69 閑話 俺たちの、明日の行方は……
《 イザヨイ宮 ライフィン街近郊 》
「ここか? 魔王がいる場所ってのは?」
その何気ない問いに、傍らの者がその懐から書付を取り出し確認する。
「どうやらそうらしい。場所もあってる」
「だけどよォ~、ほんとなのかァ? 数多の猛者が『散って逝き、星屑のようになって流れ墜ちた』ってのは?」
「それさァ、なんかおかしくないか? だってよ『散って逝き流れ墜ちた』なんて、なんでわかるんだ? その噂を言い出した奴は、敗けたか若しくは目撃者って事になるが、そいつは逃げ延びて今でも生きてるって事だろう? つまりそいつは『散って逝き流れ墜ちてもいない』って事じゃないか」
「所詮は噂って事だよ、う・わ・さ。概して噂って奴は大きくなるもんさ」
「まぁ、すぐにわかる。よし、征くぞ」
その集団の頭目が声を掛けていく。
その眼には、確かな自信が漲り、幾多の経験を乗り越えてきた猛者の風格が漂っていた。
そして足を踏み入れると微かに漏れ聞こえていた喧騒は止み、しばしの静寂が辺りを包んでいく。
リーダーは満足げであり、その仲間たちもまた、たとえ隠そうとしても滲み出てしまうのであろう『強者の格』を纏う己等を誇らしく思うのだった。
そしてそんな自分たちの強者ぶりを察知したであろうこの場に、――『ほんの僅かの隙さえ与えず、また見逃しもしない』――とでも言っているが如く、鋭く視線を配っていく。
ゆっくりと慎重に、そして確実に、急がず慌てず悠然と『約束』された栄光の場たる最奥へと、その歩を進めていく勇士であり精強を誇る一団。
然【さ】したる障害もなく、無人の地を征くが如く最奥まで踏破すると整えられた場所に、その腰を下ろす。
そこはまるで誂【あつら】えた様に綺麗になっており、まるで自分達を真の主であるが如く、歓迎しているようであった。
そして、魔王とも称される者との戦いへと挑むべく、態勢を整えていく。
そして然したる間を置かずに、ついに白い陶器のような体を持つ魔王が、お付の者を引き連れてその姿を現わした。
そう魔王がやってきたのだッ!
固唾を飲みながら魔王を凝視している一団を尻目に、お付の娘は下がっていく。
ほぉ……。力量が伴わないお付の娘を下がらせるとはな……、さすがは魔王とも称される者だ。 一廉【ひとかど】の者と見受けるが、魔王としての力量は如何に!
いざ、征かんッ!
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「ゥくッ?! な、なんだと!? ……こ、この俺を……仰け反らせる……だとッ!? さすがは魔王ッ、できるな! ……いいだろう。ならば真の強者の格を、存分にその身に教えてやるッ!」
「フッ……、血沸き肉躍り、喉すらひりつくこの感じ。さすがは魔王と称されることはある……。だが、今お前は俺を昂【たかぶ】らせた。今の俺は熱いぜ、火傷すんなよッ!」」
「く!? つ、強い! こいつ……、強いぞッ! この俺に比肩する強さだ! 皆、気を付けろッ!」
「まだだッ~~! まだ、終わらんよッ! 俺はまだ終わっちゃいねェ~んだよ!」
「俺は征く……。征かねばならぬのだッ! 限界をも超えた、まだ見ぬ境地に! あの丘の向こうに!」
「お、俺は……、俺は此処までの男だってことか!? ここで、こんなところで?! み、認めぬ。認めぬぞ!」
魔王にとっては、たった一度……、唯の一撃だけ。
――『よくぞ我に挑まんと、ここまで来た。それは褒めてやるが、愚かでもある。まずは真に我に挑む強者か、観てやろう』 ――
そんな挨拶代わりの一撃。
その一撃で、俺たちは……、たじろいでしまう。
いままで各地で邂逅した強者達の面影が、走馬灯のように駆け巡る。
たしかに奴等も強かった……。だが、此奴ほどではないと断言できる。
こいつは……たしかに魔王だ……。紛れもない魔王であり……、最強と冠しても良い強さだ。
いいだろう、相手に不足はない。やってやろうじゃねぇー~~かッ!
