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28 会戦 7

《諸宮連合軍陣地》


「騎兵隊総監より通信です。『毛並みの良い捕虜を多数確保』」

 本営に、ザムル殿率いる騎兵隊が巧く敵騎兵を仕留めたとの報告が上がってきた。

 同じく本営に詰めている通信兵や副官たちが歓声を上げている中で、


「よーし! マキナ赤隊出るぞー! 1フンで準備しな!」

 リリムルさんが命令を発する。


「マキナ黒隊、出るぞ! 機乗!」

 ノリスも同じく命令を発する。


 ノリスの第二大隊とリリムルさんの第三大隊に伝令が向かい、命令を伝えていく。

 凛の第一大隊は、当直警戒体制のためすでに起動待機していた。


「よーし、出すぞ、回せぇぇぇーッ! 出撃準備!」

 ドーネッツさんが大声で整備隊に号令を発している。


「「「各員、機乗! 出撃準備! 回せぇぇぇー!」」」

 復唱してそれに応える整備兵達。

 片膝を着く駐機姿勢の各機に整備兵と操縦士が取り付き、準備に入っていく。


 ギィ、ギィ……ギィギギ……ギギギヒュギ。 

 ヒュ、ヒュイイイイイィィィィィ――――――――――――ンンンンンッ!


 腰部の起動用クランクが回されていき、機体の鞴【ふいご】が自律機動を開始。次いで機体内に循環液が回り始めていく音が、各所で鳴動し始めていく。


 リン指揮下の第一大隊は『青』で統一され、ノリス指揮下の第二大隊は『黒』、リリムル指揮下の第三大隊は『赤』で各々統一されており、各大隊毎に固まりつつ、ゆっくりと立ち上がっていく。


「各機、起動確認の点呼!」


「二一四起動!」「二二三起動良し!」「さ、三一九よしです!」「三二四待機よし!」「二二〇起動確認、よし!」「三一一いけるぞ!」「一二〇良し!」「三〇七、い、いけます!」「二〇六――!」「――!」「――!」

 点呼と復唱が順次成され、起動確認が取れていく。


「第一大隊、全機確認! 異常なし!」


「第二大隊、全機起動確認! 異常なし!」


「同じく第三大隊、全機起動確認! 異常なし!」


「随伴、第一野戦猟兵団、全隊揃い。待機中!」


「第一マキナ装甲機兵連隊、出撃準備よろし! 現在待機中。命令を!」


 ・

 ・

 ・


 事前の作戦策定で、大まかな流れは決まっている。


 『既に騎兵隊は陣地外にて待機。

 時機を見て敵の側方に進出すると共に、敵の騎兵隊を誘引し之を足止めすることになっていた。

 騎兵がマキナの周りをウロチョロされると、面倒だからだ。

 そして、敵騎兵が誘引され距離が離れたその間隙を縫って、マキナ装甲機兵にて敵本陣に強襲をかける』という流れになる。


 さらに歩兵隊総監たるルイム・アスワムも前線に出て巧く敵の兵力を誘引し、打撃を与えたことで、さらに敵本陣の兵力と防備は薄くなっているはずだ。



「弓兵及び魔術師総監、入ります!」

 本営の前で警備について居る兵から声が上がった。


「戻ったわ。ルイム殿が巧く誘引してくれて、左翼の敵は大打撃を受けている。

 弓兵及び魔術師も準備が整っている。だけど、本当にいいの?」


「はい、手筈通りに。支援の時機選択【タイミング】はお願いします。クララ殿」


「ふふ、こういう時は昔みたいに『クララお姉ちゃん』って言ってくれてもいいのよ?」


「い、いえ……そういう訳には。で、では隊の指揮もありますので、これにて」

 慌てて逃げるように本営から出ていくリンを見ながら、ため息をつく。

(クララ殿……ねぇ。ルイム殿の見立てを聞いてから注意深く観察しているのですが、昔の朴訥【ぼくとく/実直で素朴】な様子を連想してしまい、どうにもパッとこないのです……。このような先入観うあ思い込みは大事を見誤るので注意しなければならないのですが……。うーん?)


