決戦!ヒーローバトル―Decisive battle! Hero battle―
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・2015年5月23日午後11時4分付
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9月13日、蒼井は会場で見たヒーロー速報が気になっていた。その内容とは―。
【レスキューギア、ヒーローに対して無差別に攻撃―】
フリーズとアスナが見ていた生放送とは別に、レスキューギアは確認されただけで30体以上が存在している事が調査の結果で明らかになった。30体以上としたのは、同じ色のレスキューギアでもデザインが微妙に違う物が確認された為だ。
「レスキューギア…あの時に現れたのも同じだとしたら―」
蒼井は、ホーリーフォースが乱入してきた時の事を思い出していた。あの時に現れた謎の人物。それがレスキューギアだったとしたら…。彼女はネット上で有力な情報をリサーチした結果―。
「この記事は、確か…」
蒼井がたどり着いたのは、1冊の週刊誌に掲載された記事だった。そこにはレスキューギアに関する記事が書かれているのだが…。
「これが、レスキューギアの作られた目的なの…?」
蒼井は記事を読んで行くにつれて、本来あるべきヒーローとは一体何なのか…それを考えるようになった。
9月14日、午前10時の段階でヒーローのエントリー受付が締め切られた。今日までに1万に近い数のエントリーがあったと、10時に放送されたヒーロー速報でも9時40分付のデータで発表があった。
「8000近くが既に締め切り済のコンテスト部門か…。現在は決勝投票が行われているのか―」
決勝に残ったヒーローは100組。それまでに半数以上が投票で敗北した…と言う事になる。蒼井も本来であればコンテスト部門に出る予定もあったのだが、例のメッセージやレスキューギアの件もある。
『アトラクション部門の最終ボスのいるエリアは、この近辺です―』
エントリー総数のニュースの後に発表があったのは、アトラクション部門のゴール地点とも言える最終ボスのいるエリアだった。
「草加駅からは大分離れているな…」
「駅以外でも同じニュース速報が出ているとしたら…」
「慌てるな。発表されたエリアに最終ボスがいるという発表がされただけだ。ボスが誰なのか―肝心な事は情報を集める必要があるようだ」
既に色々なヒーローが最終ボスのいるエリアへと向かった。さまざまな交通手段を利用して、それぞれのヒーローが目的地へと向かっていく。
「ここにやってきたヒーローも、所詮は知名度目当ての存在だった。そして―」
蒼井が帰り仕度を考えていた、その時だった。彼女の耳にある人物の声が聞こえた。
『迷わずに立ち向かえ!』
声のする方向を振り向くと、そこには本郷カズヤの姿をした大物俳優が立っていたのである。その声に励まされる形で、蒼井は草加駅の方へと走っていった。
「あなたは確か…」
駅へ向かっていた蒼井を見かけたのは、アスナだった。丁度、ホーリーフォースのメンバーもゴール地点のあるエリアへと向かう所だったのである。
「今から徒歩は非常に厳しいと思う。トレーラーの後ろで良ければ途中までなら乗せていっても構わないが…」
移動の足に関して頼る物がない為、蒼井はミカドの話に乗ってトレーラーで途中まで乗せてもらう事にした。
様々なヒーローがゴール地点へと向かっているのだが、ゴールを特定する前に何者かの襲撃を受けてリタイヤになるケースが続出しているという事態が発生していた。
『残念だが、そう簡単にゴールに行かせると思った?』
レスキューギアのピンクが別のヒーローを手持ちのレーザーブレードで一刀両断にしてヒーローを無力化する。
『ある程度は手加減をしないと、仮に大量のケガ人続出…という事態になれば、こちらのスポンサーも黙っていないだろう』
同じレスキューギアのイエローがピンクに向かって手加減をするように指示をする。イエローの方はクレーンアームを装備しているようにも見えるが…。
「あれで手加減だと…。レスキューギアの能力は化け物か?」
狼男が力尽きて倒れると、そのまま消滅してしまった。どうやら、別のエリアへ転送されていると言う事らしい。
『こちらの方もデータの収集が終了する。スポンサーから頼まれているのは――』
