61 野望の系譜3
「なにが、――ご機嫌麗しく存じ上げます――だ。
貴様のその鳥面【とりづら】を見て、気分が悪くなったわ。
その仮面の下に如何なる容貌があろうと、悲鳴と絶叫で唄を歌わせ、苦を絡め痛を極めて惨めに死を乞わせてくれる!」
眼前の絵に描いたような慇懃無礼さに、未だ平静さを保っているかのような『演技』をし続けてはいるが、その内心はもはや荒れ狂っている。
だがそれは決して表に出さない。
撲殺した前王たる兄と己は違う。
自らの考える『王としての威厳』を兵達に見せつけねばならないからだ。
泰然自若【たいぜんじじゃく】にして雄大。これこそが王たる者のあるべき姿。
そんな浅薄な考えで行動する王であったが、そんな王の神経を更に逆なでする言説を、眼前の賊は弄していく。
「おお、なんということでございましょう。妄想は現実を無視するところから始まり、認識は現実を認めることから始まると申します。これらは共に現実から始まりますが、あろうことか陛下の申されますことは現実にすら立脚しておらぬ戯言。なれば、本来ならば語るにも値しないことなれど、あえて語るといたせば、某にはもはや評するに言葉もなく、論じるにも術もなしと相成りまする。いやはや、かような己の浅学菲才ぶりには、まさに恥じ入るばかりでございますな」
「どこまでも戯けた奴よ。塵芥【ちりあくた】の名など本来は聞かぬが、王を愚弄するなど許されぬ。愚者の末路として史書に残してくれる。……貴様、名は?」
あまりのの言い様に、顔が朱色に染まるがそれでもなんとか感情の暴発を押し止める。
何のための潜入か、どこの手の者かを探らねばならないからだ。
「某は義賊なれど、賊は賊。賊が己が名を軽々に名乗るとお思いか?」
「貴様ほどの者が賊如きではないだろう、その胆力でたかが賊であるものか。もしや貴様……、ルディアの手の者か? ……いや、違うな。ルディアでは貴様ほどの手練れを配下に置くことなど出来ぬ。ならば、どこぞの国の『影』に属する者であろう」
「おお、その炯眼。我が身は恐ろしさのあまり震えてしまいそうでございます。されば陛下に敬意と敬愛をもって名乗らせて戴きます。某は獄蔵院 飄戸斎【ごくぞういん ひょっとこさい】、以後お見知りおきを――、と言いたいところですが、義賊の名などお忘れいただいても一向に構いませぬ」
「露骨な偽名を臆面もなく名乗るとは。まぁよい、所詮は塵芥の端者【はもの/とるに足らない身分低き者】よ。ならば塵芥の名にふさわしき処に送ってやる。……やれ!」
合図とともに床が大きく開口し、かなり大きな落とし穴が露出する。
恐らくは地下に続く落とし穴なのであろう。
この高さから落下すればよくて瀕死、悪くて即死。
そんな落とし穴に落として、骸を後ほどにゆっくりと吟味するつもりであったが……
「おお、これはまた手の込んだ落とし穴にございますな。ですが惜しむらくは某には翼がありますれば、落とし穴は用を成さぬ事。罠を張る周到さは刮目には値します。ですが如何せん、時と場合と相手を見極めてから罠は実行いたしませぬと、無用の長物となり果てますぞ」
ぽっかりと開いた落とし穴。その虚空の上に悠然と浮かんでいる鳥天狗たる轟疾風。またの名を、義賊を称する獄蔵院 飄戸斎。
そして役目を終えた落とし穴は、何事も無かったかのように静かに閉じたのだった。
「?! き、貴様……何者だ!? 妖魔か!」
想定していた状況からは、完全に逸脱している。
そのため上擦った声を上げてしまう国王であるが、動揺していることにさえ己では気が付いていない。
「これは異なことを仰られる。さきほど義賊の獄蔵院 飄戸斎と名乗りましたこと、よもやお忘れか? さて其方が一手を披露したのならば、某もまた一手を披露せねばなりますまい」
飄々としてはいるが危険にして獰猛な視線と剣呑な響きを伴う声色が、部屋を覆い始める。
「はてさて、ここに取り出したるは一振りの羽団扇」
「「「?」」」
「それがなんだというのだ! 微風【そよかぜ】でも起こすというのか?
