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3 邂逅

 出口を探して歩き回るも、やはり無い。隠し扉の類もない。

 時間だけが過ぎていく。

 もう時間の感覚さえわからなくなりはじめている。


 早く戻らねばならない。

 戦の行方が気になる。


 あとは、中央の台座というか、窪みに浮いている白黒マーブル模様の巨大すぎるコアらしきものしかない。


 最初に見て以降は見て観ぬふりをしていたのだが、出口がない以上、この巨大すぎるコアに意識を向けざるを得ないのが実情だろう。

 もはやあえて触って、警報なりを鳴らし発見されるしか、ここから出る術が無いのかもしれない。



 ……なに、あのままでは討ち取られたであろうこの身だ。

 もう何も怖くない。と思いながらも手が……震える。


 ツン。

 軽くつつく。

 パッと飛びのき如何なる状況にも対応できるよう身を構える。しかし何もおきない。


 ツツン。

 さらに用心深く、再び軽くつつく。

 パッと飛びのき如何なる状況にも対応できるよう身を構える。しかし何もおきない。


 ハァハァ。

 息が重苦しい。汗までにじみ出てくる。なぜこんなに緊張するのか。


 ペトッ。

 意を決し、巨大コアらしきものの表面に軽く手を添えてみる。

 何もおきない。ただのコアらしきもののようだ。


 ……イケるか……。


 ムギュ。

 意を決し、巨大コアらしきものを軽く抱き着くようにしてみる。

 何もおきない。ただのコアらしきもののようだ。


 クフッ。クククッ。


 脅かせおって……。

 なに、そんなに怯えることはあるまい。

 さぁ、もっと近こうよるがよい。もはや貴公は我が腕の中にあるのだから。


 フ、フハハッ、アーハハハッ!


『YES コアたん! ハイ たっち!』

 突如、頭の中で声が響きわたる。


「ウォワァァアアアアアアアアアア?!」

 思わず身を捩って離れようとするも、離れない。

 ならばと、脚を掛けてコアから無理やり身を引き剥がそうとするが、やはりコアから腕が離れない。


「?! ヒョェェオオオァァアアア!?」

 コアから腕が離れないということを理解できないが、認識はできる。

 有りえない状況に慌てて身を捩り、飛び跳ねたりとしたが離れられない。

 全身を使って何とかしようとジタバタともがくが、やはりコアから離れない。

 驚くと共に慄いてしまい、更に奇声を上げてしまった。

 自分が上げている奇声とはいえ、あまりの声の大きさに耳鳴りがし始める。


 そんな中、さらに頭の中で響く声。


 『こちらHQ! 各ユニットは現状を報告せよ! 繰り返す、こちらHQ! 現状を報告せよ!』


 『こちらアルファユニットリーダー。目標と接触するも、目標は奇声を上げつつタコ踊りを舞っている。現在観察中、非常に不安だ』


 『了解した。アルファユニットリーダー、待機し次の指示を待て。なお当該目標が敵対行動を行う場合は、目標の抹消を許可する』


 『了解、待機する。なお、”オペレーション・ニコニコニッコリ”は継続進行中』


 頭の中で響く同じ声色の自演会話? を理解し、そして自分がいまどこにいるのかを思い出すとともに、急速に冷静になる。そしてこの声の主は、この部屋の主なのだと悟る。


「あ、あのすみません。頭が冷えましたので抹消は……その、勘弁していただけませんか?」


『お? やっと落ち着いたかの? ちょっと戯れたんじゃよ。だけど敏感なところに突然、ムギュッと抱き着くなんて……もう、お嫁にいけない。責任……とってくださいね? 』


「……」


『冗談じゃよ? キャハハ♪ それとコアじゃが、そのまま台座からゆっくり離れるにじゃ。そっと離れるのじゃぞ? なにせ敏感なのじゃからの。キャハハ♪』


 慎重に台座に鎮座しているコアから離れる。離れたことを確認してすぐに距離を取った。そして身体についている埃を落とし、佇まいを正していく。


 相手が見えない・わからないとはいえ、こちらが無断で侵入しているのは変わらない。

 ならば十六夜に連なるものとして、礼を逸してはならないのだ。


「あ、あの……突然、お許しもえずに触れてしまい誠に申し訳ありません。お詫びいたします。平にご容赦のほどを。私は、『十六夜 凛』と申します。《イザヨイ宮》にて禄を食む者にてございます。よろしければご尊名ご尊顔を拝したく」