「クララ様。マキナ隊の準備ができました。軍令の下知を」

 マメルがそっと教えてくれました。

 そうですね、今は『大事を成す』べき時。

 『為すべきことを成した』後に、マメルにも聞いてみましょうか。


 本営に詰めている通信兵や補佐官達が緊張しながらも、私を見つめている。

 その視線に臆することのないようにしなければならない。

 今、この場にいる最高指揮官はこの私、クララ・シャンセオンなのだから!


「(さて、と……)

『各隊に軍令通達。魔術師隊、風の加護を掛け、弓隊の射程を伸ばせ!

 弓隊、白色発煙矢弾を用意。三斉射は遠距離曲射。最大射程でできるだけ広範囲に射よ。敵本陣と敵前衛の間に打ち込み視界を塞げ。続いての一斉射は敵前衛に撃て。煙幕の切れ目を作るな!


 魔術師隊、弓兵の射撃と同時に三重火焔弾の術法撃を一斉射。目標、前方敵前衛至近の『地面』。敵前衛には当てなくていい。地面を狙い爆発で土煙を舞い上げよ! その後、魔術師隊は『旋風陣』で送り風を造り出し、煙幕と土煙を敵陣方向へ送り出せ!


 展開中の大蠍は左翼から、マキナ隊の進出と共に前進! 

 マキナ装甲機兵連隊及び野戦猟兵団は、三重火焔弾の弾着と同時に進出!


 マキナ第二大隊・マキナ第三大隊は、そのまま土煙と煙幕に紛れて敵本陣へと突撃せよ。大蠍は、マキナ第一大隊と共に敵前衛を攻撃、敵前衛部隊の後退を阻止せよ!


 忘れるな、『我らの興廃は此の一戦に在る』ことを。

 諸宮連合は、各隊の敢闘並びに各員がその義務を尽くすことを期待する! 

 これより、作戦行動を開始する。 

 弓隊及び魔術師隊、用意……。撃ちぃぃ方……始め!』」


 各隊の通信兵から、すべての準備ができたとの報告が上がるとともに、数瞬の間をおいて命令を発した。


 ・

 ・

 ・


 《ラルキ軍前衛 重装歩兵団長》


 ズズーン~~ンン……、ズーンン~……、ズズーン~~ンン……。


 またもや、火球の攻撃が始まった。

 正直、抵抗陣があるからと言って、肩幅ほどの大きさの火球が無数に飛び込んでくる光景というのは、心胆を寒からしめるのだ。


 さらに、頭上を山なりに飛び越えて行く無数の矢も気になる。


 指揮権をなんとか確立し陣形を維持しながらもジリジリとではあるが後退している矢先に、前方からは火球が飛来し、更には後方に多量の矢が降り注ぎ動きが止まってしまう。


 まるで退路を塞ぐかのような攻撃……、逃がさないつもりか?