ふはは! 笑わせてくれるッ!」
大喝することでなんとか己を鼓舞しているのだろうが、微かに震え上擦った声を隠しきれてはいない。
更には微かに身震いしていることに、当人すら気が付いていない。
その震えは怒りで震えているというよりも、明らかに理解できる範疇の外にいる異質なものに対峙した恐れから出ているようだった。
腰に下げていた羽団扇を突如に脈絡もなく取り出した鳥天狗は、まるで逸品でも愛でているかのような異様な雰囲気を纏いながら愛しげに撫であげ、ゆっくりと振り上げていく。
そんな中、ブ――ンという怪音が微かに聞こえはじめると共に、部屋の空気も震え出していた。
「では御覧【ごろう】じろ」という声が響き、ゆっくりと振り上げた羽団扇が、右の頭上から斜めに一閃していく。
国王の側にいた近衛将は、国王とこの不逞の賊とのやり取りを警戒しつつ聞いていた。
他の者達が振りかぶられた羽団扇に視線が集まる中でも、厳重な警戒におかれているこの尖塔に殊も無く入り込めるこの賊の一挙手一投足と、そしてなによりもその奇妙な仮面から垣間見えるその眼【まなこ】を注視していた。
だからこそ、気が付いたのかもしれない。
賊が羽団扇を振りかぶり、そして振り下そうとした刹那、僅かに細めたその眼【まなこ】に宿す眼光に、一瞬ではあるが刺すような鋭い殺気と危険な光があったことに。
そして反射的に身体が動いてしまう。
それは動けるだけの鍛錬と実戦の経験があるという証左でもあった。
だが、殊この場においてその行動は、近衛将にとって最悪の不運を齎す結果となる。
「陛下!」というや国王に飛びつき、その玉体を押し倒す近衛将。
「グッ!?」
国王は強かに背を床に打ち付け息が詰まるが、あまりの不敬に激怒して近衛将を叱責する。
「き、貴様! なにをす……る……?」
しかし叱責された近衛将といえば既に光の無い虚ろな視線を返すのみであった。
そして時を置かずに近衛将の胴回りから血が滲み始め床を満たしていく。
「おい?」
慌てて後ずさる国王であったが、国王の服を掴んだまま絶命している近衛将の上半身のみが引き摺られていくと共に、血臭が部屋を満たし始めた。
「「「うッ!?」」」
この場にいた三者は共通した声をあげるが、その内実は三者三様に異なる反応を見せている。
先の王妃は、あまりの凄絶さに口元を押さえてえずき、声を挙げようにも上げられずにいる。
そして、この後に己の身にも訪れるだろう凄絶な結末と凄惨な姿を思わず想像してしまい、腰が抜けて頽【くずお】れてしまう。
気を失い倒れなかっただけでも、賞賛に値するとも言えた。
かたや国王は正に死が己の身を撫でていったことを直感した。
まるで雑草を狩るが如く容易く近衛将に死をもたらした目の前にいる死の使者に圧倒されていた。
王たる自分に対して、なんの敬意すら抱いてはおらず、それこそなんの痛痒も感じずに羽虫を払いのけるが如く、または小花を圧し折るが如く王の命を断とうと即断し、実行したことに絶句してしまう。このような者がいる事など想像したことがないのだ。
そして衛士や兵達といえば、近衛将の泣き別れになった上半身をみるや数瞬後の自分を重ね合わせて観てしまい、明確にして避けられない死に恐れ慄き絶望していた。
身動【みじろ】ぎ一つせず、否、軽挙妄動で動いたならば、またもや避けられない一手を披露され、今度は自分が両断されるのではないか? と想像してしまい、敢えて動かない……、動けないでいたのだ。
その様たるや獰猛な猛禽類に遭遇してしまい、呼吸さえ止めて唯々災難が通り過ぎていく事をひたすら願うようであったが、当の獰猛な猛禽類は至って平静であった。
その平静さが、このような惨状等は至って『普通の狩なのだ』と物語っているかのようで、かえって恐怖と絶望を掻き立てていく。
「おお?! 国王陛下の危機に己が身を呈して庇うとは、忠義の士でございますな。世相で噂されている悪評に塗れた陛下と言えど、その御命を己の命を賭してまでお救いするに値するとみなす者達もおります事、まことに重畳【ちょうじょう】でございます。某、感服致しましたぞ」
そんななか、いかにも感心したような声を上げて評を述べる様が、異様であった。
まるで獲物が珍奇な芸をしたことが、感嘆の琴線に触れたとでも言いたげな声色と声調であったのだ。
「「「……」」」
よもや捕食者に対峙する獲物の心境を王城内で味わうなど、誰もが思ってもいないことであった。
そして次にこの捕食者が何を言い出し始めるのかと、身じろぎもせずに固唾をのみながら注視している。
まさに捕食者の機嫌次第、気分次第。
それこそ、――「おお? 円らな瞳が愛らしく、面白い芸も覚えたとは誠に見事なり。そんな可愛くも珍奇な芸を覚えた獲物の味が楽しみだ。さっそく晩餐の卓に並べるとしよう」――とも、なりかねないのである。
