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63 閑話 宴は不意の調べ

 《イザヨイ領エルザードの里》 


 私こと如月弥生は、いまエルザードの里にて歓待の宴に臨んでいる。


 ドントトトトトト。ドンントトトトトトトト――

 

 篝火によって照らされた奏者によって軽妙に小鼓と太鼓が打たれ、心地よい音色が鳴らされていく。

 それとともに場の雰囲気もまた、高揚していくのがわかる。

 そして宴席に列する者達の表情にも緊迫感が漲っていく。


 トトトトト――~~ドンッ!


 最後の一節が強く打たれ、最高潮に達したその瞬間に、場の皆が突如、唱和を始めた。

 様々な声色が同じ句を唱和するが、ズレもなく乱れもない。

 しかも皆が皆、美声と言っても良い声色。

 そんな声調が重なり響き渡っていく。


「ンドォンムゥ、ウエネェムィー~ウェンゲッジ。テェクヒマウト。

 ステーバ、ステーバィ、シヨット!」


 力強く放たれた掛け声とともに、射手が構えた弓から矢を放った。


 ビィ――ン

 矢は見事に的に命中していた。


「おお~~ッ」

「……」


 やんややんやと歓声が上がる。 

 一拍おいて、再び唱和が紡がれていく。


「ンダァ~ゲッダァン。グッナイット、ヌネェクストワァ~ゲッ、シヨット」


 ビィ――ン

 またもや矢は見事に的に命中していた。

 それを見届けた皆が更に大きな声で唱和していく。


「ン~、グドオ~~。ゥエルレグアント、、ウオゥールクリァン。

 ムーバァトッ。ムゥー~ブッムゥー~ブ。ンムゥー~ブ。

 ン~ゴッゴォッウンゴォー!」


 最後の一声を唱和した皆が満面の笑みで拍手喝采。

 非常に快活な雰囲気で盛り上がっている。

 実に良い雰囲気で、皆が楽しんでいることは一目瞭然だろう。


 そんな中で、この突然の不意打ちに吹き出さなかった私を、私は自分で褒めたい。

 歓待の意を込めて催された弓での『遠当ての儀』なのです。

 招かれ歓待を受ける客としても、ここで吹き出すわけにはいかない。

 ですが、この試練……、余りにも不意打ちが過ぎるッ!


 詩織が「警告しておくぞ、弥生。予期せぬ一撃に留意するがいい。侮れないぞ」と言っていた理由が、たったいま分かりました。

 これは明らかに『あちら側』の影響と観てよいでしょう。

 それもおそらくは『ゲーム乃至は映画』の影響。

 かつての『渡り世』の残滓が見て取れるのです。


 長い長い時を経た故に、曖昧に成っていたりこちらの発音の影響が垣間見える。

 ですが……、元は明らかに何かの台詞でしょう。

 しかも、この弓での遠当ての場面に合っている。


 補正を加えて馴染ませると、おそらくはこんな感じになるのでしょうか。


『 Don`t Move.  Enemy Engage.  take him out.

 《動くな、接敵した。始末しろ》

 

 stand by. stand by. Shot!

 《待機、用意。撃て!》」


 Target down. Good night. Next target. Shot!

 《敵沈黙、おやすみ。次目標、撃て!》

 

 Good. elegant. All clear. Moveout.

 Move. Move. Move. Go. Go. Go !

 !

 《見事だ、すばらしい、敵を排除、制圧した。移動する。

 動け動け動け 行け行け行け!》』


 う~ん、雰囲気優先の訳語としては……こんな感じでしょうか?

 やはりどこかで聞いたことのあるような、ないような……。


 それに、無線機越しのくぐもった渋い濁声【だみごえ】が似合いそうな台詞です……。

 なんというか、特殊部隊の潜入工作戦といった状況がとても良く合いそうな言い回しですね。 


 まあ、言うなれば王道にして定番、鉄板と言いましょうか……。

 この状況ならば、こう言う的な言い回し……とでも言いましょうか。


 そんな沈黙思考ぎみに思案していたところに、リリムル・エルザード殿が声を掛けてきた。


「どうだ、弥生。我が里の者もなかなかのものだろう?」


「ええ、確かに『見事な御手並み』かと」


「そうだろう! そこがわかる弥生もさすがだな!」


「ところで、さきほど皆様が唱和しておられたのは何かのの祝詞の一種でしょうか? 聞いたことのない語調です」


「いや、祝詞ではないらしいらしい。だが古より伝わる詞だそうだ」


「意味などは伝わっているでしょうか?」


「いや、それが正確な意味は伝わっていないそうだ。

 だが大意としては、『使命と務めを果たした者達への賛辞』ということだ」


「そうですか……。耳に残り響く音調といい、実に『格調高い』ものなのですね。実に『興味深い』ものです」


「はははッ! 気に入ってくれたようで何よりだ。杯が空いたのならば、気にせず満たすがいい。客人の杯が空いたままでは礼を欠くことになる。それでは招待した者の見識を疑われてしまうからな。酒を好まぬのであれば果汁などの用意もある。大いに楽しんでくれッ! ん? おお~!? 久しいではないか! どうだ? 以前に送った防具類は――」


