【第18閑】 メイドさんのお仕事 ~侍女はメイドじゃない?~ 終章
長かった本稿のシリーズも今回で漸く最終回となります――
さて、延々とこんなことを書いて来た後になって今更ではあるのですが、筆者は『「侍女≒maid」でも別にいいんじゃね? 堅いこと言いなさんなよ』と言うスタンスでして、そもそも本稿を書いた動機もそれだけだったりする訳ですけども……
「maidは侍女じゃない」っていう瑣末なところが気になってしまうならば、「女房」もダメだとでも言うのでしょうか?
「女房」とは元々は日本においては、侍女の上位職(つまり「上級侍女」といった感じなんですかね)を指した女性の役職名だったのですが、今日では周知の通り夫による「妻の俗称」として使われています。これなんか本来の職務に「妻の要素」が全然ありませんし、ある意味「maid→侍女」以上にかけ離れてしまっているように思います。なお余談ですが、かの清少納言と紫式部も役職が女房だったらしい。
「侍女≒maid」でも別にいいんじゃね?――
と言ってはみたものの、それも無条件で問題なしだとは筆者も思っていません。
これが例えば、西洋の史実を元にした重厚な歴史ロマンや、ヴィクトリア朝の英国を舞台としたゴシックホラーなどであれば、Lady's maid=侍女、maid=女中(王宮仕えの場合は、宮女が適当だろうか?)として、この二つをちゃんと分けて書くべきでしょうし、或いは異世界ファンタジーでもリアリティを重視した作風で、重厚な文体であった場合、ここをキチンと分けて書けているか、いないかでだいぶ印象が違ってくるハズ。
因みに筆者は侍女と女中(宮女)を分けて書いている作品を見掛けたら、「むむっ! この作者やるな!」と上から目線で感心することがあるとかないとか……
前述したようなケースを除けば、女性使用人=侍女として書いていようと、筆者的には目くじらを立てて文句を言おうとは思いません――但し、これは侍女=女性使用人と言うのがハッキリ分る場合に限ります。
個人的に一番イラッとするのは「侍女」と表記している小説において、果たして作者が字義通りの侍女のつもりで書いているのか、侍女=女性使用人のつもりで書いているのか、判別に困るような稚拙な書き方をしている小説なんかは、心底イラッとします……ま、大概はしばらく読み進めてみると、「侍女=女性使用人のつもりで書いていたらしい」ってケースの方が多い訳ですけど(笑)
「わからないまま書くのと、わかった上で忘れるのは違いますからね」――
このセリフはアニメ「SHIROBAKO」の作中において、脚本家の舞茸しめじがモノ作りをする上で大事にしていることの持論として語ったものである(因みに筆者のプロフィールコメントとしても載せています)。
これはつまり、演出と展開の都合を重視して「分っていてウソを描く」のは構わないが、「忘れて或いは知らないで、ウソを描いてしまう」のは許されることではない……と言う意味なのだと筆者は解釈しています。
実際、劇中アニメ「第三飛行少女隊」では、登場キャラたちに酸素マスクを着用しないで戦闘機を操縦させる、と言う分り易いウソを描いていましたしね(笑)
故に侍女とメイドに関しても、本来のその違いを頭の隅っこに入れた上で侍女と書いて貰いたいな、と思う次第なのです。
えー……とまあ長々と小難しい話を続けて来ましたけども、ここで卓袱台返しを一つ――理屈なんか取っ払った本音を言いますと、「侍女はmaideか否か?」ってそこまで拘るべきところなのだろうか? こんなことは、ぶっちゃけエンタメの世界では、邪魔にしかならない要素ではないかと思われる。
本稿のⅡ章でも少し触れましたが(後日、加筆した箇所)、「女性の主人に直接仕えるのは侍女」であり、「男性の主人に仕えるのは男性の近侍(valet)」――と言うのが現実の西洋における伝統的な配置である。
ここで皆さんに問おう――
主人公の側で付き従うのが「男性の近侍」と、メイド服を着た美少女「侍女」……どっちが絵になると思いますか?
令嬢や王女様の側で付き従うのが「ドレスを着た侍女」と、メイド服を着た美少女「侍女」……どっちが絵になると思いますか?