捕食者は獲物がなにを言い募ろうが、何の感慨も湧かない。
獲物も獲物で、なにかを言い募ろうとは露とも思わない。
そもそも捕食者に慈悲など無く、かえって被虐心を煽る危険もあるのだ。
したがって打算と願望で彩られた沈黙が、唯一の美徳となるのだった。
静寂が満たす部屋の中で、当の鳥天狗といえば納得がいかないのか、不思議だとも言いたげに首を傾げ考え込んでいるようであった。
そして合点がいき納得したのか、おもむろに壁に向かって悠然と歩き出していく。
国王達はそんな姿を固唾をのんで見つめていた。
視線を外したら何をされるかわからないという恐怖で、視線を外せないのだ。
そんな元凶である鳥天狗が、またもや想定しない行動をとりだした。
徐に部屋の壁を蹴り出したのだ。
いや蹴り出すというよりも、押し込んでいるようであった。
そんな鳥天狗を注視していた者達は、ふと己の目に映った『ある光景』が信じられず目の錯覚であると考えたのか、しきりに瞬きを繰り返し始めた。
その『ある光景』とは、四方の壁が斜めにずり始めるという理解を越えた現象であったのだ。
「まさか……この塔を……、斬った……のか?」
誰が呟いたのかなど、もはやどうでもよいことであった。
そして現状を正しく認識するに至り、仰け反り、そして思わず一歩後ずさってしまう。
斬られた塔の部分である最上部たる尖塔部はその自重で勢いが付き始めたのか、もはや誰の目にも明らかにズレが生じており、それに比例して塔がズズズッと軋みを上げ始めた。それと共に四方の壁も引き摺られ、歪みが生じたのか亀裂が走り始める。
「ふ、伏せろッ~! ヒィ~ッ!」
「「……」」
へたり込む王と先の王妃の頭上を轟音を上げてズレ墜ちていくかつては塔の最上部であったモノ。
鳥天狗を除く全ての者は、もはや呼吸すら忘れている。
そして、ゆっくりと落ちていく残骸をただ観ていることしか出来なかったのだった。
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そんな重量物が遥か頭上から落下していこうとしている地上では、まだ事態に気が付いていない兵達が突入準備を整えつつ集結しつつあった。
「よし、三つの班はこのまま上階に上がり、陛下の命令を受けよ。残りはここで警戒態勢を敷き、賊の侵入及び逃走経路を塞げ! お前達は――」
塔の基部付近で指揮を取っていた者の肩口に、パラパラと小石や砂めいたものが落ち始める。
最初は気にもしなかったが、その量が徐々に増え始めていく。
さすがに気になり始め頭上を見上げようとした矢先、付近に人頭大ほどの石が、ゴフッと異音を立てて落下した。
「「「「「……」」」」」
ここは王城内である。
たまに人が墜ちてくることはあるが、頭上から大石が落ちてくること等ありはしない。
それ故に、人頭大ほどの石が落ちてきたことに違和感を覚えながら上方を見上げる。
そこには塔の最上部であった残骸の塊が、今まさに落ちてこようとしているところであった。
やけに緩慢な光景が、地上の兵達の瞳に映り込む。
「「「「「……?……」」」」」
在り得ざる光景。
だからこそ認識が出来ずに皆がただ茫然と眺めていたが、指揮官がいち早く呆けることから脱し、直ぐに号令を発した。
「た、退避ッ!」
この一声に一斉に散らばり始める兵達の頭上に、ズズーンという轟音とともに落下した残骸。
飛び散る破片に巻き込まれた多数の兵達が苦悶の声を上げている。
また余波で城壁の一部も崩れ落ち、瓦礫の下敷きになる者達もいた。
そんな状況が理解できずにある者は右往左往し、ある者は痛みに呻きながら助けを求め、ある者は唯々逃げ惑う。
多種多様な兵達が見受けられたが、一様に何が起こっているのか理解していない事だけは共通していた。
そして崩れ落ちた際の大音響は隠し様もなく、王都内にも大きく鳴り響く。
王都に住まう者達は夜半に叩き起こされ、一体何が起きたのか? と跳び起きて王城前に集まり始めていた。
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一方、風通しの良くなった尖塔の最上部では――、「おお? これでだいぶ風通しが良くなりましたな。この陰鬱で鬱屈した空気は、好みませぬ故に」――などと、鳥天狗が一人満足げに宣っている。
そして踵を返したかと思うと、へたり込む王の前を悠然とした足取りで過ぎ去り、同じくへたり込んでいた王妃に近づいていく。
「き、貴様! どこに行こうとしている!」
完全に無視された形に、へたり込みながら思わず声を上げるが、それはただ大声を上げただけの虚勢。まるで覇気は伴っていなかった。
その誰何の声を受けて半身のみ王に向き直り、嘲笑めいた声調を伴って応えを返す鳥天狗。
「それを賊に問われるのか?
賊が忍び込み、何も得る事も無くただの物見遊山で罷り越したと思われるのか?