――『最強の魔王』と『最高の俺達』――。
どちらが真の強者か、はっきりと『判らせて』やろうじゃないかッ!
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しばらくすると情勢が明らかになり始めた。
既に目は虚ろで満身創痍と言っていい状態だ。
仲間達も似たり寄ったりの状態。
ここまで追い詰められたならば、普通なら撤退という選択肢が確実に最上位に上がる事だろう。
だが、既にダメージが足にまで及んでいる。
もはや今の姿勢を維持するのが限界だった。
斃れ伏していないだけ、まだ良い方だろう。
そんな満身創痍の俺達に、魔王は追撃をしてこない。
その泰然自若【たいぜんじじゃく】の態は『強者の余裕』を体現しているのか、ただ黙して語らず睥睨【へいげい】》するのみ。
俺達を侮っているのかと激昂しそうになるが、魔王とて手傷を負っているのではないかと考え直した。
俺達が苦しいならば、魔王とて同じく苦しいはずと、一縷の望みをかけていく。
それが『希望ではなく、唯の願望……単なる妄想である』と知りながら……。
そして虚しく時は過ぎていった。
「クソォ――ッ! す、すまねえェェッ、みんなッ!、俺が、俺が、あんな見え透いた安い挑発に乗ったばかりに! 皆は少し休んでくれ。俺が時間を稼ぐッ!」
「そんな、お前ひとりじゃ?!」
「いいんだ。俺は此処で散るだろう。 だが、だが……あの魔王に、力及ばずと言えども、俺が生きた証を刻み込んで残したい」
「だ、だがッ?! そんな……、お前だけでは!?」
「わかった……。だがお前だけじゃないぜ。俺も共に行くッ!」
ゼェゼェ……。
青息吐息で喘ぎながらも、仲間の一人が応えていく。
その顔色は白磁のように真っ白であったが、しかし口元は覚悟を決めたのか笑みを湛えていた。
「だが……、その身体では」
「よせよ、仲間じゃねーか。俺はよう、お前に感謝してるんだぜ。里で燻【くす】ぶっていた俺達をお前は広い世界に連れ出してくれた。確かに苦しい時も辛い時もあった。正直、恨んだ時も確かにあったさ……。 だがよォ~、それでも差し引き楽しい事の方が多いんだよッ! だったらよォ~、今度は俺が、俺達がお前を連れてってやるよ、あの頂きへとなッ!」
「く、お前らッ! いいだろう。だが、一言言わせてくれ。
いま全ての俺が、俺の血肉の全てが、全身全霊が、泣いているッ!」
「「「「「涙は魔王を倒した時に取っておけよ、リーダー!」」」」」
「お、お前達……、わかった。
生まれた時は違えども、斃れることがあるならば、同年同月同日を望む。
共に征こう。戦友【とも】よッ!
あの約束の地へとッ、あの虹の向こうへとッ!」
「「「「「「ああ、俺たちの戦いはこれからだッ!」」」」」」
意を決し、貌を上げ魔王を睨む。
その目には覚悟と共に、戦いに赴く戦士の輝きが確かにあった。
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そして時の経過と共に、惨状が拡がっていく。
天井を観ている者、俯く者、魔王を観ている者……。
力無く凭れ掛かり【(もたれかかり】ながらも、眼は半眼とはいえ開いてはいる。
だが、その実、すでに目の焦点が合っていない。
彼【か】の者達は、いま何を観ているのだろうか。
それを推し量る術は、いまはもはや無かった。
「ェああ゛ァェ~~、世界が廻っているゥ~~。世界が廻っているよぉぉォォ~」
「いひひゃははァッ! きてる、キテルよ! キテマスYO!」
「……あ゛ァあェあ~……。おれェ~、燃え尽きちまったァ~。もうっ真っ白だァ……。ふへへ、もう……杯も残っちゃいねェぇ~」
「へへッ……、す、すまねぇ、お前ら……ちィ~と休ませてくれや、なんか疲れちまった。ほんの少しでいいんだ、……ほんの少しで……」
「征かせてくれ。や、奴は、瓶のように悠然と立っていやがる。俺を待っているんだ、この俺をッ! 奴の気持ちに応えなくては……。戦士にはたとえ負けると判っていても、征かねばならぬ刻があるんだッ!」