2人と合流するような形で現れたのはシルバーのレスキューギアだった。
『肝心のホーリーフォースは到着せず――』
シルバーの後に登場したのはブラックのレスキューギアだった。グリーンのレスキューギアも一緒のようだが…。
『ならば、こちらも移動をするか……』
グリーンは4人に別エリアへ移動するように指示を出して移動を開始する。
レスキューギアの5人が移動してから数分後、ミカド達が戦闘の跡が生々しく残るエリアを通過する。
「かなりの戦闘があったようね――」
アスナが周囲を見回して、かなりの火力で戦闘を行ったのでは…と分析する。
「これだけの戦闘があって、建造物に被害が出ていない…。これはある意味で凄いとしか言いようがありません」
フリーズは、あれだけ大規模な戦闘があったにも関わらず、建造物等に被害が全く出ていない事に驚いていた。
「ホーリーフォースでもビル街をステージにして戦った事を思い出せば、こういう芸当が出来るのも同様の技術が流用されていると考えれば――」
ミカドはホーリーフォースの技術が、こういった形で利用されている事を複雑な心境で見ていた。仮に建造物等の被害が出ていた場合…文字通りの大惨事になっていたかもしれないからだ。
「この辺りで降ろしてください」
蒼井は何か思い当たるような物を感じ、該当エリアの途中でトレーラーを降りる事にしたのである。
「本当に、ここでいいの?」
アスナが蒼井に言うが、ここで構わない…と繰り返す。
「とりあえず、お互いの健闘を祈る」
ミカドが言い残し、トレーラーは先のエリアへと向かった。
カズヤのアジトに到達したのは、カツミが一番早かった。他のヒーローがレスキューギアに半数以上倒された…という裏返しになるかもしれない。
「このバイクレース場は特撮作品のロケ地としてはよく使われているな」
カツミが来場者用の入口を一通りチェックしてトラップがないか確認する。しばらくして数人のヒーローやヒロインが場内へと突入する姿をカツミは確認し、駐車場近辺で様子を見る事にした。
「これならば、突入しても問題はないか」
何かを確かめたカツミは、変身せずに場内へ突入を開始した。
カツミが突入する場面を見ていたのは、何とハヤテだった。彼の場合はカツミのように様子を見てからの突入ではなく、別の人物を待っていたのである。
「リボルバー……初代ダークネスレインボーのリボルバーと同一人物だとしたら――」
ハヤテは数時間前にメールを受け取り、そのメールに書かれた情報を元にしてゴール地点を発見したのである。そのメールを送った人物がリボルバーである。
【この地点で待て】
ゴール地点までのルートを示した地図と一緒にメッセージも書かれており、メッセージの最後には、ここで待て…と。
「地図の方は、レッドデュエルも突入した事を考えると本物で間違いないだろう」
ハヤテがしばらく待つと、そこに1台のトレーラーが姿を見せた。乗っているのはミカド、フリーズ、アスナの3人だ。
「そう簡単には、突入出来ないような状態になっているようだが」
トレーラーから降りたミカドの目の前にはレスキューギアの5人が待ちかまえていた。
『一度、ルートを変えて別エリアに向かったのが正解と言うか―』
シルバーのレスキューギアがトレーラーを発見し、他の4人に連絡、その後に待ちかまえると言う形で待機していたらしい。
「アスナ、俺とフリーズが準備をする時間を稼いでくれ!」
ミカドの指示を聞き、アスナは早速ブレイズハートを呼びだした。そして、ハヤテも駐車場のアスファルトに触れ、イクスライドのコントロールパネルを呼び出し、変身ベルトを装着して変身する。
「自分も手伝います。ここで会ったのも、何かの縁かもしれません―」
イクスライドが別の特撮作品に登場した武器であるレーザーボウを呼び出し、早速攻撃を開始する。
外では複数のレスキューギアが壁になったかのようにヒーローやヒロインを次々と撃破している。そんな状況を見ていたのは、意外な事に蒼井だった。
「確か、ここが……」
本来であれば関係者以外は立ち入り禁止となっている選手用ゲート前、蒼井は別ルートを知っていて、途中でトレーラーを降りたのである。別ルートをレスキューギアに知られるのを防ぐ為に。
「やっぱり、こちらのゲートには警備も配置されていない。レスキューギアは正面入り口等に集中しているという証拠か」
蒼井はレッドプラズマに閃着し、別ルートからゴール地点へと向かう事になった。
