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イザヨイ戦記  作者: 知音まこと
イザヨイ史 リン伝
14/73

14 評価と評定

 政務会で用いられる部屋に、皆が集まっている。

 母上も列席しているが、茜は寝てしまったので部屋にドールマスターのメイドが連れ帰っている。


「では、これより評価を行う」

 御屋形様が開始を宣言するが、幾分声が弾んでいる。


「まず、ノリス。実際に対峙しての感想を聞きたい。全体としてどう思う?」


「はい。まず従来の常識が全く通用しないとしか言いようがありません。私も単独でアイアンゴーレムを相手にすることは出来ます。ですが、もしこの機体と単独で対峙した場合は即座に撤退します」

 リリムル、シャーリン、ドーネッツ、俺以外の皆が、どよめいている。


「それほどのものなのでしょうか? アイアンゴーレムと同じ対応策で対処できそうですが……」

 内務監のヴェイさんが疑問を呈している。


 内務監のヴェイさんは、政務会でもあえてこのような憎まれ役を進んで担当して質疑を促すのだ。

 皆がそれを熟知しているので、孤立する事もない。

 逆に敬意を払いたくなる御仁なのだ。


「ゴーレム系統とは、一線を画す存在です。

 大きさも当然ですが、膂力・敏捷性・器用さが段違いです。アイアンゴーレムへの対応策が通用するとは思えません。また判断能力・対応能力は搭乗者次第ですが、これは訓練次第で伸びます」


「では、防御面はどうでしょう? 今回拝見した模擬戦では受けるのではなく、攻撃をする場面が多かったようです。これは、防御面に不安があるのではないかとも考えられますが?」