「クソッ、くそ――! 皆で共に帰るって約束しただろうがァ~。お前らが此処で斃れたら、俺は、俺は里の奴らに何て言えばいいんだ! お、俺だけが生き残るわけにはいかない。……ナディ、すまねェ……、お前との約束、どうやら果たせそうにねェ……」
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どれほどの時間が経ったのか、時間の感覚はすでに失われている。
あれから数日が経ったのか、まださほど時間が経っていないのかすら、判然としない。
だが確実に、その醜態は拡がっていた。
服を破り捨て半裸になる者、ビクンビクンと痙攣する者。目や口腔・鼻腔から水分を垂れ流す者。
ある境地に至ったのは確かではあったが、それが約束された勝利の境地ではないことは確かである。
彼らが至ってしまった境地といえば、愚かにも魔王に挑んだがゆえの窮地。
彼らはいま、誰もが認める強者から、惨めな敗者へと成り下がりつつあった。
「あ゛ァァいえェあ゛~~~ォ~~ン~~。ぐ~りゅ、ぐリュん、廻りゅ~~」
「ふひゃは、おれはどこだァ~~? ここは誰らァェあ゛~~?」
「ひりょいィはにゃ(白い花)がァァ~。いっぱいラァァ~~」
「ひゃいごのひんぱん(最後の審判)らァ~~~」
「うひゃひゃァあ~。あァ~、痺れる~。ゾクゾクして、お手々が、ふりゅ(震)えてるゥゥ~」
「ひひ(いい)! ひひ(いい)YO! なんきゃ、とってもひひ(いい)感じにゃYO! ンあ~、あれぇ~? なでぃ~たんが、いるにょォ~。なでぃ~たァ~ん、まってろ~、いまいくにょォ~~!」
ドサドサドサ――……。
膝から崩れ落ちていくが、幾人かはそれでも立ち上がろうと机に手をかけていくが、力が入らずに斃れていく。
ガチャ――~~ン……
そして虚しく力尽き、倒れ伏すのだった。
その様は正に『散って逝き流れ墜ちた』に相応しい有様であった。
その様を悠然と睥睨する魔王。
何も語らず、ただ悠然と佇む。
その様は――『弱き者達よ、虚ろなる言葉はいらない』――と、言わんばかりで、威風堂々の一言であった。
戦いは終わった。
魔王の完勝。異議も反論も抗議も無い。
それを行う者は、今や地に倒れ伏していた。
そんな様子を遠目に眺めていた給仕の娘が巻き布【スカート】をはためかせて近づき、安否確認をしていく。
「……皆さん、大丈夫ですか? 特級蒸留酒をそんな大杯で飲んでしまって?」
「……」
無言。無言の一言。
ただの屍のように無言。
ヤバいッ! と思い、給仕の娘が慌てて近づこうとしたとき、僅かに「ゥ……」と反応が窺えた。
その有様を見て、安堵と共に給仕の娘がパチッと指を鳴らし合図を送った。
すると近場の者達がやれやれと立ち上がり、斃れた勇者たちの手足を掴み、引き摺って裏庭にある隔離された小屋に運び込み壁に寄りかからせるように並べていく。
手伝ってくれた者には店から『寸志の小鉢』が供されることになるが、手伝った者達も自分たちの食事中に目障りな輩を見ている気分にはならないため、両者の思惑は一致していたのだ。
小屋に隔離された者達を外から観ながら、給仕の娘は独り言ちて行く。
「いや~、皆さん、なかなかの強敵【とも】でした。 ですが、所詮はドワーフといったところ……。
この特級蒸留酒たる『流星大王』の前では、皆さんはドラゴンの鼻先を飛ぶ羽虫と同じ矮小な存在でした。 そして『流星大王』の戦績記録に、勝利の星がまた一つ附されましたね。 全く困ったものです」
全く困っていないことは明白だが、然【さ】も困ったかのように、指をこめかみに添えて頭を振っている。
その様は、流れるように流麗で、幾度も反復され常態化していることを物語っていた。
一方で小屋の中では、ある意味凄惨な現場が現出され始めたようだった。
ある者は己の吐瀉物に沈み、ある者は粗相をして糞尿に塗れていく。
またある者は仰け反って痙攣し、それらを攪拌【かくはん】していく。
その様相たるや『戦いに赴く戦士の輝き』は霧散し、単なる迷惑な『泥酔者の成れの果て』の態を為していた。
