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50 秘め事

 《 密使の先遣隊 》


 イザヨイ領内へと続く森林地帯の道なき道。そんな道を一〇人ほどの小集団が進んでいく。

 ラルキとの通商交渉などを隠れ蓑にして、本命のイザヨイとの誼を求めて密使が派遣されているのだ。

 その事前交渉を兼ねて先遣隊が派遣されている。

 しかし、この交渉事は内密に行われなければならない。

 万が一にも露見すれば、国元に如何なる干渉が成されるかわからない。

 いや干渉ではなく、実力を伴った介入さえ危ぶまれる事態になるのだろう。

 だからこそ、森林地帯の道なき道を進んでいるのだ。


 森林地帯ゆえに木が覆っている。

 だが、陽光が完全に遮断されているわけではない。だからと言って陽光が燦燦と照り付けているわけでない。簡単に言えば薄暗いのだ。

 そんな薄暗い中を慎重に歩を進めていたのだが、ここにきてやや森が開けた場所に辿り着いた。


「まて……。これは……」


 前方を進む道案内に雇った熟練の狩人が、サッと片手を軽く上げる。

 後続の者たちに『――停まれ――』の合図を送っているのだ。

 そして徐に屈みこみ、視線を低くして何かを探しているようだった。

 だが、その顔には微かながらも『明確な焦り』が見て取れるのは気のせいだろうか。


「なんだ? どうした――「静かに」……」


「……」


 不審に思いながらその狩人に近づき問うたが、逆に咎められてしまう。

 だが……なぜ、そこまで声を潜めるのだ? 一体何があるというのだ?


「静かに、ゆっくりと下がれ。周囲の警戒を怠るな」

 静かな語調ではあるが、やはり焦りを含んでいるように聞こえる。


「なに? 説明しろッ!」

 思わず大声を上げそうになるが、狩人の眼光と雰囲気がそれを許さない。

 おもわずつられて声を潜めるが、それでも語気が強まる。


「後跡行【バックトラック(止め足)】だ。自分の足跡をわざと残して進み、ある地点でその足跡をそのまま遡りながら後退して途中で別方向に跳躍している。追跡者つまり俺達を撒く方法の一つだが、ここまで巧妙な奴は……なかなかいない。俺が見落としたってことは……、相当に手練な奴だ。案内してもらおうと思ったのが裏目に出た。注意しろよ、いまでも俺たちを見てるかも知れんぞ」


「な、なんだとッ! それは誘引されたという事かッ? 

 こんな開けた場所だと、俺たちは良い的だぞ!?」


「だから、慌てず騒がずゆっくりと下がれと言っているのだ。

 おまえ、ここで死にたいのか? 大事な任務とやらがあるのだろう?」


「わ、わかった。皆、静かにゆっくりと下がれ。

 静かに――「まて、動くな」……。動けと言ったり、動くなと言ったり。本当は見失ったのを誤魔化すために、戯言を……」


 そこで、気が付いた。

 森の中なのに、物音が聞こえない。

 鳥の鳴き声はおろか、草や葉を掻き分ける虫の音さえもだ……。

 サワサワと小風が木の枝を揺らす音のみが聞こえる。

 聞こえるのだが、異質な雰囲気も同時に高まっていく。

 言うなれば、不自然な自然とでもいうべきか。

 在るはずの気配を意図的に消して、ぽっかりと無くしたような。

 無いのが不自然、そんな違和感だ……。

 何も無いという事が、これ程までの違和感を覚えるとは……。

 そしてそんな違和感とはまた別の喩え様の無い感覚も満ちていく。

『ザワザワ』と肌が泡立っていく感覚を覚える。


「お、おい……」


「まずいッ! 除装しろ!」


「な、なんだとッ?!

 こ、この状況で、そんなこと出来る訳が――「除装だッ、早くしろ!」……」


 戯言ではないことが、緊張感を孕んだ声でわかる。

 わかるのだが、なぜ俺の頭ごなしに部下に命令するんだ?

 いや、そんな事さえかまっていられないほど、緊迫した状況なのか?!

 先遣隊に所属する部下たちも、当惑の表情を浮かべ隊長の俺を見ている。

 だが、そんな表情で俺を見るな! 俺だって困惑しているんだぞ!