場内でも既にいくつかの場所で戦闘が行われており、ヒーロー同士の対戦、ヒーローと怪人での対戦、レスキューギア…文字通りの混戦状態である。
「この状態ならば、早いタイミングに最深部に潜入するのは可能か」
カツミが歩いている途中、目の前に黒の背広にサングラスという女性が行く手をさえぎった。彼女が過去にホーリーフォースのナンバー5だったリボルバーと言うのは…後に判明した事だった。
「あなたになら話してもよさそうね…」
リボルバーはメモリースティックをカツミに手渡した。中身に関しては、何も語る気配はない。
「どうやら、これのおかげで答えが見えてきたようだ―」
カツミも裏で何かが動いている事は既に掴んでいたが、それが具体的に何処かという所までは特定できないでいた。レスキューギアもあるが、それ以上にホーリーフォースの偽者の存在も特定が困難を極めている理由の一つである。
「初代ライトニングマンは、このエリアにはいないわ。彼は、別の場所からこちらへ向かっている最中よ」
リボルバーの向かっているという発言に若干引っかかる部分はあるが、ここには本物がいないと言う事が分かっただけでもカツミにとっては収穫のある情報だった。
「ここにいるライトニングマンは、彼と言う事になるのか…」
カツミは、ここにいると推定されているライトニングマンの正体を既に知っている―と発言を聞いたリボルバーは思った。
その一方で、最深部であるレース観覧用の屋内ルームに最速でやって来たのは…意外な人物だった。
『君が、最初の到達者…と言う事か。レッドプラズマ』
玉座と思われる席に座っているのは、若干デザインが異なる部分のある初代ライトニングマンだった。彼も、最終エリアに到達するヒーローを待っていたらしい。
「ライトニングマン…やっぱり、あなたが全ての元凶だったのね!」
思わず素に戻ってしまったが、レッドプラズマはレーザーブレードを構える。
『全ての元凶か…。レスキューギアは自分の預かり知らないが、半分は正解だろうね―』
そして、彼は物凄いスピードでレッドプラズマに接近してパンチを連続で繰り出してきた。数発はガードをするが、後半の数発に限ってはガードしきれずに命中する。直撃こそは免れたのだが、ダメージは大きい。
「これが、伝説のスーパーヒーロー……電攻仮面ライトニングマン!」
レッドプラズマには倒れる訳にはいかない理由があった。全ての真実を知る為にも…本当のヒーローをこの目で見るまでは…。
【まもなく、活動限界を超えます】
レッドプラズマのバイザーに警告のメッセージが表示された―。
《レッドプラズマのスーツは30分という活動時間が決められている。これを超える運用をする為には、延長の許可を申請しなくてはならないルールが存在する―》
今のタイミングでナレーションが流れだした事の意味…レッドプラズマは最大のピンチを迎えているという証拠である。延長が申請出来れば何とかなるが、スーツを一度解除する必要がある。
「自分が一番乗りだと思ったが…」
レッドプラズマがピンチの状況で現れたのは、何と山札カツミだったのである。
『山札カツミ…お前が来る事はイベント初日の地点で分かっていた。その為の餌も初日には見せていたからな』
ライトニングマンはカツミが来る事をイベント初日から予言していたようだ。その為の餌とは…レッドプラズマには何がなんだかさっぱりの状態だった。
「しまった! スーツの――」
レッドプラズマの活動限界となり、スーツが強制的に解除される。この状況でスーツが解除される事は戦闘不能になるのと同じ意味を持っていた。
「ここからは、自分のターンだ!」
カツミはポケットからデッキケースを取り出し、レッドデュエルへと変身する。
『レッドデュエル、次の相手はお前か!』
ライトニングマンはターゲットをレッドデュエルに変更し、今度はレッドデュエルに向かってキックを仕掛けるが…。
「そう簡単には!」
レッドデュエルが腰に装着されているデッキから1枚のカードを取り出し、それを右腕のガントレットにセットする。
【超人兄弟ブレードブラザー】
機械的なシステムボイスが流れた次の瞬間には、レッドデュエルの姿がレッドプラズマと同時期に放送されていた超人兄弟ブレードブラザーのレッドブラザーに変化したのである。スーツも当時にレッドプラズマが放送されていた事もあり、デザインはレッドプラズマに若干似ているような…。
「立てるか、レッドプラズマ―」
