【第20閑】 つれづれなるままに、夢のまにまに 前編
「このジョルノ・ジョバァーナには『夢』がある!」
これは現在アニメ版が絶賛放送中の『ジョジョの奇妙な冒険第5部 黄金の風』において、主人公が発した名セリフである。
このセリフは英訳では"I Giorno Giovanna have a dream!"といい、これの元ネタはおそらくキング牧師の「"I Have a Dream"(私には夢がある)」だと思われる。
ってことでちょっと強引な前振りとなりましたが、今回は『夢』についてお送りする訳ですけども……なにも抽象的な話をするつもりはありません。
根拠の薄い……Wikipedia言うところの「独自研究」の類いの、役に立たない雑感をいつもの調子でダラダラと述べるだけとなりますので悪しからず。
っとその前に――いきなりだが、他の拙作といい活動報告といい、筆者は脱線ウンチクを語る悪癖がある。本エッセイシリーズなどはその極みであろう。
でつい先日も拙作の作中に於いて、『夢』について長ったらしい説明をしてしまったワケですけども……今回書くテーマは件の作中で書こうとして、あまりにも脱線が過ぎると途中で気が付いて、ボツにしたネタの流用だったりしまして(汗)
さらに言えば前回の"THE"の話は、本来は本項において脱線したネタから抜き取って、独立させて改めて書いたものだったりします(笑)
さて雑談はやめて、そろそろ本題に入りましょう。
一口に『夢』と言っても、現代の日本語において周知のとおり二つの意味があります。
一つは「睡眠時にみる現象」であり、二つ目は目標や希望を意味する「将来の夢」のことである。
このように『夢』という言葉には、全く内容の異なる二つの意味がある訳で、非常にややこしい。
例えば会話で、いきなり前後の文脈に関係なく「夢を見た」だなんて端的に言われたら、どっちのことを指しているのか判断に迷うというもの。
でこのようにややこしい『夢』という言葉なのですが、その英訳である"Dream"という単語もまた『夢』と同様に、二つの意味で使われています。
英語における"Dream"は正確には、「睡眠時にみる現象」の方を"The Dream"とし、「将来の希望」の方を"Dreams"と使い分けられている。
この二つの区別として――ドリカムの愛称で知られる、「夢が叶う」という意味の『DREAMS COME TRUE』が分かり易い好例ではないかと。
なお前振りで書いた例文は文脈でお分かりでしょうが、「将来の夢=願望や希望」の意味で使われていますけど、"Dreams"ではなく"a Dream"なのは、冠詞の"a"を付けることで「将来の夢」の意味になる?……筆者にもよく分かりませんが、どうやら「睡眠時にみる現象」の方には、定冠詞の"The"と付けることで区別しているらしい?
この"Dream"という単語は、日本語の『夢』と同じ使われ方をしていることから、これ一見すると偶然かと思うかも知れないが、実はそうではないらしい。
そもそも『夢』という漢字には、中国語において「将来の希望」という意味は無い。
あくまで「睡眠時にみる現象」だけを指す言葉であり、現代の中国語においてもそれは変わらず、また本来、日本語でも中国語と同様の意味でしか使われていなかった。
ではどうしてこうなったかと言うと、実はこれ一九世紀に英単語を翻訳する際、"Dream"を「睡眠時にみる現象」と「将来の希望」の二つの意味で訳されてしまったことが発端らしい。
で以降、日本語においても『夢』という漢字にも「将来の希望や願望」という意味が導入され、そのまま定着してしまったらしい……?
ここまで長々と書いてきた"Dream"の説明、実は全部が正しい訳ではない。
例えば映画『フィールド・オブ・ドリームス(原題"Field of Dreams")』の場合、内容的には「願望」の方に近い意味合いで"Dreams"が使われていると思われる。
その一方で、夏目漱石の『夢十夜』の英題は"Ten Nights of Dreams"だったり、そのオマージュ的映画の黒澤明の『夢』は英題が"Dreams"だったりして、「睡眠時にみる夢」の方の複数形としても"Dreams"が使われている模様。
かと思えば"a Dream"の方も「睡眠時にみる夢」の意味で使われることがあるようで、最初に触れた"I Have a Dream"とはなんだったのか? って感じでもう意味が分からない。
これって要するに、意味は「文脈で理解しろ」ってことなのでしょうか?
余談ですが映画『フィールド・オブ・ドリームス』のタイトルは、中国語では『夢幻成真』と訳されているようですけど、これって誤訳なのでは?
『成真』は日本語では「叶う」「実現する」といった意味になりますが、『夢幻』とは「睡眠時にみる夢」の意味合いで使われおり、現代中国語においては「将来の希望や願望」の意味で『夢想』が使われいるらしいので、件の映画も正しくは『夢想成真』になるのでは?
因みに「夢が叶う」と言えば、先程も挙げたドリカムですが……こちらは中国語では『美夢成真』と言いまして、この『美夢』と言う単語、ネット上の中国語辞書のどこにも載っていないことから、近年になってから「将来の希望や願望」の訳語として新しく造語されたらしい?
さてここで話は変わる――かのシェイクスピアは『夢』に関係する作品やセリフを幾つか書いているが……シェイクスピアと『夢』と聞いて、おそらく真っ先に上がるのは『夏の夜の夢』の訳題で知られる、"A Midsummer Night's Dream"であろう。
年配の世代の方の中には、『真夏の夜の夢』じゃなかったっけ? と疑問に思われた人もいるかも知れない。タイトルの原文の字義に従えば、この訳は正しい……のだけども、困ったことにそもそもオリジナル版のタイトルからして、所謂タイトル詐欺でして。
"A Midsummer Night's Dream"本編で語られている時期は、「五月一日に行われる五月祭の前日」とされているので、真夏どころか夏でさえなく実は春なのである。
これが書かれた当時、「ヘイッ、ビル! この脚本で書かれている季節って春なのに、そのタイトルおかしくね?」って関係者は誰も作者に突っ込まなかったのだろうか?
シェイクスピアが何故、こんな的外れなタイトルにしたのかは分からないが、内容を鑑みて厚意的に解釈するなら、「真夏の夜みたいに情熱的な(春の)一夜の出来事」といった感じのタイトルにするのが正しいだろう。
……とまあこんな事情もあって、内容が真夏じゃないので今日ではタイトルを『夏の夜の夢』とするのが一般的になっているらしい、という訳ですね。
なんか偉そうに書いていますが、この話はWikipediaにも書いてある有名な話なので、トリビアでもなんでもありません(汗)
なお余談ですがかの『真夏の〇の淫〇』は、作中の季節が真夏なのかどうかは定かではない……。
【後編に続く】
長くなったので二回に分けました。
後編の更新は、10/21 08時に予約済み。