「はい。その点に関連して最初に述べなければならない事があります。

 まず、あまりの巨体そしてその膂力と敏捷性ゆえに、通常の歩兵では近づく事さえ困難なのです。

 下手に近づいても、跳ね飛ばされるか踏み潰されるかしかありません。

 また、歩兵が持つ剣・槍程度では装甲に弾かれるのではないでしょうか。弓も同様でしょう。

 アイアンゴーレムで押さえ込むのも一案ですが、動きについて行けず膂力でも負けています。

 騎兵のランスチャージですが、疾走距離も必要で、かつどうしても直線的行動になりやすく回避されやすい。

 また関節部等の急所に当たらなければ打撃力不足なのではないかと考えます」

 冷静に各要点を絡めて端的に応えていくノリス。


「ふむ、これに関してはワシからも補足するぞ。あの外部装甲はまだ不完全な形態だ。

 ついでに、機体の出力の話、膂力の話なのだが、まだ余裕があるので武装はいくらでも変更が出来る。

 要するに、もっと重装甲にしたり当然軽量にしたり出来る。それに合わせて武器の選択も可能だ。

 ここら辺は、あとでノリスの意見を是非聞きたいところだ。どうだろうか?」

 ドーネッツさんがノリスにお願いしている。


「はい。喜んで。こちらこそ是非に、とお願いしたいくらいです」

 ノリスが喜色満面でこたえている。


「なるほど、わかりました。では魔法防御はどうでしょう? 残念ながら模擬戦では見られませんでした」


「それに、ついては私が答えよう。

 外部装甲が試作された時点で試験している。

 一般的な火球・岩弾・風断・水弾で撃ってみたが装甲自体に問題はない。

 当然、盾にも問題ない。

 普通の歩兵程度なら一撃なんだがね、ちょいと自信が揺らいだよ。

 ただ、試作機体に着装しての被弾実験まではしていない。

 これについては、あとで要検証だね」

 リリムルさんが的確に答えている。


「それでは、機体は七メルトルなのですから、例えばアイアンゴーレムを10メルトルにして対抗してきた場合はどうでしょうか?」

 ハンゾウさんが遠慮がちにきいてきた。 


「いい質問だね、ハンゾウ。私も最初考えた事だよ。

 機体よりも大きくして、当たらせれば良いじゃないかとね。

 いろいろ試したんだが、アイアンゴーレムじゃ七メルトル位が限界なんだ。

 それ以上大きいと、自重に脚部が耐えられないんだよ。

 それに、限界まで大きくしても膂力は上がるが重すぎて速く動けないんだ。 

 その一方で、機体の方は七メルトルより、もうちょい大きく出来ると思う。

 その場合は特殊合金やらで補強と、ちょいとした工夫が要るけどね。

 ただ、あまりにデカ過ぎると運用でも整備でも面倒になるね。

 ついでにいうが、七メルトルのアイアンゴーレムと機体で力比べをしたが、機体の方がアイアンゴーレムをねじ伏せていたよ。

 これには、私も驚いたがね! あはは!」

 リリムルさんが愉快そうに答えて、ドーネッツさん、シャーリンさんが頷いている。


 ハンゾウさんが質問したのを端緒に、皆が勢い良く質問しだした。

 懐疑的質問というよりも興味と関心が先行している質問で、全体が活気付き良好な雰囲気だ。

 俺にも、当然質問が及ぶが出来るだけ丁寧に答えていく。

 その際、要望も伝えている。


 操縦席に、身体を固定する固定帯【シートベルト】を増設して欲しいのだ。

 現在は腰部のみなのだが、実際の機動では体が揺れてしまい、あちこちぶつかってしまった。

 それと、搭乗時には、簡易的な皮鎧【頭部・胸部・肘・膝】でもいいので着装しておくほうがいいと付け加えておいた。

 これは機体機動時の負傷防止と、機体損傷時に脱出するときの事を考えての事だ。

 そして、もっとも必要だと力説したのが、何らかの外部との通信手段だ。

 実際、ノリスとの模擬戦でも最後に発煙矢球が飛んで来なかったら気がつかなかったのだ。

 これには、ノリスも苦笑いを浮かべていた。


 そして、徐々に生産費用・生産数・維持と補修・改修案など実務的な質疑応答に移っていく。

 ここで難しい問題が出てきた。シャーリンさんが以前から指摘していた問題だ。


 どこで生産するのか? という事と、機体をどこに保管するのか?という事だ。 

 《宮》内なのか? 秘密の保持には最適だろうが、運用面に制約がある。

 《宮》外に、工房と倉庫を新設するのか? 運用面には最適だろうが、秘密の保持には難点がある。

 折衷案として《宮》内の最外郭部に出入り口を新設し、その周辺部の区画を工房区・整備区・保管区に改変する事になった。


 御屋形様は、「任せておけ!」と言ってはいるが、改築には多大な労苦が必要なので母上共々、眼が若干動揺しているように見受けられる。

 出入り口を増やすという事は、そこから侵入されるという危険もあるので、本来は推奨されない方法なのだ。


 これらの設置場所も含めて議論が深まっていく。

 1日では、到底結論は出ない。

 複数回の会合が行われ、ついに採用と量産の許しがでた。


 財務監のガルンさんと御屋形様がお腹を擦って青くなっているが、このまま座して攻め滅ばされるよりは良いと決断したようだ。


 これは、なにか収入の増加案を考えて協力したい。 

 何かないだろうか? 


 ・

 ・

 ・

 ・

 ・

 ・



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 なにもない。

 かつて在ったという痕跡が辛うじてあるだけ……墓さえない。

 ここには、なにもない。


 あるのは一面の花だけ。


 多量の血を土壌に含まねば咲かぬ赤と白の花、ルリスの花のみ……。

 花の回廊が、ずっと続いている。


 花言葉は、 ――高潔なる精神と尊い犠牲―― じゃったか? 


 はは、なんと言う皮肉じゃ……。



 記録によれば、ここは古戦場跡だそうだ。

 この地に侵攻した自称神聖にして高貴なる軍勢は、異教徒と呼び習わした者達を殺戮しその血で踝【くるぶし】まで浸かりながら、歓喜の涙に咽びつつ神の名を連呼し讃えていたそうな……。


『……なぜじゃ?』


 儂は、各地を廻った。

 選ばれ送り出された者達の痕跡を辿り、各地を検分するためじゃ。


 たしかに、彼【か】の者達には使徒や選人【エリート】としての過度な恩典・恩寵は与えられていない。

 儂とて、十六夜には与えていない。


 現し世の自立的発展を指向するために、そのように決めたからじゃ。

 それでも各人には個人としては、かなり優遇された能力が与えられていた筈じゃ。


 子を成し、地に根を下ろし長い時間を掛けて、現し世に広く薄く紡がれて行くはずの能力。

 陰に陽にと、均衡をとり発展させていくための能力。


 それが、絶えておる。


 悠久の時の流れで、徐々に衰退し滅亡し消えていくのは仕方ない。

 それは、世の理として当然じゃ。


 じゃが、これはなんじゃ?