そして小屋の外にも得も言われぬ『薫り』が漏れ出しており、給仕の娘は思わず鼻に皺を寄せて顔を顰【しか】》めていたのだった。
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そのとき、夜空には一筋の流れ星が駆けていったという。
工房から休憩がてら外に出ていたライフィン街の長は、そんな流れ星を観ながら呟いた。
「また勇者が墜ちていったか……。無茶しやがって……」
疲労の色が滲み出る街長は踵【きびす】を返しながら、工房へとその歩を進めていく。
だが、その頬がこけた口元には、僅かに嗤いが浮かんでおり、人知れず静かに独り言ちる【ひとりごちる/独り言を言う】のであった。
「ふふふ。軽く挑発してやったら、あれほど容易に乗るとはな……。まだまだ青いな」
―― 諸君等でも飲み干せない魔王が、この街にいる。
数多の勇士達が、魔王に挑み、破れ、そして崩れ落ちていった。
はやくこの街を離れた方が良い……。君らが戦いを避けて『逃げた』としても誰も『嘲り』はしない。 ここは『お子様』がいてよい場所ではないのだ。
そう、ここは真の勇者のみが集う【つどう】場所。
だから、はやく元の里にお帰り ――
くくく、激昂を通り越して無表情になったあの醒めた貌。
後は巧く丸め込み、一人が一瓶を飲み干せなければ、しばらくこの街で仕事することに同意させた。
飲み干した際の過大な条件は付いたが、まァ~、あの魔王には勝てん。
不安の欠片すらない。
自分のやっていることが、いわゆる『汚ねぇェ~やり方』とも評されるのは重々承知している。
だが、それは違うと思うのだ。
名匠ともなれば機微を感じ取り、かつ己の美意識に拘り【こだわり】があるのは当然であり必然とも言える。 つまり此度、弄したの策は、言うなれば『より美しく、より優雅に、より格調高い』名称を附されるべきと考える。
例えば今回の場合は、『汚ねぇェやり方』ではなく、『姑息・卑劣・卑怯・卑陋【ひろう】・陋劣【ろうれつ】なる策』と評するのが至当である。
そして戦いに、「姑息・卑劣・卑怯・卑陋・陋劣」は付きものと言えるだろう。
儂とて、このライフィン街を長として護らねばならぬのだ。
いまライフィン街は、圧倒的人手不足に苛まれている危機的状況。
そして儂の健康も絶対的危機にある。
しかたがないのだ。
手段はいくらでもあるが、いまはこの手段を敢えて採ろうではないか……。
その効果は、『すでに幾度にも渡り、実証されている』のだから。
そう……、これは生存を賭けた闘争なのだ。
ならば手段を問わず、勝てばよかろう……。
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そして日が改まり、すでに昼に差し掛かろうとする中で、小屋の中から声が漏れ出し始めた。
だが断末魔のような凄絶な呻き声が木霊しているため、誰も中に入ろうとしない。
もっとも、ある種の得も言われぬ『薫り』もまた小屋には充満しており、それもまた小屋の中に立ち入ろうとしない大きな一因ではあったが……。
「ゥうぎゃ~~ッ! あ゛、頭がァ割れるぅぅウウ~~ッ!」
「グギャ~~! 叫ぶんじゃねェェええッ! グッ!? 自分の声で頭が痛ェェ~~!」
「やめろォォ~~! 俺を陽光に晒すんじゃねェ! 光が痛ェ! 目に刺さるぅぅウウ!」
「……ウウ、こ、殺ぜェ! 殺じてぐれェェええ~~」
「ふゥくォオオォォ……うう、ぐゥ……。ごめんなさいゴメンナサイ……、もう挑みません……、ううぐァァァアあ゛~」
「グゥゥあ゛~~、ぞうか……、あ゛の地が天の御園かァ。そしてア゛の御方が……酒護神【しゅごしん】ざま。ああァァあ゛~、ま゛たお逢し御教示いただくには、あ゛の試練を~~……」
「うるせえぇぇエエ! 喋るんじゃ……ッ!?」
「「「「「「ぎゃ~頭がァァああ゛~~、割れるぅウウ!」」」」」」
苦悶に満ちた声が小屋から漏れ出るのを聞きつけた給仕の娘が、誰にでも向ける健やかな笑みと共に、小屋の外から大声を掛けていく。
「ア!? 起きられましたか? お客さん、二日酔いで気分が悪いでしょう?