レッドブラザーの声を聞いた蒼井が、負傷した片腕を抑えるような形で立ちあがった。
「隊長、スーツの使用延長を要請します!」
蒼井が叫ぶと、次の瞬間にはパワーが若干戻ったような感覚を覚えた。これなら、もう一度変身する事も可能―。
「閃着!」
変身時のポーズを取った蒼井が叫ぶと、瞬時にしてレッドプラズマの姿へと変わる。
『2対1か。ハンデとしては申し分ないだろう』
ライトニングマンの方は若干の余裕さえある。向こうには特に変身後のタイムリミット等は存在しない為、時間稼ぎをしても元の姿に戻るような事はない。
「ライトニングマンには強制変身解除というシステムが存在する。向こうの許容範囲を超えるダメージを与えられれば、元の姿に戻るはずだ―。本編中では設定のみで、実際に変身解除させた怪人は1人もいないが…」
レッドブラザーはレッドプラズマにライトニングマンの強制変身解除に関して説明を始めた。しかし、このシステムはライトニングマンが敗北した本編最終回でも明らかにはされていない物で、同じシステムがあるかどうかの保証は全くない。
「クロスシステムで何とかならないかな?」
レッドプラズマは、他のアニメ作品や特撮作品とクロスオーバー必殺技や武器等が使用可能なクロスシステムの事をもい出した。これを利用すれば―。
「なるほど…。強制変身解除は2次創作等で作られた設定ではない。クロスシステムを使えば、それも可能と―」
レッドブラザーは何を思ったか床に手を当てたのである。現れたのは…イクスライドが使用していたイクスライドシステムと全く同じ物である。このシステムはIDがなければ武器を呼びだせないと言う設定なのだが…。
「ちょっとだけ、元に戻るか―」
レッドブラザーは特殊変身を一時的に解除してレッドデュエルに戻る。そして、イクスライドがやっていた時と同じようにパスワードを入力する。
【そのIDは既に稼働中の為に使用できません。別のIDを―】
想定内の展開だった。実はイクスライドも外で戦闘中に加えてシステムを使用している為に別のIDを要求されたのである。
「それならば、これで―」
レッドプラズマがIDを入力する。しばらくして正常にIDを認識したという画面に切り替わり、オプションの呼び
だし画面に切り替わったのである。
【ユニット射出―残り回数3】
レッドプラズマが呼びだしたのは、彼女と同じ位の高さがある巨大なコンテナだったのである。下手をすれば、屋内施設が破壊されそうな展開だったのだが…。
『仕方がない…。勝負は向こうに変更する』
ライトニングマンが指で示した方角にあったのは、バイクレースのレース場だった。次の瞬間には、3人と出現した大型コンテナはそのまま外にあるレース場へと瞬時に転送された。
彼女がコンテナから呼びだしたのは、何とホーリーフォースのナンバー7が使う強化型装甲だった。SFに登場するミリタリー系デザインのロボットがベースの無人で動くタイプの特殊な強化型装甲である。使用可能な武器はサブマシンガン、アサルトライフルをはじめとして多数装備されている。
『クロスシステムを使って、このような手を編み出すとは…』
呼びだした物は強化型装甲製ではないのだが、武器の火力はオリジナルと同じ―。
「これなら、向こうの近接必殺技をある程度は封じる事が出来るな―」
レッドデュエルは、再びレッドブラザーへと変身し、ナンバー7から連装型ロケットランチャーを取り外して攻撃を開始する。
「これが呼びだせるという事は…?」
レッドプラズマは、もう一つ何かを呼びだそうとしていた。しかし、これは確か…。
『これ以上の長期化は、こちらが危険と言う事か…』
ロケットランチャーの直撃に加えて、ナンバー7による遠隔攻撃…事実上の3対1という展開に、ライトニングマンは一時撤退をする事にした。
「逃げられたのか…」
レッドデュエルに戻り、周囲を見回すのだがライトニングマンの姿はどこにもなかったのである。
「あれは…?」
レッドプラズマが指さす方向、屋外観客席には複数のライトニングマンの姿が確認出来た。その数は…30近い。
「初代は撤退したが、それ以外のライトニングマン…イクスライドが不在でも、それ以外はある程度揃っている。―仮に本物の初代ライトニングマンならば、意図的に一部シリーズを外した状態で出す事は考えられない」
