【第16閑】 メイドさんのお仕事 ~侍女はメイドじゃない?~ Ⅲ章
さて早速ですが、本題に入ります――maid≠侍女なのであれば、ではmaidは何と日本語訳するのが適切なのか?と言う問題なのですけど……
取り敢えずネット上に複数ある翻訳サービスを使って、侍女の翻訳及び、前回までに挙げたmaidの各役職――英名→日本語への翻訳、日本語訳の名称→英語への逆翻訳を繰り返して、一通り試してみました。
翻訳したところ、予想外のなかなか楽しい結果となりました。まずはご覧になって下さい。
●Google翻訳
・侍女→maid→メイド
・女中→maid
・Lady's maid→レディースメイド
・waiting maid→待っているメイド→Maid waiting→メイド待機→Maid waiting
・handmaid→お手伝い→Help
・housemaid→家政婦→Housekeeper→お手伝いさん→maid
・小間使→maid
・Chambermaid→女性の客室係→Room clerk of women→女性の客室係
●エキサイト翻訳
・侍女→Lady's maid→侍女
・waiting maid→待っているメイド→waiting maid
・handmaid→女中
・housemaid→女中
・女中→Maidservant→女中
・Housekeeper→家政婦→Housekeeper
・お手伝い(さん)→maid→メイド
・小間使い→maid
・Chambermaid→部屋係の女性→The female of the room service→ルームサービスの女性→The female of the room service
・女性の客室係→Female housekeeping→女性の家計→Female household budget→女性の家庭予算→The home budget of the lady→婦人の家庭の予算→The budget of the woman's home→女性の家の予算→The budget of the female house→女性の家の予算
●Yahoo!翻訳
・侍女→Lady's maid→小間使→maid→メイド
・waiting maid→侍女
・handmaid→女中→maid
・Housekeeper→家政婦→housemaid→家政婦→Cleaning lady→掃除婦→Cleaning lady
・Maidservant→お手伝いさん→maid
・Chambermaid→メイド
・お手伝い→Help
●Infoseekマルチ翻訳、So-net翻訳
・waiting maid→侍女→Lady's maid→小間使→Chambermaid→メイド
・handmaid→女中→maid→メイド
・housemaid→家政婦
・Housekeeper→家政婦→Cleaning lady→掃除婦→Cleaning lady
・お手伝いさん→Maid
・お手伝い→Help
●Weblio 翻訳
・waiting maid→侍女→waiting maid/Lady's maid
・Lady-in-waiting→(女王・王女の)侍女・女官
・Lady's maid→小間使い・女中
・女官→court lady→女官
・女中→maidservant/housemaid/maid
・小間使い→chambermaid/fille de chambre/housemaid/maidservant/maid/amah
・maidservant→お手伝い・女中
・housemaid→家政婦・女中・お手伝い
・maid→メイド・お手伝い・女中・娘・少女・処女
・handmaid→侍女・女中
・Chambermaid→(ホテルなどの)客室係のメイド
・amah→(インド・中国などの)乳母・お手伝い
・お手伝い→help/aid/assist
・お手伝いさん→domestic servant/maid
・domestic servant→家事手伝い・召使い・家庭的な使用人
・Housekeeper→家政婦・清掃係・家政婦長……「イギリスにおける女性家事使用人の一種であり、食料貯蔵室の管理と女性使用人全体の監督を行う上級職。家政婦長とも訳される」
以上のような結果となりました……えー、取り敢えずこれで分ったことは、迷翻訳をしてくれたGoogle翻訳とエキサイト翻訳が、「使えねぇ」と言うトホホな事実でした(え? とっくに知っていたって?)。
