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42 不期遭遇戦

 《SIDE:諸宮軍輸送隊》



 ダ~ン♪ ラ~ララ~ララ~、フフ~ン♪


 鼻歌交じりで、私は御者席の隣に座り周りの風景を堪能していた。

 先ほどまでは御者をして荷馬車を操作していたのだが、休憩時に交代したのだ。

 現在、イザヨイの物資集積場から中継地で荷物を拾って、ラルキ城市にむかっているところだ。

 『こんにちは~。ラルキ配送便の、お通りでございます~』

 すでに幾度も往復しているので、大分慣れてきている。

 本来ここは唯の平野なのだが、すでに輸送隊が常に行き交う主要路になっており、自然と道らしきものが出来上がっている。輸送隊は、そんな道を道なりに進んでいるのだが、荷馬車は荷を満載にしており遅々としか進まない。

 これ程に荷を満載しているともなれば、普通なら盗賊の類を警戒するものだが、それほど不安があるわけではない。

 チラリと横を見ると、巨人が並びながら歩いているからだ。

 じつは、巨人の方が歩調が速く、荷車の進む速度に合わせることに四苦八苦していることに、気がついてはいた。

 だが、こればかりはどうしようもない。

 巨人とて、輸送隊をおいて行くわけにはいかない。

 そもそも、この巨人は護衛隊に属する一機なのだから。

 そんな荷車が二十輌、列ををなしてゆっくりとではあるが確実に進んでいる。


 そんな輸送隊を観ながらも、余りにも見慣れた変わらない風景に飽きてしまい手持無沙汰故に妄想に耽っていく。

 輸送隊と言えども、見方を変えれば違う意味を伴う事になるのだ。

 例えば、此の馬車列は『私を護る者達である』とみれば、どうなるだろうか?


「う~ん、お姫様気分♪」

 お姫様(私)が乗り込む一輌を警護すべく巨人六機、獣騎兵三〇騎、混成歩兵隊一〇〇の軍勢と一九輌に及ぶお付の者達。

 『うむ、姫(私)は満足であるぞ。よきにはからいたまえ、ワハハハハ~』などと妄想しながら暇を潰していたのだが、並んで歩いていた巨人が突如長槍を構え、声が通信機越しに聞こえてきた。


「敵襲! 二時の方向、距離六〇〇、歩兵集団三〇〇! 防御戦闘用意!」


「支援要請を送れ!」


 ピ――ッ! と警笛が鳴り響き、それの音は波紋のように後続にも伝わっていく。

 旅行気分の長閑な時間は突如として終わりを告げ、周囲は緊張と喧騒に包まれていく。


 私は、指示を受けるや設置されている大型魔力送受信機に取り付き、すぐには発信状態にしていく。

 何度も訓練でやらされているので淀みがない。

 そのあまりにも淀みのない動きに、自分でも思わず苦笑してしまう。

 今ならば『目を瞑っていても操作出来るのではないか』と思ってしまうくらいである。


 なにせ基礎教程及び習熟訓練が終わると、今度は如何なる状況下でもできるようになるための、過負荷訓練が始まるのだ。文字通り寝ているときだろうが食事中だろうが、お構いなしに突如訓練が始まる。

 習熟訓練・過負荷訓練通して、できなかったり間違えたりしたら訓練部隊もろとも連帯責任で重装備を身につけて長距離走をやらされる羽目になるのだ。

 えー、それはもう……、一日目で眼から光が消えましたとも……。

 フフフ、いま思い出すだけで吐き気を催す……。


 そんな感慨に耽りながらも、すぐに位置の確認が終わり発信した。

「本部、本部! こちら第八輸送隊、敵襲を受けた。推定三〇〇の歩兵集団、後続は不明。支援を求む! 位置座標、地図番号七八、座標三五、二八付近! 繰り返す七八、三五、二八!」


「こちら護衛総隊本部、受信した。そこからはラルキの駐留部隊が近い。そちらに回す」


「こちらラルキ駐留軍、受信した。七八、三五、二八確認、おくれ」


「七八、三五、二八確認! くそ、接近してくるぞ! 奴等やる気だ!」


「了解。宿直部隊を回す。(おーい、どこの部隊だ~?/第二の所じゃないか?/りょ~か~い)運がいいな、ノリス団長の所だ。四〇フン持ち堪えろ。以上通信終了、オーヴァー」


