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トンネルの向こう側

作者: 藍月

 ガタンと電車が揺れる。

 僕は今、一年ぶりに田舎の祖母に会うために電車に乗っていた。車内には僕以外に誰も居ない。


 更にガタンガタンと続けて電車が揺れた。田舎を走るこの電車は二両編成だ。所々錆びて茶色の部分が見えている。車内は暖房で辛うじて暖かいが、各駅に停車する度に、ドアが開かれて寒い冬の風が待ってましたと言わんばかりに車内に流れ込むのだ。

 僕は学校に行っていない。ここ一年以上行っておらず、自宅で一人勉強するものの限界を感じていた。それでも同級生に囲まれながら授業を大人しく受ける勇気は僕にはなかった。 

 自宅は都市部にあるので、現在田舎のこの電車に乗っているという事は久しぶりの外出になる。外出すると同級生に出会うかもしれないという不安から、不登校に加えて引きこもりの称号まで自分に与えてしまった。


きっかけは何だっただろう。

 車内の窓枠に片手を添えて、外の景色を眺める。田園風景が辺り一面に広がっており、空は灰色の雲に覆われている。雪が降るかもしれない。

 「次は~、次は~…」

 車内にアナウンスが流れる。次が終着駅にして目的地だ。車内に視線を戻すと、辺りが暗くなった。トンネルに入ったらしい。トンネルは長いようで、数十分間はトンネルの中にいたように思えた。

 ようやくトンネルから出たらしく、電車は徐々にスピードをゆるめてから停車した。 

 「ご乗車ありがとうございました。お忘れ物のないようお願いします」 


アナウンスを背にして、電車を降りるとそこは目的地とは違う駅だった。

 「え…」

 思わず声が出る。違う、ここじゃない。

 田舎の無人駅はホームと改札がすぐ隣同士になっており、改札を出ると辺り一面雪景色。周囲は木々が生い茂っていた。と、目の前にベンチが一つ。

 そこに誰か座っていた。どうやら自分の祖母と同じ年齢くらいに見える。こちらに背を向けて座っていた。

 ちょうど良い、ここがどこか聞こうと考えて近付こうとしたその時

 「あかんよ、明ちゃん。こんなとこに来ちゃいけん。去年最後に会うた時、おばあちゃん言うたやろ?」

 こちらを見ずに話し掛けてきたその声は、今日会おうと思っていた祖母その人だった。

 なぜここに、と思っていたら更に祖母は言葉を続けた。

 「忘れたんか?去年言うたやろ。もう来年から明ちゃんとおばあちゃんが好きなこの電車に乗れんくなるよって」

 おばあちゃん悲しいわ~と、こちらを振り向かないまま祖母は言った。

 あぁ、そうか。今ここは。

 「明ちゃん、強くならんとね」

 最後に祖母はそう言って、僕は意識を失った。


 起きたら、田舎の潰れた無人駅の改札前だった。

 そう、去年この電車は無くなった。祖母と一緒に。僕の優しい逃げ道と一緒に。

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