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【第11閑】 ライオン東方渡来伝~獅子流転綺譚~ 其の伍(終)

需要があるのかどうか不明なこのシリーズも今回でようやく最終回です。

 さて長かったこのシリーズも今回で本当に最終回となります。

 最後に登場する獅子の末裔は、もうお分かりかも知れませんが沖縄にいるシーサー像のことです。


 ハッキリ言ってシーサーは、唐獅子や狛犬にソックリです。仏教由来の「阿吽で一対」と言うスタイルも狛犬と同じみたいですし(但しこのスタイルが確立したのは、近年になってからだった可能性が高いと考えられるので、あまり参考にならないかも知れません)。

 実際、ピクシブ百科事典の「唐獅子」の項目で、『 沖縄のシーサーはこの幻獣からさらに派生し、独自の幻獣として発展した存在』なんて書かれていたりするくらいですから……

 確かに素直に考えれば、日本ヤマトから唐獅子や狛犬が伝来して、それがシーサーになった、と言う見方になるのが自然なのかも知れませんが……果たして本当にそうなのでしょうか?


 そもそもシーサーがネコなのかイヌなのか、意見が別れて実態が定かではないのだそうですが、個人的にはネコっぽいように感じます。

 それは何故かと言いますと――沖縄でイヌと言えば天然記念物の琉球犬がいます。

 一方で沖縄のネコと言えば同じく天然記念物のイリオモテヤマネコがいますが……シーサーとこの二種を比較した場合、シーサーは琉球犬には全然似ていません。それと比べればイリオモテヤマネコ=ネコ科動物の方がまだシーサーに似ているように思えるのです。もっともこれは極端な消去法ですし、あくまで筆者の主観に過ぎないのですが……


 ところでシーサーに関する説明で「沖縄(琉球)の言葉で獅子をシーサーと言う」って感じの記述をネットでよく見掛けるのですが、これって本当のことなのでしょうか?

 沖縄の言葉でイノシシを「ヤマシシ」と言うのだそうですが……シーサーが獅子の訛化したものなのであれば、イノシシだって「ヤマシーサー」となるのが自然なハズですし、また肉のことを沖縄の言葉で「シシ」と言うのだそうですから、いよいよシーサー=獅子訛化説の根拠は怪しくなってきた気がします。 


 第一回目でも説明しましたが、獅子をサンスクリット語で「simhaシンハ」と言い、それを中国語で音訳して漢字に当てたものを「獅子シーツィ」と言います。

 これって語感的には、どちらも訛化してシーサーになったとしても不思議ではないと思いませんか?

 またシーサーは唐獅子や狛犬に比べれば、まだネコっぽいフォルムを残していると言う点も見逃せない事実です。


 日本の狛犬と唐獅子の場合、インド→中国・北京→朝鮮→日本と言った感じのルートを辿ってきた訳ですけど、先述した事柄を踏まえて考えると、シーサーの場合そのルーツとなったものが伝わったのが、日本ヤマト経由じゃなかった可能性も十分あり得ることだったと考えられるのです。

 長江以南の南方の陸路を経由して、石獅子が渡来したのかも知れませんし、はたまたインド洋からの海上ルートで直接伝わったのかも知れませんし……実際のルートがどうであったかは兎も角、朝鮮或いは日本ヤマト経由でシーサーのルーツが渡来したと決め付けてしまうのは短絡的なのではないかと思う訳です。


 但しシーサーの阿吽の方に関しては……江戸時代以降に日本ヤマトから伝わり、阿吽を取り込んで今のスタイルにアレンジされた、と言う可能性が高いのではないかと考えられます……


 最後に一つ余談を……と言うか蛇足を――

 一七世紀以降、流転の運命を辿って来た沖縄は、戦後に本土(日本)へ返還されてから二年後、一九七四年に映画「ゴジラ対メカゴジラ」が公開されました。

 沖縄を舞台とした本作では、沖縄の守護神とされるキングシーサーと言う怪獣が登場するが、この怪獣はシーサー像の化身と言う設定で、ゴジラと共闘してメカゴジラと戦う展開となっています。

 つまりこの映画には、本土人(ゴジラ沖縄人キングシーサーが協力し合って、騙して近寄ってきた侵略者(X星人とメカゴジラ)を倒して平和を取り戻す……と言う暗喩が込められていた訳である。


 えーと……さて、五回に渡って長々と続けてきた獅子像の日本への渡来と変化、奇縁合縁についての説明は、以上を持ちまして終了となる訳ですけども……最後にインド以前の「ライオン像」のルーツではないかと言われているモノ――スフィンクスについて解説します。



 本項では実はこれに関しては、意図的に除外していました。それは何故かと言えば、ぶっちゃけルーツとするには「遠過ぎる」と思ったからです。

 スフィンクスのルーツは、古代オリエントだのメソポタミアだのと言われてもいます。これを根拠に狛犬の起源はここにあるだの遠縁だのとするには、時代も場所もあまりにも遠過ぎて、そこまでいくと「全ての文明のルーツはそこにあるのだから、全ての文化的意匠の起源もそこに集約されるのだ」と言っているのも同然であり、「それは極論だろ!」と突っ込みを入れたくなると言うもの。