当然ながら、目的があるのですよ」
そう言いながら、王妃の方に視線を送る鳥天狗であった。
送られた方の王妃は震えながら、少しでもこの怪人から遠ざるべく後ずさろうとするが、その身は既に壁際に在る。それ故にそれ以上の後退が出来ずにいた。
「その女をどうするつもりだ!」
先の王妃を『その女』呼ばわりしていることに気が付いていない。
心の奥底が透けて観える物言いであった。
「どうするとは、これは異【い】な事を仰る。
そも、それは陛下には関わり無き事ゆえ、その場でお座りのまま御観覧くださりませ」
「その女を連れ出すつもりか、それとも弑するつもりか!? そんな事は許さんぞ!」
国内的(ルディアや反国王派への牽制)にも対外的(王妃の生国を含めた外交関係)にも、先の王妃の存在が霧散すれば如何なる余波が起こるか、予期できない。
「それが籠の中の鳥に向けて言う言葉か?
籠の蓋が開けば、捕らわれの鳥といえど籠から出るのは必定。
そして鳥は飛んでこその鳥でございましょう?
飛ばない鳥は鳥とは言えず、飛べない鳥ならば飛ぶに比した力を有するもの。
飛ぶも叶わず、力もないとなれば、後はただ啼くのみとなりましょう。
だが、鳴く事すら叶わぬともなれば、それはもはや鳥とは言えますまい」
国王からの空威張りの恫喝を受け流して、さらりとに応えを返す鳥天狗。
「グッ! とにかく、何かをする事など認めんぞ! 貴様は、その女を置いて鳥らしくさっさと去れ!」
「なんと? 某は鳥にして義賊なれど、賊は賊。
先程も申した通り、その賊が何も手にすることもなく、この場をお暇【いとま】するとお思いか?
それこそ賊の流儀に反する所業と申せましょう。
それとも、そこな女子【おなご】の代わりとして、陛下の御命を頂戴しても構いませぬが?」
「なッ?! う……、クッ!?」
冷たい視線を投げかけられて、思わず視線を外しながら言い淀む国王。
愚弄されていることは明々白々。
だが、この場で己の沽券と命を秤に掛ければ、どちらが大事かは論じる迄もない。
本来であれば、名を惜しみ矜持【きょうじ】のために、時には己の命すら賭けねばならないのが貴種なれど、この王はいまだその境地には達してはいないようであった。王座を欲しはしたが、伴う責務までは欲してはいないようである。
もっともここで大見得を切ったとしても、斬殺されるのは明白であったが……。
「どうやらご理解いただけたご様子。
まだ寝起き故に血の巡りが悪いようでしたら、その素首【そっくび】を刎ね飛ばして差し上げようかと考えておりましたが、どうやら大事に至らぬようで、誠に恐悦至極に存じます。陛下」
そう言うや大仰【おおぎょう】に、そして此れ見よがしに、かつ優雅に立礼する鳥天狗。
この時、わざとらしく芝居がかった立礼をするべく王に正対しようと身体ごと向かい直したのだが、それ故に一瞬とはいえ王妃から目を離してしまう。
その一瞬の隙をついて、突然王妃は背に残った壁を頼りに立ち上がった。
そして徐に駆け出したかと思えば、決然とその身を塔から投げ出したのだった。
「「なッァぁぁアあああ?!」」
突然の出来事に、驚愕の声を上げている国王と兵達。
鳥天狗はそんな光景を目尻の端に捉えながら、特段慌てた様子すらない。
気配で王妃の動きを察していた為であったが、どうやら『話の筋書き』に変更が加わったと判断し『はてさて、どうしたものか』と思案に暮れていた。
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城壁の上で、幻術や各種法術を組み合わせた隠形術【一種の熱光学迷彩】にて姿を隠し、様子を窺っていた鞍馬天狗の鞍馬真琴。
鳥天狗を送り出した後、隠形の術で身を隠しながら鳥天狗の後を尾行するように飛んできたのだ。
鳥天狗には単独でと言ったのだが、どうせ露見するだろうと思い、ならばその際にとる兵達の対応から練度や装備などを見定めようと思い直したからだった。
もっとも鳥天狗も後ろから鞍馬天狗がついてきている事には気が付いていた。
随分と手の込んだ『追跡・尾行』だなとも感心しつつも、同時に呆れてはいたが、それは『言わぬが花』というもの。
デキる鳥天狗は演出も考えられる者なのだ、と一人で懸命に納得していた……。
そんな物見遊山な気分で地上を見下ろす鞍馬天狗の視線の先には、右往左往して混乱している地上の兵達。
――『まぁ、こんなものかな?』―― と観察していたところ、尖塔の最上部を斬り落とされて鉄格子付きの豪華な部屋が露出している塔から、白いモノが墜ちたことを視線の端にとらえた。
その白いモノが何かを確認する前に、鞍馬はその身を躍らせて空に躍り出て舞い飛ぶ。
