1 プロローグ
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「……う……く」
意識が朦朧としていた。
そのため無意識に身を起そうと身体を動かしてしまう。
「う、痛ッ」
予期しない痛みで、朦朧としている意識も次第に明瞭になっていく。
それと共に記憶も鮮明に蘇ってくる。
急襲を受け、混乱の中での後退命令を出した矢先に、敵兵に斬り付けられてしまった。
その際、首に掛けていた首飾りのミニコアを割られてしまう。
割られた衝撃からか、眩しいほどの閃光が走り、その時の衝撃で吹き飛ばされた。
そこで記憶が途切れているということは、その時点で気絶したのだろう。
まさか……『貴方は、もう死んでます』という理不尽な展開では無いと思う……、思いたい。
そんな取り留めの無い考えに嵌まり込みそうになるが、敵兵に斬り付けられたこと、つまり周囲にはまだ敵兵がいるという事に思い至った。
「は、敵!?」
急いで起き上がり身を屈めて警戒する。
もはや体の痛みなど気にしてはいられない。
目を凝らして周囲を窺うが、暗い。
しかし暗闇で何も見えないというわけではなく、仄ほのかな光がある。
その光を頼りに、ゆっくりと辺りを見回すが誰もいないようだ。
そしてここは、どうやら屋内らしいという事が判った。
どうやら生きてはいるようだが……、これは虜囚になったのだろうか?
それにしては監視をしている気配もない。
そもそも軍装をそのまま身につけているのが、おかしい。
虜囚の立場ならば装備類は取り上げられているはず。
にもかかわらず剣まで含めた装備類一式を丸々身に着けたままなのだ。
首飾りのミニコアまで身に着けている。
もっとも割れているのだが……。
ついでにいうと、割れた首飾りのミニコアの欠片は辺りにはない。
できれば回収しておきたいが……あれ、どこいった?
ミニコアの欠片を探して見回すが、やはりない。
そしてこの部屋は、かなりの広さがあるようだ。
いや、部屋というよりも、もはや大広間というほうが正しいくらいには広いだろう。
列柱が立ち並ぶ見覚えのない部屋だが、飾りつけや調度品さえない。
さきほど仄かな光があると言ったが、篝火があるわけではない。
実に不思議だが、列柱や壁自体がぼんやりと明るいのだ。
ここに在るのはそんな列柱と壁、そして中央に祭壇らしき物だけだ。
まるで物の本質に華美な装飾など無用と主張しているかのように何も無い。
だが、それ故なのか非常に静謐な雰囲気がある。
そして空気が澄んでいる。密閉された空間ではないかのようだ。
この広間の主は、おそらくは只者ではなかろう。
それにしても、ここはどこなのだろうか?
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痛む身体で、この部屋をざっと見渡し探ってみた。
だが、割られたはずのミニコアは、やはり無い。
中央の祭壇に鎮座してある白黒のマーブル模様を映すコアらしきものがあるが、これは俺が身につけているミニコアの割れた欠片ではない。
大きさが全く違う。
いや、正確に言おう。……凄く大きいです。
見覚えのある実家のコアよりも遥かに……大きい……。
え?! これがコアなの!? と言うくらいには大きい……。
大事な事なので3回繰り返し、自分を納得させなければならない程に大きいのだ。
実家のコアが肩幅くらいの大きさで球球とすると、このコアは手を思い切り広げても抱えられないほどには大きい……というか、大きいという言葉が当てはまらい程に大きい。
端的に言って巨大過ぎる。
先ほどは、――この広間の主は、おそらくは只者ではなかろう(推定)――だったが、確信した。
この広間の主は、間違いなく只者ではない(断言)!
そして確信するとともに、これは遺憾の意を示さざるを得ない事態どころか、誠に憂慮すべき状況なのだと気が付いた。
「これは、やばいかも……」
他者が管理する建造物への無断侵入。
しかも、コアらしきものが在る部屋への無断侵入。
どうみても、紛う事なき敵対行為です。
警報が鳴り響いている様子が無いのが、救いか……。
いや、安心はできない。
このまま発覚して捕縛でもされれば、いかように処分されても文句は言えないだろう。
いやな想像に冷や汗が出てくる。
即処刑されるならまだしも、実験材料やら、玩具やら、生贄にでもされてしまったら……。
……もう、お婿にいけない。
逃げますか?
YES
→ はい
よし、迷いなく即断即決で決まった。
まずはこの広間の外へ出て穏便に話をして紳士的かつ友好的に解決しよう。そうしよう。
そうと決まれば、即行動。
いまやる、すぐやるの精神は、とても大事だ。
では早速、出口に向かって出発だ。
壁伝いに行けば、出口は見つかるだろう。
何せ出口なのだから、すぐに見つかるはずだ。
すぐに見つからない出口など存在してはいけないのだから。
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なぜだ?! なぜ、出口が無い!?
お読み頂きありがとうございました。