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7 発見と報告・連絡・相談

 駆け出さなかったのが不思議なほどの足取りで書庫に入っていく。

 そのまま真っ直ぐに書棚へと向かい、まずは目についた本を3冊ほど取り出す。

 そして、さきほど茜と共に使っていた机に本を置き、読み始めた。


『料理大全 第五巻』は、さきほど茜が読んでいた本の続刊らしい。茜がおいしそう! と言っていたのも同感だ。懇切丁寧に造り方が解説され、完成図と共に要所に挿絵が入っている。


『万観地勢 第二巻』は、かつて巡り訪れた地の文物・風物・地勢・気候などが纏められるのだが、時代も経っているのでこれは参考程度かな。


『奇想天外・奇妙奇天烈大事典 第一巻』は、様々な大中小取り交ぜた道具らしきものの参考図や造り方・使い方、思い付きや雑多な構想などが纏められているらしい。これは面白そうだ。


『料理大全』・『万観地勢』を元の場所に戻し『奇想天外・奇妙奇天烈大事典』の続刊を探す。


 皮の装丁が痛んでおり題名が読めないものもある上に、バラバラに入っているらしく探すのに手間取ってしまう。


『奇想天外・奇妙奇天烈大事典 第二巻』のほかに『設計概要および備忘録』という本があったので、ついでに持ってくる。


 まずは『奇妙奇天烈大事典 第二巻』からざっとみていく。やはり楽しい。

 これは熟読の必要があると思い、第1巻と共に脇に置く。お楽しみは後でとっておくとしよう。


 さて次は、『設計概要および備忘録』だ。

 どんな内容なのだろうか。静かにページを開いていく。


 ・

 ・

 ・


 いま、手元にある『設計概要および備忘録』のあるページから眼が離せない。

 息が苦しい。

 動悸が激しいのか、心音がやけに大きく聞こえる。

 手元の『設計概要および備忘録』のある頁には、上部に題名がこのように記されている。


 ――『アイアンゴーレムを用いた装甲機動兵機 (仮称)の作成に関する一案』――


 要約するとこうなる。


【本論】


 ・ 七~八メルトル級アイアンゴーレムをスケルトンの型に整形。これをインナーフレーム(内部骨格)とする。(大型魔獣の骨格を流用しても可)


 ・ 弾力性・伸縮性に富むローパーの触手、もしくは変異スライムなどを束ねて筋肉筒を形成する。これをインナーフレームに装着し出力の増大を図る。


 ・ 胸部インナーフレームを円形状、もしくは球形状にし操縦席を設置する。


 ・ 頭部および各所に擬似感覚器官としての眼球を配置し、操縦席正面などに投影する。または透明な板(硬質硝子板や大型甲虫の羽などを削る出すなど)を装着し視野を確保。


 ・ 操縦席から入力された動作情報および各四肢からの回帰情報を処理する中央演算部が必要。


 ・ 外部状況や各種機体情報を処理する補助演算部が必要。


 ・ 各種情報伝達用の神経を機体に配する。


 ・ 筋肉筒の動作・維持をおこなうための餌が必要であり、それを循環させるため流動管を配する。


 ・ 餌の循環を行うために、鞴ふいご類を用いた擬似心肺機能を設置する。


 ・ 外部装甲を装着し、武装等を施す。


【要望】


 ・ 指揮官機は、全身を赤系統の色にする。


 ・ 指揮官機を含め各機は、低視認性を求める場合には地形・地勢に沿った配色を行う。

 この際、単色のみならず、複数色を用い迷彩模様を作ることも考慮する。

 また機体の一部(例えば肩部等)を赤系統に染める事で代替として良い。


【留意事項】


 ・ 人型に拘ってはならない。動物・昆虫などの姿形を観察してみる事。

 進化の果てに行き着いた必然性を軽視してはならないが、それとて絶対視してはならない。


 ・ 用途を軍事用に限定してはならない。

 土木建築・運搬などにも転用できることに着目。


 ・ 上記全ての事柄につき神聖視・絶対視してはならない。

 常に向上を志し、改良を試みる事。またその際の失敗を恐れてはならない。


 ・ 失敗したことも、その事例のみならず設計なども含めて全て書き付け、保存すること。また適宜参照できるように整理すること。



 これは、なんというか……凄いとしか言いようがない。

 これが本当に作成できるならば、現状を打破できるかも知れない。

 しかし、この【要望】の二つの意味が解らない。何かのおまじないなのだろうか?