落下していく白い仕立ての良い服装を身につけた先の王妃に追いつき、その身を抱きかかえた。『お姫様だっこ』ならぬ『王妃様だっこ』である。
そして体勢を整えるや、その白い翼を一気に広げて力強く羽搏【はばた】いたのだ。
「身投げとは、これまた随分と思い切ったことを行う」
ゆっくりと地上に舞い降りて、王妃の身を素早く確認していく。
気を失ってはいるが『大事ない』と判断した鞍馬真琴は、そんな言葉を静かに独り言ちていた。
一方で鞍馬真琴が舞い降りた地上では、更なる惨状が繰り広げられていた。
鞍馬真琴がその白い翼を一気に広げて力強く羽搏いたために、巻き起こった風が突風どころか暴風となって地上に吹き荒れたのだ。
その為、落下した残骸によって巻き上がっていた粉塵は吹き飛ばされたが、それと共に兵達も吹き飛ばされて城壁や城の構造物にぶち当たり、人的被害が急増していたのだ。
そこかしこで半死半生の呻き声を上げている兵達が転がっているが、そんな事などまるで意に介さず、王妃を抱きかかえながら今度はゆっくりと優雅に上昇していく鞍馬天狗。
先の王妃を抱き直して、ゆっくりと舞い上がるそんな鞍馬真琴。
そんな姿をみて、身体を強打したため意識が朦朧としていた兵達は騒ぎ始めていく。
翼を羽搏かせただけで、あのような暴風を巻き起こす。
突如舞い降りたその者が身に纏う召し物は、見かけない意匠ではあるが白を基調としており、明らかに仕立ての良い召し物。さらにその背には隠し様もない一対の白く大きい翼。
まさに尋常ならざる者……、否、超常の域に達している者と考えたとしても、それは致し方ないと言えよう。
そしてその超常の者の腕に抱きかかえられている先の王妃。
なにより、超常の者の『赤ら顔と厳めしい表情』。
これらを総合的に見るにつけて、一つの結論に達したのだった。
「お貌【かお】が朱に染まっておられる! て、天の御使いが激怒なされ……王妃様を召しあげられてしまった」という結論に……。
そう、鞍馬天狗は律義にも天狗面を被っていたのだった。
そして兵達も『いくらなんでも、先王妃様へのこの処遇は如何なものか?』と内心では疑念に思い、かつ危惧していたのだった。
そこに赤ら顔の厳めしい天狗面をみて『天の御使い様さえも御顔を紅潮させるほどに憤激しておられるッ!』と考えてしまったとしても、これまた致し方ないと言えるのであった。
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先の王妃が投身して自裁という想定外の出来事を目のあたりにした衝撃で、茫然自失し放心していたのも束の間、そんな自裁したはずの王妃を抱きかかえ、激情のあまり顔が紅潮し憤怒の形相を浮かべている、またもや異質な存在がゆっくりと空中を舞い上がって現れた。
そして斬られても何とか残った壁の壁面上に悠然と立ったのだ。
すでに真夜中であるため、当然に周囲は闇夜の帳が下ろされており暗い。
尖塔上部が斬り落とされて外気に晒されている部屋は、そんな本能的に恐れてしまう闇夜に晒されていたが、残された壁に残った未だ健気に燈る室内灯の光と月の光が僅かに闇を払っている。
そしてその異質な存在の姿といえば『青白くも、か細い光』に照らし出されており、その事でより一層の事、陰影が強調されて『薄ぼんやり』と浮かび上がっていた。
ある種の幽玄的な美しさや趣を感じられる情景とも言えるが、理解の範疇を大きく逸脱している状況に、事態を全く把握することさえ覚束ない王と兵達。
幽玄的な美しさや趣を感じるどころか、王と兵達の心中には『異質な存在』ではなく『超常の者』への隠しきれない『畏怖の念』が滲み出ていた。
「て、天の御使い?」
誰が発したのかすら定かではないその言の葉が、王と兵達の間を駆け抜けていく。
そして言の葉が意味する内容に、無意識にゴクリと喉を鳴らしていた。
「この者は我が預かる。異議はないな?」
憤怒の形相を浮かべた異質な存在が、突如ややくぐもった声で厳かに宣う。
『異議はないな?』と確認しているようで、その実、異議を唱える事など全く認めないという冷淡な声の響きに、烏天狗を除いてその場にいた全ての皆が凍り付く。
『異議はないな』という問いとも言えない宣告を、鋭い眼光と共に投げ付けられた者達と云えば、理解できない現状に加えて雰囲気増量気味の情景、そこに極度の緊張状態から思考が停止しかかっていた。
また心中の動揺と薄暗い状況が相伴って、王と兵達はこの憤怒の形相が『仮面』である事など知る由も無ければ、思い至ることが出来ずにいた。
故に仮面越しに聞こえる『くぐもった声』が、まるで感情を抑制した声色に聞こえているのだ。