 抵抗陣が突破されないとはいえ、いつ崩れるかと思うとどうにも落ち着かない。


 とはいえ、重装歩兵三個兵団三千と、更にすり減らされた諸侯軍二千五百弱、合わせて五千五百弱に及ぶ軍勢だ。

 例え乱戦になっても数が数だけに、そう簡単には崩れはしない

 いや。乱戦になった方が、敵方は友軍誤射を恐れて矢や術法撃が撃てなくなるだろう。

 もっともそれだと我が方も接近戦となり損害を被る事になるが、我等とて伊達や酔狂で重装歩兵を名乗ってはいない。我らの損害以上の痛撃を与える自信はある。


「警戒態勢! 状況及び損害報告!」


「損害無し!」「損害無し!」「損害軽微――」「――」「――」


 順次報告が上がってくるが、『損害無し』か、『極めて軽微』のどちらかだ。

 直撃されていないのだから当然と言えば当然ではあるが、それと共に気になる報告も上がってきた。


「抵抗陣への着弾なし、損害無し! 抵抗陣は、なおも維持!」


「後方に多数の矢が飛来、煙幕を展張! 同じく、わが前衛にも矢による煙幕が掛かりつつあり。損害はなし!」


 抵抗陣への着弾なし? もしや術法撃の射程範囲から脱したのか? と考えたところで微細な振動を感じる。

 何事かと敵陣を見ようとするも、土煙と煙幕で辺り一面が見えない上に、その煙がゆっくりと拡散しているようだ。


「煙幕と土煙? だが、なぜ? 白兵戦に持ち込むつもりか? だが、これでは敵にとっても視界が……」 


 ……ド ドド ドド ドドド ドドドドド!!!


 視界不良のために他の知覚が鋭敏になったのか、はたまた生存本能の故か、地が微細に振動しつつも、その揺れが強くなってくるのにすぐに気が付く。


「なん……だ? な――「敵襲!!!」――なに!?」

 土煙の中から人型の巨人……、いやアイアンゴーレムの姿がうっすらとだが見え始める。


「各自、投槍器【アトラトル】で重槍を投擲! 急げ!」


 この投槍器【アトラトル】という投槍専用の器具を使うことで、飛距離・威力共に格段の向上が見込める。

 この投槍器【アトラトル】は、光神教会がもたらした新しい技術だが、技術と呼べるものかは、甚だ疑問を感じるところだ。

 なにせ構造自体は、簡単な『 L 』字状をした単なる棒なのだから。

 とはいえ、この投槍器【アトラトル】で重槍と呼ぶ鉄芯の通ったベルザル特製の槍をひっかけて投擲すれば、その威力たるや瞠目【どうもく】に値する。

 恐らくは、普通に投擲するよりも1.5倍ほどには飛距離・威力共に向上しているだろう。

 もっとも光神教会は、アメントゥムという新式の投槍器【アトラトル】をも、所有しているらしいのだが、詳しいことはわからない。


 なんにせよ一時は動揺したが、所詮はアイアンゴーレム。

 投槍器【アトラトル】による重槍の投擲で片が付くだろう。


 ガアアアンン! ガイイインン! ギイイインン!


 土煙に紛れて正確には判別できない。

 しかも無数のアイアンゴーレムの走っている足音も混ざり合いながらも、そこかしこで金属同士がぶつかりあう音が鳴り響いている。

 あまりの大音響に、耳鳴りがし始めている。


 そんな中でも、アイアンゴーレムの走っている足音とその振動は確実に減っているのがわかる。どうやら、重槍の投擲でアイアンゴーレムを仕留めたようだ。

 土煙も薄まりつつあり、光が透り始めた。

 この土煙が晴れれば、地に倒れ伏したアイアンゴーレムが目に入ってくるだろう。


 やがて耳鳴りも収まるとともに別種の異音、普段とは違う耳慣れぬ怒声と怒号が飛び交っているのが聞こえてきた。そして同時に風に流されてきたのか血臭も漂い始めてくる。



「陣形を維持しろ!」「そうじゃない! 右だ、右から回り込め!」「中隊長行方不明! 隊の指揮は副長が代行!」「重槍だ、早く重槍をもってこい! こんな棒切れじゃ、役にも立たん!」「動きを止めるぞ! 脚だ、脚を狙え!」「司令部はどこだ!? 意見具申がある!」「くそ! 大型弩弓【バリスタ】は無いのか?!」「敵の大蠍多数が、右から接近!」「巨人周辺の敵歩兵どもを、なんとかしろ!」「第一団司令部はどこだ?!」「団長が戦死? そんな馬鹿な事があるか! 確認しろ!」「鉤爪と縒【よ】り縄だ、誰かもってこい!」「だ、だめだ。突破されるぞ!」「誰が後ろに五歩前進しろといった! 前に出るんだよ!」「だめです、防衛線を支えきれません! このままでは孤立します、後退許可を!」「わが隊、潰乱【かいらん】状態に陥りつつあり!」「なにやってる、貴様! 味方に当ててどうする気だ!」「伝令兵、伝令兵! どこだ、どこにいる!?」「司令部は現況を把握しているのか!?」「こんなこと、やってられるか!」「だめだ、この傷は深い! 誰か治癒術を使える者はいないか?!」「そっちはだめだ、巨人がいる!」「どこに行くつもりだ、貴様! 仲間を見捨てるつもりか!」「おい、そこの従卒! 負傷者を急ぎ後送しろ!」「わが隊、鏖殺【おうさつ】されつつあり。繰り返す、鏖殺【おうさつ】されつつあり。支援を!」「なんなんだよ、これは! どうすりゃいいんだ!」「やめろ、近づきすぎだ!」「違う、団司令部じゃない! この報せは本陣に届けるんだよッ! 早くいけ!」「――!」「――!」「――!」