 遥か遠くの地の戦士達は、戦いに赴くとき自らの身体に色を塗り、戦意を鼓舞すると言う。

 その類いなのだろうか?

 解らない……が、何故か心踊るものがあるのもまた事実だ。


 なんにせよ、これは俺一人ではどうしようもない事は判る。

 そもそも、アイアインゴーレムをどの様に用意するのかさえ判らないのだ。


 これは誰かに相談しなければならない。

 だが相談するにしても、この『設計概要および備忘録』をそのまま持ち出すわけにはいかない。

 しかたなく、アルス語で該当ページを書き写し始める。

 できるだけ正確に書き写し、アルス語にない語は音をまねて書き出しておく。

 用語の解説は、俺がすることになるだろう。用語解説まで記していたら、いつまでたっても終わらない。

 それでも十数ページある上に、図まであるのでとても時間がかかってしまう。 


 ふと視線を流すと、スケルトンメイドが近づいてくるのが見えた。

 いつの間にか、夕餉の時間らしく呼びに来たようだ。

 本を丁寧に戻し、書庫を退出した。


 ・

 ・

 ・


 夕餉を済ませて、茶を飲みながらも頭の中はあの資料のことを考えている。


「―――! ――こら! 聞いているのか!」


「!? 失礼しました、父上。ぼうとしており聞いておりませんでした」


「まったく。近く政務報告会があるので、その時は凛、お前も同席しろと言ったのだ」


「はい、承知しました」


「……凛よ。疲れているのではないか。明日のノリスの教練は休み、体調を整えるのが良い。今日は早くに休みなさい」


「お言葉に甘え、これにて下がらせて頂きます」

 席を立ち、母と茜に挨拶をして退出する。

 後ろで茜が「え~、おあそび~」と嘆いていたが、父上が代わりにおあそびをしてくれるようだ。


 就寝前に、《宮》内を歩いて廻るが、やはり資料の事を考えていたらしく足がもつれて転んでしまった。


 朝になり、《宮》内を歩いて廻る。

 もはや完全に日課となっている。

 空気がヒンヤリとしていて実に気分が良い。実に爽快な気分だ。

 朝食を取りおえて、茜とのお遊びを満喫する。

 その際、小声で『おにに、くっき~』とニコ~っとしながら囁かれた。

 おねだりを叶えてあげたいのだが、材料が解らない。

『ちょっと待っててね』と頭を撫でながら宥めておいた。

 クッキーの書付をするために書庫に向かいたいが、連日通いつめるのも如何なものかとも思う。

 それに、アイアンゴーレムなどの準備も相談したい。

 そこで、詳しい人物に使いを出して面会を申し込んでおく。


 ・

 ・

 ・


 いま、《宮》内の創兵廠入り口にいる。

 当直の警備兵に取次ぎを頼んだのだが、いまは創兵召喚中とのことだった。

 そこで、入口前の椅子に腰かけて、大人しく待っているのだ。

 しばらく待つが、時間がかかりそうな様子。

 これは出直すか、と思った矢先に扉が開いた。

 中から、ぞろぞろと新品のスケルトン戦士達が隊列を組み行進していく。

 これだけの数なら、確かに時間がかかるのも納得だ。

 スケルトン戦士の最後尾と入れ替わりに扉をくぐり、広い部屋に入っていく。

 さて、お目当ての人物は……いた。


「お久しぶりです。リリムルさん、お元気でしたか」

 爽やかに挨拶する。


「おう、リンの坊主かい。面会予約があったのに待たせて悪いね。急ぎでね。まあ、こっち来な」

 自分の近くの椅子を指し示し、近くに来るよう促された。


 見ようによってはかなり横着なようだが、その実、二百に近いスケルトンたちを急ぎという事で、短時間で召喚していたのだから、動くのが少々億劫なのだろう。 

 然もありなん。術者が気絶していても、おかしくは無かろう。


