たちけん集団
「失礼しまぁ~す。」
高校一年の竹添千智はぼんやりとした眼で、高校の空き教室に入っていった。
すると、そんなぼんやりとしている竹添とは対照的に、内部では、同じく高校一年の坂之下和人と高校二年の門脇誠也が火花を散らしていがみ合っていた。
「なんで太郎がいけないんですか!!」
「太郎はただの善人じゃねぇか!!」
「そういった善人が一番怪しいに決まってるじゃないですか!」
「いいや!太郎はそういったことが出来ない、カワセミみたいなやつだよ!!!」
「かわせみぃ!?何を言っているんですか!!絶対太郎ですよ!!!!」
「んじゃあ、確認してみるか。・・・・・・・・た・・・・・太郎ぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!!!俺は信じていたのにぃぃぃぃぃぃ!!!!!!!大好きだったのにぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!!!」
「・・・・・・・・・。とうとう門脇先輩、同性愛に目覚めたんですか?まあ、確かに性別とかはくだらない分け方だとは思いますけど・・・・・・。」
入口のところで目が点になって眺めていた竹添は、しばらくやり取りを聞きながら、ぼんやりと思ったことを口にした。
すると、思わず噴き出した坂之下を軽く突き飛ばし、門脇は目を大きく見開き竹添の肩をつかむと、
「違うんだ!!!そういう意味じゃなくて、俺は性格が、性格・・・・まあ体形もだけど、内面的なものが特に大好きなだけなんだぁ!!!!」
すると、その時、扉が開く音が聞こえたと思ったら、白い目で門脇を見る高校二年の門脇の幼馴染である石渡友紀の姿があった。
「・・・・・あんた・・・・千智ちゃんをそんな目で見ていたの・・・・。最っっ低ね!!」
竹添は若干ニヤニヤしながら「そっか、門脇先輩、そういう意味だったんですかぁ~」と完全におもしろがり、門脇は慌てて手を離し、必死になって言い訳を考えようとしているが、うまい言葉が思いつかなかった。
そんな様子を見ながら、高校三年の会長水橋一樹は大きくため息をつきながら、ずっと読んでいた本にしおりを挟むと、立ちあがり軽く2~3回手を叩きながら、もはや何をしたいのかわからなくなりつつある4人に近づいて行った。
「和人と誠也が、探偵ものの小説で、犯人はだれかで言い争っていたときに、その犯人が太郎ではないかということになった。けれど、誠也が太郎の性格に惚れたんだろうな。その思いを叫んでいると千智ちゃんが入ってきて、そして同性愛と誤解した。それを否定しようとした誠也が思わず千智ちゃんの肩をつかんで、その時に友紀ちゃんがはいってきて、そしてこうなっただけだからさぁ、いい加減静かにして。今一番面白い所だから。」
そういうと、また自分の座っていた席に戻り、本を読み始めた。
すると4人は、「・・・・あ、はい。」と急にかしこまった感じとなり、それぞれが適当に席に座った。
「ところで、そろそろいかない?たちけん。私、新しい本買いたい。」
小さな言い争いには全く関わらなかった、ずっとおにぎりを食べていた神保双葉はのんびりといった。
「そうだな」「そうだね」「そうですね」
それぞれが適当に返事をしながら立ち上がった。
これが、世間的には小さな、けれども日常生活においては大きな事件の始まりの前兆になるとは、誰も予想できなかった。