レッドデュエルは、複数いるライトニングマンの中にイクスライドだけが不在である事に加え、一部の平成シリーズメンバーが数人欠けている事を踏まえて、あのライトニングマンは初代が足止め用に用意した物とは違うのでは…と予測した。
「イクスライドは、それっぽい姿を外で目撃しているから…同士討ちを避ける為に?」
レッドプラズマは言うが、そう簡単な物ではないだろう…とレッドデュエルは思っていた。
「どうやら、このイベントを影で操ろうと考えている人物が、あのライトニングマンを率いているとしたら…一部メンバーがいない事もつじつまが合う」
「それは、別のライトニングマンシリーズで平成シリーズのオールスター作品をやっていたから?」
レッドデュエルは、リボルバーからもらったデータを踏まえ、イベントを陰で操ろうと考えている人物を割り出そうと考えていた。
その一方、レッドプラズマは過去に平成ライトニングマンシリーズが勢ぞろいするライトニングマン・ユニオンズという作品を思い出し、そちらをベースにしているのでは…と考えていた。
「確かに、ユニオンズはライトニングマンの中の人を別のキャストにする事で、オールスターを実現させた事がある。しかし、それを当てはめると平成シリーズが一部だけ欠けている理由は不明のままだ。ユニオンズより後のライトニングマンはいるのに、ユニオンズよりも1つ前や3つ前がいない事の理由はどう説明するつもりだ?」
レッドデュエルの言う事にも一理ある。仮にユニオンズをベースとしてオールスターにするのであれば、平成シリーズは出ていた範囲の物は網羅していてもおかしくはないはずである。ユニオンズよりも後のイクスライド以外がフォローされていて、ユニオンズより前のライトニングマンが不在というのは…。
ライトニングマン軍団のリーダー、それは意外な人物だったのである。
「ダークエンジェル…お前だったのか!」
レッドデュエルが叫ぶ。どうやら、彼は真の黒幕とは別の存在をリボルバーから得た情報で知ったらしい。
『本来であれば、ホーリーフォースに復讐が出来れば…と思って、サーバーからホーリーフォースと計画中だった極秘プロジェクトのデータを入手し、今回のヒーロー&ヒロインフェスティバルを実験場にして新兵器を完成させようと思っていたが―』
ダークエンジェルは話の途中で第3者が侵入してきたのを察知し、そこへ向かって腰に装備されたレーザーダガーを投げる。
『見破られていたのか…我々の動きを!』
ダガーが投げられた方角にいたのは、何とレスキューギアだったのである。既に他のメンバーは撃破された後で、残るはレッドのみという状況だった。
『ホーリーフォースの技術が流出したという情報に飛び付き、彼らが意図的に流した欠陥データを入手して、その技術と欠陥部分を力技で克服させた物―それがレスキューギアだったな――』
ダークエンジェルが一連のレスキューギアに関する真相を暴露する。それを止めようとレッドが攻撃を仕掛けようとするが、それを止めたのは―。
『ライトニングマン…だと!?』
レッドの前に現れたのは、初代ライトニングマンだったのである。先ほど、3人で退けたと思っていたはずなのだが…。
『そして、レスキューギアは市場に売り出す予定で量産ラインに乗せた。しかし、力技で例の欠陥を制御している関係で、強化型装甲と同じく、男性ではフルパワーを発揮出来ない―』
ライトニングマンが両手に電撃を集めて必殺技の体制に入る。
『その技は、まさか…?』
レッドも回避しようとするが、避けようにも既にターゲットをロックされており、逃げる事は出来ない。
『ライトニングバスター!』
《ライトニングマンが両手に集めた電撃を大型の剣にすることで、相手を一刀両断にする事が出来るのである。この技は、埼玉県に在住の―》
途中のナレーションは強制的にフェードアウトされたのだが、この技は本来のライトニングマンが使う技ではなく、インターネット上で募集された必殺技で実際に使われた物らしい。回避不可能となったレッドは電撃の刃が直撃、レスキューギアは大破した。そこから現れた正体を見て、周囲は衝撃に包まれたのである。
「そんな馬鹿な…こちらと予測した正体が違うと言うのか…」
「ネットの掲示板でも、プロジェクトに大きく関係していたソーシャルゲームメーカー関係が有力だったのに―」
「これじゃ、ホーリーフォースの二の舞じゃないのか?」
ヒーロー速報で最終決戦を見ていた観客からはレスキューギアの正体を見て、驚く者と正体を見て残念に思う者がいた。それ位に正体が彼女達だったのか…という意見が半数を占めていたからだ。