「いえ、とんでもありません。あれだけのスケルトンです。時間がかかるのは当然です」


「はは、そう言ってもらえると助かるよ! それで、今日はどうしたんだい? お姉さんと、臥所でも共にしたいのかい? あはは!」


 際どい内容を朗らかに言っているこの御仁は『リリムル・エルザード』。

 《イザヨイ宮》の兵力の中核を成す様々な魔法体や召喚体であるが、それらの創出や召喚を行う創兵廠【そうへいしょう】の長たる創兵監が、このリリムルさんだ。


 《イザヨイ宮》に仕えて百年以上のダークエルフで、魔力が多いうえに博識。

 その上、魔法と剣術とを併用する魔法剣士で、その実力はノリスも認めるほどの腕前。

 褐色の肌に銀髪が美しく映え、切れ長の眼が輝いている。

 快活な雰囲気でサッパリして豪快な性格の姉御肌。

 なおかつ美貌まで兼ね備えた自称『永遠の二十三歳』だ。


 これで人気が出ないわけがなく、たまに宮外の酒場に行くとその酒場は満席になるほどだ。


「はは、時期が来ればお願いしますよ」

 軽く流しておく。

 幼少時から言われ続けているので、もはや慣れてしまったのだ。


「その言葉忘れるんじゃないよ! あはは!」

 リリムルさんも、分かって言っている節がある。

 冗談交じりなのだろう……、たぶん。


「この度は、リリムルさんにお聞きしたい事があって来たんです」

 これから本題に入るために居住まいを正す。


「おう、なんだい」


「アイアインゴーレムって、どうすれば確保できますか?」


「はん? アイアインゴーレム? 何に使うんだい? 夜伽【よとぎ】をさせるには、大きすぎるし硬すぎると思うけどね。あはは!」


「いえ、夜伽ではなく新しい番兵にと思いまして」


「アイアインゴーレムで、番兵かい。まぁ、悪くはないが、アイアインゴーレムってのは硬くて力は強いが、敏捷性と器用さに欠ける。第一、図体・体格が大きいので番兵には向かない。あれは数を揃えての野戦それも防衛戦に向いてるんだよ」


 体格が大きく、数を揃えての野戦向きか。ますます好都合だ。


「そうなのですか……。体格が大きいとのことですが、形や大きさは変えられるのですか?」


「形は、わからないね。大きさは、通常は五~八メルトルくらいだが、ある程度は変えられるんじゃないのかな」


「例えば、アイアンゴーレムをスケルトンのような形にするとかは、どうでしょう?」


「アイアンゴーレムをスケルトンのような形にする? それじゃアイアンスケルトンじゃないか、あはは!」


「え?! アイアンスケルトンって存在しているんですか?」


「いるわけないだろ! あはは!」


「では、アイアン――」


「ちょいとお待ち! まずは全部の要望をいってみな。小出しにされても、まどろっこしいだけだよ」

 さすがリリムルの姐さん、豪快なうえに端的だ。


 どうする。言うべきか、言わざるべきか、それが問題だ。

 リリムルさんは、信頼できる。人柄もサッパリしてて好ましい。

 なにせ俺が幼少の頃は、子守のみならず襁褓おしめまで交換してくれた人だ。

 頭が上がらないのも当然といえよう。

 それに《イザヨイ宮》に百年以上も仕えてくれている、れっきとした武人でもある。


 まさに百年経っても大丈夫! を体現している人だ。

 確かに、小出しにして徐々に開発している時間はないだろう。

 開発途中でイザヨイ宮が滅亡してしまっては、喜劇にもならない。


 ここが……決断のときか。


「では、改めて。まず大きさと形ですが―――。つぎに筋肉筒として―――。また―――。それで―――。これに―――。と、こういう構想なのですが如何でしょう?」


「……」

 表情を窺うが、これと言って変化は見られない。だが雰囲気が少々変化した。

 さてこれは、驚いているのか、呆れているのか。どちらだ?