「(四〇フンって、まじかよ!?)来援まで四〇フン!」


「荷馬車で円陣を組み、即席の防御陣地にしろ!」


「マキナ全機、前に出るぞ! 槍を振り回して近づかせるな! 四〇フン持てばいい。いくぞ!」


 ・

 ・

 ・


 ラルキ城砦にあるノリスの部屋に当直の兵が駆け込み、状況を説明していく。

 通信内容を確認し、兵を下がらせると素早く着装していった。

 物資輸送の目録を確認するためチラリと見やる。

「第八、ミニコアか……、偶然か?」


「団長入室!」

 当直の操縦士達が立ち上がり敬礼して迎えている。


「輸送隊が敵襲を受けた。歩兵三百、後続は不明。地点は『ここ』だ」

 板面に貼られた大判の地図を指示棒で指しながら、概要説明をしていく。


「若干距離があるので随伴歩兵は置いていく。マキナ二個中隊、及び騎兵八〇を投入。全速で移動する。……吐くなよ。ドーネッツ殿に殴られるぞ?」

 軽い冗談で緊張をほぐしていく。


「以上だ、質問は? ……では出撃だ!」

 パンと掌で拳を打つ付けて命令を発する。

 ほぼ同時に皆が部屋を駆けだして、己の愛機に駆け寄っていく。


「よーし、出すぞォォオ! 出撃準備!」

 遠くでドーネッツ整備隊長の号令が、轟【とどろ】いていく。

 それに応えて、片膝を着く駐機姿勢の各機に整備兵と操縦士が取り付き準備に入っていく。幾度となく繰り返された訓練に裏打ちされたその動作は、歴戦の兵らしく機敏で正確であった。


 ・

 ・

 ・


 《 Side:ベルザル大公国、ラルキ増援軍のある一部隊 》


 本軍から離れて行っていた略奪を終える。

 小休止がてら、森の外縁で他の部隊との合流を待っていると、突如遠方に荷を満載した荷駄隊が列をなして進んでいるのが見えた。ちょうど樹木が影になり双方ともに発見が遅れたのだ。


「なんだ……あれは? デカいな……、あれが噂の巨人って奴か?」

 明らかに大きさがおかしく、遠近感に微妙な狂いが生じている。

 それでも、やっと『まともな戦闘をする』ことが出来るかもしれないと、戦意が昂っていく。

 それに満載状態の荷駄隊だ。当然ながら食料もあるはずである。

 つまり、これは好機ともいえる。

 本心から言えば、近場にいるはずの友軍と合流したかったが、まだ来てはいない。     

 さりとて合流を悠長に待っていては、好機を逃してしまう。

 戦闘には『流れ』があり、その『流れ』を察知して御する事が肝要なのだ。

 言い換えれば『機を逸する』ことになれば、戦勲を上げる事など出来はしない。

 戦闘が始まればその内、戦の気配に誘われて友軍もやって来るだろう。

 ならば……ここで戦【や】る!


「前進ッ!」

 やや空腹状態とはいえ、戦の興奮状態にそれもすぐ忘れていく。

 不期遭遇戦の幕開けだ。


 ・

 ・

 ・


 勝手に戦闘をするどころか、軍の命令系統から一時とはいえ勝手に『離れる』という事自体が既に軍律違反であり、領民からの『略奪行為』は甚だしい軍規違反でもある。だが、もはやそんな事は『誰も気にしていない』のが現状だ。そんな事を気にしていては『飢え死してしまう』事になるからだ。

 そして、そのことは軍勢の全ての者が理解している。もちろん司令部もだ。

 簡単に言えば『止める者が皆無』という状況と言える。


 ラルキに増援として派遣された『軍勢』と称される者達が、何故このような苦境に陥っているのかと言えば、至極単純であった。無理な行軍日程にあわせて碌な糧食も持たずに急派されたからだ。

