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【第2閑】 幻獣王誕生~私論 ドラゴン考~ 前編

 ドラゴン――古今東西多くの伝承や神話に登場する最も有名な幻獣である。


 今日(こんにち)においてはゲームやラノベを始めとするフィクションでもお馴染みの存在となっており、度々ラスボス級の敵モンスターとしても扱われれ、また様々なカタチでモチーフとしてもよく使われる特別な幻獣たるキング・オブ・モンスター――それが最強の幻獣王ドラゴンである……だな~んて事は、今さら改めて説明するまでもなく、物心つく前から様々なフィクションを通して見聞きしてきた我々にとって説明不要な存在な訳ですけど……

 今回はそんなドラゴンをテーマに、役に立たないウンチクをあれこれ書いていきます。



 そもそもドラゴンと一口に言っても、「東洋の竜」と「西洋の龍」……の出自の異なる二系統のドラゴンが存在する訳なんだけど、取り敢えず今回は西洋の龍――ドラゴンに焦点を当てて考察していきます。

 

 では皆さんがドラゴンと聞いてどんな姿を想像されるだろうか?

 巨大な恐竜のような威容で、長い首に長い尻尾、蝙蝠みたいな皮膜の翼を生やし、体躯が鱗に覆われ、蜥蜴(トカゲ)と蛇を掛け合わせたような姿で、口から火を吐く……みたいなのが世間一般で想起されるであろうドラゴン像ではありませんか?

 とは言えドラゴンも最初からそのようなイメージが確立されていた訳ではありません。


 有史以来、ドラゴンという幻獣が人類によって創生されるに当って、その構成パーツに見られる片鱗から蜥蜴(トカゲ)と蛇がベースとなって創造されたであろう事は明白な事実です。

 ですが今日(こんにち)に想起されるようなドラゴンのイメージ像が完成に至るまでには、長い長い時間を要し、しかもその完成するまでの経緯を振り返って見ると、意外とドラゴン像の歴史が浅いと言う事実に行き着いてしまうのです。

 

 なお先にお断りしておくと、本項においてドラゴンの考察をするに当って、ギリシャ神話とキリスト教圏のヨーロッパに焦点を当てて考察している為、ギリシャ神話成立以前やそれ以外の神話等については、あまり考慮に入れずに話を進めますので悪しからず。



 ドラゴンが伝承上において登場するより前の時代、ドラゴン亜種とも言うべき原初的なドラゴン型モンスターとしては、ギリシャ神話のテュポーンやヒュドラーが挙げられます。

 これらは蛇やウミヘビがベースとなっており、この時点ではまだ蜥蜴トカゲのイメージは盛り込まれていない。


 余談ですが、他にもギリシャ神話ではカドモス王の大蛇退治と言うのがありますが、ドラゴンでこそ無いもののこれも他のギリシャ神話の英雄譚と同様、後年に成立した龍殺しドラゴンスレイヤーの物語の原点の一つなのかも知れません。

 

 さらにもう一つ余談。Wikipediaの「ドラゴンスレイヤー」の項にある記述は、カドモス王の大蛇退治や、後述するダニエル書補遺のエピソードなどもドラゴンスレイヤーとして分類していたり、ちょっと???な箇所が目立つのが気になるところ……

 

 ドラゴン亜種たるテュポーンやヒュドラーの存在が語られるギリシャ神話は、口伝で伝えられた物語だった訳ですが……では西洋――ヨーロッパ本土において最初に明文化されたドラゴンは何だったのかと言えば、それはおそらく新約聖書のヨハネの黙示録に登場する「赤い龍」だったのではないかと考えられます。



 この「赤い龍」は聖書の記述によると…「七つの頭と十の角とがあり、その頭に七つの冠をかぶった」と言う、なんだかよく分からないヴィジュアルだったりするんですけど、それは兎も角この「赤い龍」はサタンの化身であると明言され、さらに「全世界を惑わす年を経た蛇」であるとも語られています。

 それを受けてか逆説的に旧約聖書において、エデンの園でイヴに知恵の実を食べるよう誑かした悪しき存在とされる「蛇」はサタンの化身だった、と言う解釈があるようで。

 

 余談ですがキリスト教の教義としては、件の蛇はアダムとイヴがエデンの園を追放される切っ掛けを作った元凶として、邪悪視されているのが一般的ですが……異端宗派のグノーシス派の教義においては、件の「蛇」は人類に知恵を授けた神にもひとしい存在と解釈され、神聖視されていたようですね。


 なお旧約聖書のダニエル書補遺にも、ドラゴンとも大蛇であるともされるものが登場していますが、こちらはどうやら大蛇と看做すのが正解な模様。樹脂ピッチと脂肪と毛髪によって作られた団子を喰らわせて殺したとの事。



 

 話を「赤い龍」に戻します。聖書の世界において「赤い龍」即ちドラゴンの系譜を過去へ辿ってみると、件の「蛇」こそがドラゴンの原初の姿であり、それは即ちドラゴンと言う幻獣のモチーフが蛇であった、と言う証左だと見做しても良いのではなかろうか?

 さらにこの「赤い龍」は、「その尾は天の星の三分の一を掃き寄せ、それらを地に投げ落とした」とあり、その姿のヴィジュアル同様、何言ってんだかよく分からない記述ながら、兎に角「赤い龍」が物凄く巨大である、と言う事を強調しているのだけは伝わって来る内容ですね。

 

 因みにこの邪悪なる「赤い龍」はサタンの化身ではあるものの、それ以外のドラゴンについてはサタンの眷属とは限らない、とキリスト教では解釈されているらしいです。


 さてではこの巨大な「赤い龍」の創造を以て、伝承上にあるドラゴン像の雛形となったのか?と言えばそう簡単な話でも無いようでして……


 そもそもヨハネの黙示録と言うのは預言書のていを取ってはいるものの、その実態はキリスト教を弾圧していた古代ローマと皇帝らに対して、その当時のキリスト教徒たちが「恨み節を綴った」だけでのものに過ぎず、黙示録に登場する様々な災厄の正体とはローマ皇帝をカリカチュアしたものにほかならない……と言うのが定説となっています。

 

 そういった実情を抜きにしても、新約聖書の成立以来古くから黙示録に関しては、教会内部でも異端であるとする否定派と肯定派に別れてその是非が議論されて、腫れ物扱いされていたフシがあるのです。

 それ故に黙示録は中世期においては、教会の者か字を読める識者の間でしか知られていなかったと考えられるのです。そしてそれは即ち「赤い龍」たるドラゴンの存在も、世間に知られていなかったと言う事であり、広く流布されるドラゴン像が未だ完成には至っていなかった可能性が高かったと考えられるのです。


 その証左として、後編では「聖ゲオルギウスのドラゴン退治」に注目して解説します。



【後編につづく】

やたら長ったらしくなったので、二つに分けます。なろうにおけるエッセイは一回当たり、大体二千~三千弱の文字数が一般的みたいですので……後編は同日に公開します。


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