「リリムルさん?」


「ふふ、あはは! いやはや大したもんだ、坊主! あはは!」

 愉快そうに笑い、手を伸ばして俺の頭をワシャワシャと撫で回す。


「うわァ! リリムルさん!俺は、もう子供じゃないですから!」

 そう言いながらも、なすがままになっている。


「あはは、十分子供さね! だが、これはいい。最近はスケルトンばかりだったが、こりゃ面白そうだ!」


「……リリムルさん、最近はスケルトンが多いのですか?」

 遠慮しながらも聞いてみる。


「ん、……まあね。だけどスケルトンが多いのは現状悪い手って訳でもないんだよ」

 誤魔化さずに、きちんと説明しようとしてくれる。さすがリリムルさん。


「いいかい、生身の兵ってのは使い物になるまでは、訓練に時間がかかる。これはわかるね?」


「はい」


「でだ。その訓練期間中にも食料がいる。もちろん訓練が終わった後もだ。これもわかるね?」


「はい」


「うん、ついでに言うと徴兵された兵はその期間、一切の生産には寄与しない。専業の傭兵や職業兵士連中は事情がまた違うがね。それでだ、その兵達に自腹でその食料を供給できているときはいいんだ。だが足りなくなったらどうする。徴発や略奪するにも限度がある。ならば当然どこかから調達する事になるだろう?」


「はい」


「食料を調達するにも、いくつか手段はある。他の地域から略奪するとかだが、早々戦ばかりもしていられない。そうなると当然、どこかから資金で買い付ける事になる。買い付けた食料を移送するんだが、それにも資金がかかる。買い付けた食料は野ざらしって訳にもいかないから、その食料をどこかに保管することになる。保管するには、それなりの大きさの保管場所と施設もいるだろうし信頼できる警備兵も置かなきゃならない。当然置きっぱなしって訳にはいかない。今度は必要なときに運び出して、必要な場所まで持っていかなければならない。当然これらにも資金がかかる。わかるかい?」


「……はい」


「これらの出費を抑えられるのがスケルトン達なのさ。なにせスケルトンは食料を食わないからね。そりゃ全くスケルトン達に費用がかからないわけじゃない。召喚時とその維持に、コアからの魔力供給という形で費用はでてるさ。だけど、比較すりゃ微々たるもんだ」


「ですが、スケルトンは……」


「なんだい、スケルトンが弱いとでも思ってるのかい? だけどいったい何と比較して弱いと言ってるんだい? 熟練兵や熟練の冒険者とかと比較するもんじゃないよ。そいつらと比べりゃ大抵の奴は弱い。だがスケルトンだって一般の兵隊とは、いい戦いが出来るんだ。何せ、最初からそれなりの練度があるからね。あとは、数で補っていくのさ。それに歴戦の戦士やら強敵やらがいたら、ノリスやガルン、ハンゾウ、ドーネッツそしてこのリリムル様の出番さね」


「……」


「リン。親父さん、御屋形様もちゃんと考えてるのさ。たしかに、いまの現状が苦しいのは確かだよ。そんな苦しい現状だからこそ、坊主が持ってきたこの案は一際輝いて見えると私は思うね」


「はは、明けの明星になれれば良いのですが」


「あけのみょうじょう? どういう意味だい?」


「夜が明ける、そんな日の出前の空に一際輝いて見える星、という意味です」


「あはは! 確かに上手くいけば、『明けの明星』になれるね。気に入ったよ、『夜明けの明星』! あはは!」

改稿しました。

お読み頂きありがとうございました。

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