 

 まだ少し煙【けむ】いが、土煙が晴れると共に眼に飛び込んできたのは、大混乱に陥っている前衛集団五千五百と、その我が前衛集団を蹂躙【じゅうりん】している三一ものアイアンゴーレムと敵歩兵集団、そして大蠍の群れだった。


 そして陽光の下、抜けるような青空に、三条の赤い軌跡が昇っていく。


 ・

 ・

 ・


 《ラルキ軍本営 軍将》


 ポフン。ポフン。ポフン。ポフン。ポフン。


 そんな音と同時に前方の辺り一面が広範囲に渡り、白い煙に覆われていく。

 と同時に、


 ズズーン~~ン……、ズーン~~ンン……、ズズーン~~……ンン。 


 という腹に響く炸裂音が轟いていく。

 数瞬の後、煙幕と土煙がサワサワと風に乗りながら移動を開始していき、さらに広範囲に拡散し始めていた。


「なんだ? 術法撃の振動か? いや、これは地揺れか?」


 相手の出方がわからず、まずは本陣の部隊に警戒態勢を取らせ様子を見ようとした矢先に気が付いた。

 地面が微細ながら振動し、その揺れが徐々に強くなっている……。いや、これは何かが近づいてくるのか?

 そんな疑問を抱きつつも、警戒の念は強まっていく。


「各隊、警戒態勢。それから大型弩弓【バリスタ】に縄付き鉄芯鏃【ボルト】を装填して、待機しろ。急げ!」


 嫌な汗が流れ始めるのを自覚しながら前方の煙幕を凝視していると、煙幕の中から大慌てで後方連絡用の馬を駆けさせた伝令が数騎躍り出てきて、こちらに全力で向かって来るのが見えるのだが……。


 なんだ? 負傷しているのか? それにしては、あの慌てている様はなんだ? あれでは伝令というよりも、まるで逃げ惑っているようではないか……。


 そんな埒もないことを思いながら伝令を注視しようと目を凝らしていると、その視界の端にある後方の煙幕が突如盛り上がり、煙を纏【まと】ったアイアンゴーレムの集団が躍り出してきた。


「あッ?」 

 まるで呆けたような表情をして間抜けな声を挙げている副官達に苛立ちながらも、即座に命令を発した。


「大型弩弓【バリスタ】、撃て! ……馬鹿者! なにをしている、早く撃たんか!」 


 急速に接近してくる大型のアイアンゴーレムが見えるにも関わらず、一拍おいても大型弩弓【バリスタ】は撃たれない。再度、怒声混じりに命令を下した。


 ドシュッ!

 ドシュッ! ドシュッ! ――! ――!


 前方のアイアンゴーレムの集団に向かって、一瞬の間をおいて一基目の大型弩弓【バリスタ】が撃たれると、それに続いて漸く残りの一四基から連続で、縄付き鉄心鏃【ボルト】が高速で撃ち出される。


 最初の冒険者の報告から、アイアンゴーレムを伴っていることはわかっていた。

 その対応策も熟知している!

