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イザヨイ戦記  作者: 知音まこと
イザヨイ史 リン伝
17/73

17 リリムル・エルザードへの贈り物

 リンの坊主が、贈り物をしてくれるという。

 ドーネッツの部屋では、新式の非金属鎧がいいと伝えておいた。

 後日、詳しい要望を聞きに創兵工廠を訪ねると言われる。


 さてさて、どうなる事やら……。


 私は、もちろん全身金属鎧も着装できるのだが、魔法も併用する戦闘スタイルでは、重量が重いと負担になる。

 そもそも、長く着装していると暑くなるのだッ!

 そのため、普段はハーフプレートアーマーとレザーアーマーとの併用をしている。


 従来のレザーアーマーは成形後に油脂蝋に入れて煮詰めて固めたり、鞣【なめ】した革を重ねて着装したりするのだが、如何せん所詮はレザーアーマー。防御力に難があるのは紛れもない事実。

 利点は、あまり音がしないということと、生産が比較的容易な事、それと金属鎧と比べれば軽量・安価な事くらいか。


 そんなときに、坊主が何か要望はないかと聞いてきたのだ。

 たしか坊主は、機体搭乗時には、革鎧などを着装すべきだと以前に述べていた。


 私も、機体搭乗訓練で何度も機体には乗っているが、確かに何らかの防具は必要だと思う。

 あの機動性能だと身体があちこちに振られてしまい、擦り傷などが絶えない。 


 かと言って、あの狭い操縦席に金属鎧では不便だろう。

 加えて、操縦席は密閉に近い状態なのだ。更に暑くなるのは目に見えている。

 そのための新しい防具の開発のついでという感じで、要望してみたのだ。


 正直『あまり期待は出来ないのではないか』と観ている……。


 簡単に新式の非金属鎧鎧と言っても、そう簡単にできるものではない事くらいは、私とて知っている。

 そんなことを考えていると、 


「はい。もう結構ですよ。身長と胴体長などの必要なサイズはわかりました。ご協力ありがとうございました」と、寸法を測っていた坊主が言ってきた。


「もう、いいのかい?」


「はい。 大丈夫です。では、早速製作にかかりますね。あ、あと金属は全く使ってはいけないのでしょうか?」


「いや。少量なら大丈夫だよ。ただ、あくまで主材料は非金属でお願いしたいね」


「わかりました。なんとかやってみます。少々時間が掛かるかもしれません」


「わかってる。楽しみにしてるよ」といっておくのが、デキる大人の女というものさね。


「では、失礼します」といって、部屋から出ていく小僧を見送った。


 その後、今日の予定の書付をみる。

 スカウト・アイやら、アイアンゴーレムやら、スケルトンやらと種類が増え始めて、もはや覚えきれないくらいだ。


「さてと、今日の召喚予定はと。えーと、アイアンゴーレムが―――」


 ・

 ・

 ・


 採寸が終わり、おれは自室に戻った。

 書き出したサイズ表をしまい、ペンと書付用の獣皮紙をもって書庫に向かう。

 リリムルさんの要望に沿う記述を探し出すか、なんからのヒントを探すためだ。

 最近、このような事が楽しくなってきた。

 しかし、これではただ単に知っているというだけで終わってしまう。

 もっと良く識るために、学ぶ時間と基礎知識が必要だと痛感する。

 弥生さんにあってからというもの、学ぶ楽しさがわかり始めた。


 もっと時間が欲しい! 

 時間を、もっと時間を、俺にッ!