 ましてスフィンクスって「人面獣身」だし、他にも「上半身が雄羊」のものがあったりしますから、インドの獅子像に影響を及ぼした、とするにはちょっと無理があるように感じてしまいます。

 この程度の根拠で起源だとか言ってしまったら、中国の竜の起源は古代エジプトにおいて蛇を神格化したものが発祥だ、とか言ってしまうのと同レベルの飛躍し過ぎた発想でしょ、と。


 明治神宮のサイトのQ&Aの狛犬の説明によると――「古代オリエント諸国では聖なるもの、神や王位の守護獣として百獣の王ライオンを用いる流行がありました。そのいちばんいい例がエジプトピラミッドのスフィンクスです。それが一方では西欧に流れていってヨーロッパ諸国の王位の象徴である獅子像になりました。西欧の王室のマークや建物の飾りを見ると、ライオンのデザイン化されたものが多いでしょう。あれも狛犬の遠縁なのです」


 ……などと説明していますけど、古代オリエント諸国については詳しくないのでコメントは控えますが、「西欧に流れていってヨーロッパ諸国の王位の象徴である獅子像になりました」って言うのは疑問を感じます。

 古代の王政ローマのシンボルなんて「雌オオカミ像」だったんですけどねぇ?……西欧が発展するよりずっと昔――紀元前数千年も前の文化的意匠が、西欧に影響を与えたとする考え方は極端過ぎなのではないかと。



 余談ですが、スフィンクス――ギザの大スフィンクスについて、ウィキペディアで二大トンデモ本「神々の指紋(グラハム・ハンコック著)」「オリオン・コード(ロバート・ボーヴァル著)」を引用して、「紀元前10500年ごろに春分の日の朝、スフィンクスの正面からしし座が昇ったことから、スフィンクスの建造をこの時代とした」と記述しているのですが、そもそも一二五〇〇年も前に現在使われている星座があったワケねーやん!

 しかもその根拠が超古代文明があって、その文明に星座表が既に完成されていた……なんて言う話が前提での与太話なので、まったく話になりません。

 こんな学術的欠片のない妄想話など記事として相応しくありません。さっさと削除して貰いたいところ。


 さらに同じページでは大スフィンクスの大きさについて、「全長73.5m、全高20m、全幅6m」などと記述しているのですが……幅がたったの六メートル? そんな訳がない。

 正しい大スフィンクスの大きさは「全長七三.五メートル、全高二〇.二二メートル、全幅一九.三メートル」である。こちらも合わせて修正して貰いたいところ。

 因みに調べてみたところ、フランス語のページでも「全幅一四メートル」と書いてありました。 ホントもうね、ウィキペディアの記述はうっかり鵜呑みに出来たもんじゃありませんので、皆さんも気をつけて下さい……


 ――閑話休題。


 

 ところで大スフィンクスと言えば、幕末の一八六四年に遣欧使節団が洋行の途中で、エジプトに寄港した際にギザのピラミッドを訪れて、大スフィンクスを背景に記念写真が撮影されたのは有名な話ですけど、彼らはスフィンクスを見て果たして「巨大な狛犬だ」とか思ったのか、当時の彼らの胸中が気になるところ。


 さて遣欧使節団の日本人が現地や西欧の地で、「本物のライオン」を目撃したかどうかは分りませんが、「本物の生きたライオン」が日本国内に入って来たのは一八六六年のことで、正月に江戸で「雌一頭」が見世物にされたのだそうです……え? 雌? 雄は……?


 さらにその後、一八八六年の明治時代にイタリアからサーカス団が来日したのですが……未確認ですが猛獣使いビーストテイマーがいたそうなので、雄ライオンもいた可能性が高いのではないかと思われます。

 

 そして一八八二年に開園した日本最古の動物園、上野動物園に一九〇二年にドイツの動物園からバーバリーライオン(野生種絶滅)が贈られて来たとのこと。但しそれが雄ライオンだったのかは未確認……


 実際には「本物の生きた雄ライオン」がいつ日本にやって来たのかは兎も角――日本に、いや大勢の日本人が「雄ライオン(本物の生きた獅子)」を目撃したのは、日本に獅子が伝わってより実に一二〇〇年も経った後のことだったのである――



 これで以上を持ちまして、本テーマは本当に終了となります。なんとか書ききれてホッと一安心。

 ドラゴン回の時にも書きましたが、これは学術的に裏づけされた考察の類いではなく、あくまで素人の暇つぶしで展開しただけの考察もどきに過ぎませんので、ここで書かれたことをくれぐれも鵜呑みにしないで下さい。

この連載エッセイでは一回辺り二五〇〇~二八〇〇文字を前提としていますが、今回のシリーズは加筆修正を繰り返した為、毎回三百文字前後となり、最終回では四〇〇〇文字近くまで要してしまいました……


毎回繰り出していた「これについてはまた次回の講釈にて」と言う結びの言葉は、夏目雅子・堺正章主演の「西遊記」のナレーションに倣ったものです。


一九六四年にもアメリカからサーカス団が来日していますが、詳細が不明だった為スルーしました。


番外編を二回書く予定ですが、それはまた何れ気が向いた時に……

次回の内容はまだ未定ですが、がらっと変えて軽いネタを書きたいなぁ……とか思っています。

って言うか、本当はもっと短くまとまったものを書きたいのですが、何故かいつも長くなってしまいます……

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