47 勇者
三章突入!(≧∀≦)
混沌は常に影に潜んでいる。
秩序の名を持つ光を嫌い、混沌の支配者はいつしか来る秩序の崩壊を宇宙の最果てで願う。
「死ね! 魔王!」
背後から後頭部に目掛けて剣が振り下ろされる。おかげさまで上から下まで真っ二つに身体が割れてしまった。
「痛いなぁ……」
「なっ!?」
俺を斬った犯人は、背後から聞こえた俺の声に驚く。
「これが勇者の今の実力ねぇ……全然ダメ。勇者辞めたら?」
俺は笑いながら、少しの間に最近召喚された金髪の(不良)勇者の相手をした。でも、少しは上達したんじゃないかな?
イゴールナクが原因で騒がれていた、首刈りはとっくの一年前に収まった。犯人は結局不明だったが、王都には平和が訪れ、人々は安心と言う名の毒に侵されていた。
「さて、俺は学長先生に用があるから退いてね。勇者(笑)くん」
さて、今、俺の前にいるのは生ける古代の遺物である。あの時の面接みたいなものの後、片っ端から図書室の本を読み漁ったが収穫はなかった。
「もう学ぶことがなくなりました。ここを退学させてください」
「どうしてかな?」
少年のような姿をした、クソじ…老人以上の歳の未知が理由を尋ねる。
「さっきも言った通り、学ぶことがなくなりました。それと勇者(笑)がうざい。あ、そうだ! 貴方が俺に適当な理由をつけて退学させて下さい」
ついでに提案を載せて質問に答えると、未知は少し考える。
「答えはノー、だね」
やっぱりダメかー。まぁこのやり取り、一年前のスキル〈魔王Ⅰ〉を手に入れたときからなんだけどね。
「ケイト君さぁ……学習って知ってるかなぁ?」
「ええ、知っていますよ」
おっと、今回は新しいパターンだ。
「じゃあなんで一年前から全く同じ理由を一字一句言うんだぁぁぁぁぁぁ!」
そう、全く同じ内容を述べているのだ。けれど少し訂正してもらおう。
「失礼ながら学長先生。半年前に勇者の転入から理由として新しく『それと勇者(笑)がうざい』と付け足しています」
「結局少ししか変わっていないじゃないかぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「嗚呼、もう泣きたい!」と言わんばかりの表情で学長は机に突っ伏す。
ふっふっふ。さっさと俺を退学にしないからそう苦しむのだよ。
「それでまた明日伺いますね」
ここで時は遡る。
スキル〈魔王Ⅰ〉。イゴールナクを倒して入手した謎スキル。とりあえず今はレベル1だから育てなければ問題ないであろうと思って、教会から帰った後の学園生活の予定を立て実行していた。だが、その後に勇者が召喚された。
オープス・プラーグマー学長は少し慌てていたが、すぐに冷静に勇者の編入を許可した。
個人的にはどうでも良くて、気に留めなかった。勇者(笑)と、委員長に鉢合わせるまでは。
思えばあの時、勇者(笑)を消しておいたほうがよかったのだと思う。
奴がキリカと同じクラスに配属された。その事をキリカが少し苛立ちを露わにしながら話していて、最後まで聞いてみると、どうやら奴はキリカに一目惚れしたらしい。
「まぁ、気にする必要はないと思うよ。でも、もし限界だったら直ぐに俺の所に来てね」
「そうよキリちゃん!いざという時はオリサカさんが居るんだから!」
キリカの相談をシャヌアと聞いて、彼女と意見が合ったのを安心に思いながらキリカと昼食をとる。って、
「おいシャヌア。今、俺の名前を言う時ニュアンスが変じゃなかったか?」
「な、何のことでしょうか……?」
俺の冷たい視線に少し喜びの雰囲気を漂わせながら否定する変態聖女様……呆れた。
「ところで……いつからシャヌアちゃんとケイトさんは仲良くなったので――」
「あ、そこに居たのか!って、噂の聖女様とやらも一緒にいるじゃん!」
―あ"ぁ"ん"?
勇者さまがキリカに声を掛ける。溢れ出そうな殺意を抑え、息を殺し、自身の存在を薄くする。
「……何か…私たちに御用でしょうか?」
冷たい雰囲気になったキリカが、勇者さまを冷ややかな目で見ながら彼に応える。
「今から一緒にお昼を食べようか誘いたいんだ……ダメ…かな?」
勇者は明らかに猫を被っている。ああ、ウザい。その喉を引き裂いて、金色に染めた髪を赤黒く染め直し、死なないように回復魔法をかけながら……
「その必要はありません。私たちはあなたの背後にいらっしゃる方と昼食を摂っていましたので」
「!?」
―っ!?俺は一体?
キリカが俺の事を勇者に話した時、俺はやっと冷静に戻れた。いつのまにか奴の首を背後から絞めようとしていたらしい。
「どーも、貴方の背後にいた者です」
奴の首を絞めようとしていた手を引いて、笑顔で自己紹介をする。そしてそのついでに勇者に鑑定を……
「っ!! お前が魔王か!」
「はぁっ!?」
急に勇者は自身の腰に下げていた剣を抜き、俺の脳天目掛けて振り下ろした。が、
「なっ!?」
「遅い」
奴の剣は俺を斬ることは出来なかった。それでも奴の表情は自身で満ちていた。
しかし、ここで許せないことがもう一つ出来た。奴は俺のスキル〈魔王Ⅰ〉の所持をバレた。おそらく、さっき奴の情報を覗いた時に見かけた〈絶対直感〉と言うスキルが原因……殺しておくか?
俺が殺意を剥き出しにした時、それは何者かの声に阻まれた。
「双方武器を下ろせ!」
「「っ!?」」
声の主は理事長ダン・シュリンだった。象徴的な白い髭を撫でながら、近づいて来る。
「何の騒ぎかね?」
威圧を含む眼孔に睨まれてキリカとシャヌアは緊張し、勇者は睨み返していた。
「誰だか知らねえが、俺は魔王を討伐しようとしてるんだ!じゃますんじゃねぇ!!」
「魔王……ねぇ………」
シュリン理事長は品定めするように俺を見て、勇者の証言の真偽を判断する。
おそらくこの人の目は欺けないだろう。
「なるほどな。これは面白い」
「左様ですか」
理事長は正直言って苦手だ。学園内を歩いているとたまに見かけるが、雰囲気が気持ち悪い。一応、この人がカレアさんの友人の祖父らしい。
「俺はキリカをこいつの魔の手から救うんだよ!邪魔すんな!」
「はっはっは。若者は威勢があって実に素晴らしい……ここで提案なのじゃが、この学園には決闘場がある。この意味がわかるかね?」
成る程。そこで殺し合え……と。面白そうだな……
「いいぜ爺さん。勇者様であるこの俺がその話に乗ってやる」
はっぴーばーすでーとぅーみー