 この距離だ。すぐに到達し結果が出る。撃ち抜かれ斃れるアイアンゴーレムの姿が見られるはず。


 ガギィィイイイイイインンンンンンン――~~ンン……。


 よし、命中した!

 遠目にも火花が散って、命中したことがわかる。

 ここで斃れずとも、食い込んだ縄付き鉄芯鏃ボルトで動きを拘束し引きずり倒せばよいのだ。

 敵将ながらも、これまでは良い采配ではあったと褒めてやるが、ここでアイアンゴーレムを投入してくるとはな……。だが、それは悪手よ。どうやら功を焦ったようだな!


「これで、動きが停ま……る……?」


「は、弾かれました! 敵アイアンゴーレム急速に接近!」


「全隊、戦闘準備! 急げ! 大盾構え!」


「ば、抜剣!」「槍構え! なにしてる、早く構えろ!」「弓隊、斉射……いや、各個に射て! 近づけるな!」「防御態勢! 聖堂騎士団は司祭殿を護れ!」「大型弩弓【バリスタ】、再装填! 早くしろ!」「集まれ、陣形――」「――!」「――!」「――!」


 本陣周辺は、大型弩弓【バリスタ】から射出された鉄芯鏃【ボルト】を弾くというありえない光景と、約五十にも及ぶアイアンゴーレムの集団が突進してくるという考えたくない現実を伴って、一気に喧騒に包まれていく。


 ・

 ・

 ・


 《マキナ第二2大ノリス隊 及び 第三大リリムル隊》


 白煙の塊の中を全速で駆け抜けていく。

 見えるのは永遠に続くかの如き、白一色の模様。

 

 後方確認用の補助映像盤を見れば、うっすらとだが第3大リリムル隊の僚機の影が見える。

 良し、ついてきているな。訓練の成果は確実に出ているようだ。

 気を引き締めて前方の主映像盤を見れば、徐々に煙が薄くなってくるのがわかる。

 この白の煙幕を抜ければ、敵本陣の前に出るはずだ。

 数瞬の後。突然、視界が開け光が飛び込むと同時に、色のついた世界が現れる。


「……見えた!」

 敵本陣までは距離五百を切っている。

 敵陣を視認し、次に仮設された発射装置に目をやる。

 後方確認用の補助映像盤に視線をちらりと流せば、僚機も次々と現れ始めているのが見て取れた。


 その刹那、何かが飛来する! と直感し、咄嗟にカイトシールドを機体正面に掲げるとほぼ同時に、『ヒュィィ――ィィイイイイインン』という飛来音が聞こえ、『ガギィィイイイイイインンンンンンン――~~ンン…… 』という硬い物質が弾かれた異音が辺りに響き渡り、カイトシールドの表面に火花が散っていく。


「『各機、大型弩弓【バリスタ】があるぞ! 注意! 落ち着け、盾で弾ける。直撃されなければ、大した事はない。機体を信じろ!』」


 通信を聴いた第二大隊と第三大隊の全機が盾を前に構えながらも、全力で疾走し敵陣に向かう。

 そこかしこで、先ほどの金属の異音が鳴り響いているが、それも長くは続かない。

 大型弩弓【バリスタ】は大型になればなるほど強力になるが、それに比して再装填にも時間がかかるのだ。

 そして、敵本陣はもう目前だった。


「(よし!)『マキナ第三大隊二四機、敵本陣前列に到達! これより推して参る!』」


 本営宛に通信機に向かって声を張り上げるとともに、仮設された発射装置の暴発防止カバーを開け、射出用ボタンを押し込む。


 シュパッ! シュパッ! シュパッ!  ……カチャ、カキン。


 装甲隔壁越しに、くぐもった音が3つ連続で鳴り、三つの信号弾が各々赤い煙を曳【ひ】きつつ三条の赤い軌跡となって、頭上のかなりの高さにまで打ち上げられる。

 この信号弾の射出装置は、以前リンが作った複合弓、それも張力が重すぎて弦を引くのが困難な強弓を流用したものだ。

 この弓を、クロスボウのような台座に通し長方形の箱の中に三連装に固定・収納した物をマキナの背部に取り付けている。

 また射出後は固定具を引き抜く事で分離されるようになっており、確実に作動したようだ。さすがは、ドーネッツだね。いい出来だ!