飲み水の壺と杯、ここに置いておきますからね~。それと昨日のお勘定の方も置いておきますね!
看護料金と清掃料金は別途請求ですので~、お大事に~。
あと~、別の水桶が小屋の後ろにありますのでェ~、身を清めてくださいねぇ~。 その格好でお店には 入らないでくださァ~~い。
それとォ~、治癒術をご希望でしたらお店と昵懇【じっこん】の術者も紹介できますのでェ~、お声がけくださァ~い」
「「「「「「や、やめッ?! ぎゃ~頭がァァああ゛~~、割れるぅウウ!」」」」」」
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幾日か経ち、重い足取りでライフィン街の街長室を訪ねた一団。
一室で談笑しながらも、水を美味そうに、がぶ飲みしている。
「おう?! ようやく復調したようだな。どうだった、あの酒は?」
「だめだ、あれは。俺達じゃ太刀打ちできねぇ。
まったく『酷えぇぇ目』に遭ったぜ。醜態を晒しちまった……」
「……そうか。ところで原酒の『流星大王』をまだ飲んでいるのか?」
「いや、いまは水で割った5番星【1対5の水で薄める】で飲んでるが、それでもキツイ。 というか原酒の『流星大王』を飲み干した勇者はいるのか?」
「絶無だ。酒の強さを表す酒精度数というのがあるが、一〇〇を頂点にして原酒の流星大王は『九八』だからな。ほぼ頂点ということになる。名実ともに原酒であり、大王よ」
「そ、そんなにか?!
「ああ、俺でも飲みきれない。それで、どうだ、このライフィン街に残る話は?」
「了承する。残るよ。飯も美味いし仕事もあるようだしな」
「おお、そうか! 歓迎する! いやァ~、やっぱりやめると言われたら、どうしようかと考えていたんだ! いやァ~良かった良かった!」
「こっちに移るのは決定だが、あちらの里にも残った者らがいるんでな。そいつらも希望する奴は連れてくるので一旦戻るよ。すぐに戻って来る、その時は頼む」
「おゥ! 任せてくれ、住居やらは準備しておくぜ。そんで、人数はどれくらいだ?」
「それなんだがな、――」
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それから二カ月後、イザヨイ領外に在る別のドワーフの里から三〇人ほどのドワーフが移住してきた。
その者達は見るからに工作が得意そうであり、かつデキる雰囲気が漂っている。
そして、強者の雰囲気をもまた、その身に纏っていた。
そんな一団を歓迎しながら長は、先導してきた先のドワーフ達に囁く。
「移住者が結構な数だ、悪いが目を配っておいてくれ」
「わかった、任せてくれ。
舐めた口を叩く奴は、大王様が『可愛がって(甚振って)』くれるだろう」
こうして、ライフィン街に移住して来るドワーフ達が多くなっていった。
後年では、ドワーフ達が多く住む工匠都市として、広くその名を馳せることになるが、それはまた別の話である。
またドワーフなどの移住者の増加と共に『流星大王』に挑む者も増加していき、それと同数の『散って逝き、星屑のようになって流れ墜ちていく者』も増えていく。
そしてそれと共に翌日に体調不良を訴えて、仕事が停滞する事態が発生していったのだった。
『流星大王』自体の戦績は、ただ勝利数だけが伸びていき不敗神話と化していくが、その一方で『流星大王』の危険性が論議され製造禁止も討議がなされていく。
だが、その議題が漏れ伝わるや猛烈な抗議活動が展開され、さらに『流星大王』の御名が広まる契機ともなったのだった。
そんな『流星大王』の御名が広まると、その飲み方にも工夫が成されていき、混酒【カクテル】の基酒【ベース】や、水割酒として人気を博していく事になった。
時代と共に製造技術と飲み方の工夫も洗練されていき、風味もその時代の嗜好に合わせて変わっていくが、純度は変わらずに製造され続けていくのだった。
因みに現代に至っても、原酒の『流星大王』を征した者はいないという。
お読み頂きありがとうございました。




