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45 政略と戦略と、その狭間で

後半部の言い回し(未来永劫云々~)が、わかりにくいため修正致しました。

本話本文中におけるストーリーに齟齬はありません。

 天音詩織が伯妹を抱きかかえ大広間から姿が消えてさえ、しばらくは沈黙と静寂がこの場を征していた。

 しかし誰かが「フゥ~」と吐息をつくのを契機として、緊迫した空気が徐々に弛緩し始め、やっと通常の空間に戻っていく。言うなれば部屋の中で天災ともいえる龍に突然出会って名乗られた気分であった。

 少なくとも龍の逆鱗に触れて怒らせれば、生きては還れないのが確定している。


 諸宮の主要な面々は押し黙っていたが、その補佐などは緊迫した重圧から解き放たれたからか、一転して軽口でも叩かねば心の平静が取り戻せずにいるようで、幾人かは騒めいて行く。


「ふゥ~、驚きました。まさかラルキに剣聖その人が滞在し、剰え客将として迎えられていようとは……」


「人里に下りてきて交流をもつなど、何年振りでしょうか? しかし剣聖があれほどの麗人だったとは。……言っては何ですが……意外です」


 そんな中でノリスは押し黙り沈黙思考に耽っていたが、そんな騒めかしい軽口に引っかかりを覚えたようだった。


「私の知っている剣聖は……天音殿ではなかった」

 その発言に皆が注目していく。


 リンも好奇心を抑えられずに、思わず問うてしまう。

「剣聖を知っているのですか」


「……はい。私の師でもありました。名はロンド」


「!?」


「では……あの印は……偽造?」

 思わずと言った感で誰かが呟く。


「それはありません。ありえないのです。剣聖の印は武神の神刻印です。偽造は不可能。もし偽造してもすぐにその印が破裂します。また詐称しても武賛協会から刺客が大挙して押し寄せてくるでしょう」


「ということは……、やはり……剣聖当人ということになります。だとすると……」


「先代剣聖が現剣聖に戦いで敗れ、天位たる剣聖位が天音殿に移った……と」


「……剣聖位が移ったのは事実でしょう。ですが、その際には躰に刻印が移るはずなのです。物に移るのは聞いたことがありません。当人が望めばできるのかもしれませんが、少なくとも歴代の剣聖はその躰に刻印を刻んでおりました」


「となると、……どう解釈すれば良いのか」


 大半の者が困惑している中、リンが違う視点を提示していく。

「ノリス、あの刻印は本物なのですね?」


「はい、確かに本物でした」


「ではやはり剣聖殿なのでしょう。そもそも我々では剣聖の真偽の判定のしようがありません。それよりもまずは差し迫った問題を解決しなければなりません。ラルキをどうするかということです」


 現状では結論が出ない以上、差し迫った問題の方が重要であった。

 想定外の剣聖の登場に話が迷走し始めていたが、リンが言及したことにより、確かに元々はラルキの処遇を論じるべく参集したことを思い出した。そして思い出した事により、新たな難題が浮上した事も思い至った。


「閣下、その点につき弥生から提言したいことがあるそうだ」

 リリムルがすかさず『一案』があることに言及し、論議の主導権を握って来る。


「如月弥生だ。イザヨイから、ラルキでの統括内政官として赴任している」と簡潔に紹介していく。


「只今、エルザード閣下より紹介に与りました如月弥生と申します。皆様におかれましては、お見知りおきいただければ幸いです。早速ではありますが『提言』を述べさせていただく前に、小休憩を取られるのは如何でしょうか? 事態が急変を迎えている中で、急ぎ結論を得ようとすれば見誤る恐れもあります。諸宮の皆さまもお考えをまとめる機会があれば、より良き良案が浮かぶやもしれませんので」

 弥生殿が一歩ほど前に出【い】でて、挨拶の口上を簡単ながら述べていく。


 社交儀礼上の名乗りとはいえ、ここにいる大半の者達がすでに幾度も弥生との面識があった。そして『打ち合わせという名の教え』を乞うているのは、誰もが知っている公然の秘密である。