「『マキナ第二大隊二四機、敵本陣前列に到達! 我、接敵突入せり!』」

 時を同じくしてノリスも来たようだ。


 出陣の順番上、第三大隊の方が先に陣地を出たんだが追いついてくるとは、さすがにやるねぇ。


 自分じゃ、『指揮もとれず戦士としての腕前も一流には程遠い』なんて言ってはいるが、確かにその通りだね。


 ノリスは『超一流』の腕前だ。

 そんな格上の『超一流』から格下の『たかが一流』を見れば、一流は確かに『程遠い』だろうね、あはは!


 ・

 ・

 ・


 《諸宮連合軍陣地 正面防壁上》


 マメルには止められましたが、作戦行動の発令と共に再び陣地正面の物見櫓に登り戦況を見ることにしたのです。

 ルイム殿の見立ても加味して、この戦いの趨勢【すうせい】を見極めなければならない!


「赤の信号弾三! 繰り返す、赤の信号弾三! マキナ隊、敵本陣前列に到達!」

 防壁上の兵が上空を指差しながら、大声で報告を上げてくる。


 上空を見上げれば、確かに赤い三条の煙幕を曳く信号弾が上がっているのが見えた。

 同時に通信兵もマキナ隊からの通信を受信したようで、報告が上がってくる。


「マキナ第二大隊及び同第三大隊、敵本陣前列に到達。交戦状態に入りました!

 同じく随伴の野戦猟兵団第二隊・同第三隊も間もなく戦闘状態に入ります」


 通信機もあるのに、なぜ赤の信号弾を打ち上げるのか? と聞いたのですが、リリムル殿曰く、


「なに、演出ですよ。え・ん・しゅ・つ! あはは!」 とのことでした。


 確かに通信機が配備されているとはいえ、いまの時点でそれは中隊規模までとなってます。

 軍令を一斉に伝える術【すべ】は、いまでも軍太鼓や喇叭【らっぱ】等が用いられているのです。


 もっとも、この音に頼る方法は広範囲に伝達できるのですが、広範囲にかつ無差別に伝わるため相手にも『何かある!』という警戒を促してしまううえに、この音と符丁の組み合わせは容易には変更できないという欠点があるです。戦いの度に音譜まで変えていたら、覚えきれるものではありません。そして戦いというのは一度で済むものでは往々にしてありませんから、その音譜を敵に覚えられたら逆利用される恐れさえあるのです。だからこそ、口頭の命令伝達手段として伝令兵がいるのです。


 もっとも信号弾とて、同じく広範囲にかつ無差別に伝わるのですが、意味までは相手に伝わらないうえに意味の変更は比較的自由に変えられるのです。


 そして、この赤の信号弾三の意味は事前に軍議で取り決められており、各隊の中級指揮官は了知している。


 つまり、『敵本陣前列に到達。全軍による全面攻勢の要請』だ。


 信号弾が上がったことで、その意味を理解している各隊は既に攻勢準備に入っているはずだ。


「クララ様! 下知を!」


「わかってます! 

『全将兵、全部隊に告ぐ! 全面攻勢、総掛かり(総攻撃)である! 全軍前進、前へ!』」


 通信兵から通信機を受け取り、声が震えるのを抑え軍令を下すが、身体が微かに震えるのを副官のマメルに見つかってしまう。


「ね、念のために言っておきますが、これは武者震いですよ?」


「はい、クララ様。お気持ちはわかります、私も武者震いで震えておりますから!」


 武者震いをするほど『戦意と士気』が向上しているのです。

 正に演出としては効果覿面【こうかてきめん】だといえるのではないでしょうか。


改稿しました。

お読み頂きありがとうございました。

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