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【第14閑】 メイドさんのお仕事 ~侍女はメイドじゃない?~  Ⅰ章

今回も単発でさくっと終わらせるつもりだったのに、長くなってしまってシリーズ化…(汗)

「もし大金持ちになったら、真っ先に手に入れたいモノはなんですか?」


 とオタク男子百人に質問したら?――おそらく九十人以上が口を揃えて「メイドを雇う」と即答するだろう、と予想されます。

 

「おはようございます。ご主人様」


「行ってらっしゃいませ。ご主人様」


「お帰りなさいませ。ご主人様」


「美味しくなぁれ、美味しくなぁれ! 萌え萌えキューン!」(これは違う)


 ……なんて感じに、おはようからおやすみまで暮らしに夢をひろげてくれるメイドさんがいる日常、これに憧れない男子なんていないハズ。

 ああっメイドさん、メイドさん!……メイドさんは最高だぜ!――ってことで今回は、そんなみんな大好きメイドさんの話をします。



『侍女はメイドではない』


 えーと、唐突ですが――これは某掲示板のなろう系スレで、たまに見掛けるコメントです。

 メイドと言えば、「小説家になろう」において――特に異世界ファンタジーの小説でお馴染みの役職な訳ですけども……メイドを「侍女」と表記させるケースもよく見掛けますよね?(或いはこれを読んでいる作者さんの中には、既にそう書いてしまった方もいるかもしれませんが)


 ですがmaid=侍女として記述された小説を見掛けようものなら、「侍女はメイドではない」とツッコミを入れてくる人がいる訳ですね。

 ですが普通は……「え? “メイド”って日本語訳で“侍女”と言うのではないの?」――と疑問に思われる人の方も多いハズ。

結論を先に言えば、その指摘は間違っておらず、歴史的事実としては正しかったりします。とは言えだから「maid=侍女」として使ってはダメなのかと言えば、必ずしもそうとも言い切れず……


 とゆーコトでこれから、maidと侍女の違いについて順を追って解説して行きます。

 なお本稿で述べるメイドについては、英国の伝統的なメイド服を着たメイド像を前提として語ります。以後、特に注釈がない限りはそのつもりで話を進めますのであしからず。



 まず始めに――そもそも日本における「侍女」とはどんなモノなのか? と言う説明からして行きます。

 ウィキペディアの「侍女」の項目から、その内容を引用しますと――『武士階級における貴人(主に大名以上の正室・姫君)に付き従う女。腰元以上の身分の者(武士階級扱い)』とあります。


 これはつまり、身分や家柄が確かな家の娘が宮中や大名屋敷などに出仕し、自身より身分の高い女性に仕えた世話役――それが日本伝統の侍女と言う役職だった訳です。

 しかも高貴な女性のお世話役とは言え、着替えなどの手伝いはしたものの、メイドのように雑務全般をしていた訳ではないようで、その職務の実態は遊び相手だったらしいです……お姫様と二人きりで「貝合わせ」に熱中して遊んだりしたんでしょうかね(意味深)……ゴクリ。


 さてこの時点でもう既に、「侍女はmaidとは違う」と言う明確な結論が出てしまっている訳ですけども……話はまだまだ続きます。



 次に欧州の方に目を向けて見ましょう――「家柄が確かな女性が、自身より身分の高い女性に世話役として仕えた」のが日本伝統の正しい意味での侍女だった訳ですけど、実は欧州でもそれに該当する役職があったのです。

 貴族身分の子女や夫人が王宮に出仕し、王族の女性――王妃や女王、王女の身の回りの世話役として仕える女性の役職――これをLady-in-waiting(waiting maidとも)と言います。


 Ladyレディ-in(イン)-waiting(ウェイティング)――これを日本語に直訳すると「貴婦人にはべる女性」といった感じになります……そうこれを意訳すると「侍女」と言う意味になるのです。面白いことに国や言葉がまったく違うのに、意味と役職が一致している訳ですね。 

 因みにwaitingと言う単語は、接客業のウェイター&ウェイトレスと同じスペルとなっています。

 なおウィキペディアの「Lady-in-waiting」の項目の日本語及び中国語のページでは「女官」と訳されていますが、中国では「侍女」と言う言葉は存在せず、日本独自の官職名となっています(但し中国には「女侍中」と言う官職名はあった)。


