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チンカーベルでストリップ

 E班制作

 

 ボーイ・ミーツ・ガール

 

#1 精神科 診察室


 ”私は幼い頃から女の子の格好をするのが好きだった。

 それなのに、神様は何を間違ったか、私を男の子にした。

 思春期になって声変わりが始まると、私は喋るのをやめた”

「この世界にまっとうな人間なんていやしないんだ。みんな何かしら秘密を抱えてる。それは絶対に人には知られてはいけないことで、そう思っていると、次第に自分自身にまで嘘をつくようになる。そして、いつの間にかなかったことにされてしまう。難しい言葉をつかうと、”抑圧”っ言うんだけど、それはあらゆる精神病の発端となるもので、治療するには何を抑圧しているのかを、化石の発掘みたいに長い時間をかけて掘り出さなきゃならない。だから、きみは偉いんだ。嘘じゃない、本当に偉いんだ。ちゃんと自分の秘密と向き合ってるからね」

 医師、カルテに目をやる。

「性同一性障害。嫌な名前だね。社会は多数決の原理で動いてるから、どうしても少数派は一緒くたに障害にされてしまう運命なんだ。でも、考えてみてよ。人間には羽がないだろ。考え方によっては、私たちは羽のない障害をかかえて生まれてきたってふうにも言えるわけだ。つまり障害は社会がつくるものでーー」

 ”やっぱりここも違う。私を本当に治してくれる人は、この世界にはいないんだ。

 もう死ぬしかないってこと? 

 自分の責任じゃないのに、どうして死ななければならないの?”

 突然、激しく咳き込む医師。

 うろたえるカオル。

 ”えっ? 何? 何が起こったの? どうしよう・・・まず助けを呼ばなきゃ。誰か! 誰か! ダメだ。声がでない”

 机に倒れ込む医師。動きが止まる。

 と、何ごともなかったかのようにムクッと起き上がり、机にあるラジカセの再生ボタンを押す。

 マジックの披露のときによく流れる曲がラジカセから流れる。

 紐で繋がった小さな国旗を口からいくつも引きだす老医師。

 呆気にとられるカオル。

 医師、最後に口から出てきたメモを広げる。

 メモには住所と店のチンカーベル

「これが君への処方箋だ」

 

#2 新宿 路上


 店の前をウロウロするカオル。

 出勤してきたゲンゴロウ丸とはち合わせる。

「あなた、ひょっとしてカオルちゃん?」

 カオル、一瞬背を向けて立ち去ろうとするが、向きなおり、小さくうなずく。

「先生から話は聞いてるわ。ママに紹介してあげる。こっちきて」

 狭い階段をあがるカオル。

 ”これが妖精の巣窟に足を踏みこんだ最初だった。

 私はそこで雑用の仕事をはじめ、半年が過ぎた。”


#3 チンカーベル 店内


 手慣れた様子で開店準備をしているカオルとオカマたち。

 スマホ片手にカオルに近づくゲンゴロウ丸。

「カオルちゃん、今日出勤のガマ吉がまだ来てないんだけど、なにか知らない? 電話も繋がらなくて」

 カオル、無言で首をふる。

「なによこれ!」

 カウンタ-の奥からママの叫び声。

 慌ててママに駆け寄るオカマたち。

 カギが壊された金庫。

「ママ、どうしたの?」とゲンゴロウ丸。

「売上金がないの!」

「えー!!!」とオカマたち。

”一週間分の売上金を奪ったガマ吉は、その後行方をくらませた”


#4 チンカーベル 長テーブル


 テーブルを囲んで会議するオカマたち。隅の席にカオル。

 沈黙する一同。

 ママ、ようやく口を開く。

「みんな知っていると思うけど、ここ最近、ずっと赤字が続いてるの。そんななかでの今回の事件。隠してても仕方ないから全部言っちゃうけど、心して聞いてね。来月の売り上げで、盗まれた分を取りもどさないと、このお店を明け渡さないといけないの。開店当初からみんな必死に頑張ってきてくれたのに、私の力不足でこんなことになってしまって本当にごめんなさい」

 ママ、目頭を押さえて涙ぐむ。

「ママのせいじゃないわ」ぬらりひょんが声を詰まらせながら言う。

「そうよ、そうよ」とオカマたち。

「どうもありがとう」とママ。

 沈黙。

「なにしんみりしてんの!」ゲンゴロウ丸がおもむろに立ちあがる。「まだ終わったわけじゃないわ。あと一ヶ月ある。ここから私たちオカマの底力見せてあげましょう!」

「でも、具体的にどうするのよ?」ぬらりひょんが言う。「一週間分の売り上げアップなんて、そう簡単にできることじゃないわ」

 ゲンゴロウ丸、無言のまま座る。

「こうなったらストリップショーでもするしかないわね」とドロダン子が冗談まじりに言う。

 真剣な表情でドロダン子を見つめる一同。

「ごめんなさい、こんなときに変なこと言って・・・」とドロダン子。

「それ、いいかもしれない」とゲンゴロウ丸。

 