 もっともリンはこの事実を知らなかったが、公然の秘密がもう一つあった。

 それは熾烈な弥生の『引き抜き競争』である。当然そうはさせじとイザヨイからはリリムルが弥生の側を片時も離れずにいたため、リリムルとの親交が深まり親友と言っても良い仲になっていた。


 そんな実績と信頼を得ている弥生からの小休憩の提案は、速やかに採択され一時休会の運びとなったのだった。


 ・

 ・

 ・


 再び会議が再開されたが諸宮とて良案が浮かぶはずもなく、此処からは休憩時に内々にリリムルから上申された案につき問答が繰り返されていく。

 ラルキをイザヨイに服属させるか、そのまま独立させるかの分岐点ともなり、各ダンジョン勢も自己の利益なり権益なりを欲していることから、議論は白熱していた。


「――と考える次第です。つきましては、このままラルキを独立させて、防壁代わりにするのです」


「しかし、それではせっかくラルキを陥【お】としたのにも拘らず、益がない」


「諸将の懸念は理解できますが、現状ではラルキの占領を維持することはできません。また占領に固執すれば『底なし沼』に物資と兵員を流し込み続けることにも成りかねません。また『益がない』との御指摘ですが、ラルキを窓口として『人族への交易路』が開かれるともいえるのです。貿易が活発化すれば、益は十二分に上がっていくかと。諸宮の皆様も戦いばかりでは『この先、長くは続かない』ことはご理解しておられるはずです」


「では奪うだけ奪って完全に破壊し、撤退すればどうだろうか」


「確かに、それも一案です。ですが十年後、三十年後、五十年後、百年後の状況はどうなっているでしょうか? 新たなるラルキが構築され、今度はより周到に大規模に侵攻してくるのではないのでしょうか? それでは元の繰り返しになってしまいます。しかも、今回ほどの大勝ができるかと言えば、疑念を抱かざるを得ません」


「それは確かに……」

 ここで城市を廃墟にしても、より堅固に再建されては無意味な事に言及され、言葉に詰まる。


「そも当初の作戦目標は『第一目標:集結中の敵兵力の撃滅』であり『第二目標:可能であればベルザル領の要衝地であるラルキ市城塞の攻略』であったはずです。第一目標は完遂され、第二目標も一応の達成は成されているのです。ならばこの戦果を後に繋いでいかねばなりません」


「繋いでいくとは……具体的にはどのような?」


「ラルキと諸宮が、国として『相互に承認』するのです。その後、相互防衛協約と通商条約を締結します。またラルキに信教の自由と人身の自由、及び職業選択の自由と移動往来の自由、領内の私設関を撤廃さえ税制の一元化を保障させます」


「そんなことで『益』が得られると?」


「これらを認めれば、ラルキは一気に勃興することになりましょう。人が集まり増えていけば市場も広がっていきます。その波及効果により諸宮もまた発展が望めます。国家と認められれば、冒険者の侵入もある程度は抑制でき、各領地の整備と振興も図れます。また余剰戦力を大蟻などの対応に回せますし、状況によっては冒険者を雇い入れて大蟻の対処に充たらせるのも、一つの方策かと考えます」


「う……」

 苦境に立つダンジョンには、甘い一滴であった。


「また改革案を徐々に推し進めれば、いらぬ介入を招きます。そこで一気に押し進め推し通します。そこには様々な軋轢【あつれき】も生まれましょう。またラルキが独立するとなれば、その混乱に乗じて犯罪組織のみならず、各国の間諜などの侵入と潜伏も予測されます。ある程度は、剣聖殿も動いてはくれるでしょうが、一人で全てに手を回すことなど不可能でしょう。策を断行するには、為政者の気概ももちろん必要ですが『現実的な実力もまた必要となる』ことは論を俟たない【ろんをまたない/論じるまでも無く自明である】ことであると考えます。そこでラルキ諸侯軍の捕虜解放を一考いただきたく上申致します」


