43 天使
危なっ、投稿し忘れてた……(´∀`;)
重い。瞼が重い。身体が動かない。ズリズリと引きずられているのだろうか?さっきから、引きずられている時の摩擦を感じる。
――あ……確か背後から殴られたんだっけ………?
四肢も、脳からの信号を受け取ってくれず、筋肉は動かない。今はただの肉人形か。
身体を、〈実体化〉を解除しようかと思ったが、そうするための指示が出せるほど、俺の意識はハッキリとしていない。
――引きずられるの……あの日以来だな………
俺が幼い頃に週四回くらいは体験した。髪、足等、どっかしらの身体の一部を掴まれては引きずり回される。泣き叫んでも助けは来ない。だから直ぐに泣かなくなった。それに、それ程度の痛みに疎くなったし、学校の同輩にバレないように怪我とかを隠していたら、ある程度の怪我だと自己治癒力が少し上がったようで、直ぐに虐待がバレない程度までには治るようになった。
理不尽には慣れた。大人は善悪に極端に分かれていることもその頃知った。一度、先生に虐待の怪我がバレかけた時、咄嗟に吐いた俺の嘘を信じた先生に絶望しt――ん?なんで絶望?あれ?あの時、俺は絶望したっけ?
そんな思考は、この後来た衝撃ですぐに霧散した。
「グッ!」
身体に何処からかは分からないけれど、突然、全身に衝撃が走った。投げ捨てられたのか?
やっと開くようになった重い瞼を無理矢理開くと、目の前に大きな石像が立っていた。石像は肥えた男性の裸体で、首から上がない。それに、今でも動き出しそうな表面と圧迫感があった。
「ここは……」
身体を無理矢理起こして周囲を見渡す。
いくつかの蠟燭の炎がゆらゆらと揺らめき、空間を照らすが薄暗い。ただ、目の前にある石像は何故か光源がないのにハッキリと目視できる。
ザラザラとした質感を持ちそうな石像の表面が少し揺れた。
「――グハッ!?」
俺は何か危機感を感じて思わず重い身体に力を入れて後方に飛ぶ。が、それと同時に左腕に、上から落ちてきたと思われる光の槍と思われるものが擦った。ただ軽く擦っただけなのに、全身に激痛が走った。
上方を確認すると、比喩でも無い本物の天使が光の槍を構えていた。
その天使は純白の翼を広げ、空中に静止している。見覚えのあるシルエットだが、今はそれどころじゃ無い。天使が構えている光の槍が大きくなっている。
「あ"ーもう! 邪魔ならお前も殺す!」
面倒ごとには巻き込まれたくないのに……さっさと終わらせて帰らせろよ。
「(さっさと終わらせるから降りてこいよ……官能小説好きの聖女様)」
俺がそう呟くと、荒く投擲された極太の光の槍が飛んで来た。いや、地獄耳かよ!
俺は刀型に変化させた《魔刀:メラン=サナトス》を抜刀し刀身での受け流しを試みる。が、流石に光でできた槍だと思った。受け流そうとしたら刀身を通過してきやがった。
「めんどくさっ!」
一瞬で判断しなければならない。だから光の槍が刀身を通過し始めた瞬間に身体を捻って避ける。ただ、こう言う戦闘とかはやっぱり慣れ親しんだ日本の習慣が抜けず、擦り傷を作ってしまう。もういっそのこと〈戦士化〉でも覚えようかな?そしたら本能で戦えそうだし。まぁ取り敢えず〈回復魔法(小)〉で傷を塞ごう……
天使は未だ空中で静止している。それにあの肥えた首無し男がいつのまにか現れた黄金の玉座で踏ん反り返って座っていた。顔がないから分からないが、何かこう……『ドヤァ』としか雰囲気?みたいなのが漂っていて、一つ思った。
「(ウゼェ……)」
そんなこと思っていたら、天使による光の槍の攻撃が飛んでくる。ただ、攻撃方法がワンパターン過ぎるので二、三回繰り返して慣れてしまった。
避けて、避けて、避けて、〈魔力弾〉を一発撃つ。そして再び避けて、避けて、避けて……とこんな感じで謂わば作業ゲー状態。
ただ、天使は攻撃を受けても、攻撃が当たった反動で位置がずれるだけで全く動かない。だから余裕…………と思っていた時期がありました。はい。
えーなんと、天使が形態変化しました。ただ、体型が大人びただけです。しかも、攻撃方法も変わりました。みくびっていましたごめんなさい。
「形態変化っておい!」
攻撃方法は、光の槍を投擲するのから変わって、見るからに光で構築されたのが分かる両手剣。なので動きが活発になった。
翼を広げ大きく羽ばたかせながら天使は向かってくる。それは美しいと思える動きだったが、隠せていない下手な殺意が汚い。そして俺の前まで接近した天使は、光で構築された両手剣が振り上げる。
どうせ光で構築された物だから、槍の様に武器を通過するのだろう。ならば避けるしか方法が無い。
そこで天使の両手剣がブレた。しかし、勢い良く振り下ろされる。
本能的に俺はその振り下しをバックステップで三、四回後方に飛び躱す。この選択は間違っていなかったのはこの後すぐ知った。
「あっぶなっ!?」
俺が躱す為に着地した地面が三ヶ所抉られていた。
容姿は綺麗なのに技がエゲツない……まぁ、どちらかと言うとキリカの方が好みだけどね。弄りがいがあるし。
「さてと。どうやってこの天使を排除しようか……どうせ直接あのデカブツには攻撃が入りそうに無いし……」
迷っているうちに、再び天使は俺に攻撃してくる。勿論、攻撃方法はあの振り下しだけだ。感覚でなんとなくそんな感じがする。だから同じ様にバックステップで回避回避っと。
「あ、なんで形状を打刀にしてたんだろリーチを長くすれば可能性的にいけるじゃん」
てな訳で以前、刀型にした通りの方法で、俺は〈魔刀:メラン=サナトス〉に魔力を込める。因みに、なんで魔剣の方で呼ばずにメラン=サナトスを魔刀と言い換えているのは、この前魔剣の鑑定をした時に、表記がそう変わっていたからだ。つまり、今から変化させる形状は刀型ではないのでまた名前の一部が変わる。
魔力を込められた魔刀は刀身だけが黝っぽい毒の粒子となって崩れた。柄の部分はと言うと、薄気味悪く蠢きながらも棒状に伸びている。
「〈魔槍:メラン=サナトス〉」
三又ではない、ただ貫くことに特化した槍。それが今のこの剣の姿。
最近になってやっと思考が安定し始めた時に思い出した。未だに自分がこの世界の存在であると認めれているかは分からないし、そもそもこの世界の住民ですらないはずなのに、思い出したとしか表現できない。
でも直ぐに俺は今は無意味なそのことは考えず、ただ魔槍を構えて天使を向かい打つ事に専念する事にした。
どうでもいい追加知識
[作者:柾雅]は太陽光とニンニクが弱点。