 リリムル・エルザード殿とシャーリン・エルザード殿。

 この二名は、ここエルザードの里を共同で治めている領主となるが、決定しなければならない事項もあり、どちらかが第一の統領として、その任に就くことになるそうだ。

 もっとも双方とも嫌がっているので、数年ごとで相互に交代しているとの事です。

 また両名ともイザヨイ本宮に詰めているため、里の通常の運営は代理が代行している。

 そして要所要所で、判断を仰ぐ文が来るのだそうだ。

 ああ、確かにそんな相談を両名から揃って受けた記憶があります。

 里の運営の事だったのですね、その真摯な想いに心打たれました。 


 ですが、そんな郷土愛溢れるリリムルとシャーリンですが、先ほども申した通り『長』を長く務めるのは嫌なのだそうです。

 なぜ嫌がっているかというと、隣国であるエルフィン深緑連合の会合にエルザード氏族の長として臨席しなければならないからだそうです。

 嫌々ながら臨席すればしたで、根掘り葉掘りと探りを入れられる。

 理由を見つけて、時には理由を創ってでも会合に出ない様にすれば、出席しなかった事に託けて、これまた根掘り葉掘りと探りを入れてくるのだそうです。


 いろいろと入り組んだ経緯と絡んだ縁があるようですね。


 まあ、なんにせよこのリリムル・エルザード殿とシャーリン・エルザード殿と私こと如月弥生は、友誼を固く結んでいる。

 当初は『庇護もしくは保護の対象』として護衛がてらに、リリムルは配されていたようです。

 私も内政の助言等を行うべく、イザヨイ領内を見て回るため遠出することもあり、その際にはできる限りリリムルが案内をしてくれていましたので、その縁で親しくなりました。

 またシャーリンとも、研究および開発の助言やらで頻繁に顔を合わせており、当然ながら親しくなっております。


 そして此度は、マキナ装甲機兵をここエルザードの里に配備するための下準備と、武具や防具の納品のために来訪しております。

 領内間の移動ゆえに、そこまで大仰な護衛は付いてはおりませんが、何せ相応の量がある物資の搬送故に遅々として進まないのは、致し方ないことでしょう。

 そしてようやく昼過ぎに着き、夕方からの歓迎の宴に臨むという仕儀に相成りました。


 歓待し、もてなしてくれる。里の皆様とも良き交流が出来、旅程の最中もリリムルやシャーリンとも友誼をさらに深められました。大変に有意義な時間と言えましょう。


 私としても座敷童【ざしきわらし】という性質上、おいそれと気軽に外に出かけるという事はしにくいのですが、こちらの世に来訪してからは割と気軽に外に出られるようになりました。

 主上と交渉した甲斐があったというものですね。


 実に充実していると言えましょう。

 そんなふうに感慨深く感じ入っていたところに、この不意打ち……。


 この世とこの地に来た来訪者は、一体何をしたかったのでしょうか? 

 『甚だ疑問である』と言わざるを得ない。

 それにしても、この厳粛な雰囲気との絶妙なほどのミスマッチ具合……。

 恐らくは事実であろう訳語を示して、訂正を求める事など出来ようはずもなく、かといって笑ってしまうこともできず……という二律背反な状況。

 そも、私が勝手に『そのように聞こえる』と判断しているだけなのかもしれません。


 すでに『遠当て』の第一人者の演武は終わり、あとは有志達が余興がてらに射ているようです。そして、それを見ている子供達や大人たちが楽しそうに唱和しているのが遠くから聞こえてきます。

 その唱和と云えば、もはや『そういう意味』でしか聞こえないのです。 


 もう限界なのですが……、耐えなければならない。

 これが試練。

 そう、ここを凌げば、私は限界突破・天元突破する事が出来るでしょう。

 耐えるのです……。耐えなければならない。


 ですが、汁物を口に含む際は気を付けなければ……、突如の不意打ちに吹き出す危険がある。

 味わいも深く美味しいだけに、ゆっくりと堪能できないのが実に惜しい。


「弥生! 紹介しよう。先ほどの見事な弓の演武を披露した射手、ロービン・フウドだ。我が里のナンスノ・ヨインチの称号を冠している。このナンスノ・ヨインチの称号は『魔弾の射手』という意味なのだ。それにこの者は弓も巧者だが、行政も巧みでな、――」


「(ロビン・フッドで、那須与一【なすのよいち】?! ま、魔弾の射手?!)

 

 ゥウッ……!?

(クッ……耐えろ! 耐えるのよ、弥生! 私ならできる!)」


「ん? どうしたのだ、震えて? 体調が優れぬのか? もしかして寒いのか?」


「い、いえッ! 弓のみならず内政にまで造詣が深いことに感銘を受けておりました。そのような多才な方々が多くおられるエルザードの里の皆様より、このような歓待を受け、感動のあまりに我が身を震わせておりました」


「おお、そうか! それは誠に嬉しい言葉だな。里の皆も喜ぶことだろう! 他にも会わせたい者達がいるのだ! おーい、――」


 嗚呼【ああ】、今この場においては……その優しさは、無用と言いたい……。

お読み頂きありがとうございました。

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