『ふむ、略式とはいえ礼節を心得てるとは感心じゃの。大多数の毛無し・・・・は、お行儀がなってないのが多いと聞くからの。とくに位階があがるとその傾向は顕著じゃそうな。ま、これは毛無し・・・・だけに言える事ではないがの。キャハハ♪』


『ところで、十六夜を名乗るとはそなた、『十六夜 陽一・十六夜 唯』の係累のものかの?』


「陽一・唯は、わが家の十五代前の高祖夫妻にてございます」


『十五代前? そうか……人ノ世の時の移ろいは早きものよ。ふむ、どことなく見覚えがあると思ったのじゃ』


「へ? あ、いえ。失礼致しました。わが高祖と面識がおありなのでしょうか」


『ふむ、ちと待っておれ』


 ふいに、辺りが急激に明るくなる。間を置かずに今度は光が一点に凝縮し始める。

 そして今度はその光点から光輪が三つ出て不規則に回転していく。

 あまりの高速回転に球形状になり輝きが増していき、そして光が爆ぜたかと思うと……、


『我、降臨す!』


 俺の背丈よりも長い螺旋状に合わさった杖と、ぶかぶかの白と黒のローブをきた俺の背丈の半分ほどの身長を持つ8歳ほどの少女がいた。

 なぜか後光が差しているかのように見え、さらには荘厳な効果音が鳴り響いているような気がする。


 後ろの巨大コアから各種効果が出ているのだろうか?

 だとしたら随分と多機能のコアだな……という事を、考えてしまうくらいに場違いである。


 それとも非現実的な状況に、俺のお脳が付いて行けずに、幻覚幻聴を誘発することで、この場に相応しい状況を創り出しているのだろうか。


 だがそれでも、この8歳ほどの少女? が、いま確かに存在しているのだけは、疑いようがないのだが……、


「?!……!?」 


 思わず少女を凝視してしまうのだが、すぐにわかってしまう。

 俺の理解が全く及ばない。


 否、現し世の理という狭い範疇に属していないことが、否応なくわかる。

 いや、わからされてしまうという方が適切だろう。


 大神がいるとすれば、まさにこの御方こそが大神である。


 すぐに直感し確信する。

 即座に拝跪し、


「か、か、かしこみ、かしこみ……」


 うわずり、言葉が続かずに口だけパクパクさせ呆けてしまう。


 拝跪・跪礼では、まだ不敬。

 ここは、やはり五体投地にて拝するのが最上。と身を投げ出そうとするが、


『ふむ、その心意なかなか見事よの。いろいろ混ざっておるようじゃが、まー、そこは彼かの地から招いた者の系譜ということかの』


『しかし、そう、かしこまれては話もできんの。抑えたつもりじゃったが、いま少し神威・神気をおさえるとするかの。これでどうじゃ?』


 神威・神気という超重圧が和らぐが、それでもまだ慄いてしまう。

 しかし慄いてばかりでは、それもまた不敬になると意を決する。


「はっ! ありがたき幸せ。ご降臨の栄を賜るのみならず、ご配慮まで授かり感謝の言葉もなく、誠に恐悦至極にございます」


『うむ、よい。まさに『至誠、天に通ず』よな。その至誠に免じ、言上の折の宣処言のりとごとを略すことも差し許す』


「ははっ! 重ね重ねのご高恩、誠にありがたき幸せ」


『うむ、さて儂の名じゃが……。あー、なんじゃそなたらの言葉では発音できんの。これは、なんとしたことかの』


「ご尊名を拝す事叶わずとも、ご尊顔を拝す栄を賜ることだけでもまさに望外の望み、栄誉の極みにてございます。また御名を発音できぬとの事でございますれば、しいてお伺いは致しませぬ。尊き御名を似た音にて補うなどもっての他でございます。まさに神をも恐れぬ所業と言えましょう。ただできますれば、畏れ多きことながらも”主上”と呼び習わさせていただければ、これに勝る望みはございません」