対峙している兵達の目から見ても、眼前の異質な者が『如何なる感情を抱き、かつその感情を抑制しているか』等、先の王妃を助けていることからも一目瞭然であった。そこから導かれる結論といえば、論理必然的に一つしかないだろう。
則ち――『天の御使いは、激憤しておられる』――という結論に達する。
事実、王と極少数の者達以外でこの場に居た者達は『先の王妃様への処遇』に対しては、口にはしないが少なからず懐疑的意見を持っていた。
それ故に『天の御使いが御怒りになられる』のにも、思い当たる節があるという考えに至っていた。
そして『天の御使いは、激憤しておられる』と云うこと自体が、『宣託の様に解釈の余地がある』という生易しいものではなく、『宣告のように明白かつ明確』であったのだ。
そして王が『路傍の石に問う』事などしないように、天の御使いたる超常の者は王と兵達の考えやその意志など全く意に介することも無い。
王と兵達など存在しないかのように、続く言葉を無情にも紡いでいく。
「ゆくぞ。黒よ」
「……ああ。(く、黒?)」
一方で突如、黒と呼ばれた鳥天狗は、内心では相次ぐ筋書きの変更に『???』が乱舞し、当惑しきりであった。
だが、もう『成り行き任せで、良いや……』とも、考えた。
そもそも攫【さら】って……、救出してから『その後の事を考える』としていたため、『当初から成り行き任せでもあったな……』と思い直したためだ。
鞍馬真琴に云わせれば、『強制的に場面と状況を動かしている』らしいが、『成り行き任せ』なのは否めない事実であると、烏天狗は考えていた。
そんな伸縮性に富む諦観に身を任せる鳥天狗とは対照的に、慌てる者も確かにいる。
「まて! その女を置いていけ!」
猶も言い募る王に鞍馬天狗は一瞥をくれると、やおらに一言静かに言い放つ。
「諄【くど】い」
それと同時に白い翼が羽搏【はばた】くや暴風が吹き荒れ、室内装飾品や兵達、そして残った壁の一部が空に吹き飛ばされ地上に落下していった。
漸くの事で混乱が沈静化し始めた地上にとっては、三度目の惨事が降り掛かったのだった。
(因みにこの暴風で落下していった兵の中に、王から『マルクス・バートンの監視』という密命を受けている最中であった『影』の者がいた。侵入者がいるとの騒ぎを聞きつけた王が、この尖塔にいる先の王妃の安否を確認すると言い出したため、急遽、護衛として同道したのが不運であったのだが、それは余談に属する話であろう)
幸運にも空に吹き飛ばされなかった者達も、あまりの風力で残った壁に強かに打つ付けられ気を失う者が多数。その気を失うだけで済んだという幸運な者達の中には王もいたのだった。
そんな惨状を悠然と見ながら、平然としている鳥天狗と鞍馬天狗。
そしてこの二者は、今度はゆっくりと優美に羽搏き空へと舞い上がっていく。
満月を背にうけたその姿はまるで見せつけるようであり、そして白く大きい翼は月光を受けて神々しく輝き、おなじく黒く大きい翼は全てを受け止めるが如く黒く浮き上がっている。
そんな姿は非常に目立つ。
街では――『先の王妃様を抱きかかえた『あれ』はなんだ!?』――と、大きな喧騒が巻き起こっていた。
城壁に残っていた勇気ある兵は弓を番えて矢を撃ち放つが、その矢は風に阻まれ空中に停止して落下していく。
矢を撃ち放った勇気ある兵は、上空の黒い影が何かを振り下すとその身体は両断されて城壁から落ちていったのだった。そして城壁にも大きな斬撃の跡が残っていた。
「鞍馬殿よ、何か決め台詞を言ってみるかい?」
もうここまで来たら、何でもありだと諦めの境地に達したのか、満月を背にやおら鞍馬に問う烏天狗。
「ふむ……。ならば、この場で言う決め台詞はただ一つ。
『月に代わって、お――』」
「おっと、長居しすぎな上に、街衆も集まり出している。これは、さっさとずらかった方が良さそうだ。行くぞ、鞍馬殿!」
慌てて言い募り、この場からそそくさと離れる烏天狗。
「……え~……、自分で決め台詞を言えって言ったのにィィ~~……」
その後を不承不承で追う鞍馬天狗。
「……(あ、あぶねぇェエエ! 何を言い出すんだ?! この鞍馬天狗!)」
烏天狗は爆発物処理班のようなある種の緊張感を身に纏って、この場を離れていく。
「ちェ……」
もう一方の鞍馬天狗は『天狗面』の下から漏れ聞こえる不満そうな声色を残して、この場を離れていくのだった。
・
・
・
一夜明け、崩れた城壁は最早隠し様もなくその傷跡を晒していた。
『一体何があったのか?』と諸卿をはじめ、街の者達も噂話で持ち切りである。
そんななかで、王城から緊急の登城が主だった者達全てに命じられたのだった。
