新たなヒーロー―A new hero ―
>更新履歴
・2015年5月23日午後10時33分付
行間調整
9月7日、草加駅周辺はヒーロー&ヒロインフェスティバルへの登録をする大勢のコスプレイヤーが集まっていた。
「エントリーの方は終わったわ。部門が二つあったけど、アトラクション部門で―」
瀬川アスナがフリーズとミカドに参加する部門に関して確認を取る。コンテスト部門は主にスーツの完成度、なりきり度等を一般参加者の投票で決めると言うコスプレコンテスト等に近い部門である。投票は既に開始されており、1000以上の参加者が1次予選にエントリーをしている。
一方のアトラクション部門は、草加市内に存在しているポイントに出没する悪の秘密組織の刺客と戦い、どれだけのポイントを稼ぐ事が出来るか…という競技要素が強い部門である。こちらの方は戦闘でのポイント以外にも、観客等からの印象、再現度等も審査対象に含まれている。基本的にはヒーローは悪の秘密組織以外と戦うとペナルティが加算されるようになっており、これが一定量を超えると失格になってしまうのも特徴である。
「そう言えば、アスナさんは着替えしなくても…」
インフィニティ・ブレイカーのインナースーツに着替えたフリーズは、アスナがいつもの背広のままだったのが気になって質問をした。フリーズのインナースーツはボディライン等もくっきりと分かるようなタイプになっており、彼女の胸等も強調されている。
「その為の、これだから―」
アスナがフリーズに見せたのは、腕に装備されているガントレットのようなユニットだった。これが、ブレイズハートを起動させる為のリモコンに当たる装備である。
「さて、こっちも準備をしないと―」
ミカドがフリーズに会場の移動に使用した専用トラックへ移動するように指示する。どうやら、下準備の為というらしいが…。
「コンテストは明日まで受付、アトラクション部門は随時受け付け中…。明日はコンテスト部門が締め切りだから駆け込みが多くなるのは想定の範囲内…と」
エントリー風景を見ながら、蒼井は会場周辺を散歩している。別の用事で草加駅に寄る一般客にとっては、ヒーロー&ヒロインフェスティバルのエントリー光景は異様な物だと思うのは間違いないだろう。
「あれは…?」
蒼井は路地の一角に怪人と思われる姿を見かけ、すぐに現場へと急いだ。
ビルに挟まれた路地には時空犯罪者とデザインが似ていると思われる怪人1体と、黒髪のショートカットに青のジャンバーの少年がいた。少年の方は蒼井にも見覚えが―。
「こうなったら…」
少年は唐突に、右手をビルの壁に向かってタッチする。しばらくすると、右手の何かに反応した壁からコントロールパネルのような物が現れた。
【エクスライドID認証開始】
パネルの画面には、ID認証中の画面が表示されている。数秒後には認証が完了し、パスワードの入力を要求された。
「パスワードは…これだ!」
少年は、タッチパネルにパスワードであるE・X・R・I・D・Eを順番に打ち込む。
【パスワード認証完了―ユニット射出】
次の瞬間、道路下から黒いアタッシュケースが現れた。少年がケースを開けると、そこにはライトニングマンシリーズでは定番となっている変身ベルトが入っていた。彼は右手でベルトを掴み、腰に巻き付ける。
「変身!!」
少年は右手を拳にして突きあげ、左手は腰に固定した状態にして右手を時計回りにゆっくりと回す。1回転後、右腕を振り下ろして叫ぶ―。
「そ、その姿は…!」
時空犯罪者が驚いていた頃には、既に変身した後だった。変身後の姿は電攻仮面ライトニングマンと同じようなデザインを思わせるのだが、それとは全く違うような要素も含まれており、彼がライトニングマンなのかは時空犯罪者には即座には判別できなかった。
「あれってもしかして…?」
様子を見ていた蒼井は、ジャケットのポケットに入れていたデータベース検索用の電子手帳を取り出し、ヒーローの正体が何なのか調べていた。
「ちょっとまて…?」
「どういう事だ! あれは、放送が始まったばかりのライトニングマンイクスライド―」
「ライトニングマン・メダルマスターが終わったばかりの中で、あえてアレを選んだというのか…彼は」
会場の至る所に設置された大型モニターにはヒーロー速報と言う事で、少年と時空犯罪者のバトルが中継として映し出された。それを見た観客の何人かは、彼が変身したのは放送がスタートしたばかりの電攻仮面ライトニングマンEXRIDEなのでは…という声もあった。
###
【電攻仮面ライトニングマンEXRIDE】