 ・

 ・

 ・


「小札状に―――、腱・骨などを煮詰め―――、それと―――」

 ひたすら、ページを捲っては書き出し考え、また書き出しを繰り返す。


 別の巻の奇想天外大事典や設計概要及び備忘録からも、書き出していく。

 書き出す分量が多い。なにせ鎧の作り方そのものズバリが載っていたからだ。


 なんでも、この鎧の形状は『当世具足』というらしい。

 実に興味深い形状で、なかなか機能的と思う。


 ただ、リリムルさんのご要望には完全には一致しない。金属部も多いからだ。

 それでも、書き出していく。

 何が必要になるのかも解らないからだ。


 どうやら作成するに当たり、工程途中での乾燥時間をかなりとるらしく、その時間を使って違うものも造ることにした。

 そのために、目に付いたものを手当たり次第に書き出していく。

 そんな事さえ楽しいと感じられた。


 そして、書き出しながらも高祖夫妻の多芸ぶり・博識ぶりに感心してしまう。

 あまりにも記述されている分野が、多岐に渡っているのだ。

 壁際に配置されている棚を見やれば、本の分量はまだまだたくさんある。


 『全てを残せ』と遺命を残した高祖夫妻に感謝しつつ、書庫をあとにした。

 手には書付がたくさん抱えられている。


 さて、どこから取り掛かろうか……。


 ・

 ・

 ・


 端材を使って、まず一通りの工程を行い、試作してみることにした。

 必要と思われる材料を持ち込んでいるのだが、結構な量になってしまった。


 そしていま、おれはドーネッツさんの造兵工廠の一画を借りてハンマーを打ち下ろしている。

 骨を砕いているのだ。


 まずは、膠【にかわ】つくりからだ。

 鍋を用意して、骨や皮を煮込んでいると、


「なんだ、膠を造っているのか?」


「え!? あるんですか?」


「あるぞ! がはは!」

 そんな、先ほど懸命に骨を砕いていたのに……。

 ま、まあ……工程が短縮されたのだから良しとしよう。


 裁断した動物・魔獣の皮を、大量に膠を溶いた水溶液に漬け込みしばらく放置しておく。

 そんな俺を、ドーネッツさんがみている。


「何だ小僧? 服でも作るのか?」

 怪訝そうに聞いてくる。


「え、違いますよ。まず習作として、一通りの工程を行おうと思いまして」


「ほう。なるほどな」

 納得した表情を浮かべている。


「ドーネッツさんこそ、製図版はどうですか?」


「聞いて驚け! あと十セットちょいだ。やっと終わりが見えてきたぞ。

 ガルンとヴェイに、工廠の人員を増強させて、こちらに廻したのが功を奏したわい。

 最初は渋っていたが、このままでは小僧がいくら手伝おうが、いつになっても納入が終わらんぞッ! と言ったらようやく納得したわい。

 まったく……、正直、夢でまで製図板を作っていたぞ! がはは!」

 解放感溢れる笑い声だ。


「追加注文は、もうないのですか?」

 恐る恐る聞いてみる。


「それは大丈夫だ、製法自体と設計図を売却したようだからな。

 そのほうがライフィン街の連中もいいだろう。もっとも結構な金額を支払ったようだがな」


「なるほど。いまか、いまか、と待ち続けるよりはいいかもしれませんね」

 最初期には、奪い合いが起こっていたようなので一安心だ。


「そうだな、これでやっとワシも新たな挑戦が出来るぞ。がはは!」

 実に嬉しそうにしている。


「ところで、ドーネッツさん。宮の近辺や、ライフィン街の近辺に『 漆 』の取れる木はありませんか?」


「ウルシ? 何だそれは?」


「え~と、木の樹液なのですが、薄い焦げ茶色をしていまして。あ、それとその木の周辺にいくと、ヒトによっては皮膚が凄く痒くなる特徴があります」


「……もしかして、黒耀樹のことかもしれんな」

 少し考えて、思い出したようだ。


「あるんですか?」


「たしか、宮の近くにもあったぞ。なんだ、その樹液も必要なのか?」


「はい、ぜひ!」

 これは僥倖の一言だ!


「わかった。用意させよう。三~四日待ってくれ。他にはあるのか?」」


「え~と、そうですね……竹ってありますか? こんな形で、葉がこのような形なのですが……」

 身振り手振りで説明する。


「ふむ? たしかライフィンの近くの森に群生地があったな。何だ、それもいるのか? これも三~四日かかるぞ」

 やれやれ、困ったやつだと苦笑いしている。


「はい! お願いします!」

 これは幸先がいい。さくさくと進んでいる。


 さて、膠に漬け込んだ革は、そろそろいいだろうか?