「捕虜の解放?!」


「次いで、接収した糧食と軍資金を『ラルキ独立の祝賀』の名目で贈ります。ラルキ市は飢餓寸前の領民が大挙避難してくるのです。贈らねば暴動と略奪が起こり収拾がつかなくなりましょう。また糧食と軍資金を祝賀として送った以上、我らも捕虜の食い扶持を維持できなくなります。まさか自腹を切って養う訳にも行きますまい。そのためのラルキ諸侯軍の捕虜解放でもあるとお考え下さい。この事で我らは『名も実』も得られます」


「ゥぐ……」

 殺害すればいいじゃないか、などとはさすがに言い募れない。またラルキとダンジョン勢が相互に国家承認ともなれば、捕虜虐殺は汚点として残り、思わむ事態の端緒ともなる。では労働奴隷として売り払えばとも考えられるが、売り払うまで生かしておかねばならず、それには莫大な量の物資が必要にもなる。そもそも購入に来る商人の伝手などいないに等しい。

 それに国家として建国した晴れの日に虐殺してましたでは、後味悪く縁起が悪いのも事実である。


「懸念もあります。伯妹とエルザード閣下よりの報せによれば、三~四日後にはラルキ近郊に避難民が来ますが、この避難民を避難民だとして知っているの『我らのみ』なのです。展開しているベルザルの国軍が、突如現れた正体不明の群集【避難民】をどう見るでしょうか? 補給も無く物資の欠乏も著しいベルザル国軍では、空腹故に正常な判断がつかず、避難民に攻撃を行おうとするかも知れません。ラルキとしても避難民の円滑な誘導のために、ラルキの軍勢を再編しておかねばなりません。我ら占領軍が城砦より出て避難民と接触しようにも、避難民側は混乱する事でしょう。その状況を見たベルザル国軍もまた『攻撃の好機』とみて行動することでしょう。そうなれば避難民をも巻き込んだ『乱戦模様』となり収拾がつかなくなります」


「……」

 もはや、弥生がどこまで想定しているのかさえ、わからなくなってきている。

 まるで棋譜を諳【そら】んじているかのようで、諸宮のみならずイザヨイ側も黙して聞くしかない。


「関連して、ベルザル国軍の捕虜ですが、時機をみて一部の指揮官や幹部などを除き、これも捕虜釈放を行うべきと考えます。実質上の理由は先ほど同じく捕虜の食い扶持を維持できなくなるためですが、まァ、名目上の理由としては『国家樹立、建国祝いの恩赦』とでもしておきましょう。理由があれば納得しやすいので。ですが目的は違います。ベルザルの食料供給に過負荷を掛けて崩壊に導くのです。捕虜釈放の際の留意点としては、飢えながらも確実にベルザル本領にたどり着く気力と体力を残しておくという点です。そうすれば本領内で住民同士の略奪が起こり、高じて内乱に陥るでしょう。ベルザル国内での内乱・騒乱ともなれば、そこから避難してくる民衆も出てきます。そんな民達を受け入れるのです。この民達には、ベルザル本領より近々向かってくるであろう『国軍向けの補給物資』を満載した荷駄隊を捕捉・撃破し、接収した物資を充当するなり貸し付けるなりすればよいですし、ラルキも贈られた軍資金で諸宮より食料を買い求めて、与えることもできます。

 また現在展開しているベルザル国軍が敗走すれば、ベルザル本領の食糧事情がより逼迫【ひっぱく】します。そうなれば『政事は停滞し、政治への信用と信頼は失墜する』事となる。これらは我らにとっても『最良の、そして最高の結果』と言い換える事も出来るでしょう」


「それではベルザルは、瓦解してしまうのでは……」

 誰もが顔色を悪くしている。

 そして誰かが、慄きながらも思わず呟いてしまう。

 それを質問と受け取ったのか、弥生が応えていく。


「敵対してくる以上、相応の対処と処置は必要です。敵国の内情まで勘案し憂慮する余裕は、我らにはありません。自ら瓦解していくのは屈辱でしょうが、これが戦争なのです。なにもこの通りに『必ず成る』という訳でもなく、また為そうと強引に推し進める訳ではないのです。もっとも途中でベルザルが停戦なり降伏なりの申し出をするかもしれません。もしかしたらベルザル大公国が自壊し潰えて、ラルキ連邦が成立するかもしれませんね(クスッ)」


