51 理ヲ与エシ神二背キ、生ヲ冒涜スル不死者ノ都
)^o^(リアルの用事がががが(ストックは少しある)
荒廃した都市。薄暗く汚れた街には沢山の食屍鬼が徘徊している。
その都市を治めていたと思われる小さな城には、屍鬼の兵が巡回している。最奥の玉座の間であったはずの場所に、王にして神が屍肉の玉座に鎮座している。
そして今、死して尚生きる、神を冒涜する不敬なる不死者達の都市、《腐敗都市:ゴモラ》の核を持つ王にして神は、招かれざる外なる神ととある話をしていた。
「まさか、此処で貴女様とお会いするとは……いらっしゃることが分かっていたのならもてなして差し上げたかった……」
「いや、それはよい。なにせ突然の訪問だったからのお……準備が出来ていないのは仕方あるまい」
女性の形をした外なる神は、ゴモラの主よりも遥か高い地位の者である。王は彼女に初めは跪くが、御顔を拝見する事を許された。王は青年のように若い見た目だが、口は左頬から耳まで裂け、右側の顔は芋虫の複眼群、破れ汚れた軍服に似た衣装に左腕は芋虫のもの、右足は裸足で人の様だが、反対に左足は少し腐肉がこびりついている骨だった。
対して女性は、腰まで伸びた深緑の色をした髪で、味気ないキトンを身に纏っている。ただ、両眼には眼球は無く、代わりとして緑色の炎がそこにあった。
「ついでにだが、この国を囲む森にムーン=ビーストや忌まわしき狩人を沢山配置しておいた。不完全な状態で呼ばれたゆえ、力が不充分で不死者らを作れんかった。そこはすまぬ」
「いえそんな!貴女様が私めに頭を下げる必要は要りません!指示が通らないのは致し方ありませんが、奴らは充分強い。民達には私から森に入るなと言っておきます。どうか貴女様は奥の部屋でごゆっくりお休みになって力を解放して下さい」
王は一人の屍鬼に森へ近づくなと民に伝えよと命を下す。屍鬼は王の命令通り、森へ近づくなと民衆に伝えた。王を崇拝する民はこの日から森を彷徨わなくなった。その為、一部の冒険者は森に違和感を覚え、ギルドに報告した。ギルドに召集された凄腕の冒険者や聖職者らは森へ調査へと向かう。だが、誰も森からは帰っては来なかった。
巨漢が森を走っている。息遣いは荒く、数時間も休まずに何者から逃げていたのだろう。仲間は奴に殺された。奴の羽音はまだ後方から聞こえ、自分との距離もそんなに離れてはいない。
「ぜぇはぁ…ぜぇはぁ…ぜぇはぁ……クッソ!」
もうあの姿は見たくない。今まで見てきた魔物よりも容姿が恐ろしく、こんな魔物を産んだ神に絶望する男。
「ぜぇはぁ…このっ…森っ……はっ、不死者っ…しか…いねぇ……んじゃねぇのかっ……よっ」
森中を木霊する他の冒険者や聖職者の断末魔や悲鳴がチラチラと耳に入る。体力の限界だが、男は死を恐れる。
ただ、耳に入るのは断末魔や悲鳴だけではない。見知らぬ魔物の羽音も着々を大きくなっている。
「ガハッ!」
男の感情が恐怖に染まる。前のめりに大きく倒れ、羽音が自身の真上から聞こえている。
「いやだ…死にたくnっ」
羽音の主が男の頭骨を噛み砕く。最後の最後に弱々しく生を請う男の言葉は虚しく遮られた。形を留めることができなくなった脳が、捕食者の口から垂れ出ている。汚い咀嚼音が、悲鳴と断末魔が走り回る森にただ大人しく響くだけだった。
女聖職者は絶望した。目の前で自分を護衛してくれていた冒険者が呆気なく死んだからだ。木の上からは、冒険者を殺した魔物らが嗤っている。女はただ神に祈りを捧げることしかもう出来ない。腰が抜けて、この場を去るにも立ち上がれない。ゴブリンならまだ生きることが出来ただろう。しかし、ゴブリンと似た大きさの魔物は、ゴブリンよりも知能が遥か上回っている。
「いギ、ダイが?オん"ダ」
嗤っていた魔物の一匹が降りて話しかけてくる。その姿はあまりにも冒涜的な形状で、聖職者の女は神に祈るのを止めた。心の底から笑いがこみ上げてくる。
「アハッ…アハハッ……アハハハハッハハハハハッ………」
両頬に涙が伝う。まだ死にたく無いと女の本能が叫ぶ。
「当たり前でしょう⁉︎生きたいわよ!この職をやめて生きたい!!生きて生きて幸せになりたいわよ!!!!!」
「ダらば、逝ガゼデびゃろヴ」
嗤っている様な口調で魔物が女に言う。その言葉に女の涙が止まり、唖然とした。
しばらくの間、女の脳内では「生きることができるかもしれない」と思っていたのだろう。ただその幻想は、小さな痛みで崩れ去った。
五匹の魔物たちは、女の四肢と頭部を掴み、少しづつ力を込めて引っ張っていた。
「………………え?」
小さい癖に自分の力では振り解けない彼らの力に女は焦る。痛みは少しづつ増すばかりで、自分が生き存える未来が見えない。
仄暗い森からは、調査仲間達の悲鳴や断末魔が響いている。
体内からミシミシと音が鳴り響き始めた。痛みは女が我慢できる限界に達する。そして少しづつ増す痛みは止まらない。
「……ク、ック……フアッ、痛い!痛い!痛い!痛い!痛い!痛い!痛い!痛い!イタイ!イタイ!イタイ!!イタイ!!!イタイ!!!!イタイ!!!!!!!!!……」
止まった涙が再び頬を濡らす。ただ「痛い」と言う情報だけが脳を埋め尽くす。筋肉の繊維が一本一本千切れていく。その小さな衝撃が、同時に切れている感覚神経に刺激を与え、余計に女を痛がらせている。股関節から下も、肩からその先も痛みが走り、自分が感じている痛みがどこからのものかわからない。
「イタイ!イタイ!イタ――」
そして四肢と首の関節が外れた。女の視界は暗転し、限界以上に身体を五方向に引っ張られる痛みから解放された。
女が死んでも、彼らは引っ張るのを止めなかった。やがて女の身体は限界に達し、女の四肢が胴体から離れた。残された首も、もう一匹やってきて、そういつが胴体を抑えると、首も引き千切れた。
辺りは女の鮮血色の液体で不定形に染められ、鉄の臭いを漂わせていた。
女の首を持っていた一匹がその首を投げ捨てると、彼らは何処かへ行ってしまう。投げ捨てられた女の首は虚ろな表情で、さらに涙を流した状態で硬直が始まっていた。