 棒で引っ掛け取り出し、金床において叩いて伸ばす。

 伸ばした革の上に、更に浸されていた革を置き叩く。

 これを繰り返し行い、任意の厚さまで繰り返して積層構造のようにしていく。

このような作業工程を経て出来るのが、練皮【ねりがわ】だ。

 厚さはこんなものだろうか? 重りを置いてしばらく放置しておく。


 さて、これでいいのだろうか?

 とりあえず出来上がったので乾くまで待つことになるが、これには数日はかかるだろう。


 うう、手がベトベトだ……。


 さて、時間が余ってしまった。

 どうしようか……。


「ドーネッツさん、太い鋼線みたいなのはありませんか?」


「鋼線か? たしか、冒険者とかいう強盗どもが使ってた武具を鋳潰して、鎧を作るときに使うように用意されていたはずだ。なんだ、それも必要なのか?」


「はい。できれば、分けていただきたいのです」


「まあ、いいだろ。ちょっと待ってろ」

 そういうと場を離れる。

 しばらくして輪状になった鋼線をかなりの量、持ってきてくれた。


「なんだ、チェインメイルでも造るのか?」


「はい。網目を細かくして、作成してみようと思いまして」


「ふむ……。まあ、いいだろう。

 チェインメイルは作成に時間が掛かる。試験用なんだろう? まずは全体は作らずに、小さめに一枚の面でつくってみろ。

 小さいのでも時間は掛かるが、その膠も乾かさないといけないのだから、ちょうど良いだろう。

 出来上がったらワシに最初に見せろよ。がはは!」

 さりげない忠告に感謝する。


 しばらくして、掌よりは大きいチェインメイルが出来上がった。

 ドーネッツさん曰く「ま、こんなもんだろ! がはは!」だそうだ。


 ・

 ・

 ・


「小僧、これがそうだ。あってるか?」

 四日後、ドーネッツさんが、竹と桶に入った薄い焦げ茶色の粘度の高い液体を持ってきてくれた。


「おそらくそうです。ありがとうございます」


「礼なら、本人達にいってやれ。別室に待たせてあるのでな」

 さっそく採取してきてくれた二人に礼を述べ、事細かに採取時のことや樹木の事を聞いてみる。


 聞けば聞くほど、竹と漆のような気がする。

 制作が巧くいけば、更に採取してもらうように約束してもらう。


 聞けば運んできたのは二人だが、現地では協力してくれた者達が幾人もいるそうなのだ。

 これは、多めに礼金を包んだ方がいいだろう。

 その旨を伝えると感謝されてしまった。

 こちらこそ、急いで持ってきてもらって大感謝だ。


 漆をこぼさない様に注意して運び、漆の液の中に煤を入れて黒くする。

 色をなじませる間に、竹も運び込み、ついでに刷毛と乾燥させた練革を用意する。


 練革の感触だと、かなりの堅さがあるようだ。

 もう少し厚くしてもよさそうなので、次はもっと厚くしてみよう。


 さて、では漆を塗りこんでいくか。

 慎重に何度も何度も重ね塗りをしていく。

 このくらいだろうか? いい感じに仕上がったので、乾燥のために放置しておく。


 ついでに、目の細かいチェインメイルにも黒漆を塗り込み、軽く加熱して焼付けて仕上げる。

 なかなかに、良い色合いなのではなかろうか。

 これまた、乾燥と熱取りのために放置して置く。


 皆の協力で材料を揃えられ、習作がてら膠も造り溜めしておいたので、揃えた材料で使って弓を作る事にした。


 『奇想天外・奇妙奇天烈大事典』と『設計概要及び備忘録』 には、様々な弓の構造が載っていたのだ。

 そのなかから、『当世具足』に続いて載っていた『合成弓』を参考にしていく。


 ドーネッツさんにチラリと視線を流して見ると、何ともいえない微妙な表情を浮かべてこちらを見ている。


 呆れられてしまったのだろうか……。

 致し方ない。ここまできたら、もはや押し通すしかない。


 ・

 ・

 ・


 数日が過ぎて、乾燥した練皮ねりがわを手に取り検分している。

 初めてにしては、なかなかの出来ではないだろうか?