各大臣をはじめ、王都内に輪番で滞在中の貴族に、軍部高官、宮廷魔術師。
最近復職した土着の祭神を祀る神官と不興を買っている光神教会の関係者。
果ては王に諫言し職を解任され謹慎中の貴族に、博識であると評判の者までが参集を命じられていた。
議題は何かといえば、唯一つ。
――『アレは何か』――である。
アレ呼ばわりだが正体が不明な以上、アレとしか言いようがない。
最初は『名義不詳非実在飛翔体』と呼称していたのだ。
『名義不詳』と『飛翔体』は理解できるが、『非実在』というのが理解しがたい。
実際に王自身を含めた多数の者が見ている以上、『実在』しているにもかかわらず『非実在』の呼称を敢えて用いている。
つまりは存在を認めたくないという心底が透けて観える呼称。
したがって、会議の途中から自然と『アレ』に変更になったのだった。
もっともいちいち『名義不詳非実在飛翔体』と呼び習わすが面倒だったというのが、第一の理由でもある。
そのため誰ともなく自然と名称変更が成され、そして其の事については、誰も異議を挟まなかったのだった。
無駄に整理された無駄な議論だけが進行するが、ただそれだけであり、時は虚ろに過ぎ去るが、一向に結論らしきものすら出ない。
当然、『こんな感じ』といった具合で急ぎ宮廷画家に絵を描かせたが、それで判明するならば諸氏を集めようなどとは思わないだろう。
そして解らないから諸氏を集めたが、集められた者達とて絵だけ見て解るなら苦労はしないのだった。
皆が皆、悶々としながら喧々諤々の議論をしているところに、苛立ち始めた王が神官に下問したのだ。
事を神官に下問するなど、もはや神界に属する事柄と王自身が考えている証左でもあるが、そのこと自体に王が気が付いていなかった。
一方、問われた神官と言えば、絵だけ見せられて『これはなんだ?』と問われても、答えようがない。
答えに窮する神官を後目【しりめ】に懸けながら、光神教会の関係者を代表した主教がズイッと一歩踏み出して王に向き直り、言上したのだった。
「恐れながら陛下。ご下問の事柄につき、我ら光神教会がお応えさせていただきます」
自信満々に見える光神教会からの応えに、不機嫌そうに促す王と俯く神官。
「では、彼の者達は『告死天使』に『告生天使』と申します。二名揃って『国師天使』といい、『瑞兆、吉兆の顕れ』であると記されております。まことに『喜ばしき啓示』にございます。さすがは陛下の治められる御国にございます」
完全に『でまかせ』であり、『口から出た嘘』を体現する物言いであった。
塔が崩落し、城壁さえ一部が損傷している。
さらには将兵にも被害が出ている。
そして、なにより先の王妃が行方不明ともなれば『大凶事』以外の何物でもない。
だが、そこは巧く言い繕えばよいと主教は考え、そのように主張していく。
例えば……
―― 城の構造物が損壊したことは、神の威光を顕す天の御使いが来臨されたのだから、卑小な人が拵えた建造物が耐えられないのは『当然』である ――
とか、
―― 先の王妃は行方不明なのではなく、『天の御使いに召された』のだ ―― という具合にだ。
殊に先の王妃の処遇については、ルディア王女や反国王派への牽制に、先の王妃の生国への対処もあったために、取り合えず監視下に置いていたが、現国王にとっては、やはり『目障りな存在である』はずと光神教会はその心中を読んでいた。
ならば天の意志、即ち卑小な人が異論を挟めない、つまりは不可抗力の神の御業として『先の王妃は召された』として対応してしまえば良いと判断したのだ。
そしてその為の虚言……否、神の御意思を推し量った言説を弄したとしても、それは許容され認容されて然るべきなのだとも考えていた。
因みにここで言う『召された』には二つの意味が内包されている。
一つは、『天の御使いにお仕えし、侍るべく召し抱えられたのだ』という意味。
(この場合、天の御使いという最上位にお仕えするのだから、侍る者とて人としての最高位に属する者であるべきであり、そしてそれが『たまたま先の王妃であった』という論理である)
もう一つは、死去されたという意味での歪曲表現である。
王が、お好きな解釈をしても良い様に、解釈に幅を持たせているのだ。
冷遇され不遇を託ち、低調な上に低迷し始めた光神教会を、かつての権威ある光神教会に返り咲かせるべく阿諛追従【あゆついしょう/相手に気に入られるべく媚びへつらい、機嫌を取って従うこと】の手段に打って出ていた。
見方を変えれば、それほどまでに苦境に追い込まれているとも言えるだろう。
殊にこの地域を任されている主教にとってはッ!