#5 チンカーベル ステージ


 演歌調の音楽が鳴っている。

 バラバラでダンスの練習をするオカマたち。ぎこちないステップ。

 音楽をとめる。

「ねえ、ちょっと。こんなんで、一週間後のショーまで間に合うの?」と、ぬらりひょん。

「だってダンスなんてしたことないもの」とドロダン子。

「大丈夫」とゲンゴロウ丸。「こうなるだろうと予想して、元ストリップダンサーの先生に来てもらうことになったから。そろそろ来るころだわ」

 来店を知らせるベルの音。

 薄汚れたジャージに泥のついた運動靴の足もと。如月ミナミが店に入る。

「先生がいらっしゃったわ」

 ゲンゴロウ丸が出迎える。

 ボサボサの髪の毛にヨレヨレのTシャツを着た如月。目を擦りながら眠たそうにしている。 

「如月さんですか?」とゲンゴロウ丸。

 無言で手を差しだす如月。

「賃金は前払いでよろしく」

「・・・ああ、ええ、わかったわ、すぐ持ってくる」

 ゲンゴロウ丸、カウンターの奥にはける。

 アクビする如月。

「本当に大丈夫かしら・・・」と小声でぬらりひょん。

「なんか不安・・・」と小声でドロダン子。

 如月、二人を睨みつける。

 目をそらす二人。

「ごめんなさい」ゲンゴロウ丸、茶封筒をもって登場。「はい、これ」

 如月、茶封筒を受けとると、中身を確認し、ポケットに押し込む。

「相手が誰だろうと、私が教えるからには徹底的にやってもらう。中途半端なことしたら、殺すから」

 固まる三人。


        ×      ×     ×


 黙々とテーブルを拭くカオル。耳を傾ける。

「化粧覚えた薄汚いオス豚ども、何回同じこと言わせんだ!」

「女ってこわい・・・」

「おい、誰が私語していいって言った?」

「ごめんなさい」

「はい、始め。右、左、右、左、回って両手ーーキサマ、なんでこんな簡単なステップもできねえんだ!? やる気あんのか、このバカ!」

 ドロダン子がすすり泣く。

「お前はもういい。別のやついないのか?」

 ゲンゴロウ丸がカウンターの中のママを見やる。

 激しく首を横に振るママ。

 如月、カオルに近づく。

「おいお前、ステージに上がれ」と如月。

 怯えるカオル。

「その子、口がきけないの」とゲンゴロウ丸。

「耳が聞こえないのか?」

「いえ、耳は聞こえるんだけど・・・」

「じゃあ好都合だ。無駄口ばかりの豚の化け物にはうんざりだからな」

”そんな流れで、私はショーに出演することになった”

「つんぼ野郎! お前はロボットか!」

「だから、つんぼじゃないの。耳は聞こえてるんですって」とゲンゴロウ丸。

「誰が喋れっていた、この肥溜め豚野郎が!」


#6 カオルの自宅 寝室


 ヘッドフォンをしたまま鏡にむかってダンスの練習をするカオル。

 ノックの音。

「お兄ちゃん、ご飯できたってさ」

 その声に気づかないカオル。

「お兄ちゃん?」

 そっと部屋を覗く妹のサキ。ちょっと驚き、ちょっと含み笑い。そっと扉を閉める。


#7 チンカーベル ステージ


 ベビメのメギツネに合わせて完璧に踊りきるカオル。

 呆気にとられるオカマたち。

 思いをめぐらしている様子の如月。

「よし、お前がセンターやれ」

 如月、カオルに近づき、その顎を持つ。「メイクはしてないのか?」

 うなづくカオル。

「私が後で教えてやる。次は、間奏のところで一枚ずつ服を脱いでいく動作の練習だ」

「ちょっと待って」とゲンゴロウ丸。「カオルちゃんにまで全裸にさせるわけじゃないわよね」

「なに寝ぼけたこと言ってんだ。下着つけてたらストリップにならねぇだろ」

「でもカオルちゃんはまだ新人で、歳だって私たちよりずっと若いし・・・」とゲンゴロウ丸。

「そうよ。いくらなんでも可哀想だわ」と、ぬらりひょん。

「お前らの目的はなんだ? 思い出作りをしたいのか? 違うよな。この店の再建だろ。そんな甘っちょろい考えで、こんな薄汚い、掃き溜めみたいな店が再建できるわけねぇだろ!」