「監視の者に告げる! いまからゆっくりと除装する! 早まらないでくれ!」


「な、何を勝手に?!」


「ここで屍を晒すのは勝手だが、俺は妻と子のためにも生きて帰らねばならんのだ。俺を巻き込むな。お前らとて、ここで死んだら無意味だろうが?」


「う、ぐぐ」


「迷っている時間はないぞ、はやくしろ」


「……わかった。皆、除装しろ、ゆっくりとだぞ!」


「良い判断だ。長生きすれば、お前は出世するかもな」


「だが、もし間違っていたら……わかっているな?」


「その点は大丈夫だ、ほれッ」


 両手も上げているため、指で指し示すことができないからか、顎で方向を示している。

 その方向を見やると、樹木の怪物? と、斑【まだら】模様の外套を羽織った者が、森の木々から滲み出るように浮かび上がってくる。


 樹木の怪物? は、まさにそのままだ。草木が集まって人の形を形作っている。

 これが噂に聞く『トレント』というやつなのだろうか?  

 トレントというのは、動く樹木の態を成した魔物の一種だ。

 概して樹と同じように年齢? この場合は年輪か? を重ねると大きくなる傾向にあり、それに比して脅威度も増すという。

 だがこの目の前にいるトレントは、隣の人物? と同じくらいの大きさであり、噂に聞くトレントよりも小さいような……。

 若いトレント? なのだろうか。


 そして、もう一方の斑【まだら】模様の外套に身を包んだ者をを見るのだが……、その風体【ふうてい】をみて幻滅した。

 なんとその顔には、色が塗られている。

 なんという……、なんという事だ。

 外套に使う布さえ、単一に染めこむこともできない、もしくは交易によっても単一に染色された布さえ入手できない。

 また身につけた服? といえば、やたらと布地を当てて袋をつけた継ぎ接ぎだらけの、みすぼらしい服装。

 装飾品の類も見られず、色合いと言えば草木の煮汁で染めた様な小汚い暗緑色を基調するもの。

 しかも単一に染めることさえできず土色が所々で染みを作っている。

 この一点でさえ文化の度合いがわかるというのに、ありえないことに顔にまで色を塗っている。

 しかもその色合いが美しくない黒と深緑……。

 一言でいうならば、これぞ蛮族ッ! ……いや、これは『蛮族』と聞いて皆が思い描く蛮族の像を遥かに越えている。まさに『蛮族の中の蛮族』ともいうべき蛮族ッ!

 もはや、それ以外に言いようがないし例えようがない。

 よもやこんな、こんな蛮族に助勢を乞うことになろうとは……。


 いま我らの国は重大な危難に際している。危機に瀕しているのだが、こんな蛮族に助勢を乞うたとしても、さして状況は変わらないのではないか?