ライトニングマン・メダルマスターに変わって放送がスタートしたばかりの平成ライトニングマンシリーズの最新作、主人公は蒼空ハヤテ(あおぞら・はやて)という地球人である事と、EXRIDEというゲーム世界を舞台にしている事以外は放送中と言う為に不明な点が多い―。
###
「あれは…レッドプラズマに出ていた時空犯罪者か―ならば、武器はこれか」
イクスライドが再びタッチパネルに何かを打ち込んでいる。どうやら、相手が時空犯罪者と知って武器を選択しているようだが…。
【ユニット射出―残り回数2】
変身ベルト同様に黒いアタッシュケースが道路下から現れる。草加市全体にどんなギミックを仕掛けたのか不明な位、観客にとっては超展開の連続である。
「アレは確か、コスモブラスター…」
レッドプラズマの続編にあたる時空騎士団シリーズの主人公が使用していたビームアサルトライフル―それがコスモブラスターである。イクスライドがこの武器を使っていたという事実はネット上でも書かれていない事から、彼はルール違反をしているのでは…と指摘する観客も現れる。
「特撮雑誌では、イクスライドには時空騎士団や超人ブレードシリーズのキャラも友情出演するという話がある。実際、決闘超人デュエルブレードでも歴代の超人ブレードシリーズの俳優がオリジナルキャストでゲストに出ている実例もあるから、これが反則とは言い切れる物ではないだろう」
ルール違反をしているのでは…と思っている観客に対して、近くにいた大物俳優が特撮雑誌を片手に説明をする。
「確かにライセンスは時空騎士団、ライトニングマン、超人ブレードシリーズで同じ所が持っているからな。こちらの早とちりだったか―」
彼の話を聞いた観客は、自分が早とちりをしていた事を謝罪した。しかし、平謝りをしている時には、既に彼の姿はなかった。
蒼井は完全に出るタイミングを失ってしまったと思った。今のタイミングで出たとしてもポイントの横取りと思われてイメージダウンとなってしまうのは確実だろう。それを踏まえると、この戦いが終わるのを待ってから出るしかない…と。
「相手も時空騎士団に対しては研究済…と言う事か。ならば、今度は―」
イクスライドは、時空犯罪者と戦っている内に変身ベルトを呼びだしたコントロールパネルからは離れてしまった。その為、今度は左手で信号機のある電柱に触れ、そこから同じコントロールパネルを呼びだした。
「ここまで来ると、何でもありの状態ね―」
蒼井も電柱からコントロールパネルを呼びだした事については驚くしかなかった。しかし、それ以上に驚く場面をこの後に目撃する事になろうとは―。
【ユニット射出―残り回数1】
イクスライドが黒いアタッシュケースを開けると、そこから魔方陣が描かれ、何かの小型戦闘機のような物体が3機現れた。蒼井は彼が呼びだした武器が何なのか分からなかったのだが…。
「行け! ブラスター・ジェット!」
イクスライドのかけ声と共に、小型戦闘機がターゲットに向かって飛んで行き、3機の戦闘機が時空犯罪者を攻撃する。
「あれはさすがに反則じゃ―」
「魔法少女作品に出てきたブラスター・ジェット…。どう考えてもライトニングマンとは接点がないのでは」
「そう言えば、別のヒーロー速報では超人ブレードシリーズの必殺技を使っているホワイトナイトを見たが…あれと同じような物か」
モニターで見ていた観客も、コスモブラスターは許容範囲内としても―ライトニングマンとは全く接点がない魔法少女作品の武器を使うのは―という反応があった。
「貴様、あのシステムを理解しているな?」
宇宙犯罪者もイクスライドが何かに気付いた事に対して反応を示した。システムと言われて蒼井も何かに気付いたようだが、それをあの時に実行に移そうと考えはなかった。
「本来はイクスライドがブラスター・ジェットを使うようなシーンはない。この武器自体が別のアニメ作品の武器だからな―」
イクスライドの話を聞いて、ようやく蒼井は思いだした。全くつながりのないような特撮作品やアニメ作品の武器、必殺技を臨機応変に使用する事が可能なシステム―クロスシステム。イクスライドは、そのシステムをいち早く理解していたのである。
「イクスライドは1話が放送されただけなのが、クロスシステムを気付かせる重要なポイントになっていたのか―」
放送終了してネタバレ等も全て出ている状態のヒーローやヒロインは原作通りに必殺技が使えるのだが、イクスライドは1話だけが放送されただけの新番組と同じ―ネタバレ等もネット上では出回っていない以上、使用出来る武器や必殺技にも制限が出てくる―蒼井はイクスライドがクロスシステムを使わざるを得ない状況を作り出したのだと思った。
「そろそろ、決めさせてもらうぞ!」
イクスライドの右腕に巨大なアームのような物が装着される。これは―?
