【第13閑】 パンツ(♀限定)の話~パンティじゃダメなんですか?~
今回は女性の皆さんは読まれないことをオススメします…
「パンツ教」――かつて養蚕家が蚕を「お蚕様」と呼んで神聖視したように、現代日本においては性的情動を持て余した思春期男子以降の日本人男性の、実に七割以上が若い女性のパンツを信仰の対象とし、入信していると言われる新興宗教である。
この宗教の信仰の実践に当たってその有り様は実に千差万別であり、信者たちの間でも信仰への見解や実践法が統一されてはいないパンツ教ではあるが、パンツを御本尊或いは御神体として「おパンツ様」と呼び崇めること、これこそが最大にして唯一の共通した教義となっている……
などといきなり冗談をかましてみましたが、そもそも「おパンツ様」って最初に誰が言い出したんですか? 元ネタって何なのでしょうか? ご存知の方がおられましたら筆者に教えてつかぁさい。
……ってことで、今回は我々男子の永遠の信仰の対象であるおパンツ様、じゃなくて「パンツ」――女性が下の方に穿く下着の話です。
皆さんは覚えておられるだろうか? かつて何でも一つ願いを叶える神龍に、とある豚の少年がこう願ったことを……
「ギャルのパンティおくれーーーっ!!!!!」と――
そう「パンティ」である。
昭和世代であれば周知のことであるが、七〇~八〇年代にかけて女性の穿く下着をパンティと呼称するのが一般的だったのである。
それがいつの間にか、パンティと言う言葉が廃れてしまい、今では「パンツ」と呼称するのが一般化してしまったらしい。
余談ですが、下着は女性のモノに関してはパンツ・ブラジャー・キャミソールなどを引っ括めての総称とされるのですが……字義的にはその対となるべき「上着」の方については、シャツやコートなどの上半身に着る衣服のみを指す言葉なのだそうです……何でやねん!
話を戻します――そもそも女性の穿く下着をいつからパンツと言い換えられるようになったのか?
過去の漫画などで軽く調べてみたところ、少なくとも九〇年代末辺りまではパンティと呼称されていたことが確認出来ます。
それが〇〇年代に入ってから、パンティと言う呼称が急速に廃れて、パンツと言う呼称に取って変われていった、と言う感じの流れになっています。
パンティと言う呼称が廃れてしまった理由として、セーラー服やブルマなどが男性の性的好奇心を誘発させるモノとして、アダルトビデオや漫画をなどで、エロを助長させる小道具として定番化したこと。
さらに九〇年代以降になると……イメージクラブやプルセラショップなどの風俗産業が台頭するようになり、また援助交際が社会問題化。
そういったことが影響したのか、現実においてセーラー服やブルマも九〇年代末には、すっかり廃れていってしまった訳で……こう言った背景情報も「パンティ呼ばわり」が廃れてしまったことと、大きな因果関係があるような気がします。
つまりパンティ=エロを助長されるモノと言う図式が忌避された結果、「パンティ呼ばわり」が敬遠されるようになり、色気のない別の呼称――「パンツ」に取って換われてしまった、と言うことなのではないか? と考えられる訳です。
余談ですが、八〇年代ののヒット曲「セーラー服を脱がさないで」は、現在では要注意歌謡曲指定されているそうです……
とまあ、ぐだぐだもっともらしい分析らしきことをしてみましたが、「パンティ呼ばわり」が廃れた理由はもっと単純な話で、パンティと言う語感がキッチュでチープ……要するにダサくてイケてないと感じる人たちが多くなった、と言うのが理由として大きかったのではないか? と言うだけの話なのかも知れません。
あと「パンティ呼ばわり」が廃れてからは、「ショーツ」と言う呼称も割と多く見掛けるようになりましたが……それ以外では一時「ランジェリー」と言い換える動きがあったように、筆者は記憶しています(これはあくまで筆者の主観であり、単に事実誤認していただけかも知れません)。
パンツ、パンツ、パンツ……うーん、なんとも味も素っ気もない実に無味乾燥な響きな気がします。
昭和世代の筆者的にはパンツと言えば、色気からはかけ離れた男性用のモノか、幼児用のモノ、と言う印象の方が強いのですけども(実際、八〇年代には男性用のパンツ――ブリーフを意味する「パンツの穴」と言うタイトルの映画がありまして、この映画は思春期男子の性的好奇心をテーマとしていました)。
幼い頃からパンツで慣らされた平成世代には、「パンツ呼ばわり」でも違和感が無いみたいですね。
さて女性の穿く下着がパンツと呼ばざる得ないのは、時代の変化と言うことで、まあ仕方ないとしても……もう一つ困った、と言うか面倒な事象があります。
ファッション業界発で、ファッション上級者を中心に「ズボン」を「パンツ」と言い換える、と言う動きがあるみたいで……
従来のズボンと言う呼称ではダサいと言うことなのでしょうか?
確かにズボンは由来不明の和製カタカナ語ではありますが、だからと言って「ズボン呼ばわり」を無しにすると言うのは如何なものなのか?(知名度のあるチノパンやカーゴパンツみたいに、固有名詞化されたようなモノは仕方ないとしても)……って言うか、だったら素直に英語に従って「ボトムス」や「トラウザーズ」と呼べばええだけの話やん。
そもそもズボンまでもパンツと呼んでしまったら、「下着のパンツ」「衣服のパンツ」と一々枕詞を付けて呼ばなければ、区別出来ないと言うことになってしまいます。
ところでズボンと言えば、パンティがほぼ死語化しているのと同様に、最近は「半ズボン」「短パン」などの呼称があまり耳にされなくなった気がします……って言うか、おそらく今時「半ズボン」なんて言っていたら、その人は下の世代から時代遅れ扱いされるのではないと思われ……
余談ですが、アニメ「ストライクウィッチーズ」の世界では、「パンツじゃないから恥ずかしくないもん!」と言うキャッチフレーズが示す通り、ヒロインたちが穿く下着のパンツらしきモノは下着ではなく、「衣服としてのズボン」であり、さらにスカートは存在せず、あくまでズボンなのでパンモロでも恥ずかしくない、と言うトチ狂った設定になっていましたが……
これは世のズボンをパンツへと言い換える、と言う悪しき風潮を皮肉る為に考案された設定だったのかも知れません(そんな訳がない!)
まとめです。
女性の下着をパンツと呼ぶことについては、筆者としては忸怩たる思いが未だに燻っている訳ですけども……世の風潮が完全にそうなってしまった現在、アマとは言え物書きの端くれとして、筆者もそれに倣うことについては吝かではありません。
ですがズボンだけは別です。
ズボンと言う表記で十分であるところを、これさえもパンツと呼んでしまったりしたら、文章を書く上で、これほどややこしくて面倒なことはありません。故に一人の物書きとしてズボンのパンツ呼ばわりだけは看過する訳にはいかない……と言う訳です。
最後に……例え世の中からパンティと言う呼称が消え失せようとも、パンツ呼びが世の標準になろうとも、またその風潮に屈して文章の上ではパンツと表記しようとも、筆者の心の中だけでも死ぬまで女性の穿く下着のことを、情動と性欲を目いっぱい込めて、パンティと呼び続けたい、と強く主張する次第なのです。
――今回の格言?
【おわり】




