54 お祭りの準備
えーと、こんばんは諸君。今晩はどう過ごしているだろうか?
今夜はどうやら雲一つない、満天の星空に綺麗な満月の様だ。魔剣に転生した織界圭人こと俺はただいま、食屍鬼や屍鬼が住む都市にある城の地下牢で鎖に繋がれている。そして、魔剣とキリカ達とは離れ離れの状態だ……
「ハハッ……………………ハァ、どうしてこうも運がない…………」
簡単に今の状況を説明すると、捕まりました。はい。
いや、ダンジョンにはちゃんと入れたんだよ?
「おまけにこいつと同室とか何の冗談だよ……」
はじめは問題なく森を突破しダンジョンに入れた。ダンジョンと言ってもただの洞窟系のものではなく、人間が暮らす様な街の様な外観のダンジョンだ。
俺の姿は食屍鬼なので、普通に暮らしている食屍鬼らには全く違和感を持たれていなかった。
だが、城の近くまで来た時に急に後頭部に衝撃が走ったかと思えば、気が付けばこの牢に鎖で両腕を天井から吊るす様に壁際に繋がれていた。
「しかも呑気に寝ているし……」
あ、因みに現在俺と同じ牢屋にいるのは勇者(笑)だ。おそらくこいつも城の近くで捕まったと思われる。
ただ、こいつも拘束は俺よりも簡素で、ただ縄でぐるぐ巻きにされているだけだった。
と、ぼーっとしているうちに、看守が俺の居る牢屋の前に来た。そして、看守の屍鬼が俺の枷を外して言った。
「王がお呼びだ。出ろ」
「ほう……それは光栄だが、こいつは?」
看守はこいつはそのままでいいと言って、俺が牢屋から出ると直ぐに格子戸を閉めて施錠した。
そして「付いて来い」とだけ言って、俺に付けた首枷の鎖を強く引っ張りながら案内を始めた。
「……来たか」
玉座の間に骸鬼が連れて来られた。確かに猟屍鬼の言ったいた通りこいつは骸鬼だ。見た目は食屍鬼の様な気もするが雰囲気は屍鬼に近い。しかし、どちらとも似ていない。
「俺の国にようこそ。それで……お前は俺の庇護を受けに来たのか? 骸鬼よ」
「がい……き?」
骸鬼と聞いて自身の種族を片言で復唱している。
「何? 己のことが分からないのか?」
「いや、すまない。長いこと生きていたから自身の種族を忘れていた」
「貴様!! 王の御前であるぞ!!」
「良い。此奴は外から来た者だ。多少の無礼は俺が許そう」
「それは有難い」
そのままの方が俺にとって、骸鬼の本性が探りやすい。しかし……こやつの瞳からは底が見えない。
「さて、本題としよう。あれを連れて来い」
俺は屍鬼に指示をして、骸鬼が連れて来た雌の人間三人を連れて来させた。もちろん檻のままだが。闘技場の景品として美しい彼女らは暴れられて傷が付くと困るので寝かせている。
「この人間はなんのために連れてきた? 俺の庇護を得るためか? 俺は不死者種は民として愛しておる。故にこの人間らは要ら――」
「俺はお前の庇護を得るために来たわけじゃない」
「なんだと?」
人間の処遇について話そうと思っていたが、骸鬼が割り込んできた。だが、面白そうだ。
「俺はお前の庇護を得るために来たわけじゃない。お前を……殺すためだ!」
骸鬼を拘束していた枷が勢いよく爆ぜて壊れる。その破片は周囲に飛び散り、周りにいた屍鬼達を瀕死まで追い込んだ。
「無駄だ」
拳を俺にめがけて奴は伸ばしてくる。その顔は笑っていて君が悪い。しかし、そんな攻撃は俺には通用しない。
俺は左腕でその攻撃を止める。衝撃で腕が破裂するが、痛くもかゆくもない。
「うっへ、感触が気持ち悪い……」
「この程度か……だが面白い! 実に面白い!」
