37 洞窟オークの殲滅依頼2
取り敢えずお約束のある待ち合わせ。
街を適当に歩いていると、路地裏から鉄分豊富な液体の匂いがする。しかし、すぐに他の匂いに掻き消される。街は以前、一時的に滞在していた時と変わらず、騒がしい。
「いい加減にしてください! 私達は人を待っているんです!」
ここで聞き覚えのある声が聞こえた。
街の奥地辺りを分からず徘徊していて、聞こえた声は彼女のものだ。あ、因みにちゃんと外出許可証と授業免除は貰っているのでいつまでも外に居られる。一応、期限はあるけど。
まぁそれで、声のする方へ歩いて行くと、聖女様であられるシャヌア様と何故か桐花様がいた。あれ?おかしいな?白殲鬼って……ああ、そうか。白殲鬼ではなくて白戦姫か。
で、お相手は……相手の力量も分からない破落戸三人組か。さて、まずは一人寝てもらいますか。
俺は一番後ろの人の背後に音全てを殺して近付き、頸を叩く。運が良かったのか、そいつは一撃で落ちてくれた。
「あ、キリカと聖女様だ。良かった、やっと見つかったよ……」
残りの破落戸の背後から二人に向かって声をかける。勿論、そんな事をしたら二人とも振り向いて来る。
「ああぁん? 何だよお前は?」
「おっと。ちょっと待ってよ、お二人さん。その前に一つ。もし攻撃してきたら、容赦無くこの人の首を外します」
「へっ、そいつは俺たちの中じゃルーキーだから関係ねぇなぁ」
ほう…ならば捨てるか。
俺は、寝ている男性の首辺りをつかんでいたからそのまま手放す。
「あ、言っておきますけど、俺はまだギルドで冒険者登録してないのでまだ一般人ですよ?」
「ならお前が登録した後に襲撃をかければいいだけの話だがな! おい、行くぞ」
そう言って二人は、寝ているもう一人の男性を担いでどこかに行ってしまった。ま、荒事にならなくて良かった良かった。特に喧嘩騒ぎにもならなかったので、野次馬が勝手に散っていく。
「で、二人とも大丈夫?」
「ええ、問題ありませんよ。さ、ケイト様、早く登録しましょう?」
俺たちはそのままギルドに入る。彼女達にはローサムの野郎から押し付けられた依頼書を渡して、俺は受付に行く。
「冒険者ギルドへようこそ! 本日はどの様な御用件でしょうか?」
「冒険者登録をお願いします。一応紹介状を貰っているのですが、今、渡しておいたほうがいいですか?」
紹介状と言うのは、実は学園を出る前にローサムの野郎から貰った。屈辱的だが、それ以前に何も湧いてこないので、有り難く利用させてもらう。
「はい、大丈夫ですよ……!? しょ、少々お待ちください!」
受付嬢さんが、奥に行ってしまった。まぁ、そのおかげでキリカの視線が緩和されたのだが……聖女様からの視線がめっちゃ痛い。何故に!?
少しした後、受付嬢さんが戻ってきた。そして、キリカの視線がまた強くなる。
「はい、では学生証の提示をお願いします」
俺は言われた通り、学生証を提示する。すると、受付嬢さんは、何か判子の様なものを俺の学生証に翳すと、学生証に刻印魔法を刻む。印されたのは“C”の一つ前の“D”。おそらく紹介状ではCランクからだったのだろうが、ギルドからしては大事になってしまうモノなのだろう。それに、たかが紹介状なので、実際の実力が分からないのだから一つ下のランクにしておいた方が安全策だ。そう思ったのだろう。
「それと、後ろに控えている二人とパーティを組んで挑む依頼を課題として出されたのですが―――」
「その件については既に連絡が回っております。なので問題ありませんよ」
受付嬢さんが笑顔で答えてくれた。その笑顔、やめて下さいお願いします。後方から視殺されかけているんで。
まぁ、こうして問題なく依頼を受けられたのだが…………
「『白戦姫』ねぇ……」
目的地まで歩いている中、ふと、心の中の呟きが漏れてしまった。それをキリカは耳にしてしまい、顔が赤くなる。
彼女は白い。そして、どの武術にも半端が感じられぬ程精進している。しかし、その二つ名は表現がちゃんとできていないと思う。確かに戦う姿は美貌もあって戦姫と評しても良い。だが、それでは足りない気がする。彼女は姫という枠以上の存在だと、俺は思う。襲い掛かってくる魔物を返り討ちにしたときに返り血を浴びる姿が美しい。白いその髪に魔物の血で赫、蒼、綠と様々な色の華を活るところが愛らしい。冷酷に、敵対する魔物を睨む姿が似合って似合わないところが可愛らしい。故に、彼女が『白戦姫』と呼ばれるには、二つ名が彼女に負けている!
「それにしても、道中の魔物多い…………」
因みに聖女様はというと、神法がどうのこうのとか言って、天使の翼を広げて飛んでいる。あれかな?一時的に天使を自分の身体に降ろして力を振るう的なアレかな?
「なんだろう………さっきから魔物のエンカウント率がオカシイ……」
さっきから沢山のゴブリンや狂狼などの魔物を斬り伏せているのだが、果てが見えない。そう感じる。それに、たまに襲い掛かってくる瀕死状態のやつも混ざっている。けれど、瀕死でも慈悲はない。
[称号〈無慈悲な殺戮者〉を贈呈されました]
称号を入手したらしい。だが気の所為であろう。だって、向こうから襲い掛かってきて、ただそれを返り討ちにしているだけなのだもの。うん、だからこれは空耳に違いない。
暫くの間、途中で休憩を挟んだりして、陽が傾きかけた頃に城跡まで辿り着いた。その途中、白い影のようなモノがチラチラと複数見えた気がしたが、気の所為だろう。四肢の関節が無く、波打たせているあの白い影では無いだろう。
「さて、目的地に着いたは良いけど、どうする? 休憩する? そのまま殲滅する?」
「私はどちらでも良いですよ。シャヌアちゃんはどう……シャヌアちゃん?」
キリカが聖女様に話しかけるが、何故か聖女様は下を向き、ブツブツと何か囁いている。それに、跡地の環境が少し不自然な雰囲気を漂わせはじめた。
「………(ぶつぶつぶつ…)」
聖女様の囁き声が続くにつれて風が止み、森の木々は風に揺られなくなり、動物や魔物の気配が薄れ、聖女様の周りに黒い霜の様なモヤが現れる。
「シャヌアちゃん……?」
キリカが心配そうに聖女様に近付く。
「……っ! キリカ! 近づいちゃダメだ!」
俺は聖女様に近付くキリカが、黒いモヤに触れる前に抱えて後退する。抱えるって言っても、お姫様抱っこに近い形だけど。
まぁ、それで聖女様はと言うと、周りに生えていた雑草が黒ずみ、凍り始めていた。
そのままギルド前でバトルと思った?ねぇねぇ、思った?ざn(殴
…………
………
……
…
ずみまぜんでじだ。
さて、39話の執筆をしますか。_:(´ཀ`」 ∠):