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41 焚き火

「で、話とは何かしら?」


 メリアさんが俺の隣に座る。


「メリアさん。貴女は……何か隠していませんか?」


 その台詞でメリアさんは一瞬固まる。


 ――ビンゴ……か


「何も……無いわよ」


 だが、どうやら彼女はあえて知らない事を装う事を選んだらしい。

 ただ、そう簡単には聞き出せないことはわかっている。


「そうですか……その隠している事がもし、解決出来たとしても貴女は何も無いと言ったのですから本当に何も無いのですね」


「っ!? そ、そうよ……」


 一瞬だけ希望を持ったけどすぐに諦めた……もうこの人は砕かれたのか。


「一つ、俺が出会った魔物の話をしましょう」


「…………」


 砕かれた人はいくら時間をかけても、それは癒えるものではない。悲しい記憶だって人間は泣いて忘れるが、ふとしたきっかけだけで簡単に思い出してしまう。それさえ出来なくなったらもう、人間の持つ感情はないと言ってもいい。おそらくその言葉は聖女が彼女に放った言葉だろう。

 だから、その砕かれたそれが気を魅く事ができる話をする事にした。


「その魔物はとても巨大だった。えっと、大きさは確か……大体あの木と同じくらいの大きさかな?」


 俺は森の中で一際目立つ大きなオークの木を指差す。


「で、その魔物は言わば女王の立ち位置なんだ。丸太の様に太い八本の脚に黒い体、体内には多数の昆虫の器官を備えていて、紅い目が八つ。そう、蜘蛛なんだ。それもさっきのあの木くらいの大きさの」


 深淵蜘(アトラク=ナクア)。この世界の住民なら知っている幻神級と格付けられた魔物。メリアさんが知らないはずが無い。

 この世界で恐怖される魔物なのだから、名前を出せば何らかしらの反応を見せてくれる筈だ。


「魔物の名前は……深淵蜘(アトラク=ナクア)

「っ!?」


 予想通り反応してくれた。


「因みに悲しいことに彼女はもう居ない」


「……どうして貴方が悲しむのかしら?」


「彼女に娘を頼まれたからだよ……娘思いの良い親だった。殺してしまったことが偶に間違えなのでは思えるほどにね……」


 俺がそう言うと、アトラがゆっくり近づいて来た。俺はアトラを抱え上げると、膝の上に乗せて優しく撫でる。


「メリアさん。貴女の悩みの原因はこの仔の母と似た存在なんじゃ無いですか?」


「…………」


 俺の問いかけで、少しの静寂が訪れる。今、耳に入る音は、焚き火の跳ねる音、弱い風で揺れる草花、音鈴虫の鳴き声…………


「分からないわ。私達が信仰していた神はイーナク様だけ。悪行を行った者に罰を下し改心させる救済の神なのだから」


「でも、貴女が死んだとされ、司祭が変わったと同時に、王都は悪行を行う人間が増えた。それはもう、悪行を行った者に罰を下し改心させる救済の神とやらは居なくなったって事じゃ無いのか?」

「そんなはず無いわ!!」


 突然、メリアさんが声を荒げる。ただ、運が良いことに、あの二人はもうすでに眠りに就き、意識が深層まで落ちているようだ。テントから起きる気配がしない。


「そんなはず………」


「信者に悪行を行わせる神……ではなくて、改心させる救済の神…か」


 足りない。情報が足りない。ほかに不審な点が思い当たらない………ただ、一つだけ可能性があるとしたら……と言うより、今のところ俺の中で一番可能性が高そうだと思っているものがある。それはクトゥルフ邪神関係。

 以前耳にした邪神の中で、名前は忘れたが今回の王都で増え続けている犯罪の様な悪行を行わせる邪神がいた気がする。今では名前があやふやで、どんな名前かは分からないが、可能性がないわけではない。


「名前が……思い出せない………ただ、可能性としてはあり得る…………」


「何か心当たりが!?」


 メリアさんが食い付いた。やっと、ちゃんとした話が聞けるかもしれない。


「確証がありませんが、黒幕が何なのかは少し見当がつきます。メリアさんを教会の地下に何故か(・・・)ある地下牢に入れさせた現司祭の背後です」


「っ! ……彼…ですか………」


 どうやら現司祭の事を知っているらしい。詳しく聞いてみるか。


「……その人の事を詳しく」


 俺がそう質問すると、彼女はなんの躊躇い無く現司祭の情報を話してくれた。


「彼は外から来たんです。私が司祭になる先先代の司祭様がスカウトしたんです。私と同期だったのではじめは私も丁寧に接していたのですが、彼はいつも傲慢な態度で他の信者達からも嫌われていました」


 あれ?外から来たんだ……そしてら邪神系の魔物の可能性は思いっきり下がるな。

 先日、深淵蜘(アトラク=ナクア)と対峙してから妙に彼女以外の邪神に執着がある。ただ、その執着はごく自然なもので、今になっておかしいことに気がついた。


「彼はそれでも自分の態度を改めずに居たのですが、何故か先先代は彼を気に入っていたのです。先先代の死後、先代が司祭に成ったのですが、はじめは彼を蔑んでいたはずなのに、次第に彼に肩入れするようになりました。それでも先代は最期に私を指名しました」


「……つまり、彼は不思議と上の階級の人から何故か好かれやすいのですね」


 どう言うトリックを使っているのかわからないが、ハッキリ言って異質な感じがする。

 ただ、このくらいの情報だとあの邪神と関連が無い。もっと……もっと情報が欲しい。





 ゆらゆらと焚き火の炎が揺れ、焚き火を中心に放射状に広がる影は揺れる。風の凪ぐ時まではまだ長い。月は丁度夜空の中心まで登り、夜は陽が昇るまで続く。電気の使われないこの世の夜空には星々が瞬き輝き、幼子(おさなご)の命のように明るい。

 悪事を行わない聖人君子は稀有な人種。幼子の頃から命の光を汚さず、隠さずに保つのは、星が己の寿命を自ら断つ程可能性が低い。

 日々、欲に誘惑される人族は彼の格好の餌である。

 しかしまぁ……(イレギュラー)はもう少しで今回の我の遊びも終わらせそうだ。本当に悔しいが、(イレギュラー)の行動は私の予想を超えるものが多いから面白い。そんな(イレギュラー)には彼を殺し、吸収した暁には朕への挑戦権の予備段階を送ろうか。

 本当に………本当に(イレギュラー)を連れて来た彼女には感謝だよ…………


「さぁ……彼を殺シて儂ヲ楽しませテくれよ………」

(°▽°)最後の……誰?

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