「う、お、お……う………さま…」
腹の底から笑いがこみ上げる。この骸鬼の力は強い。しかし、まだ俺ほどではない。
「うっわ、もう腕が再生し始めてるし。気持ち悪い……」
「ほう……まだ喋れる余裕があるのか。ならば!」
俺は元通りに戻った左腕で骸鬼を殴る。この場に座っていても攻撃できる手段の為、少し火力が無いのが玉に瑕だ。
延々と伸びて骸鬼を追う左腕。彼が避ければ避けるほど、腕が分裂して追いかける。そして、分裂して彼を追えなくなった方が壁などにぶつかると縮み、元の腕に戻る。これは私の意思ではなく、腕が勝手に行うことなので、俺は何もしなくて良い。ただ、攻撃を絶対に当てるという意思を持てば良いだけだ。
「俺を殺す? はっ、ただ避けるだけでろくに攻撃も入れられないで何がしたい!」
俺には守るべき民がいる。だから負けられぬのだよ小僧。
骸鬼が俺の攻撃を避けるだけで、そろそろつまらなくなってきた。
「…………所詮下位生物はこの程度……か。もうよい。飽きた。遊びはここまでとしよう」
単調すぎてもう飽きた。だから俺は攻撃を止め、玉座から見下す。
「これからお前を処刑する。だが、この処刑で死を免れたのならまた牢に戻るのを許そう」
そう言って右手をかざす。避けることに必死だった骸鬼は、息を切らしてその場に膝をつき、攻撃してこない。
「そうそう、命乞いは要らぬから安心せい。だが、せめて良い散り様を俺に見せてくれよ?」
続けて詠唱に移すが、最後まで奴は動かなかった。
異臭を放つ紫色の霧がこの玉座の間に充満する。闘技場の景品となる人間とちょうど再生が終わった配下の猟屍鬼、そして俺を霧は包まず避ける。霧は胎動し唸り声を上げる。これは俺でも認知出来ない言語だ。だから使い勝手がいい。この霧に包まれた人間を見てきたが、この霧が発する言葉の意味を知った者はすぐに狂った。そうなると、勝手に仲間割れを起こしたり、自害する。
胎動する霧は徐々に動かない骸鬼を包み、それ以外の空間を晴らす。密度が高くなればなるほど効果が強いが……
「何も起きない……だと?」
叫び声も、血の噴出する音も聞こえない。
「何もせずに死んだのか……つまらん」
今までにこの霧に包まれた人間で面白い死に方をしたとすれば、自身の爪で胸部や腹部を引っ掻き回し、血が滲み始めると今度は自身の髪を引き千切り始める。すると頭皮から血が流れると、今度は持っていた短剣を取り出して、自身の足を刺したり切ったりし始める。そして最期に首にある太い血管を切って生き絶える。
俺はそれよりも面白い死に様を見たかったのだが……
「……なに? 息をしている……だと?」
予想外のことが起きた。だがこれはこれで面白い。
「クハッ、クハハハハハッ……面白い。実に面白い! 気に入った! おい誰か居らぬか! 居たらこの寝息を立てている骸鬼を牢に入れろ!」
「「ハッ!」」
「ん? お前はもう怪我は完治したのか?」
「ハッ! まだ完治はしておりませんが、何かを運ぶ分には支障はありません!」
「そうか、なら良い。この骸鬼は、勇者を自称する小僧と同じ牢で良い。他のところはもう老朽化して使い物にならんからな」
直さなければいけないが、あいにくこの国にはそう言う概念が無い。だから直せない。
「さて、早速闘技場で奴と戦わせる戦士や魔物らを集めないとな……」
まだあのお方の復活の兆候が無い。ならば、存分に楽しめるだろう……
_:(´ཀ`」 ∠):ストックが……恋愛ものに集中しすぎて一個しか書けてないです……