 こう言ってはなんだが、所詮は『蛮族』ふぜいでしか無い……。

 そんな者らの力など、高が知れている。

 国は……そして我らは、一体どうなってしまうのか……。


 ・

 ・

 ・


 あのあと数名のエルフとダークエルフと思【おぼ】しき者達が出てきて、武装解除させられた。

 思【おぼ】しきなどと言う、あやふやな表現なのには理由がある。

 おそらくはエルフやダークエルフであろう者達も、皆一様に顔にまで色を塗っているため判然としないのだ。これは致し方ないというしかないだろう。

 武器は接収されたが、縄を打たれることはなかった。

 しかし連行されているのには違いなく、トボトボと項垂れながらも歩みを進める。

 しばらくすると、集落に近づいているのか森が開けて始め、ほどなく集落に到着した。

 武装解除され、連れてこられた集落。

 ここで事情聴取されることになるのだろうか。


 物珍しさと敵情視察を兼ねて所在なげに頭を振って辺りを見回していく。

 すると、離れた場所で数体の例の樹木の怪物? が集まり、なにやら立ち話? をしているのが見えた。



「へへへ、どうよ? これ新作だってよ!」


「おー、このモッコ・スーツなかなかいいじゃんよ!」


「だろ? 以前のもよかったけど、これもいいぜ。だけどよ、これモッコ・スーツっていうんじゃなくて正式には違う名称があるんだとよ」


「知ってる! 正式にはギリー・スーツっていうんだってよ。街に備品を受領しにいった奴らがモッコ・スーツって言ったら大笑いされたって怒ってたぜ」


「へー。だけど着るとモッコモコのムックムクになるんだから、モッコ・スーツでいいじゃねーの?」


「だよな。ここらじゃモッコ・スーツの方が通りがいいだろ。逆にギリー・スーツって言われてもわかんねーよ、なぁ~?」


「「「「「全くその通りだぁ~、ヌあァ~はははははッ」」」」」



 会話の内容は、離れていたのでほとんど聞き取れない。だが、なにやらお互いに腕? 枝? を伸ばして体? 幹? をバンバンたたき合い大笑い? している。

 遠目にはいかにも愉快そうに見えるのだが……。

 ――『今夜の晩餐が楽しみだな!』―― とでも話して盛り上がっているのだろうか。

 『晩餐が楽しみ』ということは、その酒の肴【さかな】や料理の具材は俺達という事か……。

 マ、マジかよ……。悪夢を観ているようだ。

 夢ならいい加減に覚めてくれと願うも、眼は覚めない。

 な、なんてこった……。


 やがて俺たちは、かなり大きい小屋に収監されることになった。

 まぁ、檻でないだけ遥かにマシではある。

 大きく開け放たれた扉から室内が窺い知れるのだが、一応は机と椅子は用意されている。    

 しかし寝るような設備はない。

 この状況、やはり……、今日中に絞【し】めて調理するつもりなのだ。


 そんなことを思いながら、絶望に打ち拉【ひし】がれていると、グ~……と腹が鳴った。

 ハハ……、まったく笑える話じゃないか……。

 食料にされる俺達だが、そんな俺達でも腹が減るとはな……。

 こりゃ、傑作だわ……。此れ以上の笑い話があるか? 

 魔物の食料にされる、こんな結末が俺の最後だとはな……。

 全く涙が出てくる……。


「ふむ? 道中が長かった故、少々腹が減られたご様子。なにか腹を満たす物を用意しましょう」


 連行されている俺たちを監視していた奴がニヤリと嗤いながら、ほざきやがった。

 たとえ愛想よくしていたとしても、その魂胆たるや明々白々。

 その貌【かお】にへばり付かせた『凄みのある獰猛な笑み』で一目瞭然というもの。食糧になる者の腹を満たすことで『寛がせ、ひいては肉質が良くなり柔らかくなる』とでも考えているのだろう……。


 この場から、なんとか逃げ出したい。

 だがそれは『ほぼ不可能』だという事が解ってしまう……。

 この集落まで連行されてくる道中で探った『こいつ等の一挙手一投足と身の熟し方』から、こいつ等の腕前が『尋常ではない事』が窺い知れたのだ。

 斑【まだら】模様の服しか着れない蛮族に、樹木の怪物ども……。

 そう、こいつ等は『訓練を受けた歴戦の戦士』だ。

 もっとも蛮族と樹木の怪物に『戦士』という概念があるかは不明ではあるのだが……、手練れであることは確実。


 なんにせよ、終わった。全てが……。 

 もうだめだ、諦めよう……。


 はぁぁ~、なんだよ、クソッ! くそッ! クソっ!

 こんな無惨な結末ならば、アリアと駆け落ちでもしておけばよかった。

 後悔先に立たずだ……。

 アリアの実家に挨拶に赴いたら、婚姻について良い返事を得られなかった。

 言外に『下級騎士では……』と言った雰囲気が立ち込めていたのだ。

 そこで思わず『近々のうちに重要な任に就く予定で帰還したら昇進する』と虚言を弄してしまったのだ。そして昇進の暁にアリアを妻として娶りたいと強言を述べてしまったのが事の起こりで始まりであったのだ。

 ご両親は感心しアリアは感激していたが、俺自身は焦燥感に捕らわれていたのは言うまでもない。当然ながら、そんな任務の予定など無いからだ。

 虚勢を張ってなんとかその場を辞するのが、精一杯であった。

 どうやって戻ったのか記憶が定かではないのだが、おれは隊舎で壁に向かって意気消沈していたらしい。

 そんな俺に呼び出しが掛かったのだが、その内容は特別任務への志願の誘いである。

 こういう場合の『志願』とは実質的には『命令』と同義なのだが、今回だけは本当に『志願』の意味だと言い聞かされる。つまりそれだけ『本当に危険な任務』なのだろう。

 一方で、その危険性に比して当然ながらにその報酬も特別なモノであった。特別任務手当と昇進の確約だ。

 ……俺とて騎士の端くれである。たしかに任務完遂の暁に、評価評定を受けるし少額の金一封も偶に受ける。だが、それが相当額の『先払い危険手当の支給』に、『帰還時の昇進確約と任務手当』ともなると、話が違ってくるだろう。