 途中でトタルの森外縁にて再編中の軍将と合流して、兵力自体は増強された。

 だが反面、更に糧食が逼迫してしまい、もはや後退することもできない状況に陥っている。

 この危険な状況下、一縷【いちる】の希望となっていたのが、ラルキ城砦に備蓄されている物資であった。

 ストラ・リディ軍将の談では、ラルキに伝令を送り籠城を指示したということだった。だがラルキ領内に入り進撃を続けるや、その前提自体が急変する事になったのだ。ラルキよりの避難民の集団と遭遇し、状況が次第に判明する。

 なんとラルキは『無血開城』に決しており、すでに交渉が始まり、それどころか間もなく条約が締結されるという。

 当然占領されれば、ラルキに備蓄されている物資は入手できない。

 事ここに至り、進軍も撤退もできないという『在り得ない状況』に陥った。

 あとは、もう予想通りの展開だ。

 軍規は霧散し、軍律は砕け散った。代わりに現出したのは『暴行と略奪』であり、背に腹は代えられぬと正当化して凶行に走る部隊が続出。

 民衆から抵抗されれば証拠隠滅のために、虐殺に逸【はや】るなど枚挙に暇がない。あとは大小の違いだけという状態に陥っていく。

『現地調達』という美名の下で、悪行が罷り通ってしまったのだ。


 それでも俺の部隊は、幾許かは『ましな方』だったろう。略奪は行ったが『虐殺と凌辱』だけは、何とか押し止めた。

 この一線を越えたら騎士としてもそうだが、もはや『人』として戻れなくなると判っていたからだ。

 だが他の隊の行動までは、押し止めることはしなかった。

 『出来なかった』のではなく『しなかった』のだ……。

 その事が罪悪感となり重圧になっていく。


 鬱々とした気分に苛まされていたとき、司令部から報せが来た。

 ベルザル本領から糧食を始めとした物資の輸送が行われ、五日後には受領し配分したのち、撤退するという報せだ。


 そこでまだマシな部隊に声を掛け、略奪がてらに敵を求めて軍中より部隊を率いて出撃したのだ。

 抵抗できない領民を殺し犯す等、見聞きするだけで胸糞悪くなる。

 ちゃんと『自分達は敵軍相手に戦ったのだ』という確たる証が欲しかったのだ。

 それとて自己正当化の詭弁なのは、自分でもわかっていた。


 ・

 ・

 ・


 そんな益体もない事が脳裏に浮かぶ。


 ブォォォ――――ン。


 そんな俺の頭上を、巨人が振るっている槍が横薙ぎに通過していく。

 巨人が振るう槍なのだから、これまた長大な大槍といえる。

 では大きいからと言って、動きが緩慢かといえばそうではない。全く逆だった。


 ブォォォ――――ン。


「ゥオッ?!」

 ふたたび頭上を通過していく大槍を伏せてやり過ごすが、その速さと大きさ故か土煙まで盛大に舞っている。

 恐怖心から、此の場から逃げ出そうと無意識に身体が動こうとするが、それを無理にでも抑え込む。

 ここで恐怖に呑まれて立ち上ろうとすれば……。


 バキャンッ!

 誰かが文字通り、吹き飛んだ。体は四散し臓物を撒き散らしていく。

 その後は、血の霧で目の前が紅くなっていく。こんなことが幾度となく繰り返されていた。

 それでも腕に自信のある奴などが、槍を振り抜いた瞬間を見計らい間合いを詰めていこうとする。

 すると巨人は振り抜いたと思った直後に槍を止めて、引き戻しながらも槍の穂先付近に掌を滑らせていく。この動作で伸びた柄を左手で掴み、回転させながら体の正面に構えなおした。この動作で槍は短槍の間合いになり、同時に右から左へと振り払っていく。更に振り抜いて動きが停止したかと思えば、同時に今度は縦回転に変じて再び掌を滑らせながら、鋭い突きまで放っていく。

 間合いを詰めたと思った奴らは、突如方向と間合いが変化した槍の一撃を受けて四散していった。

 バラバラと落ちていく血と肉片とを浴びるが、それどころではない。


「……おい、いまのは槍の型か」


 ごくりと嚥下しながら慄く。

 他の者達は圧倒されて、気がついてないかもしれない。

 武術の型というのは、普通は同程度の大きさの者同士での戦闘、それも対人戦闘を想定している。

 その武術をアイアンゴーレムが事も無げにやっているのだ。

 つまりは此方の意図も動きも、ある程度は想定して動けるという事になる。


 そして幾度かの横薙ぎで、これでは埒が明かないと思ったのか、今度は狙いも正確に縦に振り降ろしてきている。


 ドゴンッ!