 しげしげとできた練皮を見ていると、ドーネッツさんが来たので見てもらう。


「ドーネッツさん、どうでしょう?」


「……小僧、こりゃあぁ……」

 目が大きく開かれている。


 そして工房の人達に見せて周り、皆が弄り回したり叩いたりしている。


「……こいつぁ……」という声が、微かに聞こえてくる。

 それと共に、「はぁ~……」と溜息をついているのが見えた。


 どうやら完全に呆れられてしまったようだ……。

 高祖様、すみません。失敗してしまったようです。


 気落ちして、どんよりしていると、

「小僧、ワシらが手伝ってやる。作り方をできるだけ詳しく説明してみろ……」

 あまりの出来栄えに、手伝ってくれるようだ。


 しかし何故、そんなに眼が輝いているのだろうか?


 ・

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 ドーネッツさんたちの横で、俺は弓矢を作っている。


 鎧は基本デザインを決めたあとに、ドーネッツさん達が鎧と兜などの各部位ごとに分担して製作してくれている。

 基本デザインを詰めている時に、本来の 当世具足 のデザインと小札の作成も説明しておいた。

 いまでもラメラー・アーマーやスケイル・アーマーがあるので、理解が早いのはさすがだ。

 防具系統を得意とする方々が集まってくれているので、製作速度が尋常でなく速い。

 しかも、リリムルさんの要望品だけではなく、その派生型や鉄と併用した別の鎧や当世具足そのものまで作成し始めている。


 もう、考えるのはよそう。やはり本職には適わない……。

 それに、これは俺が一人で造るよりは断然良い出来になるだろう。


 さて、弓のほうだが、波状の形状にするためにあれこれやり、次に動物の腱を解ほぐしたものや角・革・胴・竹などを成形して、膠で挟み込むようにして貼り合わせ固定・圧着させる。


 あまり欲をはって素材を張り合わせすぎると、弓勢が強くなりすぎて引けなくなりそうなので、程々にしておく。

 これを数種類、大小とりまぜて複数作成し試作は終了とした。


 ついでに様々な鏃【やじり】と鏑矢【かぶらや】、弓懸【ゆがけ/弦を引く際に右の手指を保護する革製防具】も作っておく。


 また作成した鏑矢は、矢柄に固定する頚部を長くしておいた。 

 鏑矢を矢柄に装着する都合上長くしたのだが、これは他にも転用できるかもしれない。

 結果的に重量がやや増加してしまった。

 もっとも、長くて不便であるならば後ほど切り詰めれば良いのだ。


 そしてこの鏑矢【かぶらや】だが、射ると音を発して飛んでいく。

 そのため信号に使えるのみならず、その音で動物などを射竦める事もできるらしい。


 弓懸は、指などを保護するための手袋状の物を作成する。

 この辺は、趣味で作成してみた。

 あとで変更すれば良いと、考えておく。


 余った漆を小分けにして、様々な顔料やら土やら水やら薬やら加えて色の調合を行ってみたり、加熱するなどを行ったのだが、なかなか上手くいかない。


 それでも試行錯誤の結果として、『黒』と『赤』が出来上がった。

 もっとも、なぜ『赤』が出来たのかは、未だにわからないが……。

 それでも『赤』が出来たのは、僥倖だろう。

 なんにせよ『赤』は、機体の指揮官機の色に使うのだから。


 因みに後日検証した結果では、

 ――『生』の漆をそのまま塗って放置すれば、ほぼ透明に乾燥するのであった。したがって色下地を塗って乾燥させた後に、『生の漆』をそのまま重ね塗りすれば良い――と判明した。