『うむ、許す』


「ははっ! ありがたき幸せ!」


『さて、社交辞令はこれでよいとしてだな、今の現し世どうなっておるのかの? ちと、近こうよるがよい」


 おいでおいで、と小柄な少女のお姿で手を上下に振っている。


 和んでしまう情景に思わずホッコリしてしまうが、そんな何気ない動作でさえその神聖さ・高貴さは全く損なわれない。

 いや、更に増しているともいえる。


 跪礼したまま二歩ほど跪行した。


『んもう、もっとじゃ! もっと近こうよれ、届かんではないか!』といいつつ、ローブを引きずり自らその御身を運ぶ。


 あまりの畏れ多き行動に、俺は頭が真っ白になり固まってしまう。


『どれ?』と、いいつつ御手で俺の顔を挟み、御身の額を俺の額にくっつけて、俺の眼を金色の瞳が覗き込む。


『ほほう、ふむ? ほえ? むむ、うーん、なるほどの。ほほう』


 なにやら、納得したり考えたりしておられるのだが、その御身から薫る香りにさらに俺の頭が真っ白になっていく。


 す、すごいぞ。桃源郷は本当にあったんだ!


 ・

 ・

 ・

 ・

 ・

 ・


『―――りゃ、こりゃ! 醒めよ!』


 ハッ!? 意識が飛んでいたのが覚醒する。

 辺り一面、見渡す限りにおいて一面に咲き誇ったお花畑……。

 そうか、あれが桃源郷……。


 いや、今はそんな些事よりも重要な事がある。と思い主上に向き直り相対するが、今度は主上の金色の瞳のほうに引き込まれる。


 美しい。一幅の名画とは……まさに、この事……いやそれ以上か。

 そんなとりとめもないことを思いながらも、気を取り直す。 


「し、失礼致しました。主上」


『うむ。現し世を識しるためとはいえ、お主の知識を読むと察するや、予断を挟まず全てを開陳すべく無我の境地にまで達するとはの。なかなかできることではないぞ』


「主上のお心に添えましたこと、我が終生の誉れとなりましょう」


 桃源郷に旅しており、舞い戻ってからは一幅の名画に見惚れておりました。とは、断じていえない。断じて! 


『その言や良し、気に入ったの!』


『さて、陽一と唯に面識があるかということだがの? あるぞ。儂が転生させたのじゃからの!』


「えっ!? あの……主上が転生させたとは……その……間違えて転生させた、と家伝にて伝わってはおりますが」


『うむ、間違えてというのは、ま~なんじゃ、方便じゃな。実際は選んで転生させたのじゃよ。はじめから選んで転生させたと言おうものなら、自分は使徒や選人【エリート】なんだ、などと勘違いして驕り高ぶり増長する輩もおるからの』


『しかし、陽一め。1つ願いを叶えるというたら、その願いで叶える願いの数を無限にせよ、と切り返されると思わなんだがの! キャハハ♪』 


『その点、唯は素直だったの。間違えて云々うんぬんのところもすぐに気が付いておったが黙っておったの。さすがの良妻賢妻よの! キャハハ♪』


『授けた能力も巧く使って彼かの地に根付き、子も成したようでなによりじゃ。ところでじゃ、凛よ?』


「はっ!」


『次代以降があまり躍進しておらんの? なぜじゃかの? 能力が巧く使いこなせなんだか?』


「……畏れ多くも主上に言上奉ります。高祖夫妻が授かりし能力ですが、次代には継承されない一代のみの特別な力と理解致しております。それ故に、次代以降において顕現せし力は、皆無かと……」