【ファイナルユニット―ゴッドアーム】
モニターに表示されていたのは、装着されたアームが最後のユニットである事を告げるメッセージだった。そして…。
「ゴッドアーム!!」
イクスライドが巨大なアームで時空犯罪者に拳の一撃を当てる。一撃を受けた時空犯罪者は粉々に砕け散った―ように見えた。
【ライトニングマン―レベルアップ】
モニターのメッセージには時空犯罪者を撃破した事でイクスライド自身がレベルアップをした事を告げていた。その後、イクスライドのスーツは消滅し、いつの間にかハヤテの姿にもどっていたのである。
『これは凄い事になりました。何と、9月からスタートした新番組、電攻仮面ライトニングマンEXRIDEが―』
30分ごとに放送されるヒーロー速報でもイクスライドのニュースがトップで紹介された。彼がクロスシステムを使用していた事等も取り上げられ、ニュースを見ていた周囲の観客も驚きを隠せなかった。
ハヤテが元に戻ってすぐのタイミングに蒼井の前に現れたのは、天狗の衣装を着た謎のヒーローだった。どうやら、本来倒そうと思っていた獲物をハヤテに横取りされた…と言うらしい。
「ここは、戦うしか方法はないみたい―」
蒼井は閃着し、レッドプラズマに変身して謎のヒーローと戦おうとしていた―。
「その戦い、待った!」
台詞とともに現れたのは、カードゲーム店のエプロンに作業着という外見をした一人の男性だった。蒼井は見覚えがありつつも、ここで横やりを入れるのは…と言う事で様子を見る事にした。
「ヒーロー同士で争う事は、奴らの思う壺だと言う事を何故分からない!」
彼が謎のヒーローに説得を試みるが、説得に応じるような状態ではなかった。
「君も、同じヒーローならば…この場は引いてほしいのだが…」
彼は同じような説得をレッドプラズマにも行う。レッドプラズマの方は、彼の言う事にも一理あると言う事で手を引く事には了解する。
「まずは、あの天狗から何とかする方が先なのかもしれないけど―」
レッドプラズマは、彼に天狗を何とかしないと状況は変化しない事を説明する。
「仕方がない、こうなったら…こいつで勝負だ!」
彼はエプロンのポケットからデッキケースのような物を取り出し、その中からヒーローの描かれているカードを左手でデッキから1枚引いた。
「デュエルチェンジ!」
ヒーローの描かれたカードを右腕に現れた変身アイテムであるガントレットにセットすると、彼の姿は瞬時にして―。
「な、何だと!?」
天狗が彼の姿を見て驚いていた。実は数時間前にも同じヒーローと天狗は戦っていた為である。レッドプラズマも彼の台詞を聞いて何か引っかかるような物があったが、変身後に姿を見せた赤いスーツと特徴的なヘッドデザイン等で確信に変わった。
「レッドデュエル!」
彼の正体は、現在放送中の決闘超人デュエルブレードのレッドデュエル―しかも、山札カツミのオリジナルキャストだった。
「ま、まさかレッドデュエルだったとは…」
天狗の方は口調が震えているようにも見えるのだが、レッドデュエルとは何回も戦って勝利している。中の人がオリジナルキャストとはいえ、能力が格段に違うとは限らないのも他のヒーローと戦って実践済―。
「向こうが戦う気があるのならば特別ルールが適用される。さて、始めるか!」
レッドデュエルはデッキから剣の描かれたカードを引き、それを再びガントレットにセットをする。カードをセット後には、異空間からセットされた剣と全く同じ物が出現、モニターで見ていた観客は盛り上がっていた。
「デュエルソードか。レッドデュエルが主に使う武器は、ソードとキャノンの2種類だと聞いているが―」
レッドプラズマの隣には、いつの間にかハヤテの姿があった。ハヤテもレッドデュエルのオリジナルキャストが目の前にいる事には非常に驚きつつも平常心を保っている。
「この俺には、レッドデュエルを何人も倒した実績がある。そう簡単に俺を倒せるとは思わない事だ―」
天狗が持っていた団扇を扇ぎ、突風を巻き起こした。しかし、レッドデュエルがそれに動じるような様子は見せない。相手もある程度の対策は考えているようで、突風が効かない事は想定の範囲内と考えているようだ。