 最後に可愛らしく『クスリ』と小さく笑っているが、言ってる内容は慄然【りつぜん/恐ろしさのあまり震え慄く様子】するものであった。

 そしておそらく『弥生が述べたとおりに事が運ぶのだろう』という事は、誰もが確信している。

『打てば響く』『立て板に水』とは正にこのことであろう。

 そして政略・戦略とは『こうやるのだ』と、まざまざと見せつけられているようでもあった。

 そんな弥生の言説を聞くに及び、皆が皆、様々な感想を抱いていたが、『一つの共通する感想』も見受けられた。正直『ドン引き』していたのである。

 

 諸宮は長年にわたり『防衛』に徹していたため、『攻勢』という手法に慣れてはいない。まして、相手方を『滅亡』や『瓦解』に追い込むなど考えたこともなかっただろう。

 幾人かは、話のあまりの当意即妙な展開に疑念を抱くが、如何せん反論できるほどの策と論が自分には展開できない。それに『弥生の提言』を聞けば聞くほど納得してしまう説得力もあり、いつの間にか話の方向性が決まっていった。

 そして時を置かずに、『ラルキ独立』と『諸条件』が決定されていったのである。


 ・

 ・

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《 Side:イザヨイ リン 》


 時が移り、諸宮とラルキ間での会談が再度開かれていく。

 ラルキの臨時領主として会談に臨んでいるリーナは、未だ顔色が少々悪い。

 だが、事理弁識能力に瑕疵【かし】はないように見受けられる。また補佐としてエミナと詩織が就いており、交渉の席に着くことについては、何ら問題はないようであった。

 ただ出血により血に塗れたためか、伯妹は衣服をずいぶんとゆったりとした物に替えており、またお腹をしきりに気にしているようで擦っている。諸宮が『どうしたのか?』と疑念に思い『体調が優れないのか?』と憂慮し始めていることを、エミナ殿が気がつき苦笑しながら説明してくれた。

 ――傷は塞がっているが流した血と体力までは詩織殿でも如何ともしがたい。そこで詩織殿が自らの持ち物から、兵糧丸なる粒状の携帯食をもってきてリーナに摂らせ、また侍女たちに命じて造血作用のある食材と滋養に富む食材をを用意させた。この後の会談もあることから、のんびり調理している猶予など当然ない。そのため食材を洗浄し加熱したのち、細かく切り刻み、茶などに溶いてとにかく大量に飲ませた――のだという。

 味などあってないようなもの……、いえ……この場合は『味など無い方が良かった』かもしれませんと説明してくれた。

 詩織殿は我関せずと無表情であったが、伯妹殿は恥ずかしさからか顔を赤らめていたが、味を思い出したのか眉間を寄せながら青ざめていた。……味は聞かないでおこうと思う。


 伯妹の体力を気遣い、大きい円卓が用意され着座しての会談となる。

 諸宮を代表して伯妹と正対しているのはイザヨイの代表である俺、つまりは『イザヨイ リン』である。

 そして諸宮の代表者と側近が着座し、補佐はその後ろで立っている。

 ちなみにこの円卓というものは俺が提案したが、最初『円卓』というものが理解されずに説明する羽目になってしまった。貴族制を根幹とする上下関係が明確な時代であり、対等な関係性を暗に示す円卓というものが存在しなかったためだ。

 理解していないのだから、当然ながら円卓という発想も無い。、それ故に現物も当然ながら存在しておらず、そのため急遽製作してもらい白い大盤の布地をかけている。この白の布地は制作上の粗を隠しておくためのモノである。

 諸宮の担当官はしきりに感心して『これは良い』と自分達でも採用するようだった。


 さて会談が始まり、まず以って伝えられたことは『服属案は受け入れられない』という事だ。次いで『ラルキの独立』を支持し、諸宮からは『食料と軍資金』が独立祝賀の贈答品として贈られる事が伝えられる。