 普通に考えて『何か裏がある』と勘ぐるのが、当然と言える。

 あくまでも『普通の状況』では……だ。

 翻って、俺の今の状況はとても『普通の状況』ではない。『異常な状況』とまではさすがに言えないが『特別な状況』ではあると自負している。

 つまり今の俺には、選択肢を選ぶという『余裕』は無いのだ。

 ……いや、語弊があった、言い直そう。敢えて言うならば『一つの選択肢から一つ選ぶ』か『無回答』という選択を選ぶ権利がある。

 そして俺は『泣き笑い』ともいうべき二律背反な心情で志願したのだ。 


 通常の任務報酬のみならず『先払い手当て』と『特別昇進』欲しさに、志願したが、その結末がこんな辺境で喰われて屍を晒すことになろうとはな……。

 俺とアリアの明るい家族計画が、脆くも崩れ去っていく……。

 とはいえ、あのままだと最近小競り合いが頻発し、きな臭くなっている地域に派兵され前線送りになるか、下級騎士のまま燻ぶりアリアも妻として迎えられず、自暴自棄になるか、隊に居づらくなり退職し困窮するしかなかっただろう。

 どれが良かったのかは、今となっては判然としない。


 悶々【もんもん】としながらも、隣で椅子に座る案内役の狩人を見やる。

 だが、その表情には恐れの色さえ浮かべていない。

 胆力があるのか、それとも状況が理解できないのか……。それとも、あまりの恐怖に頭がぶっ飛んでしまい、考える事を止めて逝ってしまったのか。

 もはや、それすら判らない。

 なんにせよ、今宵ここで喰われる運命なのは明白。

 そんな変えられない現実が、重く圧し掛かって来る。

 『ふはは。もう、どうでもいいことだ……』と、半ば投げやり気味に項垂れながら椅子に腰かけていると、狩人が声を掛けてきた。


「おい。頭を上げて威儀を正せ。お前達は外交使節の先触れと看做【みな】されているのだぞ」


「はぁ?! 冗談だろ? 外交使節の先触れと考えているなら、この接遇は礼を失するだろ」


「出世したいなら、もっと頭を使った方が良いぞ。俺たちは武装した上に無断で国境を越えて、巡回警備の者を尾行していたんだぞ。今、生きてるだけで幸運だ。そんな苦虫を潰したような顔だと幸運【ツキ】が墜ちるぞ」


「そうならば、本隊になんとか連絡を取らねば……。ん? お前、我らが外交使節だといつ気が付いた? 商人とその護衛だとしか言っていないはずだが……」


「居丈高でふんぞり返った傲慢な振る舞いをしていないのは見上げたものだが、如何にも事情ありげなその様子に、真新しく整った揃いの装備類では、大体の見当はつく。

 それに街道沿いに行くことに反対となると、他の眼が気になる内密の交渉事。しかし伝手がないからと言って『密行紛いの真似事』をするのは、如何なモノかと思うがな?」


「……」


「まァ、俺には『だんまり』でもいいが、あいつ等には身分と用向きを伝えた方が良いだろうな」


「……」


「やれやれ……、しかたない。俺が切っ掛けを作ってやるから、あとは巧くやってくれよ。後これは別料金だからな」


 そんな簡単にいくかと、いささか胡乱【うろん】な眼で案内役の狩人を睨みつけていると、その当人は苦笑しながら、まるで勝手知ったかのように扉を叩いて外に出ていく。

 そして扉の外にいた監視の者に話を通していった。

 そしてまた部屋に戻るなり、我らに言い放った。


「よし、話は通したぞ。屯長が来るそうだ」

 まるで飲料を頼んだかのように事も無げに言い放ったのだが、お、俺たちの気構えというか、じゅ、準備がッ?!

 動転しているのもつかの間、扉が叩かれた。


「上手くやれよ(笑)」


「(く、くそ。こいつ、楽しんでやがる!) ど、どうじょ」

 う、うわー、口が回らない!

