55 アトラ、ユクエシレズ
目が醒める。不思議と疲れがない。
「あれ……?確か俺は…………」
両腕は鎖で繋がれ、もと入れられていた牢屋に戻されたらしい。勇者(笑)は相変わらず呑気に寝ている。
「結局……死ななかったみたいだな…………」
本体がここにないことから推測した。それに、あの玉座の間にいた時と同じくサナの声が全く聞こえない。あの剣は、俺の本体であると同時に、殺めた生命の魂も喰らって貯蔵する倉庫でもある。離れて死んでしまったら、もうそこまでという可能性があった。
「んんっ……くっ、はぁぁ…………」
少し伸びをする。ずっと同じ体勢だったらしく、関節がパキリパキリと音を立てる。
「それにしても、よく寝た……」
意識が落ちる前、俺は紫色の霧に包まれた。その紫色の霧は、生物のように胎動しながら肌にまとわりつく。それに、生暖かかった。
そして、徐々に霧の濃度が増した時、耳元で何かが聞こえてきた。
『――! ――! ――!』
言葉として認識できない。俺の知る言語でないように聞こえるし、知っている言語にも聞こえる。ただ、聴いていて分かるのは、この声は聞き覚えのある声ということ。悲鳴のような、嘲笑いのような声。
脳にこびり付いてくる気を狂わせるような名状し難い旋律は、疲れ果てたこの身体には子守唄の代わりになる。
「まだ……地味に耳に残ってる……」
子守唄は小さくだが、まだ俺の耳の中で渦巻いている。しかし、その歌は衰弱していた。
「さてと……おーい、起きろー」
ゲシゲシと足で勇者(笑)を蹴る。
「……んあ?」
「あ、起きた。てか、よくそんな状態で眠れたなぁ……」
勇者(笑)は起きたばかりだからなのか、少しボーッとしている。そして今、自分の居る状況を少しづつ理解し始め、同時に意識が安定し始めたらしい。
「……なっ! おまっ、ってハァア⁈」
「おーい、よく眠れたかー?」
勇者(笑)は、自分の今の状態に驚く。
「何でお前は枷なのに俺は縄なんだよ!」
「ここの敵曰く、お前は“特に”心配する“必要のない”まだまだ“未熟な勇者”らしいよ」
悔しそうな目で俺を見てくる。まぁそりゃそうか。
「何もせずにスキルや名誉に頼るからお前は強くなれないしウザい。そんな使い方をするなら勇者をやめろ」
「なっ!」
「スキルや称号はただあるんじゃない、それらは使い方によっては強くなる。何も考えずに使っているうちはここの敵には勝てない」
イゴールナクを倒した事によって獲得したスキル〈威圧〉を同時に発動する。
緊迫した空気が場を制し、勇者(笑)の目に恐怖の色が映る。
「ま、俺には関係ない事だけどね〜」
「……っ、はぁ…はぁ……な、ならっ――⁉︎」
「ただし、俺のキリカには手を出すなよ?」
一旦〈威圧〉を解除するが、勇者(笑)が何か言い返しそうだったから再び威圧する。今度は殺気込みだ。
「言葉と行動は気をつけようね?」
俺はそう言って彼を見下す。悔しそうにしているが、少しいつもと様子が違う。これでいい方向へと変化していけばいいのだが……あ、別にそう言う感情はないよ?ただ単に今の状況だと邪魔だったからだよ?本当だよ?
「んっ……はっ! ケイトさん⁉︎」
私は勢いよく起き上がり、辺りを見渡しました。私は猛獣などが入れられるような檻に、シャヌアちゃんと一緒に入れられてしまったようです。檻の外は古びたお城のような所で、隣には玉座に誰かが座っていました。
ところで……アトラちゃんは?
「起きたか小娘」
「っ⁉︎」
真横から声が聞こえて私は身構えます。が、腰に下げていた剣がありませんでした。
「剣は預からせてもらった。今は大人しくしてろ」
「貴方は…………何者ですか?」
私は冷静を保ちながら問いかけます。
「俺か?俺の姿を直視するのはあまり勧めないが……」
「それは何故です?」
「俺たちは畏れられるモノ。かつて一つの星を支配していたモノ。その星の生命らは俺たちの姿を見て必ず発狂する。そしてこの星も同じだ。ま、それでも一人だけ平然としていた奴はいたな」
私は男の台詞に恐怖した。まさか存在するとは思ってもいなかったのだから。彼らは一人の文豪が生み出した架空の神話体系だったはず。それが今、ここに実在するのだ。
「……分かりました。貴方のことは直視しません。ところで……今までに貴方達で死んだモノはいるのですか?」
「小娘が何故それを訊く?ま、教えてやっても良いか。結論から言えば居ない。ただ、それではお前の持つ疑問は解消されぬだろう。俺たちは物体を持たない。故に死なぬ。俺ら旧支配者は決して滅びぬ。たとえ、永きに渡りルルイエの館にて生ながら死んでも。だ」
「そう……ですか…………(私にまだ神性があれば……)」
私は何故か転生してしまった。そのおかげで神性を持たないただの小娘となってしまいました。
ケイトさんはおそらくこの男にとっては害になる存在でしょう。けれど、話して思いましたが、この男は彼を殺すつもりはないような優しさが見えました。
「なに、心配するようなことではない。どうせ俺はもう、今後殺される事は決まっておる」
「最後に一つ……いえ二つ、良いですか?」
「許そう」
「まず一つですが、私たちと一緒にいた白い仔蜘蛛は見ませんでした?」
「白い仔蜘蛛?何だそれは?」
どうやら別行動のようですね。あの子は確かに賢いですけど……少し心配です。
「いえ、知らないのなら良いです。それで二つ目なのですが……」
私は本当に訊いても良いのか少し不安になりましたが、覚悟を決めます!
「貴方はどうして……そんなに優しいのでしょうか?」
次回、「アトラの大冒険!」
٩( ᐛ )وお楽しみに!
作者の諸事情により、12月中は投稿することができませんごめんなさいm(_ _)m
その代わり、必ず元旦に最新話を投稿します!
(°言°)決して聖なる夜に爆破テロを起こすわけではないのでご安心を……
(๑>◡<๑)まあ、ツイッターではいつも通り活動しますw
(´-`).。oO(冬眠……したいなぁ……)