「正体が予想通り……とまではいかなかったにしても、これはホーリーフォースの事件を繰り返しているとしか思えない―」
レッドデュエルは、リボルバーから情報を得ていたとはいえ、実際に正体を見てショックが隠しきれなかったのである。
「ホーリーフォースをベースとしたダークエンジェルのコスチュームには、そんな意味があったの―」
レッドプラズマは、ダークエンジェルのコスチュームがホーリーフォースをベースにしていたのには理由があったのでは…と考えていたが…。
『ライトニングマン、超人ブレード、その他のシリーズ物でも前作でヒーロー達によって守られた平和は、次回作では脆くも崩れ去ってしまう。誰もが思う素朴な疑問、それでも次回作が始まれば、それを忘れて見てしまうのがヒーロー物のお約束…。ホーリーフォースで解決したと思われていた一連の事件もこういった形で露呈するとは…政府も全ては把握しきれて―』
ダークエンジェルが暴露を続けていく内にナンバー5のアーマーに変化が現れる。
「まさか、強化型装甲のイメージ力が…」
強化型装甲にはイメージ力と言う物が存在し、その能力が高いとされる女性が運用するに最適である…とネットで見た事があったのをレッドプラズマは思い出した。
『これは、ダークネスレインボーの隠された能力―? 面白い、この力とライトニングマン軍団がいれば、腐りきった全ての存在に復讐する事も可能だ―』
目が完全に闇の力に取り込まれたような…そんな表情をしている。ダークエンジェルは力の暴走を起こしたのである。
「復讐は正義でも悪でも何でもない…。目的のない、ただの破壊行為を見逃すわけにはいかない!」
レッドデュエルはダークエンジェルを止める事を宣言する。しかし、今いるメンバーで彼女の暴走を止める事は可能なのか…。
「このままでは…日本からヒーローやヒロインが全て消えてしまう―」
レッドプラズマは思った。今回の事件が広まった事でヒーローを排除する動きが高まれば、テレビからヒーロー達は姿を消す事になるだろう。それだけは…。
「待たせたな」
その第一声と共に現れたのは、ホワイトナイトだったのである。それ以外にもブレイズハート、ブルーウィンド、ライトニングマンイクスライドの姿もある。
「レッドデュエル、お前の宣言には感動したぜ! お前の宣言を受けて感動した者、正義の本当の意味を分かった者達が、こうして応援に駆け付けた。ライトニングマン軍団に関しては、俺たちに任せてくれ!」
他にも超人ブレードシリーズ、ライトニングマン、色々なヒーローやヒロインが50人以上応援に駆け付けたのである。ホーリーフォースのナンバー9やナンバー1の姿も確認でき、文字通りのオールスター状態に。宣言に感動したのは、ライトニングマン・メダルマスターのレッドメダルモードの姿をした男性だった。
「確かに、俺たちが守った平和が別の悪の組織によって崩されるのは事実と認める。しかし、新たに平和を守ろうと立ちあがるヒーローがいれば、後輩である彼らにバトンを渡すのも―我々の使命だ! だからこそ、ホワイトナイトの休戦宣言を受け入れた―」
別の人物が変身しているレッドブラザーがホワイトナイトに賛同した理由を分かりやすく説明…と思ったが、単純にダークエンジェルの一部宣言を否定したかっただけかもしれない気配があった。
「私はホーリーフォースが原因で、事件が起きてしまった事も知っています。これが影響でファンが離れ、次第に空気が変化した事も全部ではありませんが、理解しているつもりです―だからこそ、アスナさん達の話を受け入れ、休戦をしたのです」
ブルーウィンドをベースにした、ホーリーフォースのナンバー1、瀬川アスナの強化型装甲を装備した女性がダークエンジェルの方を向き、大型の剣を彼女に向けた。
「倒すべきは…正義の意味をゆがめようと考えている、ダークエンジェル! 彼女を止めなければ―ヒーロー達に未来はない!」
アスナが突撃を開始し、ここにライトニングマン軍団対ヒーロー軍団と言う想像以上の大決戦が始まろうとしていた。
「自分が、彼女を止めてきます!」
ハヤテは、他のメンバーとは別にダークエンジェルへと接近する。
「これは何と言うオールスター!」
「物凄いサプライズだな!」
「どちらを応援していいのか…」
「決まっているだろ! 応援するのは―」