 俺の創意工夫と苦労は無意味であったのだ……。


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 あれよあれよという間に、一ヵ月が経った。

 この間にも、新式の非金属鎧鎧の確認や弓矢の作成は行われ、それと同時にシャーリンさんの新たな記録媒体である紙の構想も練っていく。


 それのみならず、黒耀樹の生育状況と漆の採取方法の確認、同じく竹の生育状況等の確認をしにスケルトンの護衛を伴い、各地に赴いた。


 この視察には、当初ノリスが同行するといっていたのだが、機体の習熟訓練などもあるので丁重に断りを入れておいた。

 また黒耀樹や竹が他に群生していないか探すために、日数をかけている。


 そして、帰ってからは鎧の微調整を繰り返し、ほどなくしてついに鎧が完成した。

 兜や肩当・篭手・脛当もできている。

 出来た鎧をみると、さすがの一言という出来栄えだ。

 色も、黒で艶消し処理までされている。


 その横には『当世具足』 を初めとして。各種作成された鎧が置かれている。

 俺が作っていた目が細かいチェイン・メイル(鎖帷子)まで置かれている。


 い、いつのまに……。


「小僧。この当世具足とやらは、実に良く出来ている。

 その構造を参考にして各種作ってみた。

 あと、小僧が作っていたこの鎖帷子は、機体の関節部防護用にも採用するから、ついでに造っておいたぞ。

 色も、黒漆を焼きつけてあるからな。しかし、あの漆は痒いな、手についたときは慌てたぞ! がはは!」


 出来た鎧類を、皆で手分けして錬兵場にもっていく。

 そして複合弓も全て持っていくことになった。試射も兼ねるためだ。

 さて、巧くいくといいのだが……。


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 皆に報せを出し待っている。

 皆というのは「新式の鎧と弓が完成しました。これより公開試験を行います。観覧自由ですので興味のある方は足を運んでください」としたからだ。


 そんななか、リリムルさんが平服でやってきた。

 と思いきや、御屋形様と母上、茜も含めて全員が来てくれた。


 これは幸先がいい!


 簡単に説明をして、あとは自由に観てもらう。

 ハンゾウさんが、黒の鎖帷子の前から微動だにしない。

 持っては動かし、広げては動かしを繰り返している。


 そんななか最初、リリムルさんは渋い表情を浮かべていた。

 色艶から金属だと思ったようだが、仕方なく手に取るや金属ではない事に気が付いたようだ。


「うん? これは、金属じゃない……。それにしては、やたらと堅いな」

 鎧を叩いて感想を述べている。


「なんでしょう、この艶? 不思議な色合いですね。それに、この大きさの割りには、なかなか軽いですね」

 シャーリンさんも、手に取りしげしげと観察している。


「これは、『漆』といいまして接着力とともに、防腐・防水・防虫効果がある塗料ですよ」と説明していたところドーネッツさんが、


「そ、そんな効果があったのか!? ただ発色のいい塗料だと思っていた……」

 初めて聞いたと驚いている。

 話し忘れていたようだ……。すみません。


「そんじゃ、着装してみるかい。これはどうするんだい?」

 早速、リリムルさんが着装することを希望した。


「では、リリムルさん。こちらへどうぞ」

 リリムルさんに、皆が見れる位置に来てもらい、着装の手伝いをする。


「この鎧は、慣れれば一人で着装と除装ができます。今回は兜も用意しました」

 解説しながら着装を手伝っていく。


「ほう。なかなか手が込んでいるね」

 錣【 しころ/後頭部と首まわりの部位を守るための防具】のついた兜を弄りながら満足そうにしている。


「はい。できました。軽く動いてみて見てください」


「はは、こりゃいい! いいじゃないかい!」

 凄まじく速い動きで、何かの武術の型や体術を行っている。


「このほかにも、肩部には更に追加の肩鎧としての袖【そで】や、大腿部の防御に草摺【くさずり/胴鎧から垂れて腰部と大腿部を守る防具】や佩楯【はいだて/大腿部と膝部を守る防具】が着脱可能です。