次に天狗が繰り出したのは、自分の背中にある翼から羽を飛ばす羽根手裏剣である。無数の手裏剣を前にさすがのレッドデュエルも一筋縄では…と天狗は思っていたが、それさえもあっさりと全てソードで切りはらっていたのである。
「お前の技も既に研究済だ。相手が悪かったな…」
レッドデュエルは、他の超人のパワーを使う事の出来る特殊能力を使うまでもなく、目の前の天狗を撃退したのである。
『どうやら、相手が悪かったみたいね―』
ビルの上で見ていた人物が、ジャンプしてレッドデュエル達の前に現れた。
「あれは、ホーリーフォースのダークネスレインボー…どういう事なの?」
レッドプラズマは目の前に現れたのがホーリーフォースのダークネスレインボーと同じ装備で現れた事に驚きを隠せなかった。
「そいつは偽者だ! 惑わされるな」
ナンバー5が現れた直後に乱入してきたのは、白銀のアーマーに武骨とも言えるようなデザインをしたホワイトナイトだった。
「ホーリーフォースのコスプレイヤーは、イベントでも複数人目撃例がある。彼女が真っ赤な偽者とは限らない―」
ハヤテはホワイトナイトの発言を即座に否定する。ホーリーフォースのコスプレイヤーは複数エントリーされていて、彼女もその内の1人であると考えているからだ。
「私も以前にホーリーフォースを見た事があります。彼女に限って偽者と言う保証はありません!」
レッドプラズマは若干だが素の自分に戻りつつも、目の前にいる彼女が偽者と言う保証はどこにもないと言う。
「自分もホーリーフォースが複数いる事に関しては否定しないし、全てが偽者という保証も何処にもないだろう。何かが暗躍しているような影は―認めるが」
レッドデュエルは、ホワイトナイトの発言を否定も肯定もしなかった。しかし、何かの含みを持たせるような言い方だが…。
「アスナ、出番だ!」
ホワイトナイトが叫ぶと、信号機付近からアスナが姿を見せた。そして―。
「お願い! ブレイズハート!」
アスナが叫ぶと、空から戦闘機にも似たようなデザインをしたホバージェットが姿を見せた。そして、次の瞬間にはホバージェットは瞬時にして3メートル近いロボット、ブレイズハートに変形したのである。
「面白い物を見せてくれる…」
ブレイズハートを見て、レッドデュエルは興味をひかれたような発言をする。一方でハヤテとレッドプラズマはブレイズハートの実物を目の当たりにして、完全に言葉を失っていた。
(ブレイズハート…エントリーされているという話は聞いていたけど、本物が来ているなんて話は―)
ナンバー5は実物のブレイズハートを目撃して、若干足が震えていた。それでも何とかして邪魔な連中を排除しなくてはいけない。
「変形出来た所で、ただの木偶では―!」
ロングソードを振り回し、ブレイズハートに斬りかかるのだが―装甲に傷が付くような気配はなかった。
「こちらはオリジナルに近い強化型装甲を使っていると言うのに、向こうの装甲はそれ以上の物を使っているとでも―?」
口が滑り、強化型装甲という単語をこの場で出してしまった。しかし、他の聞かれてはまずいと思われる人物には聞かれていない事が唯一の救いだろうか。
「今度は、こちらから!」
ブレイズハートの背後から現れたのは、蒼のパワードスーツに背中のウイングが特徴的なデザインをしたブルーウィンドだった。
「ちょっと待て、俺の出番は…」
ホワイトナイトがブルーウィンドを止めようとするが、彼女はホワイトナイトの話を無視して背中のウイングを分離、大型のブレードへと変形させた。
「このままだと、ジリ貧か…」
ナンバー5はヒーローの数が増えてきた事に危機感を抱く。この数を一度に相手にするのには分が悪すぎる。
「何だ、これは…」
ホワイトナイトが何処かから放たれたと思われるスモークに気付いた。すぐにセンサーを切り替えたのだが、肝心のセンサーもジャミングされていて使い物にならない。
「システムを遮断するスモークとは…」
スモークを浴びたレッドデュエルとレッドプラズマが元の姿に戻っていたが、途中で乱入してきた2名の姿が元に戻る事はない。この地点でハヤテは彼らがシステムとは別の何かで変身しているのでは…と思い始めた。
「君達は一体…」
ハヤテが途中で現れた3人に名前を聞こうとする。煙が晴れた頃には、何故か蒼井の姿は何処にもなかった。先に避難したのか、それとも…?