『なんと!? そんな条件は付いておらんかったはずじゃがの? それに先ほど観たが、凛よ。そなた、しかと能力を承継しておるがの?』


「?!」


 冷や汗が出るのが抑えられない。

 主上が継承しているとおっしゃられる以上、確実に受け継いでいるのだろう。

 だが、使えない……。使い方がわからないのだ……。


『ははは、そう臆するな。ふむ、そうじゃな。まずはあれを見てみよ。そして意識を集中させ『慧眼』と唱えてみるがよい』


 そんな御言葉と共に、白黒マーブル模様のコアを指差された。


「はっ、では。『慧眼』」 


 なにも変化が無い。何か変化があってくれと願うも虚しく、なんの変化も無い。

 再び冷や汗がでてくる……。


『何の変化もないようだの。ではいま一度、今度は声は発せずに『慧眼』と念じてみるがよい』


「では、(『慧眼』) 」


『ふむ、やはり何の変化もないようだの』


「ご期待に背きしこと。誠に……」


『いや、よいぞ。原因はわかったからの!』


「!?!?!?」

 こ、この短い問答で、すでに原因がわかった!? さすがは、主上!


『凛よ。お主、頭の中で考えておるときや夢を見ておる際、どの言語をつこうておる?』


「え? 言語でございますか? 大陸語たるアルス語ですが」


『それじゃ!』


 ビシ~ッ! と可愛らしい指で指してくる。


 なぜかもの凄くホッコリしてしまう。


 これも神威なのか? なにか、とても暖かい神威だ。


『つまりじゃな、陽一や唯の能力は、基本使用の言語が日本語なのじゃよ。じゃから、使う際は日本語で思考しなければ能力も発動しないのじゃ』


「な、なるほど! ですが高祖夫妻は、アルス語を流暢に話していたとの事ですが、能力を使う際に切り替えていたのでしょうか?」


『厳密には話しておらんの。言語変換でそういう風に聞こえたり、文字もその様にみえておるだけじゃ。儂が、そのようにしておいたのじゃからの。つまりじゃ、陽一と唯が発した日本語は、彼かの地の者達にはアルス語に聞こえ、住民達が発したアルス語は日本語に聞こえていたという事じゃな』


「……な、なるほど?」


『陽一と唯も、不思議だとは思っておったじゃろうな。だがなんにせよ、疑問に思ってもどうにもならんがの。自動で変換するのじゃから、アルス語を学ぶ術自体が無いの。そしてこれは次代を継ぐ子孫達は、日本語を習得できないということをも意味しておる。なにせ全てアルス語に聞こえるのじゃからな。初めての転生召喚とはいえ、これは儂にも盲点じゃったの……。今まで他の者に任せていた弊害かの……』


 すこし落ち込んでしまったようだ。


 俺の心も洞窟に閉じ込められたように暗くなる。

 ここは上手く話題を転換せねば。


「では、主上。わたくしが、そのニホンゴを学べば能力は使えるのでしょうか。ならば、ぜひ学びたく思うのですが」


『ふむ。理屈ではそうなるのだが、無意識に日本語が使えるくらいにはならんと、能力は使えぬのじゃよ? そこまで習熟するには、多大な時間がかかろうな』


 お~~、なんてこった。多大な時間がかかるのか。

 それはそうか、無意識下で考えたり夢見てる際の言葉までニホンゴを使うくらい習熟するのだから……。


『ま~、これは儂の落ち度じゃったの。正に『画竜点睛を欠く』を地で行ってしもうたのじゃ。十六夜の者には、瑕疵は無いのじゃからの。ふむ。言語はいま修正するから、ちと待っておれ』


 主上が杖を俺に向け、二回揺らすと白い光の奔流が俺の頭目掛けて迸る。

 そして、螺旋を描いて頭の中に吸収されていく。


「こ、これは?」


『動くな。ふむ、ついでに追加の書き込みをして。いや、いっそ統合してしまうかの』


 主上が再び杖を俺に向け、三回揺らすと今度は『青』と『赤』と『黒』の三条の光の奔流が迸り、螺旋を描いて頭の中に吸収されていくのだが……、


「あ!? がァ!?」

 突如襲う激しい頭痛に、昏倒してしまう。


お読み頂きありがとうございました。

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