを意識的に無理矢理忘れさせながら俺は蛇姫に接近した。
足運びを工夫して、一気に詰め寄る。そして太刀に水を纏わせて斬った。水で保護された太刀は勿論折れてもいないし、水の圧力を強くしていたので蛇姫の肋骨が数本斬る事が出来た。
まだ、あの仔が来ていない。あの仔は賢いから、アレがこの場に来た時に持ってきてくれるだろう。
「……だから、それまで負けに進む訳にはいかない!」
せっかく貰った第二の人生。死を従える彼のもとで死ねば、俺も住民になってしまうだろう。いや、そもそもこの身体は魔素で構築されているものだから、死体にはならないのか。
それでも、彼女の悲しむ顔は見たく無い。
だから俺は今を生き延びる。
―懐かしい……
この国に来てから何故か世界が色褪せて見える様になってきた。
―何時振りだろうか?
何にも縛られない、この身軽さ。生きるのが楽しい。
―この高揚感は……!
再び、先の死合いと似た様に、時の流れが遅く感じるようになった。勿論、スキルとして思考加速は使っていない。なのに、だ。蛇姫に攻撃を当てたり、彼女の攻撃をかわす際に遅いと感じられる。
「〈乱舞:乱レ紅桜〉」
記憶が重なる。
これは、とある異邦人の記憶。
彼の目の前には姦姦蛇螺に似た魔物。
それを、彼は一振りの刀で斬り倒した。
魔物の鮮血は花びらの如く散りばめられ、近くに居た彼を朱に染める。
ただ、見た記憶の鮮血である為、舞うのは砕けた蛇姫の骨。
「……これで……終いだ」
蛇姫の身体を切断するまでには至らなかった。しかし、所々にヒビや斬り込みか付いている。
だから、その留めに太刀の刃に水を纏わせた。
「……おやすみ」
不意に、自分らしく無い言葉が溢れ出た。それに驚いたが、その時にはもう終わっていた。
[あり……がとう…………]
耳に聞き慣れない声からの感謝の言葉。自身に何かが入り込む感覚が強く、一瞬だけ視界がグニャリと歪む。ただ、それは直ぐに収まってくれた。
「やっべ………酔った……」
それでも視界の歪みで少し酔ってしまった。
口を片手で抑え、喉まで来ていた吐き気を軽く吐く。少し苦しくて、少量の涙が少し乾燥した目を潤しはじめた。
と、ここで馴染みのある波を俺は感じ取る。
「……やっとか」
波源を見ると、少年の食屍鬼兵士がアトラと一緒に俺の本体を抱えて王の下へ向かっていた。
王の前に着く直前、小さな蜘蛛として引っ付いていたアトラは途中で降りて隠れたようだ。だから、ゴモラを治める王にはバレていない。
剣を受け取った王は、自身の座る椅子の隣に剣を立て掛けると、再び深く腰を下ろした。
この距離なら問題無い。
「あの時のリベンジ戦……そろそろ始めようか」
〈境界収納〉からアキーの果実を一つ取り出して嚙る。未完熟な為、少し渋味がある甘い果汁。果実に含まれる毒性を流し込み、俺はこの後の戦いに備えた。