 動転しながらも、交渉が始まった。


 ・

 ・

 ・


 《 グラン王国の密偵 》


 潜入工作……、潜入して工作を行う。読んで字の如くだ。

 我らが普通に思っていた日常の変わらぬ任務。

 それがこれほどまでに『環境に依存』していたとは、今迄ついぞ思い至らなった。

 まず『潜入をする』のだから、当然に『どこに?』という問題があるだろう。

 これは今までは『少なくとも存在が明確』という前提があった。

 要するに存在を大別すれば敵対組織、もしくは敵対しつつある組織、そして自国に『利益』を齎す組織という事になるだろう。

 次に『工作』だが、これには『何に、どんな工作をするのか?』という問題が出てくるが、橋や拠点などの位置情報の収集・人事情報の収集・破壊工作等々、その時の状況により多種多様だ。

 次いでこの各種工作にともなう行動で『誰に?』という問題が発生する。

 そして、この『誰に?』という問題では、いままでは『少なくとも生きている者』もしくは『意思の疎通が行える対象』に行われるのが通常だ。

 当然だ。当てもなく歩き回るなど無意味だし、利得の軽重によって工作を行う以上、少なくともその利得の周辺にいる人物に話をもっていくのが当然だろう。

 無関係な者に話をもっていっても、無駄な上に忠義に溢れる人物なら『ご注進』されてしまう恐れさえある。

 接触するにも、その人物の人となりを調査せねばならないのだが、今回のこの任務を命令してきた我が国の諜報工作機関は『通常の任務』のつもりで命令を発している。

 つまりスケルトンやガーゴイル、各種ゴーレムが警備に就くダンジョンに潜入し、今回は『とある情報』を入手せよというのだ。スケルトンやガーゴイル、各種ゴーレムには『買収や脅迫』といった通常の手段が当然ながら一切通じない。

 現場の工作員は困惑しているのが現状だった。


 人間は言うに及ばず、獣人やエルフ・ドワーフといった亜人と言えども、かならず自らの利得に転ぶ輩はいる。

 これは、わが国たるグラン王国にも適用される否定しようのない事実。だからこそ防諜にも力を入れるのは当然なのだ。


 話がそれたが、簡単に言うと成果が得られない。いや、徐々にではあるが周辺の状況は集まりつつある。だが肝心の核心情報が得られない。

 中間報告という事で情報を上げるのだが、これで『お茶を濁して時間を稼いでいる』という事は自覚している。

 情報を上げられる方も、そんな簡単には核心情報が得られないとはわかっているのか、今迄は黙っていた。

 それはつまり、今迄は黙っていたということは、反面で必ず情報なりを入手してくるだろうという期待があったという事なのだ。

 だが、さすがに複数回にわたり中間報告を上げられて、然したる進展も見られないという事になると、これはかなりの問題となる。結果、ようやくイザヨイ領内に設けたグランの密偵が潜伏する拠点に、お目付け役が『実態調査』と称して派遣されてきたのだが……、


「なぜ、潜入できない?」


「スケルトンやガーゴイル、各種ゴーレムが警備に就くのです。それこそ一日中。いえ比喩表現ではなく正に一日中です」


「出入りの業者に成りすますといった手段は?」


「物資類はダンジョンの指定する場所に一旦集積された後、スケルトンやガーゴイル、各種ゴーレムが運び込んでいます。担当者との接触さえありません」


「会計は?」


「別窓の担当者です」


「スケルトンやガーゴイル、各種ゴーレムか……。 我等の工作員がスケルトンやガーゴイル、各種ゴーレムに変装して成りすますのはどうか? いや、それよりも工作員たちは死してスケルトンになっても、我が国への忠義心はあるだろうか?」


「……冗談……ですよね?」


「冗談だ。忘れてくれ。しかし参ったな。これは、時間がかかるぞ……」


「情勢が、逼迫しているのですか?」


「……ここだけの話、情勢がきな臭い。もしかしたら開戦するかもしれん。急ぎ軍備を整えねばならないのだ。いや……違うな……。新たなる武具が必要なのだ。たとえばベルザルを破った武具のような新たなる武具が!」


「あの……工作で秘密裡に得るのでなく、国交を通じて交渉で提供なり購入なりを願い出るというのはどうでしょう? イザヨイとは友好関係にあるのですから」


「なにを馬鹿なこと言っている! 最新の武具だぞ?! そんなことが出来る訳なかろうが!」


「そうでしょうか? あ、それと、お知らせせねばならないことがあるのですが」


「今度はなんだ!」


「ここは、監視されています」


「そうか……。かんし……。……ん? 監視? ……なにィ~?! だ、誰に監視されているのだ?!」


「えッ?! ハンゾウ殿ですが?」


 その応えを聞いて「ああ……」と、なぜか納得してしまうお目付け役であった。



お読み頂きありがとうございました。

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