 各界から選ばれ各人の同意の下、送られた者達。

 その者達を、意図的に狙って攻撃しているとしか思えない有様だ。

 記録によると、送られた者達はその数一〇八に亘るが、勢力として残るはもはや十六夜をはじめとして僅かに五つを数えるのみ……。


 その十六夜とて、消耗し続けておる。

 残りの四つとて、長い戦乱に巻き込まれ疲弊しておる。

 そして、その一〇八のうち、一方的に戦いを挑まれ敗れさり降伏さえ許されずに、族滅したものが既に半数近くに及ぶという惨状。


 残りとて、明日をも知れぬ境遇に陥っておる。

 

 名を捨て身を隠し細々と生きる者達。

 追手を避け山奥や森深くに潜む者達。

 辺境で小集落を営むも苛酷な環境に数は減少の一途で、いつ滅亡してもおかしくない者達。

 安住の地を探し求め、一族総出で流離う者達。

 捕らえられ、武器も与えられずに飢えた獣を嗾けしかけられ、見世物として喰われていく者達。

 宗教裁判で誣告されるも、なお頑として認めず刑場に消えていく者達。

 数多の辛酸と苦難。


 ・

 ・

 ・


 そんな現状を煽り、楽しみ、笑い転げておるものがいる。

 この世界の現世神達じゃ。

 眉を顰め、歪んだ現状の修正を試みる神達もおったが、悉く排斥されるか弾圧され力を著しく減じておる。


 こやつら現世神は、わかっているのじゃろうか?

 この現状を、創生神たちに知られたら、自分達がどうなるかという事を……。


 自分は神ゆえに、なにをしても許されると考えているのじゃろうか?

 まさに不遜じゃ。


 それとも、自分は神ゆえに不滅だと考えているのじゃろうか?

 愚かしいほどの過信じゃ。


 創生神達が、自ら選び、自ら祝福し、自ら送り出した者達が、どのように死んでいったかを聞かされて笑って許すとでも思っているのじゃろうか?


 夫が、妻が、兄弟が、姉妹が、子が、孫が非業の死を遂げようとも、残った者達は尚も進もうとしたのじゃ。


 助けを求めることさえしていない。

 かといって、諦めている訳でもない。

 現状をただ甘受している訳でもない。

 再興を期して立ち上がる者達。

 血統を残すべく、苦難と屈従に耐える者達。

 新天地を目指して有志が各地に散らばり、そして散っていく者達。

 死を目前にしても、なお毅然としている。

 歴代の祖の志をいまだ顕せずにいる事を悔い、再興できずにいるそんな自分に憤り、道半ばで潰えることに涙しておる。

 そして皆が皆、例外なく背に傷がない。

 背に傷を負ったとしても、それは大切なものを庇おうとして傷を負うておる。

 逃げようともせず、傷を負ってもなお立ち上がり、そして死してさえも前へと進もうとしておるのじゃ。


 これほどまでに気高き魂魄を持つ者達を虐げ、あまつさえ道半ばで潰えさせることを悦楽とし、嘲笑しておるのが現世神達じゃ。


 まず普通に考えて、忘却界への追放や単に消去されるだけでは済まんじゃろ……。

 おそらく『死んだ方がまだマシ』というくらいの事は、待ち受けているはずじゃ。

 はっきり言って、この儂でさえこの世界を消去してしまおうかと思うたくらいじゃ。


 世界を消去する のは儂には造作もない事なのじゃ。

 じゃが、逝った者達、残った者達、そして猶も歩もうとする者たちの意志は、尊重せねばならない。

 この界を創りし者として、眼を逸らしてはならぬ、見届けねばならぬのじゃ。

 それが、この界を創始した儂の責務なのじゃから。


 ・

 ・

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 ・


 ところで責務とは『責任と義務』の事じゃ。

 そしてその『責任と義務』を果たすためには、行動を伴うのが常じゃな。

 そうであるならばじゃ……。


 その責務を果たすために、……儂が、ちと手を貸しても……、いいんじゃろ?


 キャハハ♪

お読み頂きありがとうございました。

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