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近頃の私は  作者: 山田文香
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女子のコミュニティは、蹴落としあいだ。誰もがみんな、自分が1番幸せになりたい。合言葉は「やめときなよ、そんな男。」

目をつけている男の子がいるのであれば、舞い上がってうっかり言ってしまわないほうがいい。何かにつけてヤメトキナヨ、ソンナ男。エー、ヤッパソウカナー。ソウダヨー、優シイノナンテ今ダケダヨー、騙サレテルヨー。エー、怖イー。

いやいや1番怖いのはあなたですよ、と。このやり取りの中で、いかに抜けがけできるかできないかで将来が左右さるというのが私の恋愛哲学だ。

そんな中、抜けがけして手に入れたのが寺の息子。同期の子が合コンでひっかけた男の友達の友達だった。我ながら賢い選択だったと思う。確かに、私が今までみんなに展開してきた理想の男性像、涼しげな顔立ちで色白で華奢な文学美男子とは正反対だけど、むしろタイで現地人に間違われるレベルの濃い顔で筋肉質でスポーツマンだけど、育ちの良さが佇まいに現れている。私はお上品な人が好きだ。なぜなら自分が庶民の家系だから。先祖を代々遡っても、おそらく貴族の貴の字もかすらないだろう。だから私はこの庶民スパイラルから抜け出すべく、自身の恋愛と結婚に対しては背伸びと高望みを持て余していた。

良い、良い。男は見た目じゃない。文学美男子じゃなくて、全然良い。むしろ文学美男子ファッションを貫くべく洋服を買い漁る貧乏野郎より、テニスを嗜む余裕のあるスポーツマンが良い。そう折り合いをつけて付き合った彼は、とんでもなく自意識過剰の自信過剰野郎、平たく言うとナルシストだった。決め台詞は、「人は見た目だよ?」

幼い頃から成績を上げるために生きてきた彼は、プライドが高くそしてそれ故に傷つきやすい。テニスの試合で負けようもんなら落ち込みに落ち込んで、「新しいシューズだから仕方ない」「練習のしすぎで手にマメができていた」などと言い訳を羅列したあと、音信不通になる。私は密かにこれを「言い訳のマスターベーション」と呼んでいる。

または、デートの時は待ち合わせ場所に必ずいない。絶対にいない。私より先に、いたことがない。そしておおよそ1時間後に到着した彼はこう言う。

「髪のセットがうまくいかなくて。仕方なかったんだ。この間美容院に行って以来、初めて自分でセットしたからね。決まらない髪型で来るよりいいでしょ?」

いいわけないでしょ?なに?私は遅刻しないよう、髪のセットもそこそこに家を出たんですけど。遅れるなら事前に連絡さえくれれば私も完璧なセットで来たんですけど。ていうか、仕方がないだって?仕方がないかどうかを判断するのはあくまで私であって、遅れて来た奴の堂々と言う台詞じゃないし。殺す。殺す。殺す。もしかしてお前はいつもそんな理由で友達との待ち合わせや仕事にも遅刻しているのか?ならば私が責任を持ってお前を殺す!

その瞬間、私の脳内に堕天使ミカエルが登場し、殺意と結婚を天秤にかける。

結婚してしまえば外で待ち合わせてデートすることもない、そうすれば悩みは解消する。考えてみろ?この一瞬の衝動で、私は玉の輿を逃すのか?相手は住職の卵だぞ?特殊な職業なんだから、ちょっと時間にルーズなくらい許せる器じゃないと、妻は務まらないぞ?

「あ、髪切ったの?うまくセットできてるじゃん」

私は満面の作り笑顔と明るいトーンの棒読みでそう言った。

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