 あとLady-in-waitingの別名にwaiting(ウェイティング) maidメイドとあって、名前こそmaidとなっていますがこの役職はメイド服を着用したメイドではありません。お世話役とは名ばかりで、その実態は王妃や王女の遊び友達だったようです。また主従の中には、姉妹のように仲が良かったと言う例も記録に残っている模様。

 因みに英国王室では、今でもエリザベス2世(・・)女王にはLady-in-waitingと言う役職の女性がついているとのことですが、これがメイドではないのは言うまでもないでしょう――


  

 余談ですが、エリザベス女王と言えば、英国の――イングランドのもう一人のエリザベス女王、エリザベス1世(・・)の父親ヘンリー8世は、必要悪の教会……じゃなかった英国国教会を「離婚を成立させる為」と言う個人的事情の為に設立し、生涯六回結婚=離婚&再婚で王妃を取っ替え引っ替えした好色王として有名な人物です。


 エリザベス1世の母親はアン・ブーリンと言う二番目の王妃であり、ヘンリー8世の最初の王妃との離婚劇の原因になった人物で、初代王妃のLady-in-waitingを務めていた人物だったりします。

 アンが王に気に入られて、愛人を経て二人目の王妃になったその後――後のエリザベス1世を生むと、初代王妃が生んだメアリーを庶子の身分に落とすよう仕向け、こともあろうに自分の娘のLady-in-waitingになるよう強要。結局はメアリーは拒絶し、幽閉されるハメに……


 その後、アンとその一族は権勢を誇ったものの、アンは複数の間男と姦通した罪で処刑に。なおその罪状の中には実兄との近親相姦があったが、姦通罪そのものが冤罪だったと言う説も。

 因みにアンの母親も、かつてヘンリー8世の愛人だったと言う説もあったりで、この時点だけでもかなりのカオスっぷりなのですけど、闇はまだまだあります。


 三人目の王妃も元々はアン・ブーリンのLady-in-waitingだったとか、五人目の王妃のLady-in-waitingがアンの実弟の妻で、しかも五人目の王妃の間男との浮気を手引きして、一緒に処刑にされたとか、初代王妃は元々はヘンリー8世の実兄の妃だったとか、人生半ばまでは悲劇の王女だったメアリーが女王に即位した途端、宗教弾圧を行って悪名を轟かせたとか――いやもうね、「事実は小説より奇なり」と言いますか、闇が深過ぎてヤバいです……


 突然何故こんな話を出したかと言いますと――「小説家になろう」では、「悪役令嬢モノ」とその派生「婚約破棄モノ」が一大ジャンルとして、女性読者に人気が集まっていますけども、ぶっちゃけヘタな悪役令嬢モノを読むより、ヘンリー8世&アン・ブーリン~エリザベス1世の時代の王室のずぶずぶなドロドロっぷりの方がよほどオモロいな~……と言いたかっただけでして(笑)

 でもLady-in-waitingについてもいっぱい触れたので、そこまで無関係って言う訳じゃない……ですよね?



 閑話休題――


 さて以上の通り、欧州のLady-in-waitingは一般的にイメージされるような雑務全般を行うメイドとは全然違う役職であり、日本伝統の侍女と同様に、意味も立場も本質的にはほぼ同一の職務だと言えそうです……ま、これを今風に簡単に言えば「お嬢様の取り巻き」って感じなのではないかと思われます。

 なお書き忘れていましたが、侍女にしろLady-in-waitingにしろ、一人の女主人に付き従うこの役職は一人だけでなく複数おり、休息を取りながら交代で従事していたようです。


 洋の東西を問わず「maid≠侍女」なのがハッキリしてしまった訳ですけども――なおこれは偏見であり根拠は無いのですが、最初に書いた「侍女はメイドではない」と煩くツッコミを入れて来る人には、歴女が多いのかな?とか思ってみたり(笑)


 「maid=侍女」は間違いだから、創作においてこの解釈で使ってはダメなのか?と言われると筆者は違うような気がするのですよね。

 そもそも本エッセイのテーマである、肝心の英国の伝統的なmaidについて、まだまったく言及してません……そんな訳でⅡ章では、伝統的なmaidについて詳しく説明して行き、「maidと侍女の違いは?」と言う本テーマのまとめは、本シリーズの最後にさせて頂きます。



【Ⅱ章につづく】

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