答えは明白ですよね? どちらも後者です。
但しこれが女性向けの作品の場合になると、主人公(イケメンに限る)やヒロインに付き従うのは男性の近侍(イケメンに限る)と言う組み合わせの方が絵になる、ってことになって話がまた違ってくるのしょうけど……筆者は男ですし、そっちのジャンルにはあまり興味ありませんし、本稿では関係ない話なのでこれ以上は追求しません。
話を戻すと――さらに言えば、「ハヤテのごとく!」や「黒執事」などに代表される創作の世界でお馴染みの――お嬢様或いはお坊ちゃまのお目付け役として登場する「執事(butler)」は、実際には「あんなことしない!(どんなこと?)」などと、今更誰も野暮なことは言いませんよね?
つまりそう言うことなのです。娯楽作品たる創作の世界において、時にはリアリティを無視してでも、絵になること=見栄えが優先されるべきなのです。これは先述した「SHIROBAKO」の件にも通じる話なのですが、なんだかんだ言っても¥娯楽作品たる創作においては、リアリティよりエンタメであることの方が大事なハズなのですから。
――結論?
最後に蛇足を――
この話はなろうのファンタジー小説だけに限ったことではないのですが……先日、某掲示板のなろう系スレで「ファンタジー世界で登場する国家は、王国と帝国、あと共和国だけ」みたいな話題を見掛けまして。で主人公が所属するのは王国で、帝国は敵……と言うパターンばかりだと。
なるほど確かにその通りなのかも知れません。そこでふと気になったのですけど、なろうの作者の中には、「王国と帝国」の違いを理解して書いていないのでは?と感じられるような人もちらほらと……
そもそも帝国以前の問題として、一口に「王国」と言っても、作者たちは「封建制国家」と「中央集権国家」の違いとかを理解しているのか? と不安を覚えます。
これは筆者の勝手な主観ですが、なろうのファンタジーでそれらの国家体制の違いまで、細かく拘って書いている小説の方が希少、と言う印象を抱いていた訳ですけども……
ところがなろうのとあるファンタジー小説で、帝国、封建制度の王国、中央集権国家の違いをちゃんと書き分けられており、しかも封建制度だった王国が貴族がクーデターを起こし、それを主人公が阻止した結果、貴族が弱体化して王家に権力が集中することになり、中央集権化が促進された、と言う展開まであり……しかも侍女とメイドも書き分けられていたり、この手の物語では無視され易い執事の上役の「家宰≒家令(housesteward )」まで登場させています。
さらに本来テンプレ以上の意味を持たない勇者召喚システムも、物語を貫く大きな謎として描いていたりと、設定面でも非常に凝った内容となっているのです。
「むむっ! この作者やるな!」と感心するばかり……
但し残念なことにこの小説――ノクターンの特殊性癖が主題のエロ小説なので、実名での紹介は控えさせて頂きます(笑)
えー……さて、五回に渡って続いた本稿のシリーズもこれでやっと終わりです。こ~んなグチャグチャな駄文に、長々とお付き合い頂いた皆様、有難うございました。
また当エッセイでは何度もお断りしていることですが、筆者が書いていることに誤った記述があるかも知れず、当方は情報の真偽については保障しません。
なのでくれぐれもウィキペディア同様、ここで書かれていることをあまり鵜呑みにしないようお願いします。
本稿の締め括りとして、何年か前にネット上でちょっと話題になった面白いエピソードをご紹介して終わりとさせて頂きます。
数年前とある女子大への求人募集に、なんと皇族の高円宮家より、こんな募集が掛けられたのだそうです。
「侍女」募集と――
無論これはLady's maidの方ではなく、家事全般を担う侍女と言う意味での求人だったみたいで……これはつまり日本最古の血統に連なる高貴な家の方々も、「侍女=maid」であることを認めたと言う何よりの証拠になる訳ですから、もうこれ以上考えるだけ無駄、これにて議論終了!……みたいな感じでしょうか。
【FIN】
次回は単発ネタで…って言うかシリーズモノは疲れるので、もう当分書きたくない(汗)
なるべく時間を空けずに、近日公開予定。