「ちょっとあなた! 今の発言は聞き捨てならないわ」とママが声を荒げる。

 ママ、カウンターから出てくる。

「ママ・・・」ゲンゴロウ丸と、ぬらりひょんがハモる。

「この店はね、空き家だったところを、私たちが手作りでゼロから作りあげたお店なの。確かにプロの仕事じゃないから、あっちこっちガタがきて、しょっちゅう手を入れてあげなきゃならないけど、それでも愛のこもった素晴らしいお店よ。だから、あなたみたいな人に”掃き溜め”なんて言われたくない」

「ああそうかい。だったらこんな回りくどいことしないで、愛着のある素晴らしいお店と共に、さっさと潰れればいい」

 如月、ボロボロの茶封筒を取りだし、床に投げ捨てる。

「賃金は全額返す・・・っていいたいところだが、もう半分以上飲み代につかっちまってな。これで許せ。ジャマしたな」

「そんな金いらないわよ!」とママ。「もっていきなさい!」

 如月、その言葉を無視して、出口に向かう。

「私・・・やる・・・」

 カオルのわずかな囁き声。

 如月、立ち止まる。

 一同、驚きの表情。

「カオルちゃん・・・今・・・」とゲンゴロウ丸。

 カオル、茶封筒をひろい、如月のもとへ。

「私に、ストリップ、教えてください」

 カオル、茶封筒を差しだしながら、頭を下げる。

 それをじっと見つめる如月。

「中途半端なことしたら、殺すから」 

 茶封筒をサッと奪いとる。


#8 チンカーベル 店外 夜


 女装したカオルの載ったチラシの画。

 〈 世紀の美女装ストリッパー誕生!!! 〉


 チラシを持った客の長蛇の列。

 列の整理にあたるドロダン子。拡声器をつかって。

「まもなく開店時間です。30名様までの来場規制をおこなっております。1公演50分、1時間おきの入れ替え入場とさせていただいておりますので、ご了承ください。店内では撮影禁止です! 本日はドリンクのみのご注文とさせていただきます。入場券と一緒にドリンク券を販売しておりますので、合わせてご購入ください。それでは、前の方から一人ずつ、ご来店くださいませ」

 次々と階段を上っていく客。なかには女性の姿も。そのひとりが妹のサキ。


#9 チンカーベル ステージ


 オカマたちの余興

 時折ブーイング

「はやくカオル姫だせよ!」


#10 チンカーベル バックステージ


 椅子に座って緊張しているカオル。

 余興を終えてバックステージに戻ってくるオカマたち。

「もう保たないわよ」とオカマA。

「殺気立ってるもの」とオカマB。

 オカマA、オカマBはける。

「そろそろ行きますか」ゲンゴロウ丸がカオルの肩をポンッと叩く。「大丈夫。あなた一人にだけに重荷を背負わせる気はないわ。私たちがついてるから」

「そうよ」と、ぬらりひょん。「あなたは自由に楽しめばいいの」

 カオル、無言でうなずく。

 客席から「カオル! カオル! カオル!」のコール。

 立ちあがるカオル。

 と、歩みよる如月。

 カオルの両肩に手を乗せ、目を見つめる如月。

 如月、突然カオルの唇にキスをし、親指でその口紅を整える。

「よし、行ってこい」

 如月、カオルの背中を押す。


#11 チンカーベル ステージ


 メギツネのイントロとともに幕があき、3人後ろ向きで登場。

 「ソレッ!」のかけ声とともに扇子を振りながら、しなやかなダンス。

 カオル、サビの部分で後ろ向きになり、肩からするりと着物を落とす。

 客席の妹のサキ。心配そうな表情のアップ。

 「なめたら、いかんぜよ!」の部分で胸に巻いたさらしを外し、トップレスに。扇子で隠すようなフリ。

 最後は下腹部に巻いていたさらしを勢いよく外し、そのまま後ろ向きで床に倒れる。

 上体を起こし、長い髪を乱しながら振りかえる。

 お尻、背中、長い髪、アンニュイな横顔のアップ。

 割れんばかりの歓声と指笛。

 幕が閉じる。


#12 エンドロール


 演出 余田


 カオル役 鎌井


 如月みなみ役 真壁


 ゲンゴロウ丸役 盛岡


 ぬらりひょん役 井上


 ママ役 小金井

 

 ドロダン子役 三島

 

 サキ役 高田

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