「これを見られた以上は、隠す訳にもいかないみたいですね…」
ブルーウィンドがメットを外すと、その顔を見たハヤテは予想通りか…という表情をしていた。
「やっぱり、このイベントにも裏があったという事か―」
レッドデュエルの正体でもある山札カツミは、特撮ヒーローとは違うコスチュームの人物がイベント会場で出没している点、特撮やアニメ等で全く見覚えのないようなデザインをしたヒーローが無差別で襲撃している点を挙げた。今回のスモークを放った人物が該当する人物かどうかは不明だが…。
「こちらとしては、ホーリーフォースのデータを無断で悪用している人物を特定する為に潜入したが…結果は、この通りだ」
ホワイトナイトはメットを外し、他のメンバーに正体を見せた。スポーツ刈りに若干の中年フェイス…その正体はホーリーフォースの責任者でもあるミカド―。
「本物のホワイトナイトかと思ったら…声が似ているだけの偽者だったか」
ハヤテの素朴な一言を聞いてミカドは何か心に刺さる物があったようだ。
「まさか、本物のホーリーフォースも今回のイベントに参加していたとは…」
カツミの場合、本来の目的がホーリーフォースとは大きく異なるのだが、情報収集の為にも手を組んだ方が良いかもしれない…と考えていた。
「一応、我々は誰とも組む予定はありませんので―」
フリーズがあっさりとカツミに向かって断りを入れた。カツミ自身は何も言っていないのだが…。
「こっちも別の目的がある以上、また何処かで会う機会はありそうだな」
そう言い残して、カツミは何処かへと行ってしまった。何処かで会う機会は…と言っていたので2度と会えない訳ではないようだ。
「自分も、別の目的があるので―。でも、あなただけとなら組んでもよさそうな気配はします。本来は別の作品も考えていたので―」
ハヤテはミカドに向かって、何か意味深な言葉を残して消えてしまった。ひょっとするとホワイトナイトとパートナーを組んでいたレッドラビットのコスプレを考えていたのか…と思ったが、それは自分にとって都合がよすぎる考えだ…と。
それから数分後、各所で謎のチームらしき目撃例が多数寄せられていた。外見はレスキュー部隊と言う災害救助等をベースとした特撮ドラマ作品に登場したレスキューアーマーに似ているのだが、あちらとはデザインが大きく異なり実用性の方がメインになっているらしい。
「こちらが仕掛けたトラップに反応を示したようだが、もう一方は―」
携帯電話を片手にベンチで軽い食事を取っていた大物俳優。これだけのイベントでも彼が誰かと特定される事は全くない。ヒーロー&ヒロインフェスティバルは、その点でも彼にとっては最適のカモフラージュになっていたのである。
『例の部隊を特定出来た?』
女性の声で彼の元へ電話が入った。彼女も彼の協力者のようだが…?
「強化型装甲と断定は出来ないが、データとしてはかなりの物だろう。複数企業や組織の協力がなければ、これだけの物は完成させる事は不可能に近い。スポンサーが未だに不明なのは―」
『スポンサーと言っても、裏社会や反社会的勢力が手を貸すとは到底思えない。そうなってくると、超有名アイドルを輩出している芸能プロダクションか、ソーシャルゲームで莫大な資金を動かしている所…と言った辺りが有力ね。その辺りは、こちらで調べるわ―』
「あれだけの物を売り込もうと考えている企業は、指折り数える程しかないと思う。どんな売り込みをするかは…想像に難くないが」
ヒーロー&ヒロインフェスティバルを何かの実験場や宣伝の場として利用しようと考える人間を、彼は絶対許す事は出来なかったのである。あれだけの技術が戦争等に利用された事を考えると心が痛む―。
「仮に戦争ではなく、商売道具として利用されたとしても…」
彼は別の事も考えていた。災害救助等に例の技術が使われるのであれば、それは歓迎をすべきである。しかし、それが必要以上に量産され、それが犯罪に悪用される事や企業の私利私欲の為だけに運用されたとしたら…。
「ヒーローは、人々に夢と希望を与える存在でなくてはならない。自分の私利私欲の為だけに力が使われる事は―」
かつて、彼は正義のヒーロー役として数多くの特撮作品に出演していた。共通していたのは勧善懲悪と言う部分…。
「いつから、視聴率ばかりを気にして超有名アイドルを起用するような一昔前のドラマみたいな路線を取るようになったのか―」
大物俳優は、何かを懸念しているようなつぶやきをした。