色々な声が聞こえる。ヒーロー速報の中継を見て、大勢の人間が気持ちを一つにしているのである。
「その昔の街頭テレビ時代を思い出すな―」
今の状況を一番後ろの方でモニターを見ていたドラゴンの覆面に声をかけたのは、大物俳優だったのである。
「あなたは確か、初代―」
ドラゴンの覆面が何かを言いかけたが、それを彼は止めた。
「自分が初代ライトニングマンだった頃、野球や相撲、その他のスポーツ選手を抑えて子供たちからあこがれのヒーローと言われた時には、自分で大丈夫なのか…という思いがあった。この光景を見た今ならば、あの時に感じた感触を…」
大物俳優の目には涙が見えたような…気配がした。
「確かに、自分は架空のヒーローかもしれない。放送当時には、そう思っていた。次第に放送が続くにつれて、子供達は現実にいるスポーツ選手等よりも―架空のヒーローである自分をあこがれるようになった。自分にあこがれてライトニングマンになった俳優も知っている。あの時が自分のヒーローにとって最高潮だったのかもしれない―」
他にも語る事はあったかもしれないが、大物俳優はバイクに乗って何処かへと向かって行った。
「あのバイクは、ライトニングマンの―」
ドラゴンの覆面は、彼の後を追う事も考えていたのだが、政府の人間が介入して水を差すのも問題と判断し、追跡を断念した。
『不正アクセスを試みたと思われる漫画喫茶を抑えている。変な痕跡があるので調べてもらえないか―』
突然鳴りだした電話に出ると、そこには声に若干の聞き覚えがある人物から緊急を要する電話があった。
「君は何者だ?」
『私の名前はメタトロン。君達の世界に迷い込んでしまった【旅人】と言った所だろうか』
「変な痕跡とは」
『コンピュータウイルスによる、データの破壊……と言えば分かるか?』
「データの破壊…だと。ブレイズハートにも似たようなエピソードがあった覚えが…」
『場所は、既にメールで送信済みだ。そこの漫画喫茶で会おう』
メタトロンと言う名前には聞き覚えがないのだが、声は間違いなく何処かで会った事のある人物と同じである。
「これでも食らえ! ゴッドアーム!」
イクスライドがゴッドアームでダークエンジェルの大剣を止めようとしたのだが、あっさりと弾かれてしまう。
『放送が始まったばかりのヒーローに何が出来る? まだパワーアップパーツ等も売り出されていないお前に、この私が倒せるとでも思うのか!』
ゴッドアームだけでは防ぎきれない……ダークエンジェルも、その辺りは既に把握していたようだった。パワーアップパーツも玩具にはなっていない、サブキャラ等の登場も大分先の話だ。
「このままでは負ける?」
イクスライドがそう思った、その時に奇跡は起こった。
「お前達の正義、見せてもらった。ヒーローそれぞれに違う目的を持ち、戦うべき悪の組織も違う中で団結した君達を見て思った。自分がやって来た事は無駄ではなかった―」
イクスライドの目の前に現れて、ダークエンジェルの大剣を受け止めたのは、大物俳優の姿だった。
『まさか、お前は―!』
ダークエンジェルも、まさかの誤算をしていたのである。本郷カズヤが二人いる事、更には全ての行動が筒抜けだった事も―。
「私が、宇宙からの使者―」
大物俳優が叫ぶと、腰に現れたのは風車が回転するタイプの変身ベルト―電攻仮面ライトニングマンシリーズ伝統となっている変身アイテムのひとつ…。
「変身!!」
《本郷カズヤがベルトを装着し、大空へジャンプした時、彼は電攻仮面ライトニングマンへと変身するのである!》
お決まりのナレーションが流れ、ダークエンジェルの目の前に現れたのは…青に黄色の雷マークのマフラー、ライダースーツに装甲を若干追加しただけのようなスーツ、V字のバイザーが特徴の頭部デザイン――今となっては伝説ともなっているヒーロー。
「おいおい、俺は夢でも見ているのか?」
「何だか、目の前がセルフフィルターにかかっているようだ…」
「確か、さっきはリメイク版の方が――」
ヒーロー速報を見ていた観客も伝説のヒーローが現れた事に驚いている。
「遂に出てきたか。本来であれば、明日に出てくるはずだったが」
レッドデュエルは、彼が現れるであろうことは分かっていた。しかし、それは明日の出来事…。
「もしかして、私は夢を見ているの?」
素に戻ったレッドプラズマも、彼が現れた事には衝撃を隠せなかった。
「全ての原点にして……列強!」
イクスライドは、ネットで知った台詞を口にしていた。