 また独立の諸条件も伝えられていくが、伯妹殿はもはや展開について行くのが精一杯という感じが見て取れる。

 この際の伯妹の顔色と表情の変化はとても面白く、題名を附するとすれば――『失意と歓喜と困惑と』――とでもなろう。

 ……かくいう俺も、もはや精一杯だった。


 イザヨイとラルキ、その双方の代表者が既に限界に近く、頭から煙が出そうになっている。それにも関わらず、その補佐に就く者はそうでもないのか、話が詰められていく。

 特にイザヨイ側の如月弥生と、ラルキ側の天音詩織は、台本があるのかと思うくらいに話が進んでいる。


「『未来永劫、ラルキが諸宮に敵対行動を取らない』とのことだが、これは承服できん。期限を区切ってほしい」


「それはどういう意味でしょう? 造反の意図があるとも取れますが」


「そうではない。未来永劫遵守されることなど誰も期待していないし出来もしない。守れもしない協約よりも、期限を区切った協約ならば何とか守ろうとするのは、よく見る行動心理であろう」


「では、その期間であれば『無理無体な行動の要求』や『苛政や酷税』を課したとしても、応諾すると?」


「大局を見て『理』に則し、ラルキから見ても『益』に適い、また『大義』に添うならば、できる限りの応諾はしよう。だが『理もなく益もなく、大義すらも無く』であるならば、完全には応諾はしない。ラルキは独立国であり『事の理非』から見ても、それくらいの権利と権限は持っていて然るべきであろう。だが、それでは諸宮としても面白くはあるまいが、ラルキとて未来永劫では到底承服などできぬ。だからこそ双方のためにも『期限を区切るべき』といっているのだ。この期限内ならばラルキは前向きに協力はしよう。この事はそちらにも『理と利を齎す』のだぞ。剣聖が客将を務めるラルキが『友好国として協力する』といっているのだ。少なくとも『敵対はしない」という価値を軽くみるでない。それでもなお、この会談で無理難題を要求するとなれば、妾としても論を導いた責務があるでな、一考を要さねばなるまいて。例えばラルキから辞去して旅に戻る途中で、悪逆無道にして暴虐なる振る舞いを行うダンジョンに立ち寄り、これを誅す……とかな。如何かな?」


「……」

 これにはさすがの諸宮の面々も一様にギョッ?! という表情を浮かべた。

 無理難題を吹っかけてくるならば『自分【剣聖】がダンジョンに赴き、此れを引っ掻き回してやる』と言っており、もはや暴論を通り越して『暴虐そのもの』の行いであったが、それを行う実力がある事は詩織の雰囲気からも察せられる。

 また歴代の『剣聖の実力』というものを勘案すれば、ダンジョンに大打撃を与えられるほどには秀でているのは事実であり、また過去の事例からもそれは明確ではあるのだが……、殊に『当代の剣聖の実力たるや、さらに突出しているのでは?』と、皆が肌で感じていたのだ。


「……如何ほどの年数を期限とすると?」

 反面で『期限内なら、理と利があれば大筋は協力する』とも言っており、また『敵対はしない』とも言っている。

 天災ともいうべき存在に対して『事の理非を問う無益さを悟った』のか、根負けしたのか弥生が問いを発した。


「うむ、そうだな……。リーナ、お主、今の齢は幾つだ?」


「え?! ……一七ですが?」


「では、三三年で」


「論拠をお伺いしても?」


「一世代三十年、リーナが十七で合わせて四七。三年加えて、切りよく五十。よって三三年」


「まあ、妥当かと」


「え――~?!」


「「なにか異論でも?」」


 どうやら会談の内容は決したようだった。

 緊張感が漲っていた会談の場にも、弛緩した雰囲気が醸し出されていく。


 ふと窓から空を見上げれば、月が大きく満月を描き燦然と輝きを放っていた。

 太陽は眩しすぎて直視できないが、月光なら直視できる。

 此れならば『道を間違う事はないだろう』とでも言っているかのようだった。

 

お読み頂きありがとうございました。


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