 あと、細かい目のチェインメイルである鎖帷子も併用すると、更に良いかと」

 きっちりと追加装備類も説明しておく。


 ここでハンゾウさんの目がキラリと光ったような気がした。


「追加の部分は、いつでもでも付けられるのかい?」

 はやく、皆に見せたくて仕方ないようだ。

 こちらとしても、その様子から満足しているようなので、ホッとした。


「はい。だいじょうぶですよ。持ってきますのお待ちを」

 そんな言葉と共に準備するため離れると皆が、リリムルさんに感触と具合などを聞き、リリムルさんがそれに答えている。


「「「「「「「 ほぉう 」」」」」」」


「これは、良いではないですか!」「ふーむ、なかなか」「ふむ、あまり音がしませんね」等など、思い思いの感想を呟いている。


 追加装備を持って近寄ると、


「坊主。さっそく追加部分を着けてくれ」

 早速、全て着装してみたいようだ。


「では、こちらを腰に着けてください」

 ベルトを渡し、草摺【くさずり】や佩楯【はいだて】を着けていく。

 このベルトには各所にDリングがついており、追加で様々な物が着脱可能になっているのだ。


 さらに、肩当部に同じくベルトと通して袖【そで】を着ける。

 最後に兜を着用してもらい、完全装備となる。


 当世具足から着想を得たとはいえ、これはなかなかの逸品のように思える。

 リリムルさんの感想はどうかな? と、チラリと見やれば「……良い」と呟いている。

 うむ、好感触のようだ。


 リリムルさんの要望で鎧を着装したまま、弓の試射に移ることになった。

 運用試験も兼ねるつもりのようだ。


 弓の試射には、リリムルさん、ノリスのほかに、もう一人が加わる。

 弥生さんだ。


 竹の生育状況を調査した際に、偶然、知己を得たのだと説明して弥生さんを招いて紹介するのだが、皆が『ポカ~ン』としている。


 うん、その『ポカ~ン』とする気持ちはわかる。実にわかるよ。

 赤の振袖は、実に映えるからね。


 ハンゾウさんが質問して弥生さんが答えている間に、試射の準備として弓の的を置いていく。


 質疑応答のために、ある程度の時間を掛けて準備していく。

 そして頃合いを観て、振り返り準備が整った事を伝えた。


 その際、弥生さんが着替えを所望したので、小屋を薦める。

 そこには、シャーリンさんが同行するようだ。


「凛。おまえ、素晴らしい逸材を見出したな」

 唐突に、御屋形様が言い出した。


「素晴らしいですね。茜もすぐに懐いてしまいましたし、受け答えもそつなくこなし、礼法にも詳しいようです。教育係にも最適ですね」

 母上も好印象のようだ。


「僭越ながら如月殿の識見は、私の職務の補佐として―――」

 そんな事を内務監のヴェイさんが言うと、


「何を仰っているのですか? すでに如月殿は外務監の補佐が内定―――」

 外務監のセルマさんが、すかさず言う。


「現状を鑑みるに、財務の補佐こそ―――」

 財務官のガルンさんも負けじと言う。


「皆さん、気が早いですよ。まずはこの私の補佐として就き、そのうえで直接・・じっくりと時間を掛けてその人となりを確認すべき―――」

 情報監のハンゾウさんが防諜の観点から見解を述べているが、妙に力が入っている。


 そこに扉がゆっくりと開いて、シャーリンさんに続いて弥生さんが出てきた。

 皆が、髪を後ろで束ねたその袴姿をみると、


「「「「 可憐だ 」」」」

 皆が呟いているのが聞こえた。


 茜も『ポカ~ン』として「弥生ちゃん、かっこいい!」と呟いている。


 ノリスとリリムルさん、弥生さんの3人が、試射すべく弓を構えて矢を番えるが、


「「 ? 」」

 なぜか不思議そうにしているノリスとリリムルさん。


「これ、何か強くないかい?」「これは、かなり強いようですが?」

 張力が強いようなので、別の弓を薦める。

 各種を用意したのが効を奏したようだ。


 そんな中、弥生さんが2人が手に取らなかった和弓を左手に携え、右手には弓懸を着けて佇んでいる。


 どうやら2人を待つようだ。

 2人が、弓を選びなおして仕切り直しとなった。


「またせたね」「では、いきます」

 そんな声を掛けて、弓を番えていく。


「では、どうぞ!」

 声を掛けると同時に矢が放たれた。


 ヒュッ、カッ!

 矢は的に半ばまで刺さっている。


「「 !? 」」

  ノリスとリリムルさんが驚き、急いで次の矢を番えて放つ。


 ヒュッ、カッ! ヒュッ、カッ! ヒュッ、カッ!