そんな光神教会の思惑など露知らずに、参集した者達は『おお~~』と感嘆の声が彼方此方から挙がっていく。
(因みに、この上がった感嘆の声は六割程が『ヤラセ』とまでは言わないが、それでも意識的または無意識的な演技ではあった)
復帰したばかりの土着祭神を祀る神官は、苦渋の表情を浮かべていた。
土着信仰の神官としては、長年の苦境からようやく脱し始めたところに、またもや難題が降りかかったのだ。なんとか下問のあった事柄に答えを見出そうとするが、皆目見当がつかない。
そんな困惑する状況で、仇敵たる光神教会が一応の答を出したことに意図せず苦渋の表情が浮かんでしまう。
また列席していた一部の将は、表情には出していないが『呆れる』とともに『苛立ち』もしていた。
同僚たる近衛将が惨殺され、配下の兵にも多数の死傷者が出ているのだ。
それを言うに事欠いて、――『瑞兆、吉兆の顕れ』――とまで言い募られれば、業腹なのは当然ではあった……。
隔意が生じている王と光神教会の間を取り持ち関係の修復をするべく、耳障りの良い言葉を光神教会は弄したのだったが、応えを聞いた王と言えば平静を取り繕ってはいたが、内心は侮蔑しきりで罵詈雑言を吐いていた。
「……(あれが瑞兆だとッ? 聞いて呆れるとはこの事よ。黒翼の彼奴は王たる俺を、王たるこの俺をなんの痛痒【つうよう】も感じることなく、弑しようと狙ったのだぞ! それを瑞兆だと!? ……こいつらは駄目だな、使い物にならない。やはり見限る事こそ、我にとっては吉兆よ。まぁよい。瑞兆・吉兆と言い募るならば、その言説を利用してやる。ただし巧くいかねば、その責を負わせるがな……)」
固唾をのんで王の反応を窺う光神教会のお歴々に、応えを返す王。
「そうか、瑞兆、吉兆の顕れ……か。まことに喜ばしい。ならばその誉に応えねばなるまい。そうだな、まずは手始めに街に巣食う賊徒の取り締まり……、いや制圧……徹底した征伐を執り行うとしよう」
まともな答えが得られず憤懣遣る方無い【ふんまんやるかたない/我慢できないほど立腹しているが、晴らす方法もない】心の憂さ晴らしに、賊徒を徹底して取り締まる方針を打ち出したのだった。
完全な的外れの意趣返しであったが、王都の民たちは当然に絶賛する施策ではある。もっとも、とばっちりを受けた賊徒は王都周辺域に散らばり、小規模隊商や行商隊を襲撃し始めるという副次効果を伴ってはいたが……。
「次いで慶事が齎された我が国を祝して、光神教会に城壁の普請を申し渡す」
「へ、陛下……。それは……その……」
「なんだ? 神の祝意を伝える天の御使いが来臨された我が国にたいして、慶賀を祝すための普請さえ厭うというのか? 光神教会のいう書に記された『国師天使』の来臨を光神教会が祝えないというのか? 再び来臨された折に損壊した城壁をその御眼に晒せというのか? 光神教会だからこそ、二度と壊れない城壁の再建が出来よう。違うか?」
「……(ウッ、ヌグッ!)。こ、このような栄誉ある普請を光神教会に任せられること、光栄の段に存じます」
阿諛追従【あゆついしょう】の上に、瑞兆・吉兆の顕れとまで礼賛しており、いまさら協力は出来ないとは言えなかった。
光神教会としても、ここは一時的に出費を強いられるが、かつての権勢を取り戻す契機になれば、後々いくらでも挽回できる。ならばここは不本意ながらも協賛しておくべきという光神教会にのみに理解できる『非常に高度な政治的判断』で決断したのだった。
「当然である」と、国王は鷹揚【おうよう】に頷いていた。
謝意を表すということは、全くない。
なぜならば『当然』であり、『栄誉』であるからだ。
もっともこの事が契機となり、幾度も光神教会が無償で様々な普請やら慈善事業やらを行う羽目になり、多大な出費を強いられ続けることになるのであった。
協賛を渋れば、『恩寵【おんちょう/神の恵み・慈しみ】ある我が国の要請に応じないとは、まさに神の御心に対して疑心あり』と断じられ、『誉れ高き我が国には、そのような教会は無用である』とも恫喝される。
剰【あまつさ】え『国師天使の件』は虚偽・虚言であったのかと難詰されては、もはや否とは言えなかったのだった。
余談であるが、軽々と同意してしまったこの光神教会の主教は更迭され、環俗【げんぞく/元の俗人・市井の人に還る】させられた後に、行方不明となったのだった。
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王城よりの帰路をかなりの速度で飛びながら、王妃を抱えた鞍馬天狗は並び飛ぶ鳥天狗に何気なく問い質す。
「轟殿は、私が追走していた事を気が付いていた?」
「まあな。鞍馬殿はいま少し隠形の術を磨くべきだな」
「さすがは鳥天狗といったところ。だけどその心遣いには感謝するが心配は無用と言いたい。相手に露見したら、報告される前に始末すればよい」
「え?! いや……、それは、まァ……、そうなんだが……。
(それはそれでどうなんだ? というか……鞍馬天狗って……こんなに大雑把だったか?)」
と考え込んでしまう鳥天狗なのであった。
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