 とても槍とは思えない音を轟かせて叩き付け、土が血の匂いと共に巻き上がる。

 そんな血交じりの土が地面に落ちる間もなく、すぐに体勢を立て直して槍を構え直し、次の動作に移っている。


「速い! あの巨体で、この動きかよッ!? し、信じられん、これが本当にアイアンゴーレムなのか?!」


 そこかしこで兵達が四散していく。

 地に伏せてやり過ごそうとする者、踏み潰され圧死する者、蹴り飛ばされる者、投げ飛ばされる者、体捌きに弾き飛ばされるもの。そんな者達が続出していく。

 もはや骸に変じるのが『早いか遅いかの違い』だけだ。

 そして、そんな光景がここを含めて大小六ケ所で現出している。

 なんとか引き離して森に引き込むなりすれば、まだ対応ができるかもしれない。

 そして、その間に荷駄隊を襲撃すればよいのだ。

 だが、統制が取れていて深追いしてこない。


 さらには、その荷馬車が円陣を組み上げ、疎らながらも弓を射かけ始めており、迂回して攻撃をしようとした隊が足止めをくらっってしまった。

 そこにアイアンゴーレムがまるで理解しているかのように勇躍して突入、崩れたところに獣騎兵が騎槍突撃を敢行し細切れに分断されていく。混乱し始めた部隊に更に敵の歩兵部隊が突入して、傷口が広げ始めて損害ばかりが急増していく。


「こいつら、連携……しているのか?」

 確かに驚くべき状況ではあるが、時間は我らにだけ味方するはず。

 見たところ、伝令が出た様子はない。

 ならば後続の隊と合流し遅滞戦闘を行い、このアイアンゴーレムをここに引き留めておけば良いのだ。

 合流しさえすれば、兵力自体は圧倒的に此方が上になる。

 巨人を足止めしているその間に一隊を分派して、迂回攻撃で荷駄を襲撃し物資を奪えばよい。

 巨人の注意が逸れさえすれば、なんとかその後背を衝くことも可能だろう。


 もう少しで来援が……、来た! 

 遠鳴りとはいえ、ここまで軍勢の喚声が響き渡る。

 良し! このまま包囲し……て……。

 振り返り指示を出そうとして目撃したのは、来援の隊に突入していくアイアンゴーレムの群れだった。

 遠目でも判るほどに人が弾け飛び、四散し血煙が舞い上がっている。


 喚声は一瞬にして叫声に代わった……。

 なぜだ? なぜ奴らの増援がここにいるのだ? 

 あまりにも早すぎる。この場所まで特定して来ているとしか思えない。

 ……これは『罠』だったのか? 俺たちは罠に飛び込んだのか? 

 もはや思考がまとまらずに、ただただ呆然としてしまう。


「隊長! 伏せ――」

 しまった! 気がついた時には、もう全てが遅かった。

 巨大な槍の穂先が鈍い光を纏って迫ってくるのが、やけにゆっくりと見える。


 ああ……そうか。これは『罰』なのだな……。

 確かに『虐殺と凌辱』はしなかったが、略奪はしているのだ。

 乳飲み子を抱えた女から、小袋に入った僅かな木の実さえ奪っていった。

 泣き叫び、縋りつき懇願する女を足蹴にしてまで奪ったのだ。

 もう乳さえ出ないのか、代わりに木の実を己で噛み砕き、口移しにその乳飲み子に与えていたのだろう。

 そんな木の実さえ、俺は奪っていったのだ。

 あの母と子はどうなったのだろうか? 

 生き延びたのだろうか……、それとも……。


 俺は一体、どこで道を間違えたのだろうか? 

 もう、その応えすらわからない……。

 そんな俺を隊長と言ってくれる奴らの道さえも、俺が間違えさせてしまったのか?


 俺は一体、何のために……。


 ザジュ、バキャンッ!

「隊長ッ! ――!」




お読み頂きありがとうございました。

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