 真剣な表情で連射している。


「これは、なかなか……。いや、いい。すごくいい」

 感心しているリリムルさん。


「ふふふ」

 獰猛な笑みを浮かべているノリス。


「弥生は射ないのかい? その変わった弓をどう使うか見たいんだけどね」

 リリムルさんが、声を掛けていく。


 リリムルさんに向かって、コクリと頷いて矢を番えるのだが、なんともいえない美しさがある。

 思わず『ほぉ―』と感嘆の息をついてしまう。


 そして場の空気が張り詰めたその瞬間、矢を放たれた。


 ヒュッ、カッ!


 矢は的の中央に半ば以上まで突き刺さっている。

 そして弥生さんを見やると、残心している。


 う、美しい……。


 そして皆を見やると、また一様に『ポカ~ン』としている。

 この瞬間、弥生さんの仕官は正式に決まったと確信した。


 さらに弥生さんが、鏑矢を番えて遠距離に放った。


 ヒュヒョ―――――――――――――――――~~ン……。

 そんな音を立てながら飛んでいく。


 その音はリリムルさんの琴線を捕らえたようで、さっそく鏑矢を番えて遠距離に放つ。


 ヒュヒョ――――――――――――――――――~~ン……。 


「こりゃいい!」

 そんな事を言いつつニンマリしてる。相当気に入ったようだ。


 ヒュヒョ―――――ヒュヒョ――~~ン……―――~~ン……。 


 ノリスも撃ったようだと思いきや、皆が弓を手に取り思い思いに撃ち始めた。

 そのため音が重なって聞こえる。


 矢が無くなれば、スケルトンが拾いに行き、次々に試し撃ちを皆がしている。


 茜は弥生さんの側から動こうとせず、弓も持たずに弓を引く真似をしているのが見えた。

 思わず、ホッコリしてしまう。


 弓を撃って満足したひとは、今度は鎧の前に行き談義していた。

 そんな中、リリムルさんとガルンさんが話しこんでいる。

 話が終わったようで、ガルンさんが御屋形様のところに向かったのが見えた。


 まずは感想を聞くためリリムルさんのところに向かう。


「リリムルさん。鎧と弓はどうでしょうか?」

 恐る恐る聞くと、


「坊主。いいもの造ったね! こりゃ、いいよ。実に良い! 鎧も弓も気に入ったよ! 坊主に悪いんだが、これを完全装備であと一着、弓も二張り頼みたいんだ。金は別途払うよ。どうだい?」」

 満面の笑みを浮かべている。

 よほど気に入ったのか、別注までされてしまった。


「こちらはリリムル・ハードレザーアーマー【リリムル式当世具足】と命名したのですが、お気に召したようで一安心しました」


「……坊主、鎧は二着にしてもらおうか」

 なぜか更に追加で別注されてしまった。

 本当に気に入ってくれたようで、安心した。


 そんななか、ハンゾウさんと話し込んでいたドーネッツさんが突然「作るのは、かまわんぞ!」と声を掛けてきて製作を了承したので、俺も同意する。


 どうやら、ハンゾウさんと鎖帷子の事で話をしていて、こちらに来る途中に話が聞こえたようだ。


「リン様、私にも是非これを二着お願いしたい!」

 ハンゾウさんが鎖帷子を握り締めて、これが如何に素晴らしいかを力説し始めた。


 気を良くしたのか、ドーネッツさんが製作を了承したところに、興味を持って当世具足をみていたノリスがこちらにやってきて「リン様。鎧全種と弓二張りをお願いします」と一言と述べた。


「「 …… 」」

 ドーネッツさんにしても、リリムルさん、ハンゾウさんと別注を受けている以上、ノリスだけ断るわけにもいかず受注する事になる。


 これをみるや、欲しい人たちが各自注文し始め、弓や小物類も受注し始める事になった。

 そんな光景を見ながら、御屋形様とガルンさん、ヴェイさんが喜色満面の笑顔で現れて、


「リン様、別室でお話があります。のちほど時間をお作りください」

 そんな一言を言われる。

 なぜか、何をするのかが判るような気がした。


 そしてガルンさんの部屋にいくと、やはり権利譲渡の話であった。

 用意された契約書には高祖様達に感謝するとの一文が既に書き加えられており、俺は一読の後に署名して、早々に退室したのだった。

お読み頂きありがとうございました。

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