特に「housemaid→家政婦→……」のGoogle翻訳と、「家政婦→Cleaning lady→……」のinfoseekマルチ翻訳&So-net翻訳と、「Housekeeper→家政婦→housemaid→……」のYahoo!翻訳の珍翻訳っぷりが酷い。
そもそも「家政婦長」と意訳されるHousekeeperが、石崎秋子みたいに中流家庭で住み込みで働く「家政婦」とは別物の職業だと言うのは、前回の説明でも明らなこと。Housekeeperとhousemaidをごっちゃにしてしまうのも論外。また家政婦が職務内容を限定してしまう掃除婦とは別物なのも明白。
さらに現代日本的には、家政婦とお手伝いさんが同義だと見て良いと考えられますが、お手伝いをmaidと訳すのは無論のこと、隷属的意味合いの強いhandmaidと訳してしまうのは論外。
家政婦及びお手伝いさんは関しては、domestic servantかDomestic workerとでも訳すのが適切ではないかと考えられます(間違っていたらゴメン)。
とは言えドラマ「家政婦のミタ」のウィキペディアの英語のページでは、Housekeeperと訳されていたりもするので、Housekeeperに現代的には「住み込みのお手伝い」と言う意味もあるのもまた事実のようです。
あと「waiting maid→待っているメイド→……」と訳してしまったGoogle翻訳も十分アホなのですが、同じくGoogle翻訳が「Chambermaid→女性の客室係→Room clerk of women」と訳してしまったのはまだしも、「女性の客室係→(略)→女性の家の予算」と言う珍翻訳の迷走っぷりをかましたエキサイト翻訳は、もう本気でアホなんちゃうかと……
それらに比べてWeblio 翻訳のなんと優秀なことか。
「Lady-in-waiting→(女王・王女の)侍女・女官」は、注釈付きで正確に意味を翻訳していますし、「Housekeeper」も細かに伝統的意味を踏まえた翻訳しています。他の翻訳の方についてもほぼ完璧なのではないかと思われます。
結論。翻訳サービスを利用する場合、Weblio 翻訳を使うのがベスト……って言うことになりそうです。
因みに「maid」と言う語は、元々は「handmaiden」が正式だったらしいです。字義的にはこれを直訳すると「手仕事をする若い娘」って感じの意味になるのでしょうか?
で時代が進むうちに、いつからか“hand”が取れて「maiden」→「maid」となったらしいのです(そもそも単に「maid」と言う語だけでは字義的には“若い娘”と言う意味しかありませんし)。なので本来であれば「maid」と「handmaid」は同義と言うことになりますが、前回説明した通り今日ではこの二つの語にはニュアンス的には大きな隔たりがある模様。
そーいえば昔、「HAND MAID メイ」って言うアニメがありましたけど、アレはネーミング的にアウトと言わないまでも、現代の語感的には時代遅れなものなのではないかと思われ……
もう一つ余談――西洋の伝承にDragonmaidと言う幻獣がありますが……これが「ドラゴンのメイドさん」では無いのは言うまでも無いことでしょう。これの場合、従来の字義通り「龍の乙女」といった感じの意味になります。
ですがそのキッチュなネーミング故か、最近ではその名が示す通り「ドラゴンのメイドさん」として萌えキャラ化しているようです(笑)
――閑話休題。
さて各翻訳サービスの翻訳精度の批評の方は置いておいて、「maid」を日本語で何と訳しているか?と言う本題についてなのですが――
①maid→メイド
②maid→女中
③maid→侍女
代表的なモノはこの三つではないかと思われます――なお他にも「小間使い」「お手伝い(さん)」などの語もありますが、maid=女性使用人として判別出来る訳ではないので、ここでは除外しておきます。
①は何の捻りも無くそのまんまです。とは言えメイド=女性使用人と言う意味をちゃんと分っていれば、ぶっちゃけこれでも構わないような気がしますし、今時の日本人なら子供でも知っている言葉でしょうから、「わざわざ日本語に無理に意訳する必要はない」――これがある意味一番無難なアンサーなのかも?
③のことは最後に回すとして――問題は②の「女中」でしょうね……
えー、説明の途中ではありますが、当初の予定より長くなってしまったので、ここで一旦区切って話の続きは次回にて――
【Ⅳ章に続く】
